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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第3話 再会のチンクエディア(エルフダガー)
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水眼石の持ち主

ゲロ子の話と自分たちが調べたことを合わせると、あの炭焼き小屋の男は間違いなくネイの父親だ。だが、厄介なことに記憶を失い、別の家庭を築いているのだ。かなり複雑な家庭問題のようだが、ネイが父親を探し出した以上、記憶を取り戻す努力はするべきだろう。


「記憶を取り戻す鍵はやはりこのチンクエディアだな」


 右京は買い取ったチンクエディアを眺めている。今はボロボロの状態だが、これを蘇らせればネイの父親の記憶が戻るかもしれない。


「戻ったら、戻ったらで、ドロドロギトギトのドラマが始まるでゲロな。ゲロ子は急にやる気が出てきたでゲロ」


「全く、お前は腹黒い奴だな」

「ゲロゲロ……」

 

 まずは全体のサビをなんとかしないといけない。これはカイルの手を借りて修繕する。幸い、サビは深いところまでは侵食していないので丁寧に削り落とし、研ぐことで復活できるだろう。


 問題は装飾品だ。金銀をあしらったところは全て取れてしまっている。これはこれまでに売って金にしてしまったのだろう。柄の中心にあった宝石もなくなっている。ネイが言うには父親のものには青い石がはまっていたという。


「装飾ならボスワースじいさんに頼めばよいけれど、問題は青い宝石だな」


「ネイのチンクエディアにはまっているのは灼眼石でゲロ。となると青い宝石は水眼石でゲロ」


 『水眼石』透き通った水のごとく青い石である。さほど高価なものではないため、武器の装飾品としては一般的ではあるが、チンクエディアについていた石の大きさだと結構な値段になる。


「値段にすると700Gから900Gはするでゲロ。金を払うにしてもその大きさの石は滅多に店には置いていないでゲロ」


 確かに町の宝石屋を回っても剣に付けるほどの石はなかった。だが、手がかりはあった。おそらく、クロードがセリアの治療費のために外して売った石が宝石屋を介して、町に住むある貴族の元に渡ったことが判明したのだ。

 

 右京はネイを連れて、その貴族の屋敷に行く。貴族の名前はアーウィン子爵。まだ30代の青年で、町の中心に屋敷を構えて優雅な暮らしをしている。右京たちが行くと意外にも気さくに会ってくれた。暇潰しになると思ったのであろう。


 アーウィン子爵は、金髪の縮れ毛に端正な青い目の顔立ち。典型的なヨーロッパの王子様って感じの風貌だ。その王子様は、通された応接間で興味津々と右京の話を聞いている。


「なるほど。それは実に興味深い話だ。この石にそんなドラマがあるとはね」


 アーウィン子爵は王子顔だが、話し方に威厳がなく、軽薄そうな印象が強い男だ。金に不自由しないから遊び惚けているのであろう。常に何か楽しみがないか探しているのだ。


「その水眼石、売ってもらえないでしょうか」


 右京がアーウィン子爵が胸元に付けているブローチを指差した。アーウィンは買った石を加工してブローチにしていたのだ。


「ううん。困ったねえ。水眼石は高価ではないし、貴重なものでもない。惜しくはないが、このブローチは最近出来上がってね。一応、今のお気に入りなんだ」


「そこを何とか……。700Gでどうでしょうか」


「金ねえ……。このブローチ、加工賃を含めると3200Gはかかったからね」


「ゲロゲロ……この貴族、足元を見ているでゲロ」

(3200Gか……)


 足元を見ているとゲロ子は言ったが、子爵の持つブローチの見事さを思えば、その値段は適正だろう。それにこの貴族の青年は売って儲けようなどとは思ってはいまい。


 ネイの父親に剣を見せて記憶が戻ったとして、今の所有者である右京がこの剣を売るとなると、3200Gはかかり過ぎである。ボスワースの金属細工やカイルの修理代を考えると、剣の単価が上がってしまう。いくら吉兆の銘が入っていても、売れる価格は4000G前後じゃないと買う客がいないだろう。


「まあ、僕は金にはこだわっていないよ。金は十分あるからね」

「じゃあ、700Gで」


「金ではなくて、僕にエンターテイメントを提供して欲しい」

「エンターテイメントでゲロか?」


 アーウィン子爵が提案するには、この宝石を使ってあるゲームをしようというのだ。今晩、この宝石をアーウィンが身につけてこの部屋の中央に座っている。右京たちはどんな手を使ってでもよいから、アーウィンからこのブローチを奪ったら右京の勝ち。宝石はただで譲る。太陽が昇るまでに奪えなかったら子爵の勝ちというのだ。


「もちろん、屋敷は厳重警戒態勢だ。警備兵を30人配置する。これを突破して見事、奪うことができたら宝石は格安で売ってやるよ。エンターテイメントだと思うのだ」


 お互い武器の使用は禁止。警備兵に捕まったら終わりである。まるで鬼ごっこである。実にくだらないと右京は思ったが、宝石を手に入れるには仕方がない。


「ネイ、やるしかない。お前、冒険者ギルドでシーフ仲間を呼んで来い。臨時に雇って、このイベントに参加させる」


「分かったのじゃ」

「集まったところで、今夜の襲撃に備えて作戦会議を行うぞ」


「主様、やる気が出てきたでゲロな」

「ああ。あのちょっと生意気な貴族様の鼻を折りたくなったのさ」


 右京とゲロ子、ネイの『ミッションインポッシブル』が始まる。


「ミッション何とかって、なんでゲロ?」


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― 新着の感想 ―
[一言] この邪妖精、女優の名前はすらすら出るくせに、映画のことはわからない素振りをしてくるとは。
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