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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第4話 不幸のクリスナイフ(ボーチャークラッシュ)
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ヴァルハラルール 前編

「兄さん、なかなかいい手役を作るじゃないか。この私も圧倒されてしまうよ」

 

 イヅモの町の唯一のカジノ場、イヅモパレスの最上階でその戦いは行われていた。挑んだのはアルト・グランゼルク。挑まれたのはこの世界ではレジェンドと称されるボーチャー。ギャンブルで巨万の富を築いた男だ。アルトはウェーブのかかった長い金髪を時折、かきむしり、興奮冷めやらぬ様子で手役を整えていた。


 戦っているゲーム(キングス)はこの世界では広く親しまれているカードゲームである。2~10までのカード。これはポーンと呼ばれる兵士のカード。1は英雄のカード。11はビショップ。12はナイト、13はキング。Dというカードはドラゴンを現す。


 基本ルールははポーカーと一緒であるが、少し違う点はお互いに持ち点があり、それを成立させた役のポイントで0にしてしまえば勝つというルールであった。


 ポーカーと麻雀を組み合わせたようなものだ。より強い役を成立させて相手のポイントを0にすればよいのだ。

 

 最初に持っているポイントは100。負けた方はこれに1Gをかけたお金を相手に支払うことになる。だが、今、アルトがやっているゲームはレートが通常の1000倍。10万G(日本円にして5000万円)を賭ける特別ルールである。つまり、ポイントを0にしてしまえば1回戦ごとに10万Gを手にすることができる。


(こっちには幸運のクリスナイフがあるのだ。今夜、こいつを破産させてやる)


 アルトは守り刀として、腰に帯びているクリスナイフにそっと触った。不思議なパワーで体が熱くなる。3人の冒険者から吸い取った運がクリスナイフから解放されて、アルトの勝負運はとてつもなく上がっていた。試合開始から2連勝である。現在20万Gをボーチャーから奪い取っていたのだ。


(やはり、魔法のアイテムの力は偉大だ)

 

 アルトがこの復讐劇を考えたのはずいぶん前である。幼少の頃に家が破産してアルトは20年間貧乏と戦った。やんごとない家柄に生まれたのに、面前の男に全てを奪われたのだ。


 最初、アルトは父を恨んだ。こんな男の口車に乗って天井知らずのルールで勝負を望み、全てを失った父の愚かさを呪った。だが、調べてみるとそうでないことが分かった。ボーチャーは用意周到に父を陥れることを画策したのだ。しかも、勝負についても汚い手を使って勝ったというのだ。その謀略に手を貸した3人の男にはそれ相応の報いを与えた。そして今、復讐の本命が目に前にいる。


 ボーチャーを殺すことは簡単だ。だが、それでは本当の復讐とは言えない。ボーチャーをキングスで倒し、すべてを奪い去るのだ。


 だが、相手はギャンブルのレジェンドである。まともに戦っては勝てないことは承知していた。そこで彼が考えたのはクリスナイフに呪いをかけて他者から運を吸い取り、それによって(幸運)のスペシャルパワーを発動できる魔法のアイテムを手に入れたのだ。いかに彼がゲームの天才でも魔法の力には適わないはずである。


(来い、来い、来い……)


 アルトは祈ってカードを5枚、ディーラーからもらう。なめらかにカードはテーブルの上を移動し、アルトのところへ来る。


(キ、キター)


 アルトに配られた5枚のカードは、ビショップが3枚、黒の2と7のポーン。カードは黒、赤、青、黄の4色。それぞれ、1~13枚のカードがある。トランプと同じと考えていい。


 これにジョーカーにあたるドラゴンカードが2枚入る。ドラゴンはあるだけで役になる万能カードだ。


(ビショップ3枚で既にビショップチャージ3が完成だ。どうする? 仕掛けるか)


 キングスは役が完成した時に攻撃を宣言できる。宣言されると相手は1度だけ、カードを捨てて、捨てた枚数だけカードを得る。それで完成した役で対決するのだ。役で上回った方の勝ちだ。早く完成した方が有利なゲームであるが、相手の持っているポイントを奪うのが最終的な勝利につながるので、できるだけ大きな攻撃力を有する役を作った方がよいという面をもつ。


(いや、一撃で葬り去る。こっちは幸運パワーがあるんだ。もっと強いカードが来る)


