第三十二話 奇跡の舞姫
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。アメジストの戦士黒崎真理紗は依乃里と和解するため二人きりで向き合うことを決める。そして依乃里と真理紗の二人は社交ダンスや食事、戦いを交えながら互いに言葉を交わす。真理紗は正義の使命に囚われるあまり善と悪以外の感情に目を向けられなくなっていたことを指摘する依乃里だったが、真理紗は理解しつつも今までの自身の行動を否定するような気がして受け入れられずに依乃里とぶつかってしまうのだった。
「……依乃里ぃぃぃぃぃぃぃ!」
「真理紗ぁぁぁぁぁぁぁ!」
依乃里が姿を変えたローズレーザーと真理紗が姿を変えたブラックチャームは互いの名前を叫びながらレーザー銃の引き金を引く。しかしレーザー光線が互いを直撃しそうになった瞬間、二人は首を傾げて避ける。
「……やはり避けるわよね。」
「侮ってもらったら困るよ。」
ブラックチャームはローズレーザーが自身の放ったレーザー光線を避けることを確信していた。だからこそ放った攻撃だった。それはローズレーザーも同じことだった。そしてブラックチャームはローズレーザーにあることを尋ねる。
「桜間依乃里、あなたがブラクスを庇った時どんな気持ちだったの?」
ブラックチャームが尋ねたのはローズレーザーがブラクスを庇った時の気持ちだった。ブラックチャームは曲がりなりにも悪の組織の幹部であるブラクスを庇うことが正しいこととは思えなかった。しかしその時のローズレーザーから悪意を感じなかった。ブラックチャームはその感情が気になっていた。
「美李宇が言っていたわ、あなたがしたことは善意でも悪意でもなくて『優しさ』だって。」
「うん、あの時の私はその行動が正しいかどうかなんてどうでもいいと思っていた。ただダークサイレンスの目的に反抗したブラクスを倒すわけにはいかないと思った。もしそれを『優しさ』だって言うのならそうかも知れない。」
ローズレーザーはただブラクスを庇いたいという気持ちだけで庇っていた。そしてそれが「優しさ」だということも認める。
「……面白いわね、桜間依乃里。」
「え?」
ブラックチャームはローズレーザーの言葉に思わず微笑んでしまう。ローズレーザーはそれに少し戸惑っていた。
「桜間依乃里、あなたは今まで正義の戦士というには正しいことをして来なかった。いいえ、寧ろ間違ったことばかりだったかしら?」
「余計なお世話だよ。」
「でも、あなたからは悪意なんて一切感じなかった。ずっとあなたは正義だからだとか相手が悪だからだとかそんなことは関係なくその純粋な気持ちだけで戦っていたのね。」
ブラックチャームは微笑みながら語る。ブラックチャームはローズレーザーが善や悪とは関係なく純粋な気持ちだけで戦っていたことを悟っていた。
「真理紗、だからこそあなたの行動が間違っているとも思えた。正義の使命に囚われるあまり大事な人のことを考えていないあなたの行動が。」
「そう、確かに私はあなたの言うように寂しい想いをさせていたわね。それは認めるわ。」
ローズレーザーは純粋な気持ちだからこそブラックチャームの行動が間違っていると思っていた。それはブラックチャームも遂に認めるところではあった。しかしブラックチャームはローズレーザーに蹴りかかる。
「でもあなたの純粋な気持ちがどこまで本物なのかしら?」
「どういうこと?」
ローズレーザーはブラックチャームに応戦しながらその言葉に疑問を抱く。
「私はどうしても信用できない、あなたの純粋な気持ちというものが。あなたは戦いのためにダンスを始めた。つまりあなたはダンスをただの戦いの道具だと思っているはずよ。今まで私を大会で優勝するためのパートナーとしか見なかった人達のように!」
