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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第6話 革新のスピア(ロケッツ オブ ジャベリン)
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都から来た女騎士

今日も帰りが遅くて投稿し損ねた~っ。

0時過ぎの投稿ですみません。

「カイル、このエルムンガルド製の穂先だが」

「かなり年代ものだな」

 

右京は買い取った槍の穂先スピアヘッドをカイルに見せる。カイルはそれをじっくり観察してそう言った。エルムンガルド製の槍はそんなに流通しているものではないが、独特の溝の付け方から年代により特徴があった。


「60年~70年前のものだろう。錆もなく状態はかなりいい」


「カイル、さすがだな。老婦人が嫁いでくる前の義理の父親が戦功をあげてもらったものだそうだ」


「うむ。で、これをどう加工するのだ?」


「キル子に合わせて形状を変えようと思う。今のままだと一度突き刺すと抜けにくい」


 右京が買い取った『フラメア』の切っ先は、先端は尖っているが下へ行くに連れて曲がっており、抜くときに傷口を広げてダメージを大きくする特徴がある。


だが、その部分を成形し直し、抜くときにするりと抜けるようにするのだ。


「なるほどでゲロ……。一度の攻撃だけで仕留めるのではなく、何度も突き刺すための工夫でゲロな」


 ゲロ子も右京の狙いが理解できたようだ。キル子の戦闘スタイルはスピード。蝶のように舞い、蜂のように刺す。ヒット&アウェイが信条なのだ。抜けにくくてスピードが落ちたら、キル子の持ち味を消す。


「柄については、ちょっと考えがあるんだ。それを待って全体のバランスを調整したいが、その前にカイルにはさらにこういう形状のものを追加して取り付けて欲しい」

 

 右京が紙にイラストを書く。それは槍と柄の接合部分に羽のような突起物を付けた絵だ。カイルは黙って頷いた。最近、弟子にしたピルトに作業準備を指示する。


「1週間あればできると思う。お前はそれまでに槍の柄にする材料を用意してくれ」


「ああ」


 右京は頷いた。1週間で完成するとなると、調整やキル子の練習が充分できる。これは幸先が良さそうだ。


「ゲロゲロ……。主様、主様の狙いはわかったでゲロが、ちょっと工夫が地味過ぎないでゲロか? あのディエゴのおっさんの自信満々の態度だとその程度の工夫では勝てないと思うでゲロ」


「もちろんだ。ここまでは基本部分に過ぎないよ。ともかく、柄になる材料を見に行こう」


 右京はゲロ子と市場へ材料を探しに行く。槍の柄にする材料である。通常、槍の柄は木製か金属製となる。木製の場合は槍全体の重量を大幅に下げて、軽量化につながる反面、耐久力に難点があり、折れたり、剣で斬られたりする恐れがある。


 今回の場合はバーチャルモンスターなので、折れたり、斬られたりして武器破壊が起こる可能性はないが、そういう場面が想定されるような展開になれば、減点の対象になる。では金属製だとそういう危険はないが、やはり全体の重量が重くなる。これは女戦士のキル子にはハンディになるだろう。


(となると、弱点を補える素材探しが重要となる)


 まずは木製の柄探し。市場で木材を扱っている問屋を訪れる。店の中は様々な木材にあふれている。問屋の親父は右京の話を聞いて、一つの木材を指差した。


「槍の柄なら、これが一番だよ。イチイガシっていうのだが、硬くて軽い。加工もしやすくてよく使われているよ」


「う~ん」


 何だか違うなと右京は思った。よく使われているのだから、これが一番よいのだろうが、軽すぎても右京の理想の槍にはならない。


「気に入らないようだな。じゃあ、これはどうだ」


 そう言って親父が出してきたのは赤い色の木。さっきのものより硬く、そして重い。右京はそれを触ってみた。すべすべした感触が心地よい。


「アカガシっていうのだ。東の国では木刀にしているという硬い木だ。ただ、硬すぎて加工がしにくい。削るのにかなりの時間がかかる」


「なるほど……」


 木製についてはよく分かった。とりあえず保留にしておいて、右京は次に金属製のものを探す。鉄でできたものを何本か見たがどれもしっくりこなかった。鉄製は頑丈ではあるが、とても重いのである。


 今回はショートスピアで1.7mほどの長さではあるが、右京は重量を2kg以内に抑えたいと考えていたのだ。金属製はどうがんばっても3kg以上になる。軽くするには長さを短くするしかないが、1.7mというのがキル子の身長から割り出した適正サイズであり、それを崩すわけには行かなかった。


「木製は軽いが耐久力がない。金属製は丈夫だが重くてキル子の連続攻撃に支障が生じる」


「難しいでゲロ。穂先とのバランスもいるでゲロ。どこかに軽くて丈夫な材質がないでゲロか?」


「こういう時こそ、ゲロ子、お前の検索機能で……」

「無理でゲロ」


「相変わらず、即答だな、お前は!」

「ゲロ子の一般辞書は、普通の人が知っていることに限定されるでゲロ」


「なんか、その能力意味ないような気がしてきた」

「そうでゲロか?」


 確かに、右京がこの世界のことを知れば知るほどゲロ子がいる意味がなくなる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 W.D.開催の日まで10日あまりとなった。ディエゴは朝から息子のアマデオを呼びつけていた。


