百十九話 人気者の優雅な休日①
人気投票結果発表(2019/10/04〜2019/11/03まで)
総投票数352票
一位・アレン(131票)
二位・シャーロット(95票)
三位・ミアハ(44票)
四位・ゴウセツ(31票)
五位・ルゥ(24票)
六位・エルーカ(12票)
七位・ナタリア(4票)
八位・ユノハリゾーツ人魚のコンシェルジュ(1票)
番外……ふか田さめたろう(10票)
数多くのご投票、まことにありがとうございました!
そういうわけで一位・アレンの番外編の始まりです。
その日、アレンの屋敷は朝から少しばたついていた。
とはいえ家主にとってはまったりとした朝でもあった。リビングで新聞を広げていたところに、支度の終わったシャーロットがやってくる。
「シャーロット、忘れ物はないな?」
「は、はい。ばっちりです」
アレンの問いかけに、シャーロットは真面目な顔でうなずいてみせる。
今日もいつものお出かけスタイルだ。青い髪飾りにワンピース、カゴのバッグ。
つい先日アレンとデートした時と同じ格好だが……残念ながら、今日のエスコートは別の者が務めることになっていた。
「申し訳ございません、シャーロット殿」
そこで彼女の背後からやってくるのはゴウセツだ。いつもの『のほほん』とした地獄カピバラの姿ではなく、絶世の美女に化けている。
身にまとうのはシンプルな衣服だが、抜群のプロポーションと美貌のせいでどんなパーティに現れても衆目を集めそうなオーラをまとっている。
ゴウセツは整った顔立ちを苦渋に歪め、シャーロットに深々と頭を下げてみせた。
「儂のためにシャーロット殿の貴重な時間を使っていただくことになろうとは……なんとお詫びしていいやら分かりませぬ」
「そ、そんなことありませんよ。私もパンケーキ、すっごく楽しみです!」
「女性グループ限定、超特大パンケーキだもんなあ……」
カラフルなチラシを広げて、アレンは呻くしかない。
どうやら街で人気のカフェが限定メニューを売り出し中らしい。
チラシにはクリームと果物、プリンにマカロンといったトッピングが山と積み上げられたパンケーキのイラストが描かれている。女性グループだけが注文できるメニューのようで、ゴウセツはこれを食べに行くためにシャーロットを誘ったのだ。
そして、女性グループ限定なのでアレンは留守番となる。
(まあうん……さすがの俺もこれは付き合えないしな……)
イラストを見るだけでも胸焼けしそうなのに、実際に目の当たりにしたらぶっ倒れてしまいそうだ。元々あまり甘いものは得意ではない。
げんなりしているアレンをよそに、シャーロットはゴウセツの姿を改めて見て、目を瞬かせる。
「それにしても……ゴウセツさんって、人の姿になれたんですね。びっくりしました」
「ああ、シャーロット殿にご覧いただくのは初めてでしたな? いかがでしょうか、変化は多少自信がございまして」
「すっごく素敵です!」
胸を張るゴウセツに、シャーロットは目をキラキラさせて歓声を上げる。そうして少し照れたように、はにかんでみせた。
「それに私、お姉ちゃんとかお兄ちゃんっていうのに少し憧れていて……こんな素敵なお姉さんと一緒にお出かけできるの、とっても嬉しいです」
「シャーロット殿……」
ゴウセツは胸を打たれたように息を飲んで……そっとシャーロットての手を取って、にこやかに告げる。
「もし差し支えなければ、儂のことを姉と呼んでいただいても構わないのですよ。さすればこのゴウセツ。可愛い妹のため、この世界を掌握して捧げることすら厭いませぬ」
「い、いえ……間に合ってます……」
「おまえはいい加減に懲りろよ」
アレンはジト目を向けるしかない。九割冗談だとわかるので、ひとまず睨むだけで勘弁しておいた。残りの一割本気なので要注意ではあるものの。
そんな話をしているうちに、朝ごはんを食べていたルゥもシャーロットにすり寄ってくる。
『ママ、ルゥもお出かけじゅんびできたよ! 早くいこ!』
「ふふ。ルゥちゃんもお出かけが楽しみなんですね」
『おいしいもの食べるんでしょ? ルゥ、お肉も好きだけど、あまいものも好きだもん』
「あの店はパンケーキだけでなく、ケーキもタピオカミルクティーも美味らしいですぞ。三人でシェアしましょう」
「シェア! 素敵な響きです!」
きゃっきゃと盛り上がる、ひとりと二匹だ。わりと不思議な取り合わせではあるものの……アレンはもう慣れてしまった。
ソファーに腰を落として、シャーロットに笑いかける。
「まあ楽しんでくるといい。何かあったら呼べ。すぐに駆けつけるからな」
「はい。アレンさんは今日はお休みですか?」
「そんなところだ。せいぜいゆっくりさせてもらう」
「それじゃあ……行ってきます!」
「うむ、シャーロット殿の護衛はお任せくだされ」
『おみやげ買ってきてやるから、いいこにしてるんだよー』
そうしてぞろぞろと女性陣が出立した。
途端に屋敷はしんとした静けさに包まれる。とはいえ完全な無音というわけでもなく、外に広がる森からは小鳥のさえずりや木の葉の擦れる音が響き、心地よいメロディーを奏でていた。
ひとり残されたアレンは、ソファーにかけたまま大きく伸びをする。
「さて、と……とりあえず魔法論文でも読むか」
最近バタバタしていたものだから、ずいぶん数が溜まってしまっていた。
側のローテーブルに積み上げた紙の束を一つ取り上げて、ぱらりとめくる。チェックを入れるための赤ペンも握って準備は万端だ。早速、アレンは論文の文章にのめりこんで――――いけなかった。
