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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
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ゲロ子降臨

「人肌に温めるねえ……」

 

 その日の夕方。右京は露店の食べ物屋で、米と野菜を炒めたものに炙り焼きした鳥肉を乗せたチキンライス風のものを注文して食べていた。注文ついでにお湯をもらった。湯を入れた丼風の器に、先程5Gで買った琥珀の妖精の卵を漬ける。

 トプン……。卵は丼に沈んだ。湯気がほんわか立つお湯の温度は36、7度に調整した。オヤジの言ったとおりに妖精を復活させるのだ。


(おお……。変化してきたぞ)


 3分ほどで琥珀が溶け始めた。そもそも琥珀というのは天然樹脂の化石のことで宝石並みに固い。こんなお湯で溶けるはずがないから、この琥珀は似て非なるものだろう。まさかと思うがただの砂糖を焦がしたものだったりして。

 

 完全に溶けるとカエルスーツを着たフィギュアが目を開けた。パッチリとした可愛い目だ。右京はカエル娘の様子をじっと見る。


「はあ……でゲロ」


 溶けた卵からカエル娘が出てきたと思ったら、すぐさまカエル娘がしゃべった。しかも、いきなりのため息だ。


「貴族のイケメンか王子様、百歩譲っても大金持ちのパパかと期待したでゲロが。貧乏男がご主人様とはついてないでゲロ」


 随分、はっきり物を言う奴である。


「貧乏で悪かったな。お前、俺の使い魔だろ」

「残念ながら……でゲロ」


 カエル娘の奴、丼の中で泳ぎだした。カエルらしく平泳ぎかと思ったら犬かきしている。お前、本当にカエルなのか?


「俺は伊勢崎右京だ」

「もてそうにない名前でゲロ」


「どうやら、使い魔にはお仕置きが必要みたいだな」


 右京はカエル娘の頭をつまんで持ち上げる。バタバタと手足を動かしてもがくカエル娘。なんでこれが妖精なのか。


「痛いでゲロ、やめるでゲロ」

「使い魔なら主人に忠義を尽くすもんだろが」


「尽くすでゲロ。というか、尽くさないといけない契約になっているでゲロ」


「それならよろしい。で、お前はなんて名前だ」


 右京はテーブルの上にカエル娘を置く。緑髪をまとめてカエルの顔をしたフードに収めている。人間の顔は結構可愛い顔をしているし、カエルスーツはぴたっとしたレオタードである。小さいがかなりよいプロポーションだ。


「名前は主様が付けることになっているでゲロ」

「そうなのか」

「そうでゲロ……」


「う~ん。名前ねえ」


「可愛い名前を付けるでゲロ。例えば、アン・ハサウェイにミラ・ジョボビッチにエマ・ワトソンでゲロ」


「おい、何で外国女優の綺麗どころを知ってるんだ?」

「さあで、ゲロ」


(ふざけた奴だ。性格悪そう。あのオヤジ、俺に不良品押しつけやがったな)


 今思えば、ほかの琥珀と違ってコイツのは黒っぽかった。それにほとんど投げ売りの値段。性格悪い奴と分かっていたに違いない。


「お前はゲロゲロ言ってるから、ゲロ子だ。ゲロ子で十分」


「嫌でゲロ。せめて、エリナとかミカサとかシラユキとか」

「だから、なんでお前は日本の漫画を知っている」


「さあで、ゲロ」

「ゲロ子に決定」

「ゲロゲロ……」


 どうやら最終的には使い魔は主人には逆らえないらしい。これはこれで悪くない。


「で、お前は何ができるんだ?」

「よくぞ聞いたでゲロ、主様」


 ゲロ子は自分の能力を説明しだした。まず、攻撃力0。攻撃魔法も使えない。ただの非力なカエル娘だ。もちろん、回復魔法とかも使えない。これじゃ、冒険者は相棒にしないだろう。だが、恐るべき能力があった。それは商人を目指す右京には役立つ能力だ。


