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魔眼治癒師の最適解  作者: 鍵音-kagine-


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第85話 おかえり

 夜の静けさ。


 魔道具の明かり。


 涼しい風。


 気持ちに余裕が出てきたことで、リゼアは今の自分の状況もしっかりと認識してしまった。


 顔が熱くなる。


 いや。


 熱いなんてものじゃない。


(恥ずかしい……)


 死にたい。


 消えたい。


 今すぐどこかへ逃げ出したい。


 さっきまで何を話していたのだろう。


 泣いた。


 それも盛大に。


 弱音を吐いた。


 カナトに支えられた。


 仲間がいると言われた。


 思い出そうかと言われた。


 そして。


 全部話した。


(うぅ……)


 思い出しただけで顔から火が出そうだった。


 両手で顔を覆いたい。


 でもそんなことをしたら余計に恥ずかしい。


 結果。


 俯くことしか出来ない。


 ーーそんな時だった。


「おい、押すなって!」


「私が見えないので、ガルドさんはもっと姿勢を低くしてください」


「これ以上は無理だって! うわぁっ!?」


 ガシャッ!


 派手な音が響く。


 次の瞬間。


 訓練場脇の資材置き場から二つの人影が転がり出てきた。


 ガルドとアイリスだった。


 リゼアは固まる。


 ガルドも固まる。


 アイリスも固まる。


 沈黙。


 数秒。


 いや。


 本人達には永遠にも感じられる沈黙だった。


 そして。


 うつ伏せで地面に潰されていたガルドが。


 ぎこちなく右手を上げた。


「よぉ」


 引きつった笑顔。


「元気そうだな」


 リゼアの顔がさらに赤くなる。


「っ!!!」


 これ以上赤くなれないだろうというほど赤くなる。


 耳まで真っ赤だった。


 そして。


 ゆらり。


 リゼアが立ち上がった。


 ガルドは背筋が凍る。


 その目を知っている。


 怒っている時の目だ。


 だが。


 何か違う。


 冷たい。


 恐ろしいほど冷たい。


 それなのに。


 周囲の魔力は灼熱だった。


 空気が震えている。


 熱量が膨れ上がっている。


 アイリスは思わず一歩後ろへ下がった。


 魔眼を使わなくても分かる。


 これはヤバい。


 凄くヤバい。


「ねぇ、ガルド?」


 優しい声だった。


 優しすぎて逆に怖い。


 ガルドの額から冷や汗が流れる。


「な、なんだ?」


「カナトが決闘の時に送ってきた文面」


 笑顔。


 満面の笑顔。


「あれ、あなたが考えたんでしょう?」


 ガルドの顔色が変わる。


 図星だった。


 完全に図星だった。


「い、いや、その…」


「大丈夫」


 リゼアは微笑む。


「何も言わなくていいわ」


 そして。


 杖を構えた。


 炎の魔力が渦巻く。


 空気が熱い。


 凄く熱い。


「今見られたことも含めて」


 笑顔。


 完璧な笑顔。


「その記憶ごと、燃やし尽くして忘れさせてあげるわ」


「お、おい」


 ガルドの声が震える。


「冗談だろ?」


 返事はない。


 代わりに炎が大きく揺れた。


「カナト!」


「アイリス!」


「助けてくれ!」


 ガルドは叫ぶ。


 しかし。


 返事がない。


「あれ?」


 周囲を見渡す。


 すると。


 かなり遠く。


 訓練場の出口付近。


 カナトとアイリスが全力疾走していた。


「あっ」


 ガルドの顔が引きつる。


「あいつら逃げてる!!」


 カナトは振り返らない。


 アイリスも振り返らない。


 もの凄い速度で離脱している。


「裏切り者ぉぉぉ!!」


 ガルドの悲鳴が響く。


 そして。


 リゼアは満面の笑みで言った。


「死になさい!」


 次の瞬間。


 轟音が第三訓練場へ響き渡った。


 炎が夜空を照らす。


 ガルドの絶叫が続く。


 逃げるカナトの耳にも聞こえていた。


 その音を聞きながら。


 カナトは隣のアイリスと笑い合う。


 胸の奥が温かかった。


 不思議だった。


 凄い音なのに。


 凄い悲鳴なのに。


 何故だか。


 とても心地良く聞こえた。


 リゼアが戻ってきた。


 そんな気がしたからだった。


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