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形ができてきた。

「よ~し、名前が決まったところで次いこ、次。えぇと。君はどうあっても世界観に和風テイストは入れたくないんだね?」


「うん、醒めるとヤだしさ。思いっきり外国っぽくして。俺の見た目もちゃんと金髪でさー、目の色は青……や、銀とか! あ、右と左で違うとかかっこよくね?」

 そんで戦闘の時は赤に、あーやっぱ、力を使うたびにそれぞれの能力に対応した色に、なんて妄想が暴走しかけた少年に、私はできる限り慈愛に満ちた表情を浮かべて頷いてやった。


「うんうん、もういっそのこと、色違いの目が100個くらい身体中についてる事にしようね。魔族の呪いかなんかで。でさ、その呪いを解くために旅立つといい。ラスボス級の魔物を1体倒すごとに目が消えていくって事で」

 でも最後の2体を倒したらキミは目が無くなってしまうね。己を犠牲にして世界を救うなんてまさに勇者様だよね~、と言いつつ私が下手くそな絵を描いて、適当に「ここと、ここと……」と目を配置していくのを見て、彼はごめんなさいと口を閉じた。


「ま、冗談はさておき。左右の目の色が違う、または戦闘時に目の色が変わる、どっちかは設定に取り入れてもいいよ。君くらいの年頃には魅力的な設定だろうしな」

 どちらにせよ、こんなひょろそうな体格なのに「強い」という条件に持って行くには、何らかの特殊な力が備わっている事にしなければならないのだ。

 だから瞳に「何か」が宿っているとかなんとかこじつけるのも有りだろうよ。


 だが、その「何か」がたくさんいて、それぞれに対応した色を設定するなんて面倒はごめんだ。だいたい、そんな細かく設定しすぎると後々ウザくなりそうだし。


「本来の目の色は青なのに、ある日、そうだな、大きな力を持った何かの封印を解いてしまってそれに乗り移られるんだよ。で、片目が銀になる。エッジ君はそれをなんとかするために旅に出て傭兵になるのだけど、本当は疎ましいはずのその目の力で『最強』とか言われちゃうわけ」

 よしよし、膨らんできたぞ。


「力を使えば使うほど侵食が進む、というリスクも背負ってることにしようか。そのほうがダークヒーローっぽくて良くないか?」

 あぁ、でもあんまり葛藤を与えるとこの子にとっては楽しくなくなってしまうか。多分、好き放題に力を使いたがるだろうしな。

 となるとこの設定は後々私の首を絞めることになりそうだ。うぅむ、やはりリスク云々は没にしておこう。


 ぶつぶつと呟く私を前に、彼はぽかんと口をあけ、ついでに目も見開いて(若干うるんでいるような気がするのはどうした事だ、幽霊のくせに)、頬を紅潮させていた(幽霊のくせに!)。

 その、こちらを崇拝するような瞳にぎょっとして、思わずのけぞりそうになった私の手を彼がぎゅっと握る。


「やっぱすごいよ、さすが神様。俺の好み通りの展開! 俺、もうそれでいい。そんで? そのあとどうなるの?」

「落ち着け。これはよくあるパターンだし、おおざっぱなあらすじに過ぎないんだから。まだ変更の余地ありだからね? それから『それでいい』は聞き捨てならん。あと、最後はむしろ自分で決めなさい」


 呪いが何とかなって元の生活に戻ってめでたしめでたしもよし、結局折り合いをつけて傭兵としてのし上がるもよし、その「何か」に関わる謎を解いてどうにかなるもよし。

 適当にいくつか選択肢を挙げてやると、彼は困った顔で「……選べないから全部書いてみて」とぬかしたので、私はその厚かましい頭に渾身の力を籠めてデコピンを喰らわせた。


「まー、あらすじがあれでいいんならそういう事にしよう。で? エッジ君はどういう生まれ?」

「え? んー、金持ち?」

 こいつ、レベルアップの苦労だけじゃなく金策の苦労も避けるつもりか。まぁいいけど。


「そうじゃなくて。あー、つまり、家柄は? エッジ君のお父さん、お母さんは何をしている人かな~?」

 だんだん幼稚園児に語りかけている気分になってきた。

 そうだ、これは図体の大きな子供なのだ。なるべく噛み砕いて、わかりやすく、優しい気持ちで誘導してやらねばならない相手なのだ。


「ん~。貴族?」

「はいはい。貴族で、位は? あ、オリジナルの位とか作るの面倒だから、爵位でお願い」

「え? えーっと……」

 少年はもごもごと口ごもった。ははぁ、さては爵位がわからんのだな。

「上から2番目くらい?」

 しかし微妙に欲張った!

