結合双生人格障害
昼休憩。
食事を済ませたネルアは二階のエレベーターを訪れた。
エレベーターの扉は開かれている。そしてその手前には堕落防止柵が張ってあった。
エレベーターの大きさはシングルサイズのベッドが余裕で入る広さのものである。
人が乗る部分であるカゴは一階にいた。
カゴは見て分かる通り硬い。ハーオス病院は天井が高いため、二階からとはいえ転落すればただでは済まない。そのための堕落防止柵が広げられていた。
が、ネルアはその柵を軽々越えている。壁に手をつき、下を覗き込むように彼を見ていた。
「エレベーターの修理も自分達でやるんですね」
「外には頼めないからな」
レヴィが返事をする。その声は反響しながらネルアの耳へと伝わった。
レヴィは大きなカゴの上で胡座で座っている。隣には自立式の小さなライトが光り、手元を照らしていた。
レヴィは工具を手に取り、修理を進めている最中だった。
ネルアが壁から手を離し、その手を顎に添える。
(外部に頼めない理由は──────────)
混血専門病院だから……だろう。
ネルアはそう推測する。当たり前の事実として混血は世界に存在することが許されていない。アリゾレッド連邦では混血は捕獲対象である。
つまり、少しでも情報が漏れてしまえばこのハーオス病院は一瞬で国に壊される可能性が高いのである。
レヴィの顔がネルアを向いた。
「[願叶有機体]、何の用だ」
そこには凛とした眼差しがあった。
今の彼の口角は下がったまま劈くような表情だった。
ネルアは直感する。
今目を合わせているのはレヴィではない。
けれど……
(どこか似ている。レヴィさんではないと分かるのに、雰囲気から醸し出されている『質』は同じように感じる)
ネルアには鋭い直感力があった。
しかし、ロジックはない。
理屈では説明ができないものの感覚的に『そうだ』と思ってしまった。
レヴィは視線を自身の手元へと移す。
そして右側の側頭部を軽く叩いた。
「そう威圧的になるな」
レヴィの低い声が話を投げる。自分自身に。
「僕の脳を使われた。不快感は当然だろう」
レヴィではないレヴィが話す。自分自身に。
ネルアの頬にはじわりと汗が流れ出ていた。
(まただ)
彼だけの会話、独り言と言えばそう見える。
ネルアはその独り会話に入る隙を窺っていた。
「あ、あのー……レヴィさん?」
ネルアが少し気まずそうにレヴィを呼ぶ。
「んー? どうした」
彼だ。
ネルアの上司であり、利害関係が一致し、とある約束を聞き入れてくれた彼。
落ち着いた声色に情緒、緩い微笑み。レヴィだという事実にネルアは何故だかホッとした。
「レヴィさんって、その……」
ネルアがどう言葉を切り出そうか迷った。
「解離性同一性障害なんですか?」
ネルアは正直である。
この数日間で一番気になっていたことだった。




