第十六話 変態ライオン、頬を赤らめる
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。依乃里は謎の女性、黒崎真理紗からいわれた「運命の人」という言葉が気になっていた。そして依乃里は真理紗から改めて自身が戦士の中でも産まれ持った運命を持っていると聞く。一方真理紗は上部芽里音、祭田美李宇と共に蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花に戦いを挑む。その光景を見た依乃里は自身のパートナーであるパッショネイトレオンを戦いの場に飛び込ませるのだった。
「ガー!」
獣人形態と化したパッショネイトレオンは勢いよく一同が戦う場に飛び込み、その中心に着地する。
「ガルルルル……。」
パッショネイトレオンは唸りを挙げ、周りを見渡しながら睨みつける。
「レオン?」
「何故私達にまで鋭い視線を?」
チェリーエッジとベリースパークラーはパッショネイトレオンの鋭い視線に疑問を感じる。しかしパッショネイトレオンは周りを気にすることなく暴れ回る。
「ウガーーーー‼」
「ちょ、レオン!」
誰彼構わず攻撃するパッショネイトレオンに一同は翻弄されてしまう。
「全く、パートナーに似たのか中々に横暴なモンスターとなっているわね。ピューマ!」
ブラックチャームはパッショネイトレオンの暴れぶりに呆れ、ジェントルピューマを戦わせる。
「イーグル!」
「ゴリちゃん!」
グレイスロードとフェスティブレイドもそれぞれエレガントイーグル、チアフルゴリラをパッショネイトレオンに仕向ける。パッショネイトレオンは三体のモンスターを相手に戦うこととなった。
「みんな!」
「「依乃里さん!」」
「いのりっち、何でレオンがここに?」
依乃里はパッショネイトレオンが戦っている隙にベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストの元に歩み寄る。チェリーエッジは依乃里にパッショネイトレオンが戦いの場に来た理由を尋ねる。
「えっと、レオンが急に飛び出して後を追いかけたらここに……。それよりも何で真理紗達と戦っている訳?」
依乃里はパッショネイトレオンを追いかけて来たと話すが、依乃里にとっても皆が戦っていることが疑問だった。
「真理紗さんが自分達と一緒に失踪するよう言ってきて……。」
「なるほどね。真理紗は私達が同意するとは思ってないはずだから、きっと完全に袂を分かつために言ってきたんだ……。」
ベリースパークラーが理由を話し、依乃里は真理紗の思惑を察する。しかし依乃里がそんなやり取りをしている中、パッショネイトレオンは三体のモンスターを相手に苦戦を強いられていた。
「ウガー!」
「レオン!」
三体のモンスターからまるでリンチのように攻められ、唸りというよりも悲鳴に近い声を出すパッショネイトレオン。それを依乃里は黙って見ていられなかった。依乃里はパッショネイトレオンの元に走り、庇うように戦う。
「ちょっとあんた達、レオンに何するの⁉」
依乃里はローズレーザーになれないながらも必死にパッショネイトレオンを守る。しかし三体のモンスターの猛攻は凄まじく、依乃里はパッショネイトレオンを攻撃しようとするジェントルピューマの爪を背中に受けて大きな傷を負ってしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ウガー!」
依乃里は思わず声を荒げてしまい、パッショネイトレオンも驚いてしまう。
「レオン……。」
「ガー……。」
依乃里はパッショネイトレオンに抱きつき、そのまま倒れ込んでしまう。パッショネイトレオンは自身を守ってくれた依乃里に心が揺らぎつつあった。
「「依乃里さん!」」
「いのりっち!」
ベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストの三人は依乃里の惨状に叫んでしまう。
「真理紗、戦いはここまで!いのりっちが傷ついた!」
「そう、わかったわ。」
