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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第6話 革新のスピア(ロケッツ オブ ジャベリン)
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武器デザイナー

「パパ……じゃなかった。会長、あんな条件を出して本当に勝てるのですか?」

 

右京の店からの帰り道。馬車に揺られてアマデオは父親であるギルド会長、ディエゴにそう訪ねた。W.D.を申し込んだのはよいが、武器の値段を4000Gとしたのは、新品武器屋にとっては不利としかいいようがない。そんな値段でしかも槍で勝負だ。品質が劣るものしか用意できないはずだ。


「アマデオ。確かに4000G程度の勝負だとこちらが不利と思うだろう。だが、値段はコストダウンでどうにでもなる」


「だけど、会長。4000Gじゃ、いくらコストダウンしたとしても品質はそれなりになるんじゃ」


 アマデオも支店を任されてきたから、武器の値段と性能の相関関係は理解している。当然ながら、品質がよければ値段は高い。だは、右京の場合は中古武器を安く仕入れて勝負に出せる。値段勝負なら、とても太刀打ちできない。


「アマデオ。これから会わせる人物が全ての回答だ」


 そう言って馬車が向かった先は、武器ギルドが所有する武器製造工房。ここで町外から仕入れてきた武器を調整したり、オリジナルデザインの武器を作ったりしていた。アマデオが紹介されたのは、1人のドワーフの男。まだ、若い男だ。


 ドワーフ族は背の低いがっしり体型が特徴の種族である。体格の割には手先が起用で、金属細工師や武器職人になるものが多い。このドワーフの男もそんな一人であろう。


「ドワーフ族のエド君だ」


 作業中だったドワーフは、ディエゴにそう言われて顔を上げた。縮れた茶色の長い髪を無造作にヘアバンドで止めていた。アマデオは握手を求めて右手を差し出す。ごつい手がアマデオの手を握り返した。


(確かにドワーフは腕のよい職人だ。だけど、それで答えになるとは思えないのだが)


「アマデオ。彼はエルムンガルド出身の新進気鋭の武器デザイナーだ」

「エ、エルムンガルド、あのエルムンガルド?」


 アマデオは思わず聞き返した。武器屋をやっていてその産地を知らないものはいない。最高品質の武器を生産しているところだ。このドワーフの青年は、そこの武器デザイナーだという。


「エドモンド・バナージです」

「アマデオ、アマデオ・バッジョだ」


「バッジョ? ディエゴさんの息子さんでしたか。アマデオさん、今後はエドと呼んでください」


 そう若者はアマデオにそう言った。ドワーフ特有のヒゲは生やしてはいるが、口ひげと顎ヒゲを手入れしているので、ふさふさという感じではない。ワイルドなヒゲ男子という風体だ。どことなく、おしゃれな感じがドワーフらしくない。


 ドワーフといえば、頑固で無骨というイメージだがエドはそんな感じではない。父親のディエゴは最近まで、しばらく町を離れて、各地に商談の旅をしていた。仕入先の人脈作りを目的にした旅だ。この青年はそんな旅で知り合った、ディエゴの秘密兵器であったのだ。


「エルムンガルド製の武器は品質のよさと希少さで高級ブランドとなって、値段もかなり高くなっています。しかし、それでは多くの冒険者にエルムンガルドのよさを味わってもらえません。僕はそれが嫌でした」


 エドはエルムンガルドの7軒ある武器工房の1つを経営する若き職人。名人だった父の教えの元、次々と傑作武器を世に送り出し、新進気鋭の武器職人として有名になりつつあった。そんな青年をディエゴがスカウトし、W.D.のためにこの町へ足を運んでもらったのだ。


「アマデオ。お前は今日からエド君担当とする。彼の要求に答えて彼をサポートしろ」


「分かりました、会長」


「1ヶ月後に最高の槍を作らさせてもらいますよ」


 エドはそうディエゴに胸を張った。それを満足そうに頷くディエゴ。右京との戦いに完全勝利をすること。そのために自分のもっている全ての力を出し切るとディエゴは考えている。そこには奢りも油断もなかった。


「若社長。エルムンガルド製がなぜ一流ブランドとして名高いかその理由を知っていますか?」


 ディエゴが去ってアマデオと二人きりになったエドはそう尋ねた。アマデオは武器屋として各ブランドの武器を扱っているから、商品知識はそれなりにある。


「少量生産による希少価値。職人が1つ1つを丁寧に作り上げることかな?」

「それもありますよ。でも、一番大事なのはこれ」


 そう言うとエドは箱の中に手を突っ込んだ。中には黒い砂のようなものが入っている。それを一掴み取って、指を開いて手のひらを少し傾けた。サラサラと黒い砂が落ちていく。


「エルムンガルドの地で採れる砂鉄です。山から鉄鉱石が崩れて川に流れ込み、堆積したものです」


「ほう……」

「これを溶かして地金にしたもの。この鉄の成分がエルムンガルドの命なんです」


 そうエドは説明した。鉄は純鉄ほど柔らかい。これに炭素が交じることで鉄は硬さを保つ。だが、硬すぎると今度は折れる。この微妙な成分の差が産地の差として出るのだ。エルムンガルドはこの鉄の成分が非常に武器に適しているのだ。


