50 同盟参加の可否
翌日、私は大臣を集めて同盟に参加するかどうかの会議を開いた。
「良いのではないでしょうか。ナギ様のご決定がどうあれ、我は剣としてこの身を捧げる所存です」
「あたしらはナギ様に一生着いてくっすから!」
「主人に尽くすことこそ私の道ですから、とシトラスはナギ様に一礼します」
「わたしもがんばります、とライムは手を上げてアピールします」
いつも通りの全肯定ドラゴンさんたちぶり。
この子たちは私が何を言っても着いてきそうで不安になる。ちょっと私のこと好きすぎではなかろうか。
変なことしないよう気をつけていかないと。
「良いと思います。同盟に参加していれば、いざというときの支援も期待できますし」
「そうだね。参加の方向で間違いないと思うよ」
「そうですね。私も同意見です」
各種族の長の魔族さんたちが意見をくれる。
「我輩も良いと思うぞ。耳長の小娘も随分丁寧に謝ってくれたしな。そうでなくとも賛同はする気だったが、あそこまでされれば気分も良くなるというものだ。うむ、今日の我輩は結構機嫌が良いぞ」
そう言って身体を揺らすジルベリアさん。
エルさんちゃんと謝りに行ったんだなぁ、と思う。
そして、神樹様から同盟参加の要請があったのはその日の午後のことだった。
「ナギちゃんナギちゃん、実はお願いがあるんだよね」
「あー、もしかして同盟の件ですか?」
「あれ? 知ってるんだ」
「昨日エルさんから聞いて」
「なるほど。そういうことか」
神樹様はうなずいてから、真剣な顔で続ける。
「どうかお願い。わらわたちの同盟に参加して欲しい。これから森を守っていくために絶対必要なことなんだ。対価が必要なら何だって言ってくれて良い。私にできることなら何だってする。だから、お願いします」
いつも明るいトーンとはまったく違う声だった。
そこまで言ってもらえるとは思ってなくて、かなりびっくりする。
「対価なんてそんな。是非参加させてください。それだけで私たちはすごくありがたいので」
「ほんと? いいの?」
「はい。こっちがいいんですか、って思うくらいです」
「よかった。安心した」
ほっと顔をゆるめる神樹様。
「みんなは認めないかもしれないけど、ナギちゃんのところが一番力を持ってるからさ。技術力もそうだし、戦いだって強い。何せ、伝説の緋龍族と三帝竜の一つ、ジルベリアがいるんだから」
「え? 知ってたんですか?」
「わらわは一度会ってるからね。うまく隠してるけどそれくらいは。他のみんなはまったく気づいてなかったけど。まあ、普通に考えればありえないしね」
神樹様は軽く笑って言う。
「だから、正直あの話し合いの時、わらわすっごく動揺してたんだよ。やばい、緋龍族まで支配下に置かれてる。どうしようって。あのときはナギちゃんのことすごく悪いやつだと勘違いしてたからさ」
「黒い法衣の男の仲間だと思ってたんですよね」
「そう。すぐに誤解だって気づいたけどね。心の中を覗いたらナギちゃん良い子だったし」
「そんなことできるんですか?」
「うん、すごく疲れるから緊急時以外はやらないんだけどね。いつも心覗いてる不躾なやつとは思わないでよ。それくらいはちゃんと心得てるんだから」
念を押すみたいに神樹様は言った。
「大丈夫です。思ってませんから」
「ほんと? 嘘だったらナギちゃんがメーベルの胸見て滅べって思ってたの言っちゃうからね。絶対だよ」
「……は、はい」
どうせならもっとちゃんとしたことを考えてるときに覗いて欲しかった。切実に。
「でも、ほんとよかったよ。ナギちゃんが同盟に入ってくれて。緋龍族まで仲間になったってことになるしね。すごく助かる。みんなで森を守っていってほしいんだ。近頃は森で悪さしてるやつもいるみたいだから」
「一体何者なんですかね?」
「わからない。結局聖域に侵入した理由もわからなかったし。わらわは高位悪魔の一人じゃないかと思ってるんだけど」
「高位悪魔?」
「うん。魔族序列一位の悪魔族。現状では最も魔族の頂点に近い存在。とは言え、根拠は何もないんだけどね。手口もことごとく高位悪魔っぽくないし、むしろそれを否定する根拠がたくさんある感じ」
「なのにどうして高位悪魔が犯人だと思うんですか?」
「そういう連中だからだよ。一番大事なところで裏をかいて不意を突く。それが悪魔だからさ」
神樹様はじっと私を見つめて続ける。
「もし高位悪魔が森に悪さしようとしてるなら、大変なことになる。ナギちゃんには力を貸してほしいんだ。もちろん、他のみんなにもね。今までみたいに、わらわが守ってあげることはもうできないから」
それから、神樹様はあわてた様子で言葉を続けた。
「いや、わらわもさ。ずっと八千年以上この森を守ってきたわけじゃん? たまにはお休みがほしいというかね。そういう気分にもならずにはいられないなって感じというか、たまには森を離れて南の海でバカンスなんてのもいいかなーみたいな」
何の屈託もない明るい声。
だけど、それでごまかされないくらいには、もう私は核心に気づいていた。
「神樹様、もしかしていなくなっちゃうんですか?」
「うん。もうすぐ死んじゃうんだ、私」
あっさりと他人事みたいに神樹様は言った。