チェリーエッジは慌ててブラックチャームに停戦を促す。ブラックチャームは特に表情を変えることなくそれを聞き入れ、戦いの手を止める。
「芽里音、美李宇。戦いをやめるわよ。」
「承知致しましたわ。」
「はーい。」
グレイスロードとフェスティブレイドもブラックチャームの言葉を受け戦いをやめる。
「桜間依乃里が傷ついてしまってはダークサイレンスを倒すことができなくなってしまうものね、ここは退いてあげるわ。」
ブラックチャームはそう言うと真理紗の姿に戻り、同じく元の姿に戻った芽里音、美李宇を連れ黒いオーラと供に消えるのだった。
「いのりっち!」
チェリーエッジも桐菜の姿に戻り、倒れこんだ依乃里の元に駆け寄る。ベリースパークラーとレッドライテストも雨幸と風布花の姿に戻り、依乃里の元に駆け寄る。
「「依乃里さん!」」
「うっ……、みんな……。」
依乃里は心配しながら見つめる皆の顔を見ながら気を失ってしまうのだった。
雨幸、桐菜、風布花の三人は依乃里を病院に連れて行き、依乃里は上半身を包帯で覆われることとなった。仕事は数日休むだけですぐに復帰出来たが、激しく動くと痛むのでしばらく社交ダンス教室に通うことが出来なかった。
それから二週間が過ぎ、雨幸、桐菜、風布花の三人は依乃里の家を訪れていた。
「いのりっち、来たよー。」
「怪我の具合はどうですか?」
「みんな、いらっしゃい。」
依乃里は三人を出迎え、部屋に招き入れる。依乃里はまだ傷が完全に癒えていないようだったが、元気を取り戻した様子だった。
「怪我はもう大分良くなったかな?まだ通院は必要なんだけど……。」
「そうですか、でも良くなって何よりです。」
依乃里は傷の状態を明かし、風布花は依乃里の様子を見て安心する。しかし依乃里は一つだけ気になることがあった。
「でも、レオンの具合がまだ治らないみたいで。」
「レオンがですか?」
「マジ?レオンの方が重傷なの?」
依乃里はパッショネイトレオンが戦いの後、今までのような元気をすっかり失ってしまったことが気になっていた。パッショネイトレオンはケージの中で大人しくしている。
「なるほど、確かに元気がないみたいですね。」
「そうなの。」
依乃里はケージを開けてパッショネイトレオンを出し、皆に見せる。パッショネイトレオンは頬を赤くし、目が虚ろな様子だった。
「ほらね。」
「ああ、確かに。」
「熱でもある感じ?」
「そのようですね。」
皆はパッショネイトレオンの様子のおかしさを再確認する。そして桐菜はふとあることを尋ねる。
「この感じだと、胸に飛びついたりとかはしてないよね?」
「うん、それどころか私と目を合わせることもしなくなっちゃって……。」
「これはかなり厳しい状態ですね……。」
パッショネイトレオンは元々依乃里にあまり懐いていなかったが、それでも豊満な胸には容赦なく飛びついていた。しかし今のパッショネイトレオンはそんな元気もなかった。そして依乃里の目を見ることもなくなったのだ。
「せっかくレオンとの社交ダンスも上手く行って、あと少しでまた戦士になれるところなのにこれはやるせないですね……。」
「本当、真理紗達も何を考えているんだろう……?」
風布花もパッショネイトレオンが元気を失くしたことにより依乃里の戦士への道も遠のいたことを悔やむ。依乃里はそのことに関して真理紗らに怒りの矛先を向ける。
「真理紗は私達も生活を捨てて一緒に失踪しながらダークサイレンスと戦うことを提案してきたんだよね?」
「はい、勿論私達はその提案に乗らなかったんですけど。」
「そうしたら真理紗達は喧嘩腰になって、結果戦うことになった訳。」
「なるほど、最初から私達とわかり合えないことを確かめるために言ってきた感じだよね。」
依乃里は真理紗の思惑を改めて感じ取る。そんな中、風布花は四年前の戦いの時にあったあることを思い出していた。
「でも、四年前にも戦士の在り方で組織が分裂したことがありました。」
「本当?風布花ちゃん。」
風布花が語ったのは四年前の戦いに起きた組織の分裂だった。依乃里はそのことに驚いてしまう。
「はい、例のエメラルディア様がダークストーリーズと戦うために日常を捨てろと言ってきて、私を含め半数のメンバーが組織を離脱したんです。」
