表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

すれ違い

森の中は、まだ朝の冷気が残っていた。

湿った土の匂いと、静まり返った空気。


単発の討伐依頼。

それほど難度は高くないはずだった。


だが。


「来るぞ」


ルカの低い声。


次の瞬間、藪が大きく揺れ、牙をむいた魔獣が飛び出した。


セリスは反射的に杖を構える。

いつも通りの距離。いつも通りの手順。


――のはずだった。


だが、詠唱がほんのわずかに遅れる。


「っ……」


自分でもわかる。

身体が、硬い。


前に出るべき瞬間を、ほんの一拍逃した。


ヴァルがその隙を埋めるように前に出る。

双剣が閃き、魔獣の攻撃を弾いた。


「遅い」


短い声。


責めているわけではない。

ただの事実の指摘。


それなのに、胸がざわつく。


「すみません」


思わず口に出る。


その声に、ヴァルの眉が一瞬だけ動いた。

だが何も言わない。


代わりにもう一歩踏み込み、魔獣の懐へ潜り込む。


刃が走る。


血飛沫。


だが、敵は一体ではない。


横から別の影が飛び出す。


「セリス、右!」


リュシアンの声。


セリスは即座に反応する。

魔力を解放し、拘束の術式を展開。


魔獣の動きが止まる。


だが、魔力の流れが少し乱れる。


リュシアンはその揺らぎに気づいていた。


(……硬いな)


視線だけを向ける。


セリスは必死に平静を保っている。

だが、わずかに呼吸が浅い。


ヴァルの背中を見ている。


その目に、緊張がある。


恐怖ではない。

だが、明らかに以前とは違う。


リュシアンは何も言わない。


踏み込めば、崩れる。


今はまだ、その段階ではない。


代わりに前へ出る。


剣が魔獣を切り裂く。


「大丈夫だ。続けろ」


静かな声。


励ましでも、慰めでもない。

ただの指示。


それが逆に、セリスの肩の力をわずかに抜いた。


「……はい」


その間にも、ヴァルは戦っている。


だが。


普段より、動きが鋭い。


鋭すぎる。


必要以上に前へ出ている。


ルカがそれを見て、わずかに目を細める。


「……やれやれ」


誰にも聞こえない声で呟いた。


戦闘は数分で終わった。


最後の一体が倒れ、森に再び静寂が戻る。


セリスは小さく息を吐いた。


手が、少し震えている。


それに気づかれないよう、杖を握り直す。


ヴァルは振り返らない。


双剣についた血を、無言で拭う。


沈黙。


重い空気。


レオが耐えきれずに口を開く。


「……今日は、ちょっと連携ズレてたな」


軽い口調。

だが視線は鋭い。


セリスの肩がわずかに揺れる。


ヴァルの手が止まる。


その空気を、ルカが切る。


「問題ない。立て直せる範囲だ」


そして、わざとらしく伸びをする。


「ほら、報告して飯だ。腹減った」


その言葉で、空気が少しだけ緩む。


だが。


誰も、本当の原因には触れない。


セリスはそっと視線を落とす。


リュシアンはそれを横目で見ながら、何も言わなかった。


そしてヴァルは。


拭き終えた双剣を収めると、

ほんの一瞬だけ、セリスの方を見た。


すぐに視線を逸らす。


その目に浮かんでいたのは。


苛立ちと――


後悔だった。



読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

毎週金曜日21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