14.考察感謝
隠しステータスと言うものを知っているだろうか。
その名の通りHPや攻撃力とは違い、目には見えない隠してあるステータスのことだ。
コレはVRゲームにはほとんど適応されている。
例えばスタミナ。
走ったりすれば現実と同様に疲れる。
例えば空腹値。
長時間何も食べなければ腹が減る。
そしてこのゲーム、BJOに関して〈マジシャン〉…と言うか魔法職は技を多用しすぎるとこの隠しステータスの一つを大幅に消費するらしい。
精神力、別の呼び方をすると集中力だ。
ではこの値が減るとどうなるのか。
…頭が痛くなる。
それだけ?と思うかもしれないが、この痛みはマジでやばい。
声を聞いたりするだけで鈍い痛みが頭を襲うのだ。
最後に〈テレポート〉を使って町に戻ったのがきっかけでこの痛みが出始め、そこから我慢しながら宿まで戻ってきたのだ。
うぐ…痛すぎる。
何か買いに行って食べたら寝よう。
精神力は休めば回復するから、寝るにこしたことはない。
そう考えて正座から立ち上がろうとしたとき俺の前で椅子に座っているマリナから声がかけられた。
「マサ、どこいくんですか?」
涙目でほっぺたをぷくーっと膨らませて震えた声でそう言うマリナを見た後、俺はおとなしく正座をし直した。
そして沈黙。
かれこれこんな状況が30分以上続いている。
(あれ?俺、怒らせるよなことしたっけ!?ていうか頭が痛すぎる!!)
怒ってる相手に「俺なんかした?」とか聞くのはさらに怒らせる原因だというくらいは対人スキルLv1の俺でもわかる。
だから俺は特に何も言うことができず、頭痛を我慢しながらマリナを見ていた。
やべっ、足がしびれてきた。
こんなところまで再現してるのか、凄いなBJOは。
なんでこんなことになってるんだよ…。
何度考えてもその原因は思い浮かばない。
実際あの後俺はすぐに宿に帰ってきたのだ。
そしたらマリナが椅子に座ってて、声をかけようとしたら「マサ、正座です!絶対です!」とだけ言われたのだ。
そこからさらに10分くらい経った頃だろうか。
マリナがその口を開いた。
「マサ、私が何で怒ってるかわかりますか?」
(わかりません!)
という本心は口に出さない。
「なんとなくは……」
この怒ってても可愛い状態からさらに上の状態へシフトしたときに、もうどうなるか想像もつかないから怒らせないように、と思いそう答えた。
「じゃあ言ってみてください」
その返しは予想外でした。
「やっぱりわからないや!ゴメンね(テヘペロ)」とでも言おうものならひどいことになるのは目に見えている。
考えろ、俺!
今日の目的は何だった?
狩りに行く……そうだ、マリナのLv上げだったはずだ!
と言うことは…
「マリナのLv上げが目的だったのに俺のLvが10上がったから?」
宿に戻る途中ステータスを見たらLv21になっていたのだ。
ボスモンスターは経験値大量だな、とか頭痛いしAP割り振りは今度でいいか、とか思っていたのはつい先ほどの記憶だ。
「私のLvも5上がったので満足してます。でもマサよりLvが低い私が5しか上がってないのになんでマサは10も上がってるんですか?」
なんでそんなことを聞くのだろう。
そんなのは決まってるじゃないか。
「〈シルバーウルフ〉と〈ウルフ〉を全部倒したからだけど…」
あたり200mの敵をまとめて、だが。
ピキッ、という音がマリナから聞こえた気がした。
「そこまでわかってて私が怒ってる理由がわからないんですか?」
声を震わせながらそう言うマリナ。
つまりボス関連のことで怒ってるということか。
…あっ、そうか……なんで俺はこんな簡単なことに気づかなかったんだ…。
「マリナ、ごめん。マリナが怒ってる理由わかったよ」
コレは俺でも怒ると思う。
マリナは遅いながらも気づいた俺に少し怒りをおさめたようだ。
「本当ですよ。マサは気づくのが遅すぎます」
「ああ、そうだよな。考えればすぐわかることだったんだ。マリナが怒ってる理由は―――せっかく敵を引き付けたのに経験値を全部俺が持って行っちゃったからだろ?」
そう俺が言った瞬間にマリナの怒りは再燃し、頭痛、空腹の状態で1時間程年下の相手に注意を受けることになった。
◇ ◇ ◇
どうやらマリナは「マサもすぐに(町に)戻ってください」と言う言葉を無視してボスに単独で挑んだ俺に怒っていたらしい。
それから使ったスキルの説明を求められ、〈魔法との取引〉のコスト、痛覚増大のことについてさらに怒られた。
ショック死したらどうするのか。
記憶がドロップしたらどうするつもりだったのか。
万が一ほかのプレイヤーがいて〈闇の雷〉に巻き込まれてさらに俺の悪評がたったらどうするのか。
最後には泣きながら、
「もう無茶はしないでください」
と言われた。
俺にとってはものすごく久しぶりにできた仲間。
そんな仲間からこんな頼まれ方をしたら、それを無下にするわけにもいかない。
できるだけ無茶をしないようにしよう、できるだけ。
説教が終わった後には外はもうすっかり暗くなっていて、マリナが買っておいてくれていたご飯を食べたらもう寝る時間になっていた。
お互い昨日と同じ場所で寝ていると、マリナが言った。
「さっきはごめんなさい。体調悪そうだったのに…。それでも私、心配だったんです。………だから、マサ、私頑張りますね」
いきなり言われて何のことだか分らなかった。
もしかしたら独り言だったのかもしれない。
そしてマリナのこの言葉はまだ続いていた。
「マサの隣にいられるように…」
Lvとかのことを言っているのだろう。
だがそんなのは関係ない。
「俺はマリナにずっと隣にいてほしいと思ってるよ」
マリナと一緒にいる時の感覚は…なんかこう、凌と一緒にいた時の感覚に似ているのだ。
親友、そんな言葉が頭の中に浮かんだ。
「出会ってからの時間だなんて関係ないよ。俺はマリナのことをただの友達以上の人だと思ってるよ」
たとえ出会ってから1週間と経っていなくても、
一緒に笑えて、
言いたいことを言えて、
相手のことを心配できて、
怒ることもできる。
それはもう立派な親友だと俺は覆う。
こんな感覚を思い出させてくれたのもマリナだ。
感謝してもしきれないと思っている。
「マリナ?」
反応がなくなった。
やっぱり独り言だったのだろうか。
独り言に答えられたらそれはまあ、結構気まずい感じになる。
その割にはマリナの布団の中がバタバタいっているんだけど…。
「大丈夫か?」
どこか打ったのかと思った俺はマリナにそう聞いた。
「だ…大丈夫ですッ!私もう寝ますね、おやすみなさい!」
やけに高いテンションでそう返ってきた。
(でも、マリナも同じように思っていてくれたらうれしいよな)
そんなことを思いながら俺は眠りについた。
昨日もそうだったが、現実世界よりも楽に眠ることができた。




