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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
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妖精の卵

 剣の付加価値を上げるために例えば、宝石や金で飾るという方法もある。そうすれば見た目にも豪華になり、価値は上がる。だが、それでは宝石や使った金銀の価値が上乗せされただけである。


 下手すると剣自体の重さが変わり、絶妙な重量バランスが崩れて使いにくいものになってしまう可能性もある。そうなったら武器としては使えない。


(う~ん。どうするか……)


 何か手がかりがないかと町の市場を歩いている。歩いていてもこれといった物も見つからず、アイデアも出ない。いろいろ考えたが、インパクトがあるロングソードの改造方法は思い浮かばない。


 やがて右京は露店商が立ち並ぶ活気あるエリアに踏みこんだ。露店では食べ物、服、雑貨等様々な物が狭いスペースに所狭しと商品が積まれて売っている。売り子の声が飛び交い、人の往来も多い。この露店エリアでは行商人が仕入れてきた品物を短期間だけ場所を借りて販売しているところがあり、この世界の各地にある珍しいものが並んでいることがあった。


 そんな品物を気休めに眺めながら、ブラブラ歩いていると急に誰かに袖を引っ張られた。赤いターバン巻いた太ったオヤジだ。体に似合わない小さな声で右京に話しかけた。


「兄ちゃん、見ていきなよ。裏筋から仕入れた特上品があるんだよ」

「はあ?」


 これではいかがわしい店に案内する客引きと一緒だ。何かやばい物でも売っているのであろうか? 右京はオヤジと一緒に歩き出す。何だか好奇心がムクムクと育ってきたからだ。売っているものを見るだけでもいいだろう。


「おじさんは何売ってるんですか?」

「これから見せるものはとても珍しいものだ。兄ちゃんは運がいい」


 この世界。ギルドに加盟して許可証がないと商売ができない。規定の金を収めて一定の条件を満して許可証を手に入れられるのだ。オヤジは果物行商人の許可証をもっていたが、たまに果物とは違う品物を仕入れて、こっそり売っていたのだ。


 商売はできるが売っているものが違うということで違法なのであるが、売っている品物に特定のギルドがなければ大目に見てもらえる。これはグレーゾーンである。


 そういう場合の品物は正規ルートではなかなか手に入らないものだったりする。そしてこのオヤジが売っていたもの。連れて行かれた裏路地の倉庫みたいな場所の物陰。地面には麻で編まれたゴワゴワの絨毯が引かれ、黄色い布に置かれた琥珀色の卵が3つ置かれている。


 茶色で透明の琥珀の中に体長15センチくらいの人形のようなものが目を閉じて入っている。アニメキャラのフィギュア並のセクシーなプロポーションだ。


「これ何?」


 右京は思わず、オヤジに聞いてしまった。オヤジはヒゲを撫でて自慢げに右京に答える。


「妖精の卵だ」

「卵? 」


「そうだ。これには妖精が閉じ込められているのさ。古代の遺跡でたまに見つかる貴重品さ。正規ルートでは販売は規制されている。全部、貴族や金持ちの商人のところへ流れて庶民にはなかなか回ってこない代物だ」


「へえ。これを買ってどうするの?」


「兄ちゃん、何も知らないんだな。買って復活させれば、冒険のサポート、話し相手、ペットにもなるさ。3体ともメスだが、残念ながら小さすぎてベッドに侍らすことはできんが、魔法も使える奴もいるから使い得だ」


 そうオヤジがつばを飛ばしながら説明していく。琥珀の卵を割って中の妖精が始めて目にした人間を主人と認定するとのことだ。いったん、認定すると主人の方が破門にしない限り、妖精は主人が死ぬまでずっと付き従うのだ。主人が死ぬとまた琥珀の卵になってしまうらしい。


