【車内BGM】
東区へ向かう高速道路を、一台の車が静かに走っていた。
窓の外には流れる街並み。
目的地までは、ここからおよそ五時間。
日帰りなど到底不可能な距離であり、今回の仕事は泊まりになることが確定していた。
長時間の移動。
車内には、どこか気の抜けた空気が漂っている。
そんな中――
スピーカーから、妙にのほほんとしたBGMが流れ始めた。
『ないな〜いない♪ ないないない♪
ないな〜いない♪ ないないない♪
まいどあり〜♪ あり〜あり〜♪
いらっしゃいませ〜♪ いらっしゃいませ〜♪』
間の抜けたリズム。
妙に耳に残る歌詞。
そして、絶妙に力の抜ける声。
助手席に座っていた森川みなは、しばらく黙ってそれを聞いていたが、ついに耐えきれなくなったように口を開いた。
「あの……先輩……このBGMなんですか?聞いたこともないんですが」
ハンドルを握るみずはは、前を向いたまま答える。
「私もよく知らないんだよね..」
「えぇ!?」
思わず大きな声が出る。
「じゃあ知らない曲流してるんですか?」
あまりにも自然に流していたせいで、当然知っているものだと思っていた。
だが、みずはは特に気にした様子もなく、
「うん..でも..歌詞可愛いじゃん..」
と、どこか満足げに呟く。
「そこ!?」
みなのツッコミが車内に響く。
しかし、当のみずはは、再び流れ始めた
“ないないない♪”を小さく口ずさみながら、静かに車を走らせ続けるのだった。




