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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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209 いよいよ現実味を帯びてきた修学旅行

 給食の時間はどの班も修学旅行の話題で持ちきりだった。

 そのきっかけになったのは、朝の会で担任の前島先生が今日の予定の確認の話をしたことだった。5・6時間目の学活で修学旅行の初日の班行動の、京都の訪問先を最終決定すると発表した。

 この時、教室中が色めき立った。みんなの心の中でふわふわしていた修学旅行がいよいよ現実味を帯びてきたことを、ほとんどの児童が実感することとなった。


 この日の給食の献立は八宝菜だった。春巻きとたまごスープも付いて、白米のご飯で食べる組み合わせだ。

 藤城皐月(ふじしろさつき)は八宝菜を見て、江嶋華鈴(えじまかりん)の両親が中華料理の店をやっているのを思い出した。

 皐月は昼休みに児童会室で華鈴と会う約束をしているので、早く給食を食べてしまおうと気合が入っていた。だが、訪問先の話題で盛り上がると、教室を抜け出すことができなくなってしまうかもしれない。

「班長、どうしよう。どこに行くか、なかなか決まらないね」

「みんながあそこも行きたい、ここも行きたいと欲張り過ぎるからでしょ」

 修学旅行実行委員会の委員長として委員を率いている皐月は、ここぞとばかり班行動の班長を務める吉口千由紀(よしぐちちゆき)に甘えた。委員長になって初めてわかる、リーダーの後について行くだけでいい一般人の気楽さだった。

「モデルコースの中から選べばいいのよ」

 現実的な考え方をする栗林真理(くりばやしまり)らしい意見だ。ほとんどの班はモデルコースの中から選ぶらしい。


 班行動での行き先は児童の自由に決めてもいいとされている。だが、何もかも自由にしていいと言われると、最初のうちは児童は大喜びをするが、最終的には具体的にプランを作る段階で困る。

 それを見越して学校側は10通りのモデルコースを作成していた。モデルコースの作成は6年生の担任たちが過去の修学旅行の班行動のデータを参考にしたそうだ。各クラスの先生たちはあらかじめ全児童に訪問先の順路を詳細に書かれたプリントを配布していた。

「モデルコースは良くできていると思うけどさ、微妙に行きたくないところが混ざっているよね。なんかイマイチつまらんないんだよな……」

 せめて一カ所はミステリースポットに行きたいと主張し続けている神谷秀真(かみやしゅうま)は学校から提示されたモデルコースに不満がある。

「つまらないところなんてないでしょ。そこをつまらないって思うのは神谷さんの問題なんじゃない?」

 歴史が好きな二橋絵梨花(にはしえりか)にとって、京都の何もかもが興味深いらしい。自分の興味の対象外をつまらないという秀真のことにカチンときているようだ。このクラスやこの班に馴染んできたのか、いい子の見本のような絵梨花も負の感情を素直に出せるようになってきた。


 修学旅行初日の京都観光のルートを決めるにあたって、学校側はモデルコースの中から選ぶことを推奨している。だが児童の自主性を育むことも考えて、部分的に行き先を変更してもいいことになっている。

 もし児童が望むなら、観光ルートの何もかもを自由に決めてもよいが、そのかわり自分たちでタイムテーブルを作成して、先生の承認をもらわなければならない。

 班行動で京都を旅行できると聞かされた当初は、どの班も好き勝手なことを言い合って盛り上がっていた。皐月たちの班も大いに盛り上がり、議論が交わされた。

 その後、学校側から具体的な旅行プランを示されると、みんなの興奮が徐々に冷め始め、モデルコースを見ながら現実的に話し合いを行うようになってきた。

「とにかく絶対に行きたいところだけを決めようよ。ルートは僕が考えるからさ」

 鉄道オタクの岩原比呂志(いわはらひろし)が燃えている。班の女子たちから交通機関の知識を当てにされたのをきっかけに覚醒したようだ。守備範囲外のバスの路線図を見ているうちに、新たな世界が開けたと喜んでいる。

 最近では、比呂志と皐月は休み時間の短い時間のたびに、二人でバスの路線図を眺めて遊んでいる。


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