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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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208 恋愛感情の最上位は揺るがない

 修学旅行実行委員の藤城皐月(ふじしろさつき)は児童会室にあるコピー機にメモリーカードを差し込んだ。修学旅行の資料をプリントアウトしている間に、委員長の皐月は昨夜思いついたしおり作りのアイデアを副委員長で児童会長の江嶋華鈴(えじまかりん)に話した。

 それはしおりに書かれている全ての規則に一行ずつ理由を書くということだ。そうすればみんなが納得してルールを守ってくれるんじゃないか、という考えも伝えた。

「それ、とてもいい考えだと思う。でも大変だよね、全部の規則の理由を考えるのって。あと、ページ数が増えちゃうことを先生がどう思うかだな」

「それは俺も思って、実際どれくらい理由を考えなきゃいけないかって数えてみたんだ。だいたい30個くらいだったかな。この程度ならなんとかなる。ページ数は2ページ増える程度だ」

「それに観光ガイドの作成で、アンケートを取るでしょ。これって結構なページ数になると思うんだよね」

「フォントを小さくして、なんとか2ページくらいに詰め込むか……。でもあんまり字が小さくなると見づらいよな……。これは水野さんと相談しながら考えるしかないかな。でもそんなこと心配するくらいなら、ページ数の制限があるかどうか、北川先生に聞いてみた方がいいかも……」

 華鈴と目が合った瞬間、皐月は拝むように両手を合わせた。ここは華鈴に甘えてしまいたい。

「そうね……。じゃあ、それは私が北川先生に聞いておくよ。たぶんしおり作りの予算なんて決めてないと思うし、ページ数が増えたところで数百円程度だから、増ページは大丈夫だと思う」

「お〜っ、さすがは児童会長!」

「で、規則の理由は誰が考えるの?」

 皐月はこのアイデアを思いついた時点で、華鈴に負担をかけないために自分が全部引き受けるつもりでいた。

「俺が全部考えてもいいけど」

「藤城君って、すぐに自分だけでやろうとするよね。そういうの、あまり良くない。みんなから意見を募るほどでもないから、私たちだけで決めちゃおう。2ページ増える程度なら、すぐに終わりそうだし」

 規則の理由を考えるのは皐月と華鈴の共同作業になった。華鈴と二人で仕事をすると思うと、少しドキドキする。


 児童会室での用事が終わり、皐月が教室に帰ろうとすると華鈴に引き留められた。

「ねえ、昨日の女の人って芸妓(げいこ)の人?」

「そうだよ」

 華鈴が明日美(あすみ)のことを何も聞いてこなかったので、皐月は少し気を抜いていた。華鈴を先に家に帰して、明日美と恋仲になっていたことに後ろめたさを感じていたからだ。

「そうか……あの人は芸妓なんだ。あんまり美人だったから、びっくりした」

「あの人はね、特別なんだ。他の芸妓さんはあんなに美しくはないんだけどね」

「藤城君、芸妓さんと普通に話していたよね。なんかすごいね……」

「別にすごくないって。だって俺の親も芸妓なんだぜ。まあ環境だよな、育った。江嶋が昨日会った人は明日美っていうんだけど、俺は昔から明日美にはかわいがられていたんだ」

「そうなんだ……」

「江嶋が帰っちゃったから、ちょっと気になってたんだ。やっぱり知らない大人に、いきなり寄ってけって言われても無理だよな」

 皐月が気にしていたのはそこではない。華鈴といい感じになっていたところで他の女のところへ行ってしまったことを悪いと思ったのだ。

 こんな風に話をミスリードするのは気が引けた。だが、自分の複雑な感情を封じ込めるためには、わかりやすいストーリーを作って信じ込ませたい。


「明日美さんが綺麗すぎて、ちょっと怖かった。ごめんね、先に帰っちゃって」

「いいって、そんなの。気にすんな」

 皐月は明日美が華鈴を厄介払いしたことに気付いていた。知っていて華鈴を先に帰したんだから、悪いのは自分の方だ。だから昨日からふとした瞬間に華鈴のことを思い出し、罪悪感に苛まれていた。

 こんなに素直に誘導に乗る華鈴のことが哀れだった。皐月は華鈴のことを好きになりかけていたので、華鈴のことを気にし続けていたせいで、今まで以上に華鈴のことを愛おしいと思ってしまった。だが恋愛感情の最上位は明日美で揺るがない。

「中休みが終わるから、もう教室に戻ろう」

「うん。続きは昼休みね。修学旅行までは休み時間が全部仕事で潰れちゃいそうだね」

「そうだね。でも江嶋と一緒に仕事をするのは楽しいからいいや。全然苦にならないよ」

「よかった……」

 二人は揃って児童会室を出た。6年生のフロアに上がる階段の途中でチャイムが鳴ったので、皐月と華鈴は慌ててダッシュをした。6年1組の教室の前で華鈴と別れる時に思い出すように言われたことがこれだった。

「藤城君、もしかして昨日より背が伸びた?」


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