ブラックチャームはどうしてもローズレーザーを信用できなかった。それはローズレーザーが社交ダンスを戦いの道具としか考えていないという疑念から来るものだった。そしてブラックチャームは再びローズレーザーにレーザー光線を放つ。
「真理紗!私はそんなことを考えていない。」
ローズレーザーはそう言ってブラックチャームの放ったレーザー光線を直に受けて弾き飛んでしまう。そしてローズレーザーは地面に倒れ込んでしまう。
「真理紗、最初はダンスなんて苦手だし戦いなんてなかったら絶対やってなかったと思う。でもダンスをやっている内に真理紗が本当に上手いんだなって思った。こんなに奥が深いものなんだって気付いたよ。だから真理紗にダンスを褒められた時は本当に嬉しかった。」
ローズレーザーは倒れながらもダンスへの思いを語る。ローズレーザーは戦いに巻き込まれてからダンスを始めたが、次第にダンス自体に向き合うようになったという。そしてローズレーザーは立ち上がりブラックチャームを見つめる。
「約束するよ真理紗、戦いが終わっても私はダンスを続ける。きっと戦いが終わったら、ダンスが私達を繋ぐ絆になるから。」
「桜間依乃里、まさか私と絆を結びたいと言うの?」
「当然だよ。真理紗はずっと掴みどころがなくて、独り善がりで、全然考えていることが合わなかった。でも私は、最初からずっと真理紗と友達になりたいと思っていたんだから。」
ローズレーザーはブラックチャームにダンスを続けることを約束する。ブラックチャームはローズレーザーが自身と絆を結びたいと考えていることに驚くが、ローズレーザーはブラックチャームに歩み寄りながらずっと友達になりたかったと語る。そしてローズレーザーはブラックチャームの顔を両手で優しく挟み、キスをする。
「ん⁉」
「ガッ⁉」
「ニャッ⁉」
ブラックチャームはローズレーザーの突然のキスに驚いてしまう。そして近くでずっと戦っていたパッショネイトレオンとジェントルピューマもその光景に目を見張ってしまう。
「な、何をするのかしら?」
「友情のキスだよ。真理紗だって私と初めて出会った時にキスしたじゃん。」
ブラックチャームは思わずローズレーザーを突き放してしまう。そして戸惑いながら尋ねるブラックチャームにローズレーザーは微笑みながら答える。
「……どこまでも面白いじゃない。」
ブラックチャームは真理紗の姿に戻り、呟く。ローズレーザーも依乃里の姿に戻り、真理紗を見つめる。
「あなたの純粋な気持ちに負けたわ。」
「私達、本当の意味で一緒に戦えるんだよね?」
「勿論よ、あとはノイジアスを倒すだけね。」
依乃里と真理紗は見つめ合い、言葉を交わす。二人は遂に本当の意味で和解したようだ。そして二人の元に仲間である蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花、上部芽里音、祭田美李宇が駆けつける。
「依乃里さん!」
「いのりっち、お疲れ!」
「お疲れ様です!」
「真理紗もお疲れ様ですわ。」
「な〜んかスッキリした感じじゃん。」
皆は依乃里と真理紗の二人を労うと同時に、二人の解放されたような微笑みを見る。
「ええ、今日を持って交戦協定は終わりよ。」
「これからはみんなで戦えるね。」
依乃里と真理紗は交戦協定を終わらせることを告げる。そしてその場にいた全員が笑みを浮かべる。
「じゃあいのりっち、真理紗、これから話したいことがあるんだ。」
「何?桐菜ちゃん。」
「何かしら?」
依乃里と真理紗がもう敵対しないことを知った桐菜は、真剣な面持ちになり二人に話す。そして皆は四年前のルビーの戦士、桃井剣二が代表を務める桃井テクノロジーに移動するのだった。
「ノイジアスが人間界に来る⁉」
「遂に動き出したようね。」
依乃里と真理紗は自分達が戦っている間にノイジアスが直接人間界に出向くことを宣言していたということを知る。
「ノイジアス様は俺を狙っている。俺が外出なんかしたばかりに……。」