「………………?」
いくら読み進めても、内容がちっとも頭に入ってこなかった。
試しに音読してみるが、静まり返ったリビングに自分の声が響くのが座りが悪く、ますます身が入らない。
「おかしい……いつもはもっとすんなり頭に入ってくるはずなんだが……風邪……は、ないよな」
自分の体調のことは自分がよく知っている。今日は寝不足もなく体調は絶好調。
ならば集中できない理由は別にある。アレンは諦めて紙の束を戻す。そしてしばし首をひねって考え込んで――ふと気付いた。
「……そういえば、完全にひとりになるのは数ヶ月ぶりか?」
今年の春の頭までは、アレンはこの屋敷でたった一人で暮らしていた。
それがシャーロットという同居人が増え、ルゥが増え、ゴウセツが増えた。おまけに客人も多くなった。ミアハにエルーカ、メーガスやグローなどなど。だいたい誰かがアレンのそばにいて、いつも賑やかで騒がしかった。
それが今日は久方ぶりのひとりきりとなって、作業に身が入らない。これはつまり――。
「まさか俺は…………寂しい、のか?」
成人した二十一歳の男が、ひとりきりの留守番を寂しがる。
なかなかの地獄絵図だった。
「いやいやいやいや!? ない! 絶対にありえんからな!?」
アレンは慌ててソファーから立ち上がってかぶりを振る。
気付いてしまったことを必死になって否定しようにも、かえって屋敷の静けさが気になって仕方がなかった。自分以外の気配がないことがこれほどまでに胸をざわつかせるなんて、幼い頃以来久方ぶりの経験だ。
だがしかし、それを認めるのはアレンのプライドが許さなかった。
「ふっ……俺としたことが取り乱してしまったな。まったく、そんなわけがないだろう。いい年した男が寂しいなどと……くだらない」
誰に聞かせるでもない言い訳をぶつぶつと口にする。
「別に寂しくもなんでもないが……うん。このタイミングで客が来たら歓迎するよな、うん」
というか、早急に誰か来て、この居た堪れない現状から救い出して欲しかった。
アレンはざっと、訪れる可能性のあるメンバーの顔を思い浮かべる。シャーロットたちは夕方まで帰らないはずだから、あの三人は除外だ。
まずミアハ。彼女は早朝に配達に来たため、今日はもう用事がない。
次に妹のエルーカ。しばらく顔を合わせていないので可能性は低い。
ならばメーガスやグローたちは……先日鍛錬でしごいてやったため、当分は療養中だろう。
ジルや魔法道具屋の店主は一度もここには来たことがないし、庭に住み着いていたダークエルフことドロテアは担当編集に連れ去られてから音沙汰がない。
つまるところ、客人が来る可能性はかなり低かった。
「ひょっとして俺は……人望がないのか?」
顔からさあっと血の気が引いていくのがわかった。
つくづく、気付かなくていいことに気付く日だ。
呆然と立ち尽くしていたところで――。
ドンドンドン!
「っ……!?」
突然玄関の方から、ドアを叩く音が響いた。
つまりまさかの客人――この居心地の悪い空気をなんとかしてくれる救世主がやってきた証である。アレンは浮き足立ちつつも、慌てて玄関まで走って行った。
「ああ、待ってくれ! 誰だか知らんが今出て……は?」
意気揚々とドアを開き、そのまま固まってしまう。
そこに立っていたのは知り合いでもなんでもなかったからだ。
銀の鎧に身を包んだ、若い女性だ。凛とした面立ちは気品にあふれ、金の髪を無造作に束ねている。
その後ろには似たような出で立ちの女性が何人か控えていた。
街で見かけたような記憶もあるが……全員アレンの知らない人物だった。
「えっと、どちら様だろうか……?」
「お初にお目にかかります。私は街の近衛兵団団長、ジゼルと申します」
金の髪を束ねた女性が、固い面持ちのまま腰を折って挨拶する。
そうしてアレンのことを、鋭い双眸でじろりと睨んでみせた。
「貴殿がこの屋敷の主人、アレン・クロフォードどのですね?」
「はあ……アレンは俺だが。近衛兵団が一体何の用件だ」
近衛兵団というのは、領主などに雇われた自治組織である。主な仕事は街の警備や犯罪者の取り締まりということもあって、かなりの実力者が就くことが多い。
実際、彼女――ジゼルが腰に下げた剣もかなり使い込まれていることがうかがい知れた。
(そんな相手がいったい何故……っ、まさかシャーロットの身に何かあったのか!?)
シャーロットが出かけたのはほんの十分ほど前だし、ゴウセツやルゥがついているのだからそうそう危ない目にも遭うはずもない。
しかしアレンは悪い予感に苛まれてハッと息を呑んでしまう。
そんな彼を前にして、ジゼルは表情を変えることなく懐を漁った。
「なに、少し聞きたいことがございまして」
そうして取り出すのは、一枚の書状だった。
やけに形式張った書体で書かれたそれは、パッと見ただけで分かるお堅い公文書で――。
「貴殿が未成年の女子を軟禁し、虐待を加えているという匿名の通報がございまして……詰め所までご同行いただいてもよろしいですね?」
「やっぱり人望がなかった!!」
アレンは頭を抱えて、絶叫するほかなかったという。
次回はまた来週末か、再来週の頭。
多くのご投票、まことにありがとうございました!
コメントいくつか抜粋して、活動報告で返信しております。また人気投票やってみたいので、その時は是非ともお付き合いください。





