【第八話】秋・白露 一
俺のようなやつを扶養することはよろしくない。
それは誰かが決めたことで、勝手な判断だ。そう考えることもできる。けれど、いけないことだと決まっていて、世間がそれを常識として捉えているのだから従わざるを得ないだろう。正直、俺には関係ないことなのだけれど、人がそう決めてしまったのだから仕方がない。
明け方と夕方が少し冷えるようになってきた。朝、庭の草に白露が光る。
このままじゃいけない。一人暮らしの老人の脛を齧って生きていくのは社会的にもよろしくない。俺はどうするべきなのか。まさか、生きるということにこれほどまでに悩むとは思いもしなかった。ずっと父親に頼りっぱなしで、一人じゃ何もできなかった。
でも、どうだろう。やはり人は一人では生きられない……?
露に濡れる草の上に白露が寝転んでいた。無防備すぎるやつだ。それとも、彼にはもうこうすることしかできないのだろうか。俺の気配に気が付いたのか、白露は目を開け、見上げる。幼さの残る顔が嬉しそうに笑った。
「時雨さん、わざわざ会いに来てくれたんですか? 僕嬉しいです」
起き上がり、眠そうに伸びをする。
「じいさんにバレたんだ」
「これからどうするんですか?」
「分からない。どこでどう生きることが俺らしいんだろうって、考えれば考えるほど分からなくなってくる」
父親が生きていた頃は父に頼り、父親が死ぬと空巣を働こうとし失敗、すると今度はじいさんの世話になって。誰かに依存し続けて生きることは確かに楽だ。けれど……。
白露は小首を傾げて俺を見つめている。
沈黙が流れる。俺達の間に気の早い落葉がふわりふわりと降ってきた。まだ半分緑色だ。
「俺――」
「僕は一人なんですよ」
すいっと俺から視線をそらし、白露は紅葉の途中の木を見上げる。
「それぞれ一人暮らしすることになって、実家を離れたんです。けれど、共に旅立った兄弟はみんな行方知れず。最初は時々会ったり、誰かに伝言頼んだりとかしてたんです。でも、いつしかみんな音信不通になりました。きっと死んだんですね」
躊躇いもなくその言葉を口にして、皮肉っぽく笑う。
「両親ともに体が小さく、虚弱体質で、そんな二人の子供たちですよ? 僕だって今こうしていられるのが奇跡なんです。けれどやっぱり、このままじゃ僕は……」
どうしてこの男の子は地面に落ちていたのか。その理由について、ふと考える。もしも俺の考えが正しいのならば、こいつは自力で食糧を手に入れることもできないのではないだろうか。
だから俺の力が必要、か……。
「おまえはさ、このブナ林からは離れたくないわけ?」
「生まれ育った土地です。できることならば、離れたくはありません」
「遠くに行って女探そうとかは思わないの」
白露はびっくりしたように目を見開く。恥ずかしがるようにばたばたとして、うずくまる。くぐもった唸り声のような音が聞こえてくる。
「そういうのは……まだ早いですよう……」
まだまだ子供というわけか。とは言っても、俺も似たようなものだ。かつて暮らしたあの場所と同じブナ林が懐かしくて、温かくて、離れたくない。じいさんに齧り付いている分、俺の方がよっぽどタチが悪い。
うずくまっていた白露は身を起こし、俺を見上げる。大きな目が真っ直ぐに俺を見つめていた。
ずっと何かに依存していた。
けれど――
頼りにされるのも案外悪くないのかもしれない。