「何を言っているんだよブラクス、お前がノイジアスを警戒しながら過ごすことないって。」
ブラクスはノイジアスが自身を狙っていることを明かし、申し訳なさを感じる。しかし四年前のサファイアの戦士である浦賀輝弓がブラクスを励ます。
「とにかく、ノイジアスはブラクスを狙っているということなんだよね?」
「そうなんです、ノイジアスはどうしてもブラクスをダークサイレンスに連れ戻したいみたいで……。」
依乃里はノイジアスがブラクスを狙っていることを理解する。雨幸もノイジアスがブラクスを連れ戻そうとしていると答える。そして真理紗はその話に納得した様子を示していた。
「まあ、ノイジアスがブラクスを連れ戻そうとしているのも無理はないわね。」
「それって、どういうことですか?」
真理紗はノイジアスがブラクスを連れ戻そうとしていることについて何か知っている様子だった。風布花が真理紗に尋ねる。
「悪の組織のトップに当たる怪物は人間界を侵攻する完全な存在となるために生み出した幹部を全て取り込まなくてはならないの。残る幹部がブラクスだけとなると、ノイジアスがブラクスを狙うのも合点がいく話ね。」
「なるほど、ノイジアスがブラクスを執拗に狙う訳だわ。」
真理紗が明かしたのは悪の組織のトップに当たる存在についての秘密だった。ノイジアスを含む悪の組織のトップは完全体となるために幹部を全て取り込む必要があった。それを聞いた桐菜はノイジアスがブラクスを狙う理由に合点がいく。
「もしノイジアスが完全体になったら、凄く強いのかな……?」
依乃里はノイジアスが完全体になることを不安に感じてしまう。しかし真理紗は余裕を持った様子だった。
「何を言っているの?ブラクスがノイジアスの所に戻らない今こそがノイジアスを倒す絶好の機会じゃない。今の私達なら必ず勝つわ。」
真理紗はノイジアスが完全体になる前に倒すことを考えていた。真理紗は全員が団結した今ならノイジアスに勝てると信じていた。
「そうだよね、今こそノイジアスを倒す時だよね。」
「私達ならきっと勝てます。」
「さっさと倒しちゃおうよ。」
「はい。」
依乃里、雨幸、桐菜、風布花の四人もノイジアスを倒そうと意気込む。
「よし、今日はもう遅い。戦いは明日にでも起きるかも知れないんだ、帰った方が良い。」
意気込む皆に、桃井剣二は帰るよう促す。気が付けばもう夜更けになっていた。
「そうですね、ありがとうございます。」
依乃里は剣二にそう答え、皆は解散するのだった。
「真理紗、何か忘れていませんこと?」
「そうだよ真理紗、大事なことを忘れているよ。」
「何かしら?」
帰り際、芽里音と美李宇は真理紗にふと尋ねた。しかし真理紗はその抽象的な質問に何もピンと来なかった。
「真理紗が桜間依乃里と和解したということは、社交ダンス教室に戻る決心をしたということですわよね?」
「あ……。」
芽里音が言ったのは真理紗が社交ダンス教室に戻ることを決めたということだった。
「さあて、それなら早速社交ダンス教室に直行しようか。」
「ちょっと、待ちなさい。」
真理紗は渋るが、芽里音と美李宇が無理やり真理紗を社交ダンス教室に連れて行くのだった。
「着いたよ真理紗。」
「さあ、嘗ての友と再会の時ですわ。」
「本当に行くの?」
三人は社交ダンス教室の前まで来ていた。しかし真理紗は未だ行くことを躊躇っていた。
「当然ですわ。戦いを終える前に顔を見せる、それこそが桜間依乃里と和解した証になりますわ。」
「今までの孤独な戦いにさよならってね。私達は戦士である前に一人の人間なんだから。」
芽里音と美李宇はあくまでノイジアスとの戦いの前に再会することに拘っていた。
「そうと決まれば早速行こう!」
「善は急げですわ。」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。」