 そう考えたアルトは2枚チェンジを選択した。それを見てボーチャーは不敵な笑いを浮かべた。ボーチャーは白髪の刈り上げ頭で中肉中背、白いタキシードにシルクハット、白の手袋。胸にはバラが一本挿してある。


 キザな出で立ちの中年男だ。20年前からすると年をとった感じだが、金の鎖を垂らした片眼鏡の奥に光る眼光は衰えていない。


「兄さん、なかなかやるね。この私に2連勝とは」


 そう言ってボーチャーは3枚のカードチェンジを要求する。配られたカードを見てちらりとアルトを見た。アルトも配られたカードを見ている。顔には出さなかったが、待っていたカードが手元に来ていた。キングのカードが2枚である。


(ククク……。笑いが止まらない。これでバーニングヘルが成立。ダメージは80だ。このゲームも俺の勝ちだ)


「アタックだ、ボーチャー」


「おやおや、それじゃ、1枚交換としよう」


 ボーチャーはさらに1枚を交換した。ディーラーが無言で1枚を渡す。周りの観客はどちらが勝つか固唾を飲んで見ている。


「オープン、ビショップ3枚、キング2枚、バーニングヘル。80ダメージだ」


「こちらはポーン3と4のダブルキル。最後の1枚が来ても負けだったようだ」


(やれやれ)とボーチャーは両手を広げて敵いませんというジェスチャーをした。これでポイント0。3回戦もボーチャーの負け。30万G(1億5千万円)の損失だ。


「若さには勝てませんな。今日はこれでお開きにしましょう」

 

 そう言ってボーチャーは席を立とうとする。だが、アルトはそれを許さない。鋭く、叫んだ。


「まだだ! キングスの天才、帝王と言われるあんたがこの程度で逃げるのか?」


 ボーチャーは笑みを浮かべて振り返った。胸のバラを取り出し、そっと鼻先に近づける。


「この私が逃げるですと……。面白いことを言いますな。私が見逃してあげようと温情をかけたのが分からなかったようですね」


「な、なんだと!」


「悪いことは言わない。ここで止めておきなさい。これは年長者の忠告だよ」


 アルトには訳が分からない。この3戦。アルトが圧倒的であった。ボーチャーは何もできずにアルトの前に敗れ去ったのだ。


「うるさい! 貴様は俺の敵だ。ここで貴様を破滅させてやる」


 アルトは思わずそう叫んで立ち上がった。元々、ボーチャーの奴を破産させてやるつもりでここへ来たのだ。30万G程度で逃してたまるかである。


「この私が敵ですと? なるほどねえ。では、この私を破滅させたいと思っているのですね。アルト・グランゼルク」


「な、何で俺の名前を知っているんだ!」


「知っていますよ。あなた、私のことを随分調べていましたからね。あのグランゼルク伯爵の息子ですか。父親の敵を取りに来るとは健気。だが、君は恨む相手を間違えている。私は手先に過ぎないよ。確かに君の父親に引導を渡したのは私だがね。気の毒だったよ。まあ、父親の敵を討つという健気さに免じて、わざと負けてあげたのですが、私の温情が理解できなかったみたいですね」


「な、何を言っている! こんな端金でこれまでの恨みを晴らせるか!」


「ククク……。端金と言いましたね。いいでしょう。受けて立ちますよ。だが、1000倍ルールとは言え、こんなチマチマした戦いでは私は破産させられません。どうです? ヴァルハラルールで戦うというのは?」

 

 ヴァルハラルール。7回連続で行うキングス。連続で勝てば勝った金を乗せて倍々に増やしていくルールだ。今の場合、1回が10万G(日本円にて5000万円)2回戦は20万G。3回戦は40万Gと増えていき、7回戦になると640万Gとなる。日本円にして30億2千万円となる。ゲームが終了するのは7回戦が終わるか相手が降伏して、勝者がそれを受け入れた場合のみである。


「無論、お前が640万Gも払えないことは承知だ。その場合、お前にはこの書類に署名してもらう」


 ボーチャーが示したのは一生を炭鉱労働に従事するという書類。わずかな生活費を残して稼ぎは全てボーチャーのところに行くということが書いてある証明書だ。負ければ一生この男の奴隷となる。


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