38.強力なボス
「この塔は、ちょっと見たことのないデザインですな?」
塔の目の前まで歩いてきたところで、セーラー服を着たおじさんが首をかしげながら皆に問いかけた。
「・・・たしかに。キャナーメさんの言うとおり見たことないね。『びんびんの塔』に近いデザインかなあ?」
半裸騎士山本がキャナーメちゃんの疑問に対して、答える。
「じゃあ、どんなボスが出てくるのかわからないってことか?」
「そうね・・・、ちょっと!5m以内に近づかないで!」
スクール水着を着たおじさんが皆に問いかけると、魔法熟女田中が切れ散らかしながら答えた。
「股間出してないのに、5m以内に近づくなってひどくない?」
「股間出す前提のおっさんが殺されずに同じ空間にいれるだけでありがたいと思いなさいよ!」
レベル上げの戦闘中からずっとこの調子で、田中とひろとは言い合いをしている。
「まあまあ、お二人ともそのくらいにしときましょう」
キャナーメちゃんが間に割って入って仲裁する。
「では、ボス戦の前にバフを掛けておきますぞ!『セーラーエンジェルライト!』」
可愛らしいポーズを取りながら魔法を唱えると、杖からハート形の光が皆に降り注いだ。
どこからか、柔らかい風が吹いてきて、スカートがふわっとたなびいた。
「そのポーズはする必要あるの?」
「スキルを唱えると、勝手に体がポーズをとるんですよ」
「・・・えぐいスキルやな・・・」
ひろとは、自分のスキルにそんなやばい効果がなくて良かったと心底安堵した。
「まあ、この世界で生き残っていくためには、このスキルが必要ですからね!」
キャナーメちゃんは、このゲームの世界を攻略するためにはセーラー服を着るのは当然というスタンスだ。ここまでゲームに対してストイックになれるのは尊敬の念すら覚える。
「まあ、これ以上レベルを上げるのは、出てくる敵の経験値からいっても時間がかかるから、ボスに挑戦する方が良いと思うよ」
山本がそう答えると、田中とキャナーメちゃんが頷く。
「まあ、俺はゲームの知識がないから、その辺は皆に任せるわ」
ひろとがそう答えたのを合図にして、4人は塔の扉を開けて中に入っていった。
古びた木の扉を開け、中に入ると、明るい空間が広がっていた。
石造りの壁に赤い明りが10mに一つくらいの頻度で灯されており、広大な広間が広がっている。
広大すぎて、遠くの方は暗くてよくわからない。
一切の音がせず、静寂が広がっており、不気味な雰囲気がより一層感じられる。
「なんか、めちゃくちゃ広くね?」
「塔の中は、空間がゆがんでいて、ものすごい広い空間が広がっているんですよ」
ひろとの疑問にキャナーメちゃんが、スカートをふわっと舞わせながら答える。
「じゃあ行こうか」
山本が剣と盾を構え、先頭を歩いていく。
ひろとは、剣を抜き盾を背中から取り出しその後をついていく。
田中とキャナーメちゃんは後衛として2人の後に続いた。
ガタガタガタガタガタ・・・
広間の真ん中まで歩いてきたところで、急に騒がしい音が響き渡った。
「ん?なんや?」
ガタガタガタッ・・・ガタガタガタッ・・・
騒音が石造りの壁に反響してけたたましく鳴り響きながらだんだんとこちらへ近づいてくる。
音のする方をにらんでいると、暗闇からピンク色の車輪のついた何かが突き進んできた。
「あ!あれは!?」
「魔人オチン・ポークビッツ!」
「うそ!なんであれがこんなところにいるの?」
3人が一斉に叫んだ。
暗闇から這い出してきたのは、直系1mほとのピンク色の車輪を両手両足に括り付けた四つん這いのピンクのウサギだった。
今まで見たことのないほど、筋骨隆々の体格をしており、通常のピンクウサギより3割ほど体が大きい。
「やばいですぞ!」
「え?どしたん?」
ひろとが、うろたえるキャナーメちゃんに質問しようとした瞬間、ピンクのウサギの車輪がカタカタと動き出した。
おおおおおおおおお!!!