そして再び二人は真理紗を連れて行こうとするが、真理紗はそれでも躊躇っていた。
「わかっているわ、今再会をしなければならないことくらい。でもまだ心の準備が……。」
「ほら早く!」
「行きますわよ。」
真理紗は四年間も行方を眩ませてきた結果、どんな顔をして会えば良いのかわからなくなっていた。そんな真理紗を無理やり連れ、芽里音と美李宇は社交ダンス教室に入る。
「おっ邪魔っしま~す!」
「お邪魔致しますわ。」
「え、芽里音さんに美李宇さん?」
社交ダンス教室の講師の女性は突然訪問してきた芽里音と美李宇の姿に驚く。そして二人の後ろにいる真理紗を見つける。
「……真理紗?」
「……再会はもう少し、余裕を持ってしたかったけどね。」
真理紗は少しすかした態度を見せるが、講師の女性の目には涙が浮かんでいた。
「真理紗!」
女性は思わず真理紗に抱きつく。そして真理紗もそれに応えるように女性を強く抱き締める。
「今まで寂しい思いをさせて悪かったわ。私はダンスを楽しみたいという自分の欲望までもが悪意に思えて仕方なかった。でもその欲望は悪意ではなかったと理解したわ。こんな私でも受け入れてくれるかしら?」
「当たり前でしょ。真理紗はいつも明るく冗談交じりで振舞ってて、ダンスに真剣だった。私はずっとダンスが好きな真理紗にいて欲しいと思ってるんだから。」
真理紗は今まで悪意に満ちた己の醜い姿を、戦いが終わるまで見せられないという理由で行方を眩ませていた。しかしダンスを追い求める欲望が悪意ではないと理解した今、行方を眩ませる必要もなくなっていた。そして社交ダンス教室の講師の女性もまた真理紗を受け入れていた。真理紗は講師の女性の目を見つめ、真剣な眼差しで話す。
「これから私達は最後のやらなければならないことをしに行くわ。これで四年間ずっと続いてきたものも終わる。そうしたらまたここでダンスをしてもいいかしら?」
「うん、四年間も待ったんだもん。ずっと真理紗を待ってるよ。」
「流石、私の親友ね。」
真理紗は戦いのことを直接的に言わず、講師の女性に事情を話す。講師の女性も何となくは察しているようで、真理紗を送り出す覚悟を決めていた。そして真理紗は芽里音、美李宇と共に社交ダンス教室を後にするのだった。
一方その頃、依乃里は風布花を家まで送っていた。
「ねぇ風布花ちゃん。」
「はい。」
「風布花ちゃんはこういうの、二回目なんだよね?」
「……まあ、そうですね。」
依乃里は風布花にふと尋ねる。風布花は四年前にダークストーリーズのトップであるママーハハとの戦いに備えた前夜を迎えていた。
「あの時も、いつ戦いが起こるかわからない夜を過ごしていました。」
「そっか、そうだよね……。」
依乃里は風布花がもう一度決戦への緊張感を持つことになったことを少し可哀そうに感じていた。そんな時、二人の前に四年前のダイヤモンドの戦士である桜名美姫が現れる。
「二人共。」
「「美姫さん。」」
依乃里と風布花は美姫の姿に少し驚く。
「風布花ちゃん、お母さんが心配してたよ。帰りが遅いって。」
「あ、すみません……。」
「まあ、私も桃井から話は聞いているから説明はしておいたよ。」
美姫は風布花の母親から帰りが遅いと連絡を受けていた。風布花は戦いや色々なことがありすっかり母親に連絡を入れるのを忘れていた。
「私のせいです、美姫さん。私が真理紗と話をつけるのに時間を掛けてしまったせいで……。」
「大丈夫だよ、依乃里ちゃん。真理紗とのことはじっくり時間を掛けなきゃいけないことだったし。」
「ありがとうございます……。」
依乃里は風布花の帰りが遅くなったのは自分の責任だと言うが、美姫は真理紗と和解することを知っていたので責めなかった。
「風布花ちゃんのお母さんが晩御飯作ってくれるみたいだからみんなで食べよう。」
「そうですね、美姫さん。」
