百六話 守護騎士たちの秘密会議①
その日の深夜。
シャーロットが寝静まったあと、アレンとルゥ、そしてゴウセツはリビングで顔を合わせていた。
光源はランタンひとつだけ。闇が部屋のほとんどを侵食し、虫の声すらほとんど聞こえないような静かな夜だ。
そんな中、アレンはローテーブルに紙の束を放り投げる。
ため息ととともに切り出すのは……昼間の冒険者ギルドで見かけた、敵の名だ。
「あの獣人の名はリカルド・ウーバー。賞金稼ぎだ」
『しょーきんかせぎ?』
『平たく言えば、犯罪者を捕まえて金を稼ぐ連中のことですな』
首をかしげるルゥに、ゴウセツは淡々と語る。
そうして糸のように細い目をほんのすこしだけ開き、じっとアレンを見据えてみせた。
『つまり、このリカルドなる人物がシャーロット様を狙っていると。そういうことでございますな?』
「そう見るのが順当だろうな……」
アレンはソファーに腰を落とし、ため息をこぼす。
彼の名は、冒険者ギルドで簡単に調べがついた。
手段を選ばず数多くの懸賞首を上げている手練れだということも。
だがしかし、この程度はシャーロットをそばに置くと決めたあの日から、予想できていた展開だ。
彼女にかけられた報償金はかなり高く、いくら新聞での報道が下火になったからといって、賞金稼ぎにとっては関係がない。
(しかし、今になってこのタイミングで来るか……ふつう)
無事に恋人となり、デートの約束まで漕ぎ着けた。
そんなところに降って湧いた敵の出現だ。
まさに天国から地獄への急展開である。
頭を抱えるアレンだが……ルゥは軽い調子で口を開く。
『ふーん、だったら簡単じゃん』
ぺろりと口の周りを舐め、犬歯を剥き出しに獰猛に笑う。
『たべちゃえばいいんだよ、そいつ』
「……ことはそう簡単にはいかないんだ」
アレンはゆるゆるとかぶりを振る。
「やつはどうも私設部隊を有しているようでな。いつも集団で狩りを行うらしい。だが、その構成人数までは調べがつかなかった。ひとりでも取りこぼしたが最後、シャーロットの所在が漏れてしまう」
『ふむ、つまり根こそぎ潰す必要があると』
「そのとおり。そして、これがもっとも大事なことだ」
うなずくゴウセツとルゥの顔を見比べて、アレンはぴんと人差し指を立ててみせる。
もっとも大事なこと――それは。
「決して敵を殺してはいけない。それだけだ」
『ほう……? これはまた異なことをおっしゃいますな』
ゴウセツはくつくつと喉を鳴らして笑う。
『貴殿はそこまで人道的なお人ではないと思っておりましたが……それが敵に情けをかけるなど、いったい如何なる理由でございましょう?』
「もちろん俺もそこそこの死線を経験しているからな。他人の命を奪ったことがない、とは言わないさ」
殺す気でかかってくる敵に手加減できるほど、アレンは器用でもない。
何の理由もなければ、敵を根絶やしにして終わっていた。
「だが、これはシャーロットの問題だ。自分のせいで誰かが命を落としたと知ったら……あいつは間違いなく苦しむだろう」
たとえバレなくとも、彼女の人生に翳りが生じることは避けたかった。
できれば何も知らず、汚れることもなく、ただいつものように笑い続けていてほしい。ただそれだけが、アレンの望むことだった。
「だから敵をすべて誘き出し、殺さず捕らえる。その後、俺が全員に洗脳魔法をかけてシャーロットに関する記憶をすべて消す。それで始末は完了だ」
『かんたんに言ってくれるなあ……』
「反対か、ルゥ」
『……まさか』
ルゥはかぶりを振ってから、鋭い目でアレンを見つめる。
『ママがかなしむなら、だれも食べずにいてやる。ルゥにかかればいけどりだって簡単だからな』
「うむ、感謝するぞ」
『おまえのためじゃない。ママのためだ』
ぷいっとそっぽを向くルゥだった。
口ぶりはぞんざいだが、シャーロットのためという気持ちはどこまでも本物だろう。やる気に満ち溢れる彼女の頭を軽く撫で、アレンはゴウセツを見やる。
「それで、おまえはどうだ」
『無論、協力いたしますとも』
ゴウセツは深々と頭を下げる。
そうして、軽く嘆息をこぼしてみせた。
『先日、儂はシャーロット様の幸せを思い軽率な真似をしましたが……もはや慚愧の念に絶えませぬ。あの方のことを最も思いやれるのは、貴殿以外にはありえぬでしょうな』
「ふん、ようやく分かったか」
アレンはソファーにかけたまま、ふんぞりかえる。
「当然だろう。なにしろ俺はシャーロットの…………シャーロットの、その、なんだ……うん」
『保護者と恋人、どちらを自称するか迷っておられますな?』
『おまえ本当、そういうところだからね?』
「ええい、やかましい! それより問題は賊どもだ!」
続きは10月19日(土)更新します。
また、書籍化に際しましての店舗特典SSのリクエストを募りたく思います。
活動報告の方で募集しておりますので、そちらのコメントでじゃんじゃん気軽にお投げください。とりあえずひとつは『キャバクラでめっちゃモテるアレン』で決まっています。





