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接触、及びルール説明

 あれから俺は図書館やネット、古本屋を練り歩いて徹底的に「ラビッドファング」や白装束の男について調べ尽くした。わかったのは「Rabidfang」というのは英語で「魔獣」という意味であること。


 以上だ。


 …………うん、わかってるよ。俺だってこんなに情報が無いとは思わなかったさ。でも実際見つからないんだから仕方ないじゃん。

 そんなこんなで、何もわからず、別のプレイヤーからの襲撃もないまま最初の戦い(あれ)から1週間が過ぎようとしていた……。


ーーー


「はい、小鳥遊。なんか届いてたみたいよ?」

 学校から帰ってくると、樹里さんが黄色い縦長の紙を渡してきた。

「不在届……ですか?」

 俺がそう言うと樹里さんがこくり、とうなづいた。

「あんた、なんか密林で注文でもした?」

「いや、してないですけど……おふくろかな? とりあえず宅配便の所に電話しますよ」


 翌日、その問題の荷物が届いた。ただし差出人の名前がどこにもない。こちらの住所と名前が書かれているだけだ。…………怪しい。なんか嫌な雰囲気しかしないよ?

 部屋にそれを持って戻り、部屋着に着替えたりした後、思い切って開けると中身はスマートフォンだった。でもこの機種もう持ってんだよな……。言いにくいけど……正直いらない。

 業界人なら携帯の2つや3つは必要なんだろうけど、普通の一般大学生には1つで十分だ。とはいえ、何もせずに捨てるのも申し訳ないので一応電源をつけてみる。すると見慣れた泡ブクブクの壁紙の背景で彩られた画面がきて、最初から入っているアプリが表示されていく。その中に見慣れないアプリが1つ。

 その名前は……「Rabidfang」。

 思わず起動すると突然能天気な声が響いた。


「やぁやぁ、人狼(ヴェアヴォルフ)くん! 僕がこのゲームの主催者! マスター、って読んでね?」

 画面の中で白装束の男が手を振っている。……なんだこの超ハイテンション……。うざっ。俺はホームボタンを一回押したが、ホーム画面に戻らなかった。……故障品か?

「……切っていいですか?」

「いいけどー、この通信、切ったらもう繋がらないよ?」

 それを先に言え白装束! 俺はホームボタン長押しで出したばっかりの電源オフの画面を慌てて消した。

「では、えーと。ふざけるのはここまでにしといて……。こういう形でははじめまして、だね。人狼くん」

「……ヴェアヴォルフって、さっきから言ってるけど何なんだよ」

 画面の中の白装束……もといマスターがわざとらしくため息をついた。

「まさかこんなに自分の力を知らない人が多いなんて……」

 ん? と言うことは他にもいるのか?

「ちなみに俺で何人目なんだ?」

「……79人目」

 多いね。プレイヤー総数知らないけど。とにかくこれで合点がいった。みんなラビッドファングが何なのか分かってないから動きが全くなかったんだ。

「しょうがない……。また初めからルール説明するかぁ」

「また、って説明なんてしてもらってないぞ?」

「えー? 言ったはずだよ、渡し人が」

 渡し人? 誰だそれ。

「人狼くんが最初に会ったえらそーな白装束のやつ」

 お前も白装束だろ、というツッコミは入れないでおいた。ま、誰のことなのかはわかったけど、聞かされてない物は聞かされてないとしか答えられない。

「あいつ……力与えた後にちゃんとルール説明しろって言っといたのに……!」

 マスターが頭を抱えながらぶつぶつと呟いてると、画面から聞き覚えのある声が聞こえた。

「私はちゃんと『元の身体に戻りたければ、同じ境遇の物を107人殺し、その身を我が物にせよ』と言いましたよ? 」

「それだけでルール全部わかるやつがいたら、呼んできてほしいねぇ、渡し人さんよぉ」

 マスターは柄の悪い口調になって画面の外を睨みつけていた。どうやら渡し人が近くにいるらしい。

「あのー、これってリアルタイムですか?」

「あ、うん、録音じゃそれぞれの質問に答えられないからね。おかげでここ3日ぐらい徹夜だよ……」

 それはご愁傷様です。……それ以外に何を言えと?

「じゃあ、このスマホは?」

「何というか……参加賞みたいなもんです。自由に使ってね」

 ……了解。って、そんなことより!

「今、渡し人のやつ、『107人殺し』とか言ってなかったか!?」

「あぁ、そこらへんはこれから説明するよ……」


ーーー


「まず、人狼くんが知っている『ラビッドファング』についての情報を聞かせてほしい。それによって説明のスタート地点も変わるから」

「え? えーと、まず『Rabidfang』ってのは英語で魔獣、って意味で」

「ごめん、言語としてのラビッドファングじゃなくて、ゲームの方の」

「わかってますよ。その単語が指す通り、プレイヤーは魔獣になって、他のプレイヤーと戦う。そうですよね」

「うん、正解。それから?」

「プレイヤーは『渡し人』から魔獣の力をもらっている。その力を発揮するには『デ・コード・魔獣名』と叫ばなければならない……ここまでですかね」

「おー、さすが実戦経験者。『渡し人』は今知ったばかりだとしても、そこまで知ってるなら上出来だよー」

 マスターが画面の中で拍手している。なんかよくわからないけど褒められてるようだ。

「じゃあそこからもう少し掘り下げたところから話をしていくね。プレイヤーは人狼くん含めて108人いて、それぞれ別の魔獣の力が与えられてます。先が5つに割れてる葉っぱみたいな痣がその証ね? あと、下手に一般人に見つかって実験動物とか見せ物にされたら困るので、半径20m以内にプレイヤー以外入れなくなる結界を張る玉も支給してます」

