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10.私の知識のルーツ

「ごっ、ごえす?



………聞いたことがない言葉だな」


私がまじめな顔で話し始めたのですごく真剣に聞いてくださいました。そのせいか私の言葉を聞いた後は拍子抜けしたような表情をされています。

まぁ、いきなりこんな訳がわからない話をされても困りますよね…


「5Sとは何か…を話す前にまず話さなければならない話しもございまして…

今聞いていただいてもよろしいですか?」


頷いていただけたので話し始めます。


「まず、転生者と呼ばれる方達が稀に産まれることがあるのはご存じですよね?」


「あぁ、たしか1つ前に生きた人生の記憶があるという者達のことだな。最近だと王太子殿下の婚約者の公爵令嬢がそうだと聞いたことがある。


………ということは君も?」


「いえ、私は違います。違うのですが、私の祖母がどうやら転生者だったらしいのです」


「ほぅ。だがそれでは…」


少し眉間にしわを寄せて何かを考えるエドワード様にこのまま話すのは忍びないですが全て隠さずに伝えておかなくては。


「もちろん前世の記憶がある者は王宮に知らせなければならないということは存じております。私も直接聞いたのではなく、あくまでも祖母が残した手記から知ったことなのです。


その、祖母が前世の記憶を思い出したのは死ぬ1ケ月前位でベッドから起き上がれなくなった頃のことのようでして」


「………」


「祖母の思い出した記憶の中に5Sという知識があったそうです。これは整理整頓清掃…といった片付けのやり方?の考え方のことで、この国に大きな利益を生み出すようなものではないと祖母は判断したようです。


自分はしがない事務員だった…とあり、今でいう商会の帳簿をまとめたりする専門の従業員らしいのです。

そんな大した知識もなくもうじき今の生が終わろうとしている自分が今更名乗りでるほどではないと考えたようです」


私の話を聞いて思案されている様子。宰相という立場のエドワード様に報告義務をおろそかにしていた事実を伝えるのは勇気がいりますが、きっと分かってくださると思います。


氷の宰相とよばれる位に冷たいとも称されますが、こうして関わった今なら分かります。正しく厳しい方ではありますがそれ以上に優しく頼れる方だとも。


「祖母は転生者としてではなく、ただの侯爵家の当主婦人のまま生を終えたい…と。祖母の手記を見つけた私はその中にあった祖母の心の内を知り、ずっと誰にも話さずに隠してきました。


………申し訳ありません」


「…なぜ。


なぜ俺に話したんだ。宰相という立場にある俺に話せば罰せられるかもしれない。君が考えたことにしても良かっただろう?」


困惑したような少し怒っているかのようなお顔をされるエドワード様。


…あぁ。

私は間違えてしまったのかな、こんな表情をさせたかったわけじゃないのに。


おばあ様の気持ちを優先してといいように思いつつ隠すことにした私の罪を、エドワード様に隠し事はしたくないなんて立派な感情に見せかけて…




伝えられた側の立場や感情を考えずに、気楽に簡単なことのように話せば許してもらえる、助けてもらえる、なんて身勝手な感情で。


なんて私は最低なんでしょうか。泣かないようにしないと…これ以上迷惑をかけちゃいけない。


「領地でこの知識を元に父の手伝いをしたのも、エドワード様にお話ししたのも、もっとこうしたら楽になるのに、と知っているのにそれを隠すことができなかったからです。


手伝いたいという気持ち、知識を使ってみたい好奇心、自分の能力を見せたい欲求だったのではと思います。


だけど他人の功績を奪いたくない、祖母の気持ちを優先させなきゃいけないと思って隠してきて…


だけどどこかで後ろめたい気持ちがあったのかもしれません。私を評価してくださる周囲の人を裏切っているようで…


エドワード様なら私を受け止めてくれる、なんて甘い感情で軽く口にしました。ほっ、ほんとぅに、っ、もうしっわけ、ありませっ…」


言葉がつかえて涙で目がぼやけますが流してはいけません。エドワード様にこれ以上甘えるなんて…


あぁ、勝手に流れないで。こんな面倒くさい女嫌われてしまいます。




もう嫌われてしまったでしょうか。こんな浅ましい私がそばに居させてもらえる訳ないのに、初めてこんなに好きになった人なのに…


「ち、ちにも…話し、にいきま…ほんと、うにずっみま、せん」


泣き止もうと目をこすりながら席を立ち、ソファから離れようとした時でした。


「行かなくていい。ここにいなさい」


手を引かれ…


今、わたし、抱きしめられてる…?

目に溜まった分は残っていますが驚きで止まった涙。見上げるとエドワード様のお顔が…


「責めたような口調になってしまっていたな、すまない。俺は君の気持ちも考えずに事実だけで判断して考えていた。


泣かないでほしい、君に泣かれるとどうやら私は困るようだ」


手で優しく頭を胸に寄せてくれる。そしてその手がぎこちなく頭をなでる。


「俺を頼ってくれたんだな、ありがとう。こんな感情初めてでな…俺もどうしたらいいのか分からん。


これからのことは後で共に考えよう」


「おっ、おそば…に、いても…いいんですか?」


「居てくれないと困るな。君は俺の婚約者なのだから」


顔を見せてくれませんがいつもと違う声は笑ってる?まだ婚約者と言ってくれる?全部全部が嬉しい




………私は本当にこの人が大好きだ。


それからしばらく私は抱きしめてもらいながらさらに泣いた。エドワード様は困っていたようだがその間ずっと頭をなでてくれていた。






「落ち着いたか?」


「はい…ありがとうございます」


落ち着いたところで2人並びソファに座る。泣きはらした目を見せるのは恥ずかしいですがしっかりとエドワード様を見ます。


「まず、転生者の報告の件についてだが…このままでかまわんだろう。あくまでも報告義務は本人へのものではあるから、今回のような後から家族が知った場合は原則には違うといってもよいと思う。