『妖力 価格コム』この世界の品物のおおよその値段が分かる。


『妖力 一般辞書』この世界の一般常識が収められた辞書を頭の中にもっている。検索機能付きなので基本情報はすぐに分かるのだ。


『妖力 告知』一回行ったことのあるギルドの掲示板にワープできる。


『 』書きは右京が命名。調べることと宣伝ができる機能。要するにスマホみたいなもんだ。日本では当たり前のように使っていたが、この異世界ではスマホの能力があったらとても重宝する。ということは、このカエル娘。とんでもない拾いものかもしれない。


「あと、ゲロ子は脱いだらスゴイでゲロ」

「それはいい」


 カエルスーツを脱ごうとしていたので、それは却下した。右京にはフィギュアの服を脱がせる趣味は無い。


「それよりゲロ子」

「なんでゲロ?」


「このロングソードの斬れ味を超絶に高める方法を検索しろ」

「無理でゲロ」

「即答だな」


 ゲロ子の能力は一般的な知識の検索機能だ。特殊な情報はもっていない。こういう時は普通手に入れた使い魔が突破口を開くものだが、ゲロ子の奴、全く役に立たない。


「見慣れない顔だな」


 ゲロ子と不毛な会話を続けていた右京は、不意に話しかけられた。声がする方を見上げると神殿の神官の服装をした男が少し酔っ払って立っている。神殿は町を歩いていた時にいくつか見ていたし、そこに出入りする人々が似たような服装をしているので、神官だと思ったが右京の予想は当たった。


「自分はレオナルド。主神ジュピター神殿の2等神官。アイテム学の研究員をしている」


「俺は伊勢崎右京」


 レオナルドと名乗った男は31歳。右京よりも10歳上の男だ。レオナルドは普通、見知らぬ人間に話しかけるなんてことは滅多にないことだが、ちょっと職場で嫌なことがあったのとテーブルで珍しい型の妖精と話す青年がこの世界には似つかわしくない雰囲気があったのでつい話しかけたらしい。


「ほう……。なるほどね。異世界から飛ばされたと……」


「そうなんだよ。それで文無しで参ったよ。今は少しだけ金があるからいいようなものの。稼がないとこの世界では生きていけない」


 右京はレオナルドに身の上話をした。異世界から来たなんて信じちゃもらえない話もレオナルドは頷いて聞く。神官として器が大きいのか、ただ単に酒で冷静な判断ができないのかわからない。時折、話題が逸脱するのは間違いなく酒のせいだろう。



「そうだな。働かざる者くべからず。まあ、飲みねえ。ここは自分のおごりだ。よーっ。お姉さん、もう2つ、コルドバ産黒エール。あとツマミに燻製チーズ」


「ゲロ子もおかわりでゲロ」


 レオナルドのおごりだから右京はスルーしたが、自腹だったら認めないところだ。使い魔の飲み食いは主人である右京の支払いなのだ。


 レオナルドはさらにピッチを上げて酒を飲みつつ、今は手に入れたロングソードに付加価値を付けて売るということも聞いた。途中、ツマミを食ってるゲロ子にちょっかいを出し、ぐいっとジョッキを空けてさらに注文する。


 右京も付き合って飲む。レオナルドは酒に弱いのか、それとも右京に話しかける前にかなり飲んでいたのかもう限界のようだ。この世界の酒はアルコール分が薄いのだろうと右京は思った。どんなに飲んでも右京はほろ酔い加減だが、レオナルドはますます酔って正常じゃなくなっている。


「うひょう、みゃあ、ころせはいにきたのは、ふんめいみたいなもろ」

「レオナルド、酔いすぎだぞ。もうやめたら」


「うるひゃい。うひょう~っ。そのろんぐひょーど、ほれにまはへろ」

「もう何言ってるか分からないでゲロ」


「げろこたん、かわいいっすううう」


 そう言ってレオナルドはゲロ子の着ぐるみを引っ張って脱がそうとする。さすがのゲロ子もこのセクハラ攻撃に悲鳴を上げた。


「主様、ゲロ子は酔っぱらいは嫌いでゲロ~。助けてでゲロ」


 仕方ないので、レオナルドにもう一杯酒を頼んで飲ませる。これでグロッキー。レオナルドはその場で酔いつぶれた。そんなレオナルドを介抱しながら右京はこの出会いで何かが変わるような気がした。


(なんて男だ。でも、この男、ロングソードのことは俺に任せろとか言っていたな。何か手がかりになるようなことを教えてくれるかもしれない)



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