解けかけた符号
午後、簡易の休憩所。
調査のまとめが終わり、皆がそれぞれ椅子や壁にもたれて一息ついていた。
セリスは装置を机に置き、少しだけ眉を寄せていた。
ヴァルがその様子に気づく。
「どうした」
「……先ほどの揺らぎのことです」
「まだ気になるのか」
「はい」
装置の水晶に指を触れる。
「根の波長は安定しました。ですが……この数値の変化、どこかで見た気がして」
ヴァルは黙って聞いている。
しばらく考え込むセリス。
「あ……」
小さく声を漏らした。
「思い出しました」
「何をだ」
「リュシアンさんの研究メモです。あの暗号の一部に似ています」
ヴァルが少し目を細める。
「例のやつか」
「はい。あの時は完全には理解できませんでしたが……」
セリスは少しだけ悔しそうに笑う。
「今なら、解ける気がします」
そして立ち上がり、リュシアンのもとへ向かう。
⸻
リュシアンは窓際で、地図を見ていた。
気配に気づき、伏せていた長い睫毛の隙間から視線だけを向ける。
「どうした」
「少し、よろしいですか」
「構わん」
セリスはまっすぐ言う。
「以前の暗号の件です」
リュシアンの手がわずかに止まる。
「……あれか」
「はい。装置の波長と関連がある可能性があります」
「そうだろうな」
即答だった。
「やはりそうなのですね」
「気づいたか」
「はい」
少しだけ間。
「もう一度、教えていただけませんか」
リュシアンはしばらく、その美しいエメラルド色の瞳の中にセリスをおさめていた。
その目は、珍しく柔らかい。
「いいだろう」
セリスの表情が明るくなる。
「ありがとうございます」
「だが、すぐには無理だ」
「え?」
「資料を整理する。一度に教えた方が理解が早い」
「……はい」
「一週間後、時間を取る」
「はい」
「約束だ」
「約束です」
だが、その約束が守られることはなかった。
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