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【歪んだ鏡】
【恐ろしい鏡】
ある所に、一枚の鏡があった。
この鏡は、ありのままの自分を映してくれるそうだ。
そして、自分らしくなると褒め言葉を投げかけてくれるという。
例えば髭は、鬣のようだねとか。
目が少しだけ大きて、かわいいねだとか。
笑えば、白い歯が見えて綺麗だねとか。
まあ、自分の長所をちょっとだけ褒めてくれる映る鏡である。
多くの人はその鏡を見て、驚いたり喜んだりするそうだ。
何にしても楽しんで欲しくて作ったのだから、
鏡の製作者は喜ぶだろう。
しかしこの鏡を見続けていると、不思議な考えを持つようになる。
何故か、何度も鏡を覗きたくなるのだ。
そして鏡を覗いていると、やがて自分に自信が持てるようになってくる。
そう考えるほど、鏡の中の己は特別になっていく。
やがて、鏡はこう笑いかけるそうだ。
――ああ。君はとっても自分らしい。
その言葉が、どうしてこんなにも恐ろしいんだろう。
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この鏡の中に映った自分は、とても自分らしい。
なのに鏡が笑いかける確認の言葉で、
人は鏡の中の己を恐れるようになる。
まるで、それこそが自分であると気付いてしまうように。
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