「侯爵ね。うん、侯爵……」

 侯爵家の男子が出奔して傭兵稼業。はたして耐えられるのだろうか。そもそもなんだって「何か」の封印を解く羽目になったのか。従者は何をしとったのか。


「あ~、その設定だと、以前言ってた『幼馴染の女の子』とかいうのは」

 無しで良いよね、と言おうとしたが、彼は熱心に語りだした。

「ちょー可愛くて、素直で、俺だけに一途で、少し天然入ってて、そんで『~~ですの』ってしゃべる子。あ、実は頭がすっげぇ良くて……」

 恥ずかしげもなく、都合のいい「オトコノコノユメ」を具現化させようとする少年にイラっとした私は、「何ヶ国語もしゃべれるからどこに行っても通訳してくれて~」のあたりで我慢できずに遮った。

 どう考えても設定を欲張りすぎだ。


「そういうタイプの子で頭が良い場合、えてして『そうしておけばバカな男はイチコロだ』という計算のもとに装っている事が多いんだけど、腹黒設定つけていい?」

「夢を壊すような事言うなっ!」

「泣かなくてもいいじゃないか。悪かったよ」

 あまりに虚構が過ぎたから、つい。


「あのねぇ、侯爵家のおぼっちゃんの幼馴染の女の子って言ったら、多分貴族か、でなきゃ使用人の娘さんとかになると思うわけ。当然、傭兵の生活に耐えられるとは思えないから、一緒に旅に出るなんて無理だよ」

 だから諦めろという私の説得は、今度は受け入れられなかった。どうやら余程「幼馴染ヒロイン」が欲しいらしい。さて、どうしようかな。


「んー。じゃぁこうしよう。エッジ君は侯爵家の……三男坊くらいが妥当か? まぁ、貴族のお坊ちゃまなんだけど、生まれた時に魔族か何かに呪われて片目が銀色になったせいで死産ということにされて、辺境の田舎で身分を隠して育てられている。本人は、……ん~、本人も旅立ちのエピソードまでは自分の身分や運命は知らなかった、でいいか。エッジ君は自分の事を、どこかの貴族の落とし胤か何かで、片目の色が違うのは病気だと思ってるんだ」


「そんな病気あんの?」

「知らん。とにかくエッジ君は、子供のうちからそう教え込まれて信じちゃってんの。そうだな、普段は眼帯をしているってのもいいんじゃない? 眼帯、は……好きそうだな」

「うん、カッコよくね?」

 まぁ、眼帯キャラっていうのはなぜかカッコ良く見えるよな。否定はしない。


「でも、幸いにして、ぐじぐじ落ち込む性格ではないので、近所の子供達と好き勝手に野山をかけずり回って遊びつつ結構たくましく生きている。ヒロインは、その遊び仲間の一人」

 どうだろう。これだと、貴族のお嬢様よりは野外生活に慣れていそうだと思うんだけど。


「んー、じゃぁ、元から呪われてるわけ? 子供の頃うっかり封印解いた、とかじゃなくて?」

「うん、そう。ほら、本人には何の罪もないのに~とかいう設定のほうが、書き手としては楽っていうか……。君、そういう葛藤とか苦手そうだし。続けるよ? 侯爵家はエッジ君が生まれてからず~っと、呪いの解き方を研究していた。で、ある日方法がわかるんだけど、その為にはエッジ君を旅にやらねばならない。そこで侯爵は、エッジ君を呼び戻して鍛えることにした」


 のどかな田舎町にそぐわぬ、物々しい侯爵家の馬車がやってくる。そして、友人達と無邪気に戯れていた少年を強引に押し込めて連れ去る。

 追いすがる幼馴染。無情にも引き離されて、それでも『会いに行くから!』叫ぶ声。


「それから、エッジ君は侯爵家で待ち構えていた教師達によって戦闘の英才訓練を施され、自らの呪いを解くために旅立つ、ってどうかな。この間2~3年くらいって事で」

 やっぱりいきなり最強ってのはキャラを甘やかしすぎだよな。少しは努力もしなさい、と言うと、少年は不満そうに顔をしかめた。

「……俺、『努力』ってキライ」


 そっぽを向いた頭に、私はまた拳骨を落とした。

 ……あぁ、日常がバイオレンスに染まって行く。


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