最終話
木の実と大騒ぎ
外に出たリザたちは木に登り、話しながら実をもぎ取っていた。実はかなり大きい。
「どうして、三十個いるんだろう?」
実を取りながらリザが言った。
「いや、三十個以上だよー。いっぱいだねー。……あれ?」
「何?」
「誰か来るよ?」
ライズの耳は誰かの足音を捉えていた。草の中を歩いてくるから余計にガサガサと聞こえるのだろう。
「誰かー?」
「お前らは校長派か、副校長派か?」
知らない誰かが下から怒鳴っていた。
「どうしよう?」
と、リザが聞いた。
「倒しておけばー?」
「うん」
ひそひそとそんなやりとりとがライズとリザの間で行われていた。
「どっちだ?」
と再び、聞いた瞬間にリザに飛びけりをくらって倒れてしまった。どうやら、仲間は攻撃してはならないという、プログラムでもされていたのだろう、確認するまで、手が出せなかったのが幸いしたようだ。
「ねーそれは人ー?」
まだ、木の上にいたライズが聞いた。
「んー、違うよ。ロボットみたい」
「あーじゃー、チップ抜いておこう」
スルスルとライズが木から降りてきた。
「チップ?」
「うん、それを抜いておくと動かないんだ。よっと」
ライズは首より下のほうをあけて、チップを取り出した。
「普通のロボットたちのはこんな取りやすいところにはないんだけどー、これはー戦闘用だからね。すぐに直せるところにあるんだー」
「チップって何?」
リザが聞く。
「後で説明してあげるから、先に三十個とっちゃおうよ」
「うん」
元気よく返事をしたリザたちにもものすごい音量の爆発音が聞こえてきた。
「ミレたちかなー」
「そうだよ、きっと」
かなりの大きな音にビクビクしつつ、ライズとリザはもくもくと木の実を集めて戻った。
「もってきたー」
ドンッというかごの音からかなりたくさん入っているといえそうだ。
「ありがとう、そこにおいてくれ」
と、リードが言った。何かを作るのに、あれこれ量って混ぜていて忙しそうだ。
「んーとねー、三十五個でいい?」
「いいよ、十分だ」
「姉さんたちは?」
と、リザが聞くのと同時くらいに二人は戻ってきた。走ってきたようで、息を切らしている。しかし、いきなり帰って来てすぐにセンリが言った。
「ちょっと、聞いてくれよ。ミレはなんだ?」
「なんだ、ってー、なんだー?何が?」
「俺の方がモデルガン使って、しかも狙いを定めるための部分までついているのに、ミレの方が狙いが正確なんだけど」
と、センリは興奮が冷めないかのように言った。
「あーそれは多分ねー、鳥のせいー」
と、ライズが言い出した。
「鳥?」
「私たちの住むファルト地方では食べるぶんだけ鳥を捕まえていいの。飼っているのは飛べない鳥ね」
「だから?」
「つまり、飛んでいる鳥を打ち落とすだけの技術を持っているんだよ」
リードは木の実を慎重に、なにやらブクブクしている容器に入った液体に、どんどん追加しながら会話に加わっていた。
「さすがに爆弾ではやらないけどね。食べられなくなっちゃう。リザもやるのよ」
「ミレお姉ちゃんのほうがうまいけどね」
「リード兄さん、これ、まぶしすぎ」
と、ミレは閃光爆弾の方に文句を言った。
「ああ、確かに。音もかなりするし、……あと、怪我はしてないけど、爆風でガラスがあっちこっち、結構、割れたぞ。少なくともかなりの人数が遠くに向かったな」
「聞こえてたよーすごかったねー音もー煙も」
とライズが言った。
「顔が真っ黒ーねぇ……。大丈夫?」
と、リザが心配そうに言った。
「ああ、これは向こうの黒煙がついただけよ、怪我はしてないわ」
と、ミレは安心させるように言った。
「それならいいけどー」
「もう木の実は取ってきたの?」
「うん。ついさっき、戻ったのー」
リードはなにやら、緑色をしたものの中に実をゆっくり入れていた。木の実は溶けてしまった。あとかたもなくなり、それが三十二個まで来た時、緑だった液が透明になった。
「よし、できた」
「リード兄さん、それはなに?」
リードはそれには答えず、ディブル氏に聞いた。
「先生方の寮にいけます?」
「見つからないで?えーと……あー。いけるよー」
ディブル氏はしばらく考えてから言った。
「え?行けるんですか?何でまた……」
「んー。じいさんの趣味」
やっぱり、全員が黙った。
「行きましょう」
リードはその液体とスポイトを持って先生達の寮へとに向かった。全員がそれに続いた。
寮では確かに、たくさんの先生方が、カプセルに入れられていたままに、そこにおかれていた。最初の先生のカプセルには埃さえ見られた。
リードはそのカプセルの一つを開き、口の中にその液体をスポイトで入れた。
すると動き出したのだ。
視点がやっと合ってきたのか、眼の前の人物の名前を言った。
「リード君……」
「おひさしぶりです、マーシャル先生」
リードがにっこり笑った。珍しく!