 要するに使い魔になるということなのだが、今の右京には必要のないものだ。妖精の卵を買ったところでロングソードが高く売れるわけではない。


 ちなみに値段を聞くととんでもない数字をオヤジが口にする。さすがに怪しい場所でこっそり売る商品だ。おそらくこの数ある露店の中で最も高価なものであろう。


「1つ800Gだ。2つ買ってくれれば100Gまけて1500Gだ」


 800Gは日本円で40万円だ。ペットショップに売っている高級ワンちゃん並の値段だ。右京には手が出ない。というよりも買う気は毛頭ない。


「オヤジ、待っていたぞ。ようやく入荷したな」


 ブレストプレートを身につけた戦士風の若い男がやってきた。よくここが分かったなと不思議に思ったが、このオヤジと知り合いらしい。常連客というわけだ。その常連客、買う気満々でしゃがんで品定めをしている。


「これは論外」


 そういうと戦士は一体を脇に避けた。そして2つを交互に見比べている、その目は真剣だ。


「どうしようかな。フェアリータイプがいいか、ピクシータイプがいいか。どちらも可愛いから選べないなあ」


(おいおい、フィギュア買うみたいだな。何だか、格好に違和感あるのだが)


 フェアリータイプと呼ばれた琥珀の卵は、蝶の羽が生えた可愛い女の子だ。ピクシーはトンボの羽のようなものが背中にある。いずれも美形である。オヤジがいうように卵を割って自分の使い魔となって動くということなら、欲しがる人間はたくさんいるだろう。こんなものが売ってるとなれば、徹夜の列ができるに違いない。


 若い戦士は散々悩んだ挙句、フェアリータイプを選んで買っていった。もう一つのピクシータイプはまた後からやってきた魔法使い風のお姉さんが購入。オヤジのところには、戦士が脇に置いた1つだけが売れ残った。


「ちっ。やっぱり売れなかったか。まあ、売れないわな」


 オヤジはそう言って、どうなるか興味津々でずっと見ていた右京にこういった。


「兄さん、買わないか? 今なら安くしておくよ」

「安くってどれくらい?」


 半値くらいかなと右京は思った。例え半値でも400Gもしては買えない。それに卵を見ると中に入っている妖精と称するものは、およそ妖精とは思えないものだ。それは何故かカエルの着ぐるみを着た女の子だ。顔は可愛いのに全てを台無しにするカエルスーツだ。


 オヤジは右京が興味をもったので、イケルと思ったのだろう。すかさず、値段交渉にうつる。


「半値の400G」

(やっぱり……)


 予想通りの答えに右京は後ろを向いて帰ろうとした。慌ててオヤジは右京の腕を掴む。


「うそうそ。ちょっと言ってみただけだ。200Gでどうだ」


 右京の足は止まらない。おやじは慌てた。ここでいくらかで売らないとこれは売れないと判断したのだ。


「じゃあ、兄さん。あんたの言い値で売ろう。一体いくらなら買うのだ?」

「う~ん。5G」


「な、なんだって?」


 右京は自信をもってきっぱりと言う。


「5G」


「いや、ちょっと待てよ。これは妖精の卵だ。いくらなんでもそんな安いわけ」


「さよなら」


 実はこの卵。かれこれ3ヶ月前から仕入れているが全く売れない。不良在庫なのだ。しかも、これを仕入れてからは色々とついていないことが続き、不幸の卵じゃないかとオヤジは感じていた。そこで値段が付くうちに厄介払いしようと考えた。


「ああ、わかったよ。それで手を打とう。こんな疫病神はさっさと手放したほうがいい。どうせ、ただでも引き取る奴はいないだろうからな」


(おいおい、そんなにひどいのか?)


 右京は改めて卵を見た。琥珀の卵の中の妖精は確かに変わっている。何故かカエルの着ぐるみを着た女の子だ。琥珀もちょっと他のとは違って黒ずんでいる。


「5Gで売った」


 オヤジは右京から5Gを受け取ると店じまいの準備をした。妖精の卵はあまり堂々と売る品ではないので短時間で商談して、果物屋に戻らないといけなのだ。


「で、この卵、どうするんだい?」


「人肌くらいの湯に漬けるんだ。卵が溶けて中身が目覚める。兄さんの買った奴は黒魔法系の邪妖精だが、多少悪さをするくらいだから可愛がってくれ」


「ちょ、ちょっと、おっさん!」


 オヤジは消えた。後に残ったのはカエルの卵である。


5Gって……。安!

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