チートな冒険 前編
久しぶりの町の外である。町と町をつなぐ街道は整備されて、人通りも多く、また、兵士も巡回しているので治安はよい。定期馬車も運行しているから、通常の移動は馬車を使う。
冒険者の場合は、この街道を外れて目的地であるダンジョンや廃墟に行くことになる。そういう場合、人目につかない森などでモンスターや盗賊などに出会うことになる。そしてやっぱり、そんな奴らとエンカウントしてしまう。
「ケケケ……。おいおい、初心者パーティかよ。しかも女2人」
「2人とも上玉じゃないか」
「今夜はたっぷり楽しめるぜ」
「俺は乳のでかい方をいただくぜ」
「じゃあ、俺はあの大人しそうな方をいただくぜ」
森に入ったところで5人の盗賊が現れた。おそらく、通りかかる冒険者のレベルを見て、勝てそうにないならスルーし、勝てそうなら追い剥ぎをする最低な奴らだろう。右京のパーティを組み易しと思ったのだろう。
そりゃそうだ。若い女性2人に幼女だ。普通に見たらカモである。だから、盗賊どもは警戒することもなく、手にショートソードを持ってペタペタと肩を叩き、余裕ありありの表情で出てきた。キル子の弾けんばかりの肉体と清楚なホーリーを見て舌なめずりをしている。気持ちの悪い奴らである。
「おい、兄ちゃん。金目の物と女を置いていけば命は助けてやるよ」
ヒゲづらのおっさんがそう告げた。あとの4人はニヤニヤしている。一番手ごわそうなキル子に4人で襲いかかり、あと一人が弱そうな神官の女か、商人風の男、あと不思議な格好をした小さな幼女の誰かを人質にすればよいのだ。それで武装解除させればおいしい思いができる。
(やれやれ……)
右京は安易な結末にため息をついた。ゲロ子にそっと目配せをする。ゲロ子は右京の右肩に立ち上がった。
「ゲロゲロ……。警告するでゲロ。すぐ道を開けた方がいいでゲロ」
「はあ? 何言ってるんだ」
「妖精ごときが偉そうに」
「待て待て、あの妖精、すごい魔法が使えるんじゃないのか?」
盗賊どもはゲロ子の余裕ある態度にちょっと考えた。よく見ればおかしなことに気づく。パーティの中で一番手ごわそうな女戦士は、剣を抜こうともしないし、神官の女の子もニコニコしている。幼女に至っては大きなキャンディをペロペロと舐めている。
(これは何かある?)
ちょっとだけ賢い盗賊の一人は思った。妖精は体の小さいに関わらず、稀に強力な魔法が使えるものもいる。ここで広範囲系の炎の魔法なんか使われたら全滅である。
「それがいいでゲロ。でも、残念でゲロ。ゲロ子のスーパーファイヤナックルボンバーが炸裂できないでゲロ」
そう言ってやらなくてもいいのにゲロ子が、片手を差し出してクイクイと動かした。こんなチビ妖精に挑発されて盗賊どもの頭に血が上る。
「なんじゃ、それ?」
「あんなチビの妖精がそんな魔法使えるかよ」
「それにそんな魔法なんかないわ!」
盗賊どもはゲロ子の警告を無視することにした。わけのわからないカエル娘にビビらされて、この美味しい状況を逃すわけにはいかない。
「しょうがないな。アディ、頼む。一応、警告したからな」
「ここからは自己責任でゲロ」
右京がアディにそう命ずる。アディはキャンディをペロペロ舐めながら、トコトコと前に出た。
「アディ、火を噴く」
口を開けると黄色に染まった高温の炎が噴き出る。火炎放射器並の炎がいたいけな幼女が吐き出したのだ。
「わああああああっ……」
「熱ううううう」
ファイアドラゴンの子供が出すドラゴンブレスだ。1500度を超える強烈ブレスに、これまで散々に悪事を重ねた盗賊5人は一瞬で消え去った。これでは灰も残らない。
「警告したでゲロ。自業自得でゲロ」
「まあ、あいつらは冒険者ギルドのお尋ね者たちだったからな。消えて当然だろう。それにしても、この幼女が強すぎてあたしの出番がないのだが……」
