百二十五話 久方ぶりの帰省①
あとがきに告知があります。
山を越え、海を渡り。
およそ三日三晩の旅を経て、ようやくアレンたちはその島にたどり着いた。
「とーちゃく、っと! いやー晴れてよかったねえ」
一番乗りで、エルーカが元気よく船から飛び降りる。
港にはいくつもの船が停泊していて、雲一つない青空には海鳥の鳴き声が響いていた。
そしてその港から島の中心部に向かってなだらかな傾斜ができており、色とりどりの建物が立ち並び、賑やかな街並みを形成する。
その街並みを超えた先にはひときわ巨大な黒い建造物がいくつもいくつも建っていて――見慣れた景色に、アレンはため息をこぼすしかない。
「まさかこんなに早く帰る羽目になるとはなあ……」
十八で教師職をクビになって出奔して以来、実に三年ぶりの帰省となる。
少々複雑な思いを噛みしめながら、シャーロットの手を引く。
「そら、シャーロット。足元に気を付けろ」
「は、はい」
シャーロットはおぼつかない足取りで船から降りた。
顔にはすこしだけ疲労の色が浮かんでいたが、慣れない船旅のせいばかりではないだろう。
島の景色を見渡して、ごくりと喉を鳴らしてみせる。
「ここがアレンさんたちの学校がある島……ひょっとして、丘の上に見えるあの黒い建物が学校ですか?」
「学校といえば学校か。あれは生徒用の寮だな」
「あ、あんなに大きな建物が寮……! やっぱりすごい学校なんですねえ」
「まあな」
アレンは港をぐるりと見回す。多くの人々が集まる中、アレンと同じような黒ローブ姿がちらほら見えた。他にも若者がやたらと多い。何しろこの島は――。
「何しろ、この島すべてがアテナ魔法学院だからな」
「へ……!?」
ここ、アテナ島は文字通りの学園都市だ。
島民の八割は生徒や教師といった学院関係者で、残りは観光客か商売人。
馬を丸一日走らせても回りきれないほど広い島内には、学園の施設や観光客向けの宿やら繁華街、教員たちの住う住宅街などが広がっている。
そう説明すると、シャーロットはすこし目を丸くしつつも首をかしげてみせた。
「学校がある島なのに、観光に来られる方がいらっしゃるんですか?」
「まあ、気候の良い離島だからな。人目を避けて羽を伸ばすにはちょうどいいんだろう」
「……人目を避ける、ですか」
そこでシャーロットはそっと辺りを見回した。
大勢で賑わう港の景色。その中に見知った誰かを探しながら、彼女はぽつりとこぼす。
「ナタリアも、そのためにこの島に来たんでしょうか……?」
「……さあな」
アレンはゆるくかぶりを振ることしかできなかった。
ルゥとゴウセツも船から降りてきて、小首をかしげてみせる。
『ナタリアって、おふねの中で教えてもらったママの妹だよね?』
『ですが、彼女は隣国にいらっしゃるはずでは?』
「その、はずなんですけど……」
シャーロットは固い面持ちでエルーカをうかがう。
するとエルーカはにっこり笑ってこともなげに言ってのけた。
「うん。ナタリアちゃんはここにいるよ。ほかの家族とか使用人もつけず、たったひとりでね」
「それは聞いたが……いい加減に細かい事情を説明してくれないか」
貴族の子女が供もつけず、たったひとりで他国の離島にやってくる。どう考えても複雑な事情のひとつやふたつ飛び出すことだろう。
だから道中エルーカには色々質問を投げかけてみたのだが『着いたら話す』の一点張りでまだほとんど何も聞けていない状態だった。
エルーカは苦笑して肩をすくめてみせる。
「ま、ちょっと込み入った話になるから実際に見てもらった方が早いかと思ってねー。詳しくは家で話すよ」
「ちっ……やっぱりそうなるのか」
「お家、ですか?」
アレンはあからさまに顔をしかめて肩を落とす。
その隣でシャーロットは最初きょとんとしていたが、すぐにハッとして声を上げる。
「まさか……アレンさんとエルーカさんのご実家ですか!?」
「うん。パパとママが待ってるよー」
「あわわ、ご、ご挨拶しないと。で、でも」
「いやーシャーロットちゃんなら大丈夫だって。むしろおにいのが気まずいと思うし」
「あ、アレンさんがですか……?」
「そーそー」
不思議そうに首をかしげるシャーロットに、エルーカは悪戯っぽくくすくすと笑う。
「おにいが三年前に、うちの学校をクビになったって話は聞いてるよね?」
「は、はい。それで旅に出たんですよね?」
「うん。でもそれは正しく言うと……うちのパパと大喧嘩して、家を飛び出したからが正解なんだよ」
「大喧嘩!?」
①
コミカライズ&原作発売日決定のお知らせです!
コミックPASH!様にてコミカライズ一話が3/26(木)より開始予定で、原作小説一巻が3/27(金)に発売されることとなりました。
応援してくださった皆様のおかげです。ページ下記や活動報告に詳細を記載しますので、よろしければお確かめください。
②
今後は週一更新で、発売日前後には毎日更新できるよう書き溜めておきます。お楽しみいただければ幸いです。
③
懲りずに新連載を始めてみました。百合に挟まりたくない現代ラブコメで、ストックが三十本くらいあるのでのんびり投稿していきます。お暇潰しにどうぞ。





