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The Basin of the Dead.  作者: 耀輝 成
9/11

#8 そういや名前知らんかった

 市街地の中心より少し外れた場所に位置する大規模なスタジアム。全国的に有名なサッカーチームの本拠地だ。そのスタンド席の最上階に俺達二人はいた。


「なぁ、名前聞いてもいいか?」


「いきなり何よ」


「いや、死ぬ前に関わった人の名前ぐらい知っとこうと思ってさ」


 俺はスタジアムの芝生に視線を向ける。その中心にたたずむのは、背丈三メートルはあろう異形の怪物。

 顔面全体に巻き付く鎖は、身体の至る所を貫通し、強く絡みついている。大事な所もしっかりとガードしている。


「あんたは大丈夫よ。どんなにバラバラにされても再生するじゃない。ま、どちみち私が勝つから心配はいらないわよ」


 マジで口だけの人だったらどうしよう。


「でもこの先色々と不便だからとりあえず名前は教えてくれ。俺の名前は聖也だ」


「分かったわよ。私のことは〝美沙〟って呼んでくれたらいいわ」


「おっけ、ありがとう。もう悔いはない」


 アーメン。


「ま、サッカー観戦でもするような気軽な気持ちで見といたらいいわよ」


「俺サッカー観戦は大声出す派だ」


「じゃあ大声出してなさいよ。他のレヴェが来ても知らないわよ。行ってくるわ」


 そう言うと美沙は軽く身体を伸ばし、その場から大きく跳躍した。そして化け物の目の前に軽やかに着地した。


「いや、マジかよ.......」


 色々とおかしいだろ。ここから下まで何十メートルあると思ってんだ。


──ォォォォォォォォォォッ!


 敵を前にした化け物の雄叫びが聞こえる。

 そろそろ始まるようだ。


 ✣ ✣ ✣ ✣ ✣


 敵の攻撃はシンプルだった。両手にゴツイ鎖を持ち、それを操り、打ちつけたり、巻きつけたりと、そんな感じだ。

 美沙の方は、戦うというよりかは、何かを確認しているような感じだった。右手にハンドガン、左手にはスマホのようなものを持ち、撃っては避け、端末と睨めっこを繰り返していた。

 そんな美沙は今、某蜘蛛男のような登り方をして、俺の隣に戻ってきた。


「.......身体能力どうなってんの?」


「ま、それはのちのち説明するわよ。そんなことより今戦ってみて、だいたいの解析ができたわ。なかなか興味深いわよ」


 そう言って端末の画面を見せてくる美沙。


「その近未来的な端末は何なんだ?」


「これ? 私の協力者がくれたのよ。少し前に使えなくなっちゃったんだけど、最近また使えるように改良したのよ」


「協力者なんかいるのか?」


 その質問に少し暗い表情を見せる美沙。


「.......もういないわよ。ま、これを見て」


「お、おう」


 そこには敵のレントゲン画像のようなものが映っていた。臓器等を貫通して体内の至る場所に鎖が巻きついている。


「この鎖、体内で自由に動かせるみたいでね、銃弾が全く通らないのよ。まるで何かを守っているかのようにね。ま、予想は的中だったわけだけど。これを見て」


 そう言って画像の一部分を指してくる。


「心臓.......の部分か? 何だこの丸いの」


「そうそうそれよ。この球体から強力なエネルギーを感知したのよ。恐らく化け物の核だわ。これを壊せば倒せると思う」


「なるほどなるほど.......」


「私もかなりの種類のレヴェを相手にしてきたけど、こんな敵は初めてだわ。でもこれが分かったおかげで後の攻略が楽になった。今回耀輝市に現れた化け物達は恐らく国が投入した生物兵器ね。その全員が同じような核を体内に所持しているはずよ」


「な、なるほど.......」


 場数を踏んできただけのことはある。どうやら口だけの人ではないらしい。


「よしっ! じゃ、後は倒すだけね!」


 そう言って美沙は俺の方を見ると──。


「後はよろしくっ!」


 そんなふざけたことを言ってきた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。どう見てもショッピングモールにいたレヴェとはワケが違うだろ。それに今回は美沙の良い所を見せてもらうっていう話だったはずだ」


「ふふっ、ちょ、焦りすぎよ。そんなこと分かってるわよ。今回は私がやるわ」


 そう言うと美沙はまた有り得ない跳躍を見せ、化け物の目の前に降り立った。

 敵を視認した化け物は、次こそは逃がすまいと、更に大きな雄叫びを上げ、美沙に向かって勢いよく飛びついた──。


「──は?」


 それは一瞬の出来事だった。美沙は目で追えない程の速度で敵の背後に周り、背中から腕を突き入れ、赤色の球体を取り出した。

 鈍い音と共に敵の巨体が芝生に沈む。その衝撃は俺にまで伝わってきた。


「ほっ、と」


 空いた口が塞がらない俺の隣に、血に濡れた美沙が帰ってきた。


「どうだった? 私強いでしょ?」


 怖いです。


「いやー、もっとスマートな倒し方もあったんだけど、やっぱインパクトが必要かなとか思っちゃったわけよ」


「.......まじパネェっす」


「ふふっ、そうでしょ? でも敵も強かったわよ? 何重にも罠を張り巡らせていたもの。あれは私じゃなきゃ見逃してるわ」


 そんな美沙の笑い声を聞きながら思った。

 この先どんな理不尽が俺を襲おうとも、決して逆らわないでおこうと。


「聖也っ! シャワー浴びたいわ!」


「はっ! すぐにご用意いたします!」


「.......えっ、どうしたの?」


 まぁ、いいか。俺死なないし。

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