~妃袈、お兄様と釣り堀へ行く~
今回はお兄様と釣り堀へ行くお話です。
普段は退屈で家にこもりがちな雨の日に、お父様の粋な考えで私はお兄様と釣り堀へと行くことになりました。
しかし、そこではとんでもないことも待ち受けていたのです……
─6月のとある日曜日、
私はお兄様と一緒に釣り堀へ行きました。その日はお父様とお母様が午前中から銀座に出掛けており、運転手の高尾もそちらに付き添っていました。私の世話は乳母の園田さんがしてくれ、料理はコックの藤田さんがしてくれるので日常生活に不自由はありません。でも、運転手がいないので車でのお出かけができません。今日は朝から強い雨が降っていて、ようやく安定して一人で遠くへも乗れるようになった自転車に乗って遊びに行くのも難しいです。自転車は、レインコートを着れば多少の雨なら大丈夫なのですが、どうしてもお顔や手足が濡れてしまう上に、雨の日は自転車の事故が多いので、私はお母様に「強い雨の日は自転車に乗ってはいけません。危ないから」と言われています。ここで言う「強い雨」とは傘を刺さないと全身がずぶ濡れになってしまうような雨の事を指します。
そんな退屈な日曜日、お兄様が私を釣り堀に連れて行ってくれることになりました。お兄様は事前にお父様から、私が退屈そうであったら、釣り堀にでも誘うように言われていたようです。釣竿等は釣り堀で貸し出し用があるので持っていきませんでした。
私は早速、玄関でお父様に買ってもらった赤いゴム長靴を履き、肩には赤い手提げ袋を提げています。その中に普段使っているお財布やスマートフォン、くし、扇子等の小物と釣り堀で使うゴム手袋を入れました。釣り堀ならあまり汚れないと思ったので、お洋服は普段着ている紫色のワンピースのままでした。私は赤い傘をさし、玄関を出ました。今日は電車に乗るのでレインコートはお預けなのです。
しばらく歩くと、地下鉄の駅に着きました。私はお兄様に買ってもらった切符を持ち、改札を通りました。ホームに降り、1分ほどすると電車が来ました。私たちは電車に乗り、釣り堀の近くの駅に向かいました。途中、一度だけ乗り換えがありましたが、問題無く目的地に着くことができました。
釣り堀に到着すると、お兄様が受付で手続きをしました。手続きが終わり、お兄様は私に子供用の釣竿を渡しました。釣竿を渡された私は、早速釣りを始めました。水の流れの良いところを選び、お家から持ってきたピンクのゴム手袋をはめ、針に餌を付け、浮きの高さを調節し、お堀に糸を垂らしました。今日は雨が降っている事もあり、釣り堀はかなり空いていました。私は時々、近くを走る電車を見ながら釣りを楽しみました。
その時、私の「浮き」が沈みました。軽めの「引き」があり、私は最初の一匹を釣りました。最初に釣れたのは10センチ程度の小さな鯉のようなお魚が釣れました。その後、お兄様も15センチくらいのお魚を釣りました。その後も順調に釣果を伸ばしていきました。
しばらくして、私はおしりが痛くなってきました。この釣り堀では、酒屋さんで見かけるビール瓶を入れる黄色い入れ物を逆さにした物をイス代わりにして座るのですが、それが固すぎたのです。更に傘をさしている事もあり、何かとかさばるのです。私はお兄様に手伝ってもらったりして、なんとか疲れないように工夫したのですが、やはりおしりが痛かったのです。おしりの痛さを軽減させるために、私は時々しゃがんだ姿勢をとることもありました。しかし、そのしゃがんだ姿勢が起因して私は大変な目に遇ってしまうことになるのです。
私はおしりが痛くなってきたので、ビール瓶の箱の隣にしゃがみました。その時、私の後ろを釣りを終えた男の人が通りました。その人は誤って私の隣にあるビール瓶の箱につまづいてしまい、その私の左隣にある箱が私に直撃しました。驚いた私は箱をどかそうとして立ち上がったその時、「ズルッ」と右足を滑らせ、「ボッチャーン」と釣り堀に転落してしまいました。突然の出来事に驚いてしまった私は、釣り堀の水を少し飲み込んでしまい、溺れそうになりましたが、なんとか自力で元の場所に這い上がりました。しかし、私はお洋服や髪の毛、長靴の中など、全身がずぶ濡れになってしまい、まるで「濡れネズミ」になったようでした。幸い、お財布やスマートフォンは無事でしたが、雨の日で気温があまり上がらないその日は、とにかくとても寒いのです。ただでさえジメジメしている梅雨なのに、びしょ濡れのお洋服が肌にまとわりついて、とても気持ち悪かったです。そのような様々な事から、自力で這い上った後の私は大泣きしてしまいました。この後、こんな無様な姿で電車に乗って帰るなんて恥ずかしいのです。お兄様がお母様に叱られないかも不安でした。
一瞬だけ、その心配がなんとかなりそうな時がありました。私の事を間接的にですが、誤って落としてしまった男の人が、彼の自宅に連れていってくれるそうです。でも、いきなり知らない人の車で知らない人の家に行くのは流石にお兄様が断りました。
でも、そのせいで私はびしょ濡れのままで電車に乗る事になってしまいました。帰りも私は泣き続けてしまいました。濡れて妖怪のようになってしまった髪の毛
、体にまとわりついて幼児体型が丸見えのワンピース、歩くたびに「グチョグチョ」という長靴、等が私の空しさを表現していました。
道行く人々や電車の中で、私は哀れみの目で見られている視線をあらゆる方向から感じました。服装は清楚なお嬢様なのに、全身ずぶ濡れになっていて、お顔には泣いたあとがあり、どこか気を引くのでしょう。しかし、私にはそのような視線が最も痛くて精神的に苦痛なのです。そんな恥ずかしい状況を何とか我慢しました。
家に帰ると、乳母の園田さんが私の姿を見て、血相を変えてしまいました。
「お嬢様、何というお姿に。お怪我は? 今すぐ後入浴の用意を、あと暖かいミルクも…」という感じで、何とも慌ただしく、こちらまで忙しくなりました。
私は、今回の事をお母様には言わないことにしました。園田さんにもお母様に言わないように頼みました。私の不注意なのにお兄様が叱られるのを見るのがとても辛いのです。
その後、お父様とお母様が帰ってきました。私が情報統制した甲斐があり、お兄様はお母様に叱られずに済みました。私もホッとしました。
そして、その日も寝る前に園田さんが私に本を読んでくださり、ぐっすりと眠りました。
「え~ん(>-<)」私はずぶ濡れになってしまいました。しかもそのまま帰らざるをえなくなってしまったので、とても恥ずかしかったのです。
でも、お兄様と釣りができたのはとても楽しかったので良かったです。
皆様ごきげんよう♪
作者より、
今回は「雨の日の釣り堀」をテーマにしました。
今後もお楽しみ下さい。