「もちろん、素材がよくてもそれを使いこなす技術がなければ意味がない。そこで僕は超高温をローコストできる設備を発明したのですよ。これで鉄を熱して叩くという面倒な工程は省ける」


 エドは工房で助手がやっている作業を説明する。1500度以上で溶かしたドロドロの鉄が炉でブクブクと音を立てている。それを型に流し込んでいた。槍の穂先である。


「なるほど。これなら大量生産ができる。大量に生産できれば値段も下げられる」


「そう。僕の目標はエルムンガルド製の大量生産。それによるコストダウン。今回の勝負の4000G以内も可能です。この穂先、原価は2000G以下」


「2000G以下?」


「細かい仕上げに武器屋の利潤を乗せても、これから作る槍は4000Gの値段設定で十分ですよ」


「しかし、その工程で本来のエルムンガルド製武器の性能を担保できるのか?」


「できるから、僕はディエゴ氏にスカウトされてここにいると思うのですが。ま

あ、アマデオさんにも実際の目で見てもらった方が良いでしょうね」


 そう言うとエドは出来上がったばかりの試作品を手に取った。目で合図すると助手が数人、剣やら楯をもって取り囲んでくる。


「まずは突きの威力」


 エドが鉄の楯に向けて突き刺す。かなり分厚い鉄製の楯を突き破る。さらにそこから抜くともう一枚、連続で鉄を突き破る。3回目は二重に重ねた楯すら突き抜けた。剣を振りかざして2人が接近するが、それを槍で受け止める。2擊目の切っ先で剣を2本叩きおったではないか。


「さすがに短時間でこれだけ酷使すると、ダメージは大きいようですね」


 そうエドはポンとアマデオに槍を投げる。受け取ったアマデオは槍を見る。穂先の部分は欠けてボロボロになっている。だが、盾を4枚突き刺し、無銘とはいえ、鋼の剣を2本叩き折ったのだ。通常なら楯の時点で槍の方が折れていてもおかしくはない。その耐久力と破壊力は並ではない。


「スゴイ。これならあの忌々しい、中古武器屋をギャフンと言わせられる」


「おやおや、アマデオさんのハードルは低いですね。僕はこの程度じゃ満足していませんよ」

 

 エドはそう言って笑った。今のデモンストレーションはあくまでも初期段階の性能を見せただけだ。この程度で驚かれては困るのだ。


「そもそも、僕のような素人が扱ってこの威力。プロのデモンストレーターなら、今の負荷の3倍でも十分耐えられるでしょう。僕はこれをさらに2倍の耐久力に引き上げるつもりです。でも、それだけではないよ。僕の本質はそこじゃないんです」


「本質?」


「そう。ディエゴ会長が僕に惚れて、ここへ連れてきた理由ですよ」


 そうアマデオに告げるとエドはニヤニヤとある液体を見せた。それは銀色の液体に金の光がキラキラと輝いている。


「それは……? コーティング剤か」

「ただのコーティングじゃないです。これは再生するコーティング」


 アマデオの全身に震えが走る。(再生するだと……)そんなことができるのだろうかと思ったが、エドはこともなげに続けていく。


「このコーティングは時間が経てば、自己再生をしていくのです。つまり、攻撃対象が固くて傷がついたとしても自己修復する。無論、折れてしまう程のダメージを喰らえば、再生できないですけどね」


 アマデオが先程試しに使われた槍を見ると、キラキラと光りながら徐々に欠けた刃の部分が再生されていくのが確認できた。これはすごい技術である。


「再生が完了する時間は?」


「今のところは完全再生に3分かかります。でも、それでは実戦では使えない。3分も敵は待っちゃくれないですからね。これを何とか1分に縮めます」


 今回のタッグ戦は2人のデモンストレーターが1頭のモンスターと戦う。交互に戦えば、武器の再生時間を稼ぐことができよう。1分程度なら十分可能になると思えた。


「ますます、素晴らしい。さすがパパ……じゃなかった、会長が見出した職人」


「ほめてくださってうれしいです。でも、これだけではまだ、革新的とはいえないです。僕はこれだけで満足はしていませんよ。実はもっとすごい仕掛けを考えているんです」

 

 アマデオが助手を見ると不思議な作業をしている。何やら不思議な機械を動かして、細い鉄線のようなものをくるくると巻いて切っている。それは太いものとか、細いものとか様々な大きさのものが作られていた。


「バネといいます。こうやって、縮めて離すとスゴイ反発力で元に戻るのです」


 エドがやってみせた。縮めたバネは飛び出して天井に当たって落ちた。アマデオは不思議に思った。鉄線を巻いたところでこのようなものはできない。


「素材が普通の鉄じゃないのです。かなり硬い鉄。もちろん、硬いと容易に曲がらないし、無理にやれば折れます。そこで800度の高温を加え、冷却するという方法を使うのです。そうするとこういう不思議な部品ができるというわけ」


「これもすごい技術だが、これを武器にどう使うのだ? 槍以外に使ってもW.D.では評価されないぞ」


「ふふふ……。まあ、見てのお楽しみというところでしょうかね」


 そう言うとエドは作業に戻った。これから1ヶ月かけて試作品を磨き上げ、一流の製品としてこの世に送り出すのだ。これまでに見たことがない革新的なエルムンガルド製の武器が生まれるのだ。そして武器デザイナーであるエドモンド・バナージの名が一躍有名になる時なのだ。


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