「マーシャル先生―……」
「ライズ君……私は止まっていたのね?」
と、マーシャルはあたりを見渡して言った。先に止まってしまった先生方を見てきたせいか、すぐに自分の状況を理解したようだった。
「ええ。待ってください、他の先生方も起こしますから」
リードは次々とカプセルを開けていった。その姿を見て、ミレは言った。
「リード兄さん、それはもしかして、エーアイキラーのワクチン?」
「ワクチン?お前、作り方知っていたのか?」
目を大きくしてセンリが言った。
「知っていたら、もっと早くに作っているよ。ミレのペンダントにあったんだ」
ミレが驚いたようにペンダントを出して、再び、見つめた。
「これのどこに?」
「光りにあてて、壁に反射してみろ」
言うとおりに光に反射してみたが、上下逆さまに映っているようで、全員の顔がかしげた。
「逆さまに映っているだけじゃないぞ。そのあとで、鏡に映すんだ」
次々にワクチンで先生方を起こしながら、リードは説明した。
「いつわかったの?」
と、びっくりした顔のままでミレが聞いた。
「ルイのうちで見せてもらった時に、ミレの顔に反射したんだ。ミレはまぶしいといって目をつぶったがその顔に何か浮かんでいるのをみて、ミレがリザを起こしにいている間に壁に当てて、解読したんだ」
「さすがだな……」
センリも呆然としていた。
「さて、これからはディブル氏のショータイムですよ」
「ショータイム?」
全員がきょとんとした顔をした。目が覚めたというのか、止まっていた先生方も起きて、きょとんとした顔をしていた。
ショータイム
それから一時間もした頃だろうか、放送用の回線を借用したセンリの声が校内に響いた。あくまでも借用だとセンリは言い張るだろう。たとえ、これから壊れるとしても。
「これから、ショータイムの始まりです。全員校庭に非難してください。爆破します。壊しますよー。けがしないようにしてくださいねー。まず、被害の少ないところからいっきまーす」
ドッカーン
本当に教室が二つ一気に爆破された。
「次は科学教室いっきまーす。逃げないと、危ないですよー」
ドッカーン
声で場所を説明しているのはセンリだったが、その横では目をきらきらさせたディブル氏が、遠隔操作で爆破させていた。
「調理室、いきまーす」
ドッカーン
「理科室行きまーす」
ドッカーン ドッカーン ドッカーン
壊す場所はディブル氏の持っていた設計図によって把握されていた。なので、仕掛ける場所は決まっている。安全なところに非難してから、マイクの線だけを利用し、しゃべっていた。
もちろん、壊されてはならないようなものは先に、倉庫からロボットの先生達によって壊さないと決めた寮の方に運び出されていた。ディブル氏も研究材料な物は全て運んでから爆破に携わっていた。
次々と壊されていく中、全員が広い校庭に集まった。もともと、人数が少なかったのがよかったのか、けが人はほとんど出なかった。そして、学校は寮の部分だけを残し、他の校舎の部分は跡形もなくきれいに崩れ落ちた。
その様子をみた、校長はひざまずき、うなだれた。一方、副校長のほうは喜んだものの、煙の向こう側からロボットの先生方がぞろぞろとやってくるのをみて、やっぱり、愕然とした顔をした。
リードは二人に向かって言った。
「いいですか?私たちの人生は私たちのものです。あなたがたの思想にあわせて生きているのではありません。ところで、校長」
「……なんだろうか?」
と、学校がなくなってうつろな目をしたまま、力なく校長が答えた。
「賢い人を育てたいのであれば、学校ではなく、巨大な塾でもいいのではありませんか?」
「塾……」
「ええ。こんなに専門の道に優れたロボットたちがいるのです。専門学校でもいいのではないんですか?」
「しかし……」