「すみません、御馳走になります。」
そして美姫は風布花の母親が夕食を作ってくれると話し、皆で風布花の家へ行くのだった。
「風布花、ボランティアの活動も良いけどあまり心配を掛けないでね。」
「ごめんなさい、お母さん……。」
風布花の母親は風布花を少し叱るが、その後は何事もなく依乃里と美姫にも夕食を振る舞っていた。
「それにしても依乃里さんでしたっけ?風布花が随分とお世話になっているみたいで。」
「いえ、私の方が風布花ちゃんに助けてもらってばかりで……。」
風布花の母親は依乃里に感謝していた。思えば風布花は再び戦士になってから依乃里らと共にいることが多くなっていた。
「これからも付き合いはあるかも知れませんが、宜しくお願いしますね。」
「あ……、はい!こちらこそ。」
依乃里は風布花の母親からの言葉に思わず意気込んでしまう。そして美姫と依乃里の二人は食事を終えた後、玄関に行って風布花に別れを告げる。
「じゃあ風布花ちゃん、今日はゆっくり休んで。」
「ありがとうございます、美姫さん。」
美姫は風布花に労いの言葉を掛ける。その言葉に嬉しくなった風布花は、美姫の前で目を瞑り唇を尖らせる。
「んー♡」
「ちょ、ちょっと風布花ちゃん。依乃里ちゃんもいるんだよ。」
「いいじゃないですかちょっとくらい。明日には会えないかも知れないんですよ。」
美姫は少し照れたように風布花を注意する。しかし風布花は美姫に会える時間を噛み締めているようだった。
「大丈夫だよ風布花ちゃん。四年前も世界を守れたんだから今回もきっと大丈夫。またいつでも会えるよ。」
「はい……。」
美姫は風布花を元気づけるように言う。しかし風布花はどこか寂しそうだった。
「何か寂しそうだね風布花ちゃん。」
「依乃里さん?」
依乃里は風布花の寂しげな様子を察し、風布花の頬にキスをする。
「ひゃっ⁉依乃里さん?」
「ちょっと、依乃里ちゃん?」
「いや、さっきキスしてほしそうだったので流石に口はまずいかなと思いますけど頬なら大丈夫かなって。」
依乃里は風布花が美姫にキスをねだっているように見えたのでキスをしたようだった。しかし風布花は少し不貞腐れてしまう。
「あれ、嫌だった?」
「別に、そんなことないですけど……。」
「ま、まあ依乃里ちゃん。今日のところはもう帰ろうか。」
「あ、はい……。」
美姫は風布花の様子を察し、慌てて依乃里を共に風布花の家を出るのだった。しかし依乃里には風布花の気持ちが今一つわからなかった。
一方その頃、雨幸は桐菜の家を訪れていた。依乃里と美姫が風布花の家でご馳走になったのと同じく、雨幸も桐菜の家で桐菜と桐菜の母親と食卓を囲んでいた。
「あの、ご飯も頂いちゃって申し訳ございません……。」
「いえ、ご心配には及びません。」
「そうだよゆっきー、ここはママに甘えちゃっていいんだから。」
「ありがとう桐菜ちゃん……。」
雨幸は桐菜と母親に感謝する。思えば雨幸は今まで他人の家でご馳走になる機会などなかった。
「ところで雨幸さん。」
「あ、はい。」
「あなたは本当に桐菜さんとお付き合いをされているという認識で宜しいのですね?」
「あ、はい……。」
食事中、桐菜の母親がふと気になったのは雨幸が桐菜と付き合っているということだった。雨幸もあまり覇気のない声ではあるが頷いて認める。
「ちょっとママ、この前ちゃんと挨拶したじゃん。」
「ええ、しかし桐菜さんが女性とお付き合いをされているということが中々実感の湧かない話なので。」
「今は多様性だよ。私が女の人と付き合ってもいいじゃん。」
桐菜の母親は桐菜と雨幸が女性同士で付き合っているということに実感が湧かなかったようだが、桐菜は多様性だと説く。
「まあ、桐菜さんも人並みに恋愛をする年頃。稽古に差し支えなければ多少は大目に見てあげます。」
「ありがとう、ママ。」
「こ、これからもお願いします。」
