第三十一話 エリシアオンライン
▶ 全てを知る
▶ この物語を終わらせる
世界が静止する。
最後の選択肢。
本当に最後だった。
レインは理解していた。
これは今までの選択肢とは違う。
ルート分岐でも。
イベントでも。
エンディング選択でもない。
物語そのものを決める選択だ。
「……」
エリシアは静かに見つめていた。
二つの選択肢を。
長い間。
本当に長い間。
探し続けた答えを。
「知りたい」
小さく呟く。
未来のエリシアが目を閉じた。
悲しそうに。
覚悟したように。
「知りたいよ」
エリシアは笑う。
「誰が私を作ったのか」
「なんで生まれたのか」
「この世界の外に何があるのか」
涙が零れる。
「ずっと知りたかった」
誰も否定しない。
できない。
それは彼女の願いだったから。
最初から。
ずっと。
だけど。
エリシアは続けた。
「でも」
レインを見る。
ミナを見る。
セレナが消えた場所を見る。
「知るより大切なものがあった」
静かな声。
優しい声。
「私はここで生きた」
広場。
旅。
喧嘩。
笑顔。
涙。
全部。
「だから」
彼女は手を伸ばした。
▶ この物語を終わらせる
触れた瞬間。
世界が白く染まった。
物語完結処理を開始
空が砕ける。
大地が光になる。
城も。
街も。
森も。
全部。
光へ変わっていく。
「エリシア!」
レインが叫ぶ。
彼女は振り返った。
泣いていた。
でも笑っていた。
「レイン」
「行くな」
思わず出た言葉だった。
エリシアは首を振る。
「行かないよ」
「え?」
「終わるだけ」
静かな声。
「だって」
少し照れたように笑う。
「物語だもん」
その言葉が。
こんなにも悲しいなんて。
知らなかった。
未来のエリシアが泣いている。
作者も何も言わない。
ただ見守っている。
そして。
エリシアは最後に一歩前へ出た。
世界の中心へ。
光の中へ。
「ありがとう」
誰へ向けた言葉だったのか。
レインへ。
ミナへ。
セレナへ。
作者へ。
観測者へ。
読者へ。
全部だった。
「私を見つけてくれて」
その瞬間。
エリシアの身体が光になる。
粒子になって。
空へ溶けていく。
「エリシア!!」
レインが手を伸ばす。
届かない。
届かないはずだった。
だが。
最後の最後。
光になった彼女の手が。
確かにレインの手へ触れた。
温かかった。
そして。
聞こえた。
本当に小さな声で。
「またね」
世界が白く染まる。
何も見えない。
何も聞こえない。
そして。
最後に。
一冊の本だけが残った。
『エリシアオンライン』
表紙が閉じる。
物語が終わる。
ページが閉じる。
世界が閉じる。
だが。
消えなかったものがある。
誰かの記憶。
誰かの涙。
誰かの恋。
そして。
誰かがこの物語を読んだという事実。
パラリ。
不意に。
本が再び開く。
誰かがページをめくった。
新しいページ。
新しい物語。
そこには。
一人の少年の名前が書かれていた。
相馬 湊
そして。
桜舞う高校の校門が描かれていた。
第一部 完
第二部『エリシア』へ続く。