本人が隠し通してしまっていれば元からなかった報告だ」


「よいのでしょうか…」


「解釈次第だな。どっちみち君が見つけなければその事実はなかったんだ。その知識を悪用していなければ俺はこのままでもよいと思っている」


「悪用…というつもりはありませんが、私はその知識の一旦を使ってしまっています…」


一度泣いたからか情緒が安定していないのかすごく不安になります。


「……全ての者が自分で考え出すのではないだろう?誰かの考えを直接だったり本などで間接的に学び、それをさらに昇華させていく。

君のその知識も同じと考えられないか?確かに他の者が知らない知識ではあるが、君も学んだことを生かしているだけだろう?」


「エドワード様…」


真剣な眼差しを見つめると、ざわつきそうになった心がやすらいでくるから不思議です。


「ようは知識も力も大事なのは使い方だ。正しく使えば正義にもなるし間違って使えば悪にもなる。

君はその知識で金を稼ごうとか誰かを陥れようとした訳ではなく助けようとしたんだろう?


罪だなんて言わないでくれ。

俺の反応で傷つけてしまって悪かったが、誇ってもよいと俺は単純にそう思うよ」


「はい……、はい!

私の知識でエドワード様を…たくさんの人の助けになりたいです!」


「あぁ、俺も協力しよう。俺はちょうどこの国の文官達のトップにいることだしな」


少しお茶目にそう言ってくれ、はにかんだような笑顔に胸がずきゅん!っと鳴りました。エドワード様の手を両手で包み、握りしめます。


「ありがとうございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします」





「…さて、そろそろ書類の整理?に行くか」


「はい」


手を握られ間近で見られるこの状況が耐えられなかったのか、パッと手をほどかれて立ち上がってしまわれました。少し残念な気持ちはありますが切り替えて頑張らないと!






その後は書類やテンプレートの説明をしながら2人で書類整理だけを進めました。私のやってきたことを聞いたエドワード様は先に全てを把握する方が効率的だと、私よりも素早く作業を進めてくれました。


そのおかげで今日だけであらかたの作業を終えることができ、帰宅時間は予定より遥かに遅くなってしまったのでダンには怒られるでしょう。今日の作業で~、これからは~、明日~、と尽きることなく話しながら帰宅しました。


帰ってからは案の定、ダンには2人そろって怒られ、ライラには目元の化粧から泣いたことがばれてしまいすごい形相でエドワード様が睨まれる、ということがありました。


庇う私と少し困ったように眉間にしわを寄せるエドワード様。だけど時折、私と目が合うと目元が優しく笑ってくださるようで…

そんな小さな変化が嬉しくて私は今までにない位に終始笑顔だったでしょう。


その後も、尽きることのない会話と共にゆっくりと食事をとりました。別れた後はお風呂を済ませ、寝る準備を終えたのでライラを連れてエドワード様の部屋をノックします。


「失礼します、入ってもよろしいでしょうか?」


中からダンが現れ部屋に入れてくれます。


「では旦那様、報告も終わりましたので私はこれで失礼いたします」


部屋を出ていくダンを見送りエドワード様を見ると何やら机で書き物をされています。


「まだお仕事をされているのですか?出直した方がよろしいでしょうか?」


私の問いにご本人が答える前にライラが口を開きます。


「いいえ、お嬢様もこれ以上起きていると明日に支障をきたしてしまいます。旦那様には早く寝てもらいましょう」


「ライラ………

はぁ、そうだな。私が無理に続けようとすれば君にも迷惑をかけてしまう。また今日も君の魔法を頼んでもよいか?」


「もちろんです。ではベッドで横になっていただき…




はい、ではいきますね」


魔法を発動してもエドワード様はすぐに寝てはいないようです。ここ数日は寝れるようになって隈も薄くなってきているので前よりも疲れは溜まっていないのでしょう。


「エドワード様、まだ起きてらっしゃいますか?」


「…ん。……眠くはあるが」


「前よりも睡眠がとれている証拠です。私はもう少し魔法をかけながら話しますが、お返事はしなくて結構です。ゆっくりと眠る方に意識を向けていてください」


「……あぁ、分かった…」


素直にお返事してくださるエドワード様の寝顔を見つめます。


「エドワード様…今日はありがとうございました。話しを聞いてもらえて、私の心はずっとずっと、軽くなりました。


これから先も貴方の傍にいれるように努力します。


貴方の隣に相応しい妻になれるように…


好きなんて言葉じゃ足りないくらい………、愛しています」


そっとおでこにキスをします。

最後の方は魔法を強めたのできっとばれていないはずです。後ろにいるライラからは小さく「あら」と聞こえましたが。


想いが溢れすぎてこんな行動をしてしまいましたが、明日からもっと頑張りましょう。私を受け入れてくれたこの方のために。


「おやすみなさい。


部屋に帰りましょうライラ。私も明日のために早く寝なくては!


………今のは内緒にしていてね」


「…かしこまりました」


ニコッといい笑顔をしたライラと共に部屋へと帰ったのでした。

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