チートな冒険 後編
チートな冒険できるのはアディラードのおかげ。
おかげで冒険は安心感。苦戦しません。
「アディ、ドラゴンブレスだ。周りのローパーを焼き払え!」
「分かった、お兄ちゃん」
すうっと息を吸い込むアディ。ぼうっと強烈なドラゴンブレスが放たれる。周りのローバーが炎で炙られ縮こまる。右京もショートソードを抜いてホーリーを捕縛しているローパーに斬りつける。キル子は中央の巨大なニードルローパーと格闘中だ。
「くそ! これでもか!」
ザクザクと切り刻んでホーリーを何とか解放する。触手を切り刻んだ白いネバネバ体液まみれのホーリー。女の子座りをして放心状態である。
「ホーリー、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。右京様、助かりました」
「この姿はちょっとまずいでゲロ」
「大丈夫だゲロ子。漫画だったらアウトの光景だが」
「うああああああっ!」
今度はキル子の方から叫び声が聞こえる。キル子は巨大なニードルローパーに挑み、見事に剣で急所を突き刺し、倒したものの、苦し紛れにローパーが放った毒針をよけ損なったのだ。わずかにかすったために、体がしびれ始めたのだ。
アディの火炎放射器で周りのローパーは焼き払った。右京はホーリーを連れてキル子の元へ走る。ホーリーの神聖魔法で麻痺を解毒するのだ。
「く……っ。あたしとしたことが……」
無理もない。あんな巨大なローパーはレアである。キル子一人で倒したことの方が驚異的だ。ホーリーが解毒魔法を唱える。胸に下げたアミュレットを握りしめると、それが光る。
それはホーリーの両手に移る。優しくそれを覆うようにしてキル子の傷口に当てる。紫色に変化した傷口がみるみる元に戻っていく。周りのローパーはアディが全て焼き払った。燃え盛る炎で周辺が明るくなる。
「霧子さん、これを飲んでください。麻痺毒は中和しましたが、普通に動けるまで10分はかかります。それまで体を温めて回復を早めるものです」
そう言ってホーリーが腰に携えていた瓶の一つを開けて、キル子に飲ませる。キル子はそれをごくごくと飲んだ。青かった顔色も正常に戻ってきた。
「ゲロゲロ、逃がさないでゲロ!」
ゲロ子が腰に差してあった銀製のまち針を抜いた。体長10センチ程の小さなローパーがニョロニョロと動いている。そいつを突き刺す。
「主様、あと2匹いるでゲロ! また仲間を呼ばれるでゲロ」
「くそ!」
逃げる小ローパーを足で踏みつける右京。だが、最後の一匹を潰す瞬間にローパーは叫び声を上げた。
「や、やばいでゲロ!」
ザザザっと、先程、アディが焼きはらった場所にまたもやローパーが出現した。その数、30以上だ。
「アディ、もう一度、ドラゴンブレス」
「分かった、右京のお兄ちゃん」
アディがすうっと息を吸い込んだ。そして噴く。だが、黒い煙がポッと出てドーナツ型に広がっただけだった。
「もう無理~」
アディはまだ子供のドラゴン。続けて火が出せるのは5分程度だ。さっきから、相当使っていたから、しばらく時間を空けないとダメなのだ。
「ちょっと、待て。これって、微妙にピンチじゃないか!」
「右京様、これは大ピンチですよ」
「主様、まずいでゲロ。いくら弱いローパーでもこれだけいたら死ぬでゲロ」
「……右京、あたしを置いて逃げろ。お前たちだけなら、すり抜けて通路へ脱出できる」
まだ麻痺から回復していないキル子がそう告げる。だが、右京は諦めない。キル子を抱き上げる。お姫様だっこをされて、真っ赤になるキル子。
「右京、ダメだ。あたしを連れてじゃ逃げられない」
「大切な人を置いてはいけないよ」
「右京……。バカ、バカなんだから……」
右京は覚悟を決めた。キル子を抱きかかえ、ホーリーとアディを連れて出口付近のローパーかわして通路に飛び込む。ゲロ子は何とかするだろう。ところが、当のゲロ子はふうふう言っているアディに話しかけていた。
「おい、チビでゲロ」
「なあに、カエルのお菓子」
「お菓子じゃないでゲロ。ちょっと聞くでゲロが、お前の首から下げているのはなんでゲロか?」
「ああ、これ? これはねえ……」
ローパーが近づいてくる。右京はタイミングを図る。ちょっとした隙を伺うのだ。そんなことを気にも止めないカエルと幼女。
「早く教えるでゲロ」
「これはママにもらった笛だよ。ピンチの時は吹けって言ってた」
「ゲロゲロ、すぐに吹くでゲロ」
「これってピンチなの?」
「ピンチでゲロ~」
「しょうがないなあ~」
アディが笛を手に取った。思いっきりそれを吹く。ピロピロピィ~っとダンジョンに鳴り響く笛。アディの影からにゅうっと現れた人物。
「チビの母ちゃんでゲロ」
金髪美人が召喚された。
金髪美人は微笑んだ。
金髪美人はドラゴンに変身した。
口を開けてドラゴンブレス。
ローパーは全滅した。
「ママ」
「アディ、早く帰ってらっしゃいね」
ニコニコしてまた、アディの影に消えていく母親。この間、わずか10秒。笛はいつでも母親が召喚できる魔法具だったみたいだ。
「おいおい。こんな展開、都合良すぎやしないか?」
「ピンチと思わせて一瞬で勝負が決まるのは、爽快でゲロ。それにこれ以上、ビッチ女戦士と清純ぶってるビッチ女神官が触手攻めされるのは、ゲロ子が許さないでゲロ」
「じゃあ、お前だったらいいのかよ」
「主様。ゲロ子のエロピンチ、期待しているでゲロか?」
「誰もしてねえよ! 期待する人間もいないぞ」
(ちなみにアディラードにそんな期待をする輩がいたら警察に通報しますです。はい)
アディの母親が一撃でローパーを葬ったので、エリアは静かになった。その中で一本。2m程の毒針が地面に突き刺さっているのを発見した。あの巨大ローパーが放ったものだ。右京はそれを手にする。
「うむ。強度、重さ、理想的だ」
「やったでゲロな。これでクエスト完了でゲロ」
「ああ。早く帰ってカイルに加工してもらおう」
ゲロ子の触手攻め……誰も期待せずですか?