キル子としては、このクエストで右京に良いところを見せようとちょっと張り切ってきたのに、その思惑は全然役に立っていない。ここまでゴブリンの小集団、グリーンスライムとそれなりに敵と遭遇したが、すべてアディのドラゴンブレスでなぎはらった。簡単すぎて面白くない。
「あれがダンジョンか?」
盗賊たちを消し去って30分ほど歩くと目指すダンジョンが見えてきた。町から近い初級レベルのダンジョンである。
「主様、冒険者ギルド発行の迷宮図鑑30。マルノンの洞窟でゲロ。すでに攻略されている迷宮でゲロ。モンスターが巣食っているので、ビギナーの戦闘訓練にもってこいの場所でゲロ」
そうゲロ子は言ったが結果的にはそんなに甘くはなかった。そもそも、こんな初心者ダンジョンでローパーの上級種が現れたことを考えれば分かることであった。
「ローパー3体出現。ニードルローパーが1体」
先頭のキル子がそう告げる。ダンジョン地下2階の湿地エリア。ローパーが出現しやすいエリアだ。通路から広がる直径50mほどの広がったエリアだ。キル子が背中のガーディアンレディを抜く。
「ここはドラゴン幼女の出る幕はないな。火を噴けば全部燃えてしまう」
キル子の言うとおりだ。ここはローパーを倒してニードルローパーを孤立させ、針を吐き出させる作戦とする。これは当面の予定どおりであった。右京とホーリーは出入り口付近で待機。その前をアディラードが位置して、いつでもドラゴンブレスを放つ体制。キル子が突出して、まずはローパーに襲いかかる。
「とりゃ!」
ガーディアンレディを一閃するとローパーの触手が吹き飛ぶ。1体、また1体とノーマルローパーを倒す。初級レベルのモンスターにキル子が負けるわけがない。ニードルローパーの毒針も難なくかわす。ニードルローパーは、長い針を単発で発射する。
どれも1m程で右京が見る限り、槍の柄にできそうな長さがない。右京としては1m70cmほどの長さが欲しいのだ。よって、ニードルローパーにはとどめをささず、挑発して毒針を吐かせる。たまに1m20cmほどの針を吐き出すから、このまま粘っていれば必要な長さの針を吐き出すかもしれない。
「キル子、とどめをささずに泳がせてくれ。そのうち、吐き出すから」
右京はそうキル子に命ずる。キル子はそれに従い、近づいては切りつけて触手を切り飛ばす。その度にニードルローパーは毒針を吐き出すが、思いのほか長いのが出ない。やがて、地面にはニードルローパーが吐き出して地面に突き刺さった針に覆われた。
「主様、そろそろ、こいつにとどめをささないとまずいでゲロ」
「どういうことだ?」
「ローパーは弱いモンスターでゲロが……」
ゲロ子が右京の右肩でそうつぶいやいた。このカエル娘は一般的な情報を検索することができる。今はギルド発行のモンスター図鑑にアクセスしている。
「ローパーは弱いモンスターでゲロが、稀に仲間を呼ぶことがあるでゲロ」
「おい、ゲロ子、それを早く言えよ」
「今、わかってたでゲロ」
ゲロ子がそう言った途端、ニードルローパーが急に変な動きをしだした。そして、奇っ怪な叫び声を発する。
キエエエエエエエエエエッツ……。
気持ち悪い叫びに右京たちが耳を塞ぐ。それと同時にエリアの濡れた床から、ブクブクと音を立てて新手のローパーが現れた。しかも大量である。ぐるりと円状に現れたローパー。その数、30を超える。しかも中央には巨大なニードルローパーが出現した。
「ま、まずい!」
「きゃああああっ……」
右京が叫ぶと同時に背後にいたホーリーが叫び声を上げた。背後に現れたローバーの触手に腕と足を掴まれたのだ。たちまち、無数の触手がホーリーを襲う。それは神官服を捲り上げて、ホーリーの太ももに巻きつき、バストにも絡みつく。
「いやあああっ……。右京様」
あられもない格好に羞恥心で真っ赤になるホーリー。だが、状況はまずい。エロピンチどころか、このままいけばローパーに溶かされてしまう。
触手は反則でゲロ……。