「アマデオ、槍の準備の方は順調か?」

「はい。パパ……じゃなかった、会長。エドは順調に仕上げています」

「それは結構なことだ」

「で、会長。今日は誰を出迎えるのですか?」


 本日、アマデオはディエゴに客の接待を命じられていた。どうやら、今回のW.D.に関係する人間が都からやって来るらしい。そんな凡庸な息子にディエゴは問いかけた。今から息子に教育するつもりだ。


「アマデオ。W.D.で勝つための条件を言ってみろ」

「それは、素晴らしい武器を出品することかと……」

「甘い!」


 ドカッとディエゴのゲンコツがアマデオの脳天にヒットする。頭を抑えてうずくまるアマデオ。


「アマデオ。お前はこれまで何も学ばなかったのか?」

「え?」


「今回、我々が出す武器はエドという類まれな天才武器デザイナーによるもの。つまりは人の力だ」


「はあ……」


 凡庸の息子には父親が言おうとしていることが分からない。その表情を見てディエゴは育て方を間違えたと深く反省した。仕事の忙しさにかまけて母親に全ての育児を任せてしまったツケだろう。世の中の常で概して母親は息子に甘いのだ。


「だが、どんな優れた武器も使い手しだいだ。そこで私は都から一流の使い手をスカウトしてきた」


「なるほど、会長。どんな使い手なのですか?」

「ふん。間もなく到着する。自分で見極めるんだな。くれぐれも言っておくが、アマデオ、機嫌を損ねるようなことは絶対するなよ」

「は、はい。会長」


 ディエゴは完璧な男である。右京に対して奢りは一切なく、自分のもつ全ての力を総同員して勝つつもりであった。武器を使うデモンストレーターも今回のW.D.では重要な要素である。手に抜かりはない。


 やがて時間なり豪華な馬車が到着した。どんな猛者が降りてくかと期待したアマデオであったが、降りてきたのは意外な人物であった。


「ようこそ、いらっしゃいいました」


 アマデオがそう丁寧に馬車のドアを開けた。するとスラッとした手が伸びる。思わず、その手を取ったアマデオは中から出てくる人物を見て思わず驚き、声を失った。予想外であったからだ。 


 その人物は女性であった。年齢だけならまだ小娘といっていい。女学生のよく履くチェックのスカートにブラウス、それに日傘を手に持ったツインテールの女の子だ。どう見ても10代であろう。その女の子がアマデオのエスコートに導かれ、テンポよく馬車の踏み台を弾むようにして降りてきた。地面に足を付けると日傘をさす。それをクルクルと回す。


「長旅、お疲れ様です」


 ディエゴが丁寧な口調でこの小娘を出迎えるから、ますますアマデオは訳が分からない。


「あらあ……。会長さん、一人だけ、変な顔をした人がいるんですけど~。こんな小娘が本当に戦えるのかよ~。なんて顔をしてますけど~」


 小娘はアマデオを見てクソ生意気な態度でそうディエゴに言った。慌ててディエゴがアマデオの頭をグイグイと抑えてお辞儀をさせる。


「アマデオ、挨拶をしないか。この方が瑠子るこ・クラリーネさんだ」


「る、るこ? るこ・クラリーネだって?」


 思わずアマデオは聞き返した。名前だけは聞いたことがある。今、都で売り出し中のデュエルファイターの名だ。まだ、若い女の子とは聞いていたが、まさか、目の前の女子とは。


「るこ、疲れちゃった。ちょっとお昼寝したいなあ」

「すぐにホテルを手配させますが、その前に契約書にサインを」


 ディエゴはそう言って瑠子に書類を見せる。この気まぐれな女子が急にやる気ないがないと言って帰ることを警戒したのだ。瑠子はため息をついたが、ディエゴの妥協のない目を見て渋々とサインする。


「あの~。瑠子はこんな片田舎に来るの本当は嫌なんだから。会長さんがどうしてもというのと、相手が霧子ちゃんだから瑠子は引き受けたのですからね」


 瑠子はペンを器用にクルクル回しながらそう言った。そう言うとまた、馬車に乗り込む。ディエゴが用意した高級ホテルへ行くのだ。


「会長……。あれが瑠子・クラリーネ?」


「そうだ。あんな姿でも都では若手ナンバー1の呼び声が高い。デモンストレーターとしても一流だ。彼女と契約する武器ショップは数知れず。都では人気と実力を兼ね備えた女騎士だ」


「確か、デビュー以来、負けなしとか噂に聞きました」


 瑠子・クラリーネ。都では有名はあるが、まだ若いのでキル子と同じレベル6である。ディエゴは平等に配慮すると共に、キル子以上の才能をもつ彼女を自分の店のデモンストレーターとしたのだ。ここでレベルの高い男の戦士を指名したら、後でとやかく言われることも考慮していた。


「しかも、彼女は霧子君とは因縁があるそうだ。年も同じらしいし」

「えーっ! 霧子と同じ? それじゃ、あの学生服はダメなんじゃ」


「あれが瑠子くんのファッションだ。彼女は都では『爆撃SCHOOL GIRL』と言われているんだ。メインの使用武器はレイピアだが、槍の使い手でもある。彼女ならエド君の武器を使いこなせるだろう。これで我々の準備は整った」


『断罪レディ』VS 『爆撃女学生』の戦いは始まる。



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