いきなり叫び出したと思った瞬間、ものすごい速さでうなりをあげながらこちらに向かって突撃してきた。
どういう原理で、車輪を回しているのかわからないが、とにかく車輪を高速回転させながら四つん這いで高速移動している。
「っ!『パワーガード』!」
山本が、防御スキルを唱えて、皆を守るように、盾を真正面に構えて立ちふさがった。
「ぐうう!!」
車輪のピンクウサギの体当たりを正面から受け止める。
盾がぐしゃっとへしゃげるような音とともに、山本が後ろに数mほど吹き飛ばされ、後ろにいたひろとの横に転がった。
「ッ!炎の玉!」
魔法熟女田中がローブをひるがえしながら、即座に反応し炎の魔法弾を撃ち込んだ。
山本とぶつかり勢いを削られ、一旦停止していたピンクウサギの胴体に炎の弾丸が直撃した。
ドンッ!!という音とともに炎が広がるが、そのまま炎を纏ったまま、さらに突進してきた。
「キャア!」
田中は、必死に横っ飛びして、突進を回避したが、転んで地面に体をしたたかに打ちつけてしまう。
ピンクウサギは、ガラガラとけたたましい轟音を立てながら、突進した勢いのまま壁を駆け上がりながら180度ターンする。
「クソっ!また来るぞ!『スク水ガード』!」
ひろとが叫びながら、熊の顔のデザインの盾を構えてスキルを唱える。
「ヒギッ!!」
ゴキッという鈍い音と同時に、ヒロトの体が宙に舞い、ポーンッと2mほど跳ね飛ばされる。
いきなり、視界が空を向いたと思ったら、地面に叩きつけられた。
「・・グウゥ・・・」
ひろとは、うめき声をあげながら立ち上がった。
歯を食いしばると、口の中に血の味が広がっていく。
車輪のピンクウサギが反転してこちらに向き直り、にやりと笑う。
「やばいぞ!このままじゃ・・・」
うおおおおおおっ!
叫び声とともに再び車輪のピンクウサギが前進しはじめた瞬間、
『ホーリービーム!!』
光の帯がひろとの後方から前方へと通り抜け、敵の前輪に突き刺さる。
突然の攻撃にピンクウサギがひるんで動きが止まった。
「魔人オチン・ポークビッツは突進を受け止めるか、突進を回避した時にできる隙に攻撃をするのが攻略の定石ですぞ!」
セーラー服おじさんが両手をハートの形にさせて、叫んでいる。
『炎の玉!』
いつの間にか、立ち上がっていた魔法熟女田中が、さらに魔法弾を浴びせる。
胴体に直撃したピンクウサギが、痛そうに顔をしかめて、うめき声をあげている。
「推奨攻略レベルが、10くらい高いけど、倒せない相手ではないわ!」
杖をくるんと回しながら田中がキャナーメちゃんの叫びに答えた。
「回復しますぞ!『セーラーヒーリング』」
セーラー僧侶キャナーメちゃんがくるんと一回転してスカートをはためかせながら、手にした杖から淡い青色の光の輪をひろとに放った。
「おおっ!」
柔らかい光が、全身を包み、全身の痛みが弱まっていく。
「登戸くん!突進が来たらとにかく回避、無理なら防御スキルで受けるんだ!反転する時か、受け止めてスピードが弱まったところを反撃だ!」
半裸騎士山本が、立ち上がありながらひろとにむかって作戦を伝える。
鎧と盾がベコベコに傷ついているが、まだ平気なようだ。
「わかった!キャナーメちゃん回復は頼んだ!」
ひろとが、そう叫んだのと同時に、体勢を立て直した車輪のピンクウサギがうなり声をあげながら突進を始めた。