 スマートフォンの入っていた箱を調べると中に5つの白い玉が入ったプラスチックケースを2つ見つけた。たぶんあの時デブが地面に叩きつけていた白い玉と同じ物だろう。

「一般人はその中に行こうとしても、結界の影響で入ろうとした瞬間に行く意思をかき消され、発生時に範囲内にいた人は室内に引っ込んで、結界が消えるまで出てきません。それと戦ってる間に壊れちゃった物を終わった後に修復する機能もありまーす」

 なるほど、だから俺が叩きつけられた跡が岩壁に全くなかったのか。でも……

「ということは結界張ってる時でも、外の時間は止まらないのか?」

「全く、ってわけじゃないけど基本的にはそうだね。結界内をこの世界と切り離すために一瞬だけ止まるくらいかな」

 ふむ、それじゃあ時間を気にせず戦う、ってことはできないのか……。覚えとこ。

「あと、その結界玉、1缶空いたら勝手に郵送するから、気にせずがんがん使ってねー。というか使え」

 マスターが真剣な目でこっちを指差した。そんな念押しされなくても、もちろん使うに決まってるじゃないか。俺だって見せ物になりたくない。

「それで自分以外の107人と戦ってー、倒してー、その肉を喰らってー、最後の1人になったら優勝、魔獣の王の座を手に入れることができます。簡単でしょ?」

「……ちょっと待て」

 戦って、倒して、そこまではいい。最後の「喰らって」ってなんだ?

「何、って文字通りの意味だよ? 倒した相手を食う」

「でも俺喰われてないぞ、サイクロプス(あいつ)に」

 いや、もしかしたらあいつもルールを知らなくて、倒せばOKだと思ってそのまま帰ったのかも……でもあいつ確か「お前の肉、食わせてもらうぜ」とか言っていたような気も……

「何言ってんの。あそこまで一方的にボコボコにしてたくせに」

 え? 俺が、あいつを?

「うん。せっかくの開幕戦だもん、見逃すわけにはいかないからねー。すぐ近くの崖の上から見てたんだよ」

 そ、それじゃあ……

「俺は、あいつを、食った……のか?」

「うん」

「殺した……のか?」

「そうだよ、っていうかそうなるに決まってるじゃん」

 自分の頭から血がひいていくのを感じる。やってしまったのか……。無意識の内とはいえ、俺は……

 俺はふらつく足で立ち上がった。

「おーい、どこ行くの?」

「……適当に別のプレイヤー見つけて食ってもらう」

「ちょっと待てぇー! 話はまだ終わってないよー!! どうせ行くなら最後まで聞いてから行けー!!!」

 マスターが画面の中で慌てふためきながら大声で叫ぶ。……仕方ない、聞いてやるか。どうせ大した時間じゃないだろうし。

「何なんだよ……さっさと言え」

「えー、最後の1人になったプレイヤーにはなんと! 商品がございます。それは……」

 マスターの後ろで小刻みにドラムの音が聞こえる。もったいぶんな、俺はさっさと……

「どんな願いでも1度だけ叶えてあげる権利、です!」

 え……? 思わず俺はスマートフォンに向かって食らいつくように話しかけていた。

「おい、今なんて言った!」

「だーかーらー、どんな願いでも叶えてあげる、って言ってるんです。主催者から優勝者におくるビッグサプライズです」

「なぁ、それって、何でもいいのか?」

 マスターはゆっくりとうなづいた。

「もちろん。億万長者だって、不老不死だって、地球征服だって、宇宙の果てに行くことだって、人狼くんが望むならなんでも」

 なら……俺が望むのは1つしかない。

「お、目に光が戻ってきたね」

「当然だ」

 そんなウルトラCがあるなら話は別だ。

「とにかく、勝って、食えばいいんだな」

 マスターが満足そうに微笑みながらうなづく。

「そうそう。その調子だよ人狼くん。他に質問はあるかい?」

「いや、もうないぞ」

「そう。じゃあ頑張ってね。遠くからこっそり応援してるよ」

 そしてマスターは席を立った。おそらく彼が画面からフェードアウトすると自動的に連絡が切れる仕組みなのだろう。と、思ったら戻ってきた。言い忘れたことがあるらしい。

「あ、あとこれ未契約の物だから、いらなければブックオフとかにでも放り込んでいいからねー」

 その言葉を最後にマスターとの通信は今度こそ切れ、それと同時に「Rapidfang」のアプリも消えた。

「……わかってんじゃねぇか……」

 俺は着替え始めた。何をしに、って? 決まってるじゃないか。




 スマートフォンを売りにいくためだよ。

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