桐菜の母親は桐菜と雨幸の交際を改めて受け入れ、雨幸もまた桐菜を幸せにすると心に誓うのだった。
風布花の家を出た後、美姫と依乃里は二人で真夜中の道を歩いていた。
「依乃里ちゃん、ずっと黙ってるね。」
「え、あっ、ごめんなさい。」
「いいよ、四年前もみんなそうだったから。」
美姫は依乃里の口数が少なくなっていることを指摘する。慌てて謝る依乃里だったが、美姫は四年前の戦いのことを思い出していた。
「四年前のママーハハとの戦いの前はみんな不安だったな。あの時はエメラルディア様も命を落としてて桃井達の指輪も壊されたから戦士も結構減っちゃったんだよね。」
「そうだったんですか。何か、私達よりも大変だったんですね……。」
美姫は四年前の戦いで戦士を減らされていたことを明かす。依乃里は美姫達も大変な思いをしていたことを聞き、少し安心していた。
「もし私達がノイジアスを倒して世界を守ったとしても、また新しい悪の組織が現れるんですよね。」
「うん、でもきっと依乃里ちゃんみたいな真面目で純粋な子が戦士になってくれるのかなって思ったらちょっと安心かな。」
「そんな、私は別に真面目でも純粋でもないです……。」
「そんなことないよ。依乃里ちゃんがダイヤモンドを受け継いでくれて本当に良かったと思っている。」
「ありがとうございます、美姫さん……。」
依乃里はふと悪の組織が再び現れることを危惧するが、美姫は純粋な依乃里がダイヤモンドの戦士になったことであまり心配していなかった。謙遜する依乃里だったが、美姫は依乃里が真面目で純粋だと話す。
「依乃里ちゃん、世界の命運を握っているかも知れないけどみんなのことを信じていればきっと勝てるよ。」
「はい。美姫さん達から受け継いだ力、しっかり繋いでみせます。」
依乃里は美姫にダークサイレンスを倒すことを誓い、解散するのだった。
そして翌日、この日は朝から不穏な空気が漂っていた。まだダークサイレンスの放つ騒音こそなかったものの、もう朝になっているにもかかわらず空が黒い雲に覆われ暗くなっていた。
「おい、これは……。」
「ああ、四年前と同じだ。」
「まさか、ノイジアスが動き出すというのか。」
剣二、輝弓、そして四年前のシトリンの戦士である金山依斧は四年前のママーハハとの最終決戦の時を思い出していた。そして同じようにノイジアスが来ることを察する。
「ノイジアス様は本格的にこの世界を侵攻するつもりだ。そのために俺を取り込むはずだ。」
ブラクスもノイジアスが来ることを察していた。
「そろそろノイジアスが来てもおかしくねぇ、戻るぞ。」
「ああ、ノイジアスが来たら騒音が出るからな。」
ノイジアスが来ることを察知していたブラクスは剣二達に、オフィスに戻るよう促す。そして一同はオフィスに戻るのだった。
「今日こそブラクスを俺の中に取り込み、この世界を侵攻してやる。」
そして遂にノイジアスが動き出す。巨体を携えて現れたノイジアスは常人では立っていられない程の騒音を出す。
「来た!」
依乃里は周りの人達が倒れ込むのを見てノイジアスの出現を察する。そして依乃里はノイジアスの元に急ぐ。
「みんな!」
「依乃里さん!」
「いのりっち!」
依乃里が駆けつけた先には雨幸、桐菜、風布花、真理紗、芽里音、美李宇の六人がいた。
「遂に現れたわね、ノイジアス。」
「それにこの不穏な空、本気ですわね。」
「こっちも本気で行かなきゃいけないよね。」
真理紗、芽里音、美李宇の三人はいつになくノイジアスに警戒し、真剣な様子だった。
「依乃里さん、今こそ全員の力を合わせる時です。」
「風布花ちゃんのいう通りです。これが私達の最後の戦いです。」
「さっさとノイジアスを倒して、平和な世界にしちゃおうよ。」
「うん。」
風布花、雨幸、桐菜の三人も全員で力を合わせようと意気込んでいた。
「じゃあみんな、行くよ!」