「そして、優秀な人はこの学校でも優秀でしょうし」
「……うむ……」
「副校長は学校を作り直せばいいんですよ。普通の学校として」
「……しかし……こんなに壊れてしまっては……直すのも大変だ」
と、くずれた校舎を見てコフィ氏は嘆くように言った。
「それならーディブル氏が直してくれるよー」
やってきたディブル氏も言った。
「ええ。他にも建築の生徒もいますし。これの学校は私のひいじいさんの作品です。私が作り変えることに文句などないでしょうし。設計図も権利の私の元にあります。生徒の実習をかねて作ることは、いつからでもとりかかれますよ」
「壊したの、あの人なのにね」
リザが言った。
「しっ。それは言っちゃダメ」
慌てて、ミレがたしなめた。
そして、リードの予想通り、国が動き出した。しかし、国のメンバーが来るまでにはかなりの時間がかかった。そして、国のメンバーがきた時にはもう、校長は新しい土地に塾を作ることにし、副校長は校長となって再び学校を作り始めていた。
他にリードたちが作ったエーアイキラーのワクチンは大量生産が大統領の決定により発動した。なにか賞をくれると言っていたが、誰もがそれを断った。その代わりに、リードたちがワクチンを作ったということも公表されないように頼んだ。
首相のエントと国際化特殊部門のリオマーレはエーアイキラーの現況とされ、失脚になった。現在は国で裁判の順番待ちだ。おそらく、海底地方のダボ地方にある刑務所に送られるだろう。彼らはここから出られることはないだろう。
副校長のコフィ・ティーフィールドは反ロボット軍の幹部ではあった。しかし、一番下で何も知らされていなかったとして、無罪にまではならなかったが、裁判の必要はなしとされた。
止まっていた先生方も塾と学校を両立することにして、なんとか混乱は収まり始めた。事態の収拾に、三日間いるうちに、生徒達も寮へと戻り始めていた。
帰宅
そして、ミレとリザはファルト地方の家に戻ってきた。もちろん、まだバスが復旧には至らなかったために歩いて帰ってきた。残りの三人は学校と塾の再建を手伝うとシェーマン地方に残った。
「よっと」
ミレは家を覆っていたシェルターをはずした。全部、シェルターが納まる前にリザは家の中に入っていった。母親の元へ走って行き、薬のワクチンを口から入れて動かした。ワクチンを少し早めに分けてもらってきたのだった。
「リザ……ミレ……私、どうしたの?」
ほんやりしたように母親が言い出した。動き出したのだ。
「あのねー……」
と、リザがうれしそうに話しかけた時、ミレが言った。
「私、他のところも回ってくる。話していて」
ミレはロボットのいる家々を巡り、彼らを動かした。村は賑わいを取り戻し、活気が次第に戻り、夫婦仲がよくなったところが増えた。
そして三日たった。
バスも動くようになり、パソコンやメールも動くようになった。壊れた、簡単な機械の分野から壊れるよりかは速いスピードで復旧しているようだ。
すると、その日の夕方。
「ミレー」
外から、聞きなれた声が聞こえてきた。ミレが出て行くと車から降りたライズが手を振っている。
「ライズ兄さん、どうしたの?」
「ふふー、いい人、連れてきたよー」
ライズが振り返ると車から男性が出てきた。
「いい人?……父さん!」
その声を聞きつけたリザと母親も出てきた。
「父さん!」
「あなた!」
「どこでみつけてきたの?」
二人はひしっと抱き合った。その様子をみて、ミレは笑いながらライズに聞いた。
「ライト・エーアイ軍がー保護していたみたいだよ。反ロボット軍につかまらない様にー。ほら、もう国が乗り出しているしー、ディー五タイプも改良されてー、人のためのロボットにー作り直されることが決定したしー、ディー四もそうなる予定だしー、両軍の縮小も決まったしねー」
「そう。よかったわ」
「ほら、アルクが言っていたこと、覚えている?親戚が見つかったら保護するって話。あのときにはもう保護されていたのだけど、身元がまだわかってなかったみたいで。そのあと、ミレのお父さんで、ミレがオレと三つ子だって判明して、オレのところに来たの」
「詳しい話は家でしよう」
と、ラファンは微笑んだ。
そして、全員で机についた。
「ひさしぶりの木だ」
と、触りながらラファンは微笑んだ。
「で?」
ミレは催促した。
「あれは……手紙をもらったんだ。まだ、バスが動いていたときのことで、随分、前の話だ。ジェディンからで、エーアイキラーができたというんだ。そして、何かあると思ったんだろう。裏切られて時のためにと治療法の作り方を僕にだけ教えてくれたんだ。そして、母さんが止まった。だから、こっそりと治そうと思ったんだ。が、ここには作れるだけの材料が足りなくってね。それをとりに行く途中でつかまってしまったんだ。だが、ライト軍のほうが正しいかなんてその時にはわからないもんだろう?そのうちにライト軍はディー五タイプのロボットを創り出したんだ。それが、ジェディンが書いた設計図だと判明した。そして、ディー五タイプの情報を反ロボット軍に流していたのも、ジェディンだったようだ」
「なんのために?」
「子供が行方不明で、両方の軍を壊そうとしたみたいだよ。両方で叩き合うのが早いと思ったみたいだね。彼は、今も行方不明中だ」
「あのペンダントは?」
「あれはライト軍の目を盗んで出したものだ。もともと治療薬は自分で作る予定だったから、式は自分でペンダントに掘って入れておいたんだ。出したのはいいが、届くかもわからならなかったし、ライト軍にスパイがいて、それが反ロボット軍にまで伝わっているとは思わなかったんだよ。ただ、逃げろと言われたら兄たちを頼ると思ったんだ。ライズはよく、うちに来ていたし。時間もなかったしね。危険だったかい?」
「危険なことなんてあった?」
リザが言った。
「なかったわ」
ミレは平然と言い切った。さらりとこう言うところはリードと似ているのかも知れない。
「それでねーミレー、オレをここに置いてー」
ライズが急に言い出した。そういえば、なにやらでかい荷物を持って来ている。
「兄さんを?どうして?」
「スーハーの森の研究調査をするんだ。生物は本物みないとねー。磁石の変わりにリザも必要だし。帰ってこられなくなっちゃう」
「母さん……」
「あら、私は構わないわよ。命の恩人ですものね」
母親のメルは微笑んだ。
「オレは四年で卒業してー、植物関係の調査やるけど、リード兄さんはー、大学院へ行ってー、レファンド病の研究を大学でするってー。センリも手伝っているよー」
「そう。……そう、兄さんならなんでもできるわよね」
「……誰?」
ライズを見つめて、リザは聞いた。
一年後、エーアイキラーの全滅が大統領によって宣言された。そして、すぐに新しい首相も決まった。
三年後、レファンド病を治す、治療法が発見される。
五年後、スーハーの森はまだ、調査が終わらないでいる。
そして、地方に散らばったディー五の回収もまだ終わっていないようだった。
ついでに、反ロボット軍の部下だった四名がだいぶ遠い地方で発見された……。しかし、彼らが出てきて、世の中がわかってみれば、直属の上司は捕まって国に連行されていて、軍の縮小が決まり、職を完全に失っている状態にあった。
そんな彼らの一人は調理人になった。魚や木の実やいろいろなものを調理してきて、技が身に付いたようだ。
もう一人はキノコや魚の調査関係の専門家になり論文を書いた。
一人は逆に生涯、魚を食べなくなり、牧草の職業へとうつった。
もう一人は森での生活に慣れすぎて発見され、生存確認されたものの、森に戻ってしまったそうだ。
(了)