そして依乃里、雨幸、桐菜、風布花の四人が先を急ごうとした時、真理紗が引き留める。
「待ちなさい。」
「何?真理紗。」
「最後に私達全員でノイジアスに立ち向かうもの、名乗ってやろうじゃない。」
「名乗る?いつも名乗ってるじゃん。」
「そうじゃなくて、私達の名前よ。」
「もしかして、チーム名ってことですか?」
「考えてたんだ。」
真理紗は今までなかったチーム名を考えていたようだった。それをノイジアスの前で名乗ろうと提案したのだ。
「ええ、最高の名前を考えましたわ。」
「カッコいいよ~。」
芽里音と美李宇も真理紗と共に考えていたようだ。そして皆は円陣を組んでチーム名を聞く。
「なるほど……。」
「いいですね。」
「本当にちょっとカッコいいじゃん。」
「四年前と同じセンスですね……。」
チーム名を聞いた皆は思い思いの感想を抱いていた。そして皆はノイジアスの元に行くのだった。
「ハハハハハ!出てこいブラクス!今こそダークサイレンスの天下だ!」
ノイジアスは街を攻撃しながら暴れ回っていた。そこに七人の女性が横並びで歩いて来る。
「ん、またお前らか。」
「そこまでだよ、ノイジアス!」
「今日こそ年貢の納め時よ!」
七人の姿を見たノイジアスに、依乃里と真理紗が啖呵を切る。そして依乃里、真理紗、芽里音、美李宇の四人がそれぞれのパートナーを呼び出す。
「レオン!」
「ピューマ!」
「イーグル!」
「ゴリちゃん!」
それぞれのパートナーに呼ばれ、パッショネイトレオン、ジェントルピューマ、エレガントイーグル、チアフルゴリラが駆けつける。四人は右手の指輪を翳し、パートナーを獣人の姿にする。
「みんな、行くわよ!」
そして真理紗の言葉と共に、七人はそれぞれのフラヴァイスを取り出し、一斉に開いて口元に持って行く。
「バラ!ダイヤモンド!パソドブレ!」
「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」
「サクラ!ガーネット!日本舞踊!」
「カーネーション!パール!チャールストン!」
「パンジー!アメジスト!タンゴ!」
「マーガレット!アクアマリン!ワルツ!」
「ダリア!ラピスラズリ!サルサ!」
七人はそれぞれのフラヴァイスに叫び、フラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
「踊ります!」
「踊っちゃうよ!」
「踊ってみせます!」
「踊るわよ!」
「踊りましょう!」
「踊っちゃおう!」
そしてフラヴァイスから流れる音楽に乗せて七人の女性と四人の獣人はそれぞれダンスを踊る。次第に七人の女性は戦士へとその姿を変える。
「情熱の舞姫、ローズレーザー!」
「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」
「美麗の舞姫、チェリーエッジ!」
「軽快な舞姫、レッドライテスト!」
「魅惑の舞姫、ブラックチャーム!」
「優雅な舞姫、グレイスロード!」
「陽気な舞姫、フェスティブレイド!」
七人がそれぞれの個人名を名乗ると、息を合わせて構える。そしてローズレーザーが勢いよく叫ぶ、
「私達、奇跡の舞姫!」
「「「「「「「ミラクルダンスプリンセス!」」」」」」」
ローズレーザーの言葉に続いて、七人はミラクルダンスプリンセスと名乗り、ポーズを決める。
「ミラクルダンスプリンセスだと?そんなこけおどし、俺に通用すると思うか?」
「こけおどしなんかじゃない!私達が情熱のメロディー、響かせてあげる!」
「警戒なステップに、ついて来られますか?」
「魅惑のムーヴに、酔いしれて朽ち果てなさい。」
挑発するノイジアスにローズレーザー、レッドライテスト、ブラックチャームの三人は挑発し返す。そして七人の戦士と四人の獣人はノイジアスに向かって走り出すのだった。
「「「「「「「はぁぁ!」」」」」」」