「そんなことがあったんだ……。」
風布花は以前、組織を離脱したことを明かす。しかし雨幸は風布花の話に少し疑問があった。
「でも風布花ちゃん、最後はみんなで力を合わせて戦ったんですよね?」
「はい、最後には和解して共に戦ったんです。」
「それじゃあ、真理紗とも和解して一緒にダークサイレンスと戦えるってこと?」
雨幸は最後に組織が一丸となって戦ったことを風布花に尋ねる。風布花は和解したことを明かし、桐菜はその話から真理紗らとの和解に希望を見出す。しかし依乃里だけはそう思わなかった。
「真理紗とは、簡単に和解なんてできないと思う。」
「依乃里さん、どういうことですか?」
依乃里だけは真理紗との和解に否定的だった。雨幸がそのことを尋ねる。
「真理紗は真理紗なりのプライドっていうか、考えがあって今の行動を取っているんだと思うけど結果的に大切な人に寂しい思いをさせている。そんな人の気持ちが、私に理解できるかなって。」
「依乃里さん……。」
「いのりっち……。」
依乃里は真理紗の気持ちを理解する自信がなかった。そんな依乃里の心情を一同は察していた。そして桐菜はある提案をする。
「いのりっち、どこかに行って来たら?レオンは私が面倒を見るから安心して。」
「桐菜ちゃんが?いいの?」
「はい、依乃里さんもお疲れのようですし少し戦いのことを忘れた方がいいかも知れません。」
桐菜はパッショネイトレオンを預かり、依乃里に休むことを提案する。メンバーの中で唯一の社会人であるにも関わらずパッショネイトレオンや真理紗のことで心労が祟っていると察し、雨幸も同意する。
「じゃあ、これも預かっててくれない?」
依乃里はそう言ってルビーの指輪を渡す。
「でも、私達ではルビーの指輪を嵌められません。依乃里さんでなければ……。」
「でも、レオンに使うことは出来るでしょ?レオンが元気になったら一緒に戦って。」
「わかったよ、いのりっち。」
依乃里はパッショネイトレオンが元気を取り戻した時に戦力になると考え、ルビーの指輪を託したのだ。その気持ちを桐菜は受け取る。そして雨幸、桐菜、風布花の三人はパッショネイトレオンの入ったハムスター用のケージを持って依乃里の家を後にするのだった。
一方その頃、真理紗、芽里音、美李宇の三人は依乃里達のことを考えていた。
「はぁ〜あ、あの人達やっぱり言う事聞いてくれなかったね。」
「真理紗の崇高な考えが理解出来ない方々ですもの、仕方がありませんわ。」
美李宇と芽里音は依乃里達が真理紗の考えに同意しなかったことを残念に感じていた。しかし二人は最初から依乃里達に期待などしていなかった。ただ真理紗だけは深刻そうな表情を浮かべていた。
「はぁ……。」
「そんなにあの桜間依乃里って人が恋しい訳?真理紗。」
「そうね。桜間依乃里はダイヤモンドの戦士、彼女がいなければダークサイレンスを倒すことは出来ないわ。」
「彼女がそこまで切り札になるような方だとは思えませんわ。」
真理紗は依乃里が未だ戦士にならないこと、そして依乃里と共に戦わないとダークサイレンスを倒せないということにむず痒さを感じていた。しかし、芽里音も美李宇もその真理紗の言葉を今一つ理解出来ずにいた。
「私がダイヤモンドの資格を手に入れていれば、悩むこともなかったのだけれどね……。」
真理紗はそう言って溜め息を吐くのだった。
一方その頃、ダークサイレンスではブラクスとクリークが何かに向かって跪いていた。その先には何の影も形もなかった。
「今や指輪の戦士は我々の脅威、奴らにより人間界への侵攻が次々と失脚しています。今こそ我らダークサイレンスのトップであるあなた様のお力が必要です。」
クリークは下を向きながら淡々と話す。しかしその言葉は人間界の侵攻への本気と焦りが感じられた。
「上手く行っていないようだな、人間界への侵攻が。」
「お目覚めになられましたか!」
突然響いた謎の重厚な声にブラクスは喜ぶ。そして謎の声にクリークは問い掛ける。
「あの……。」
「何だ?」
「我々の存在とは何なのでしょう?普通の生物ではないとしたら一体……。」
クリークが尋ねたのは幹部の皆が気になっていた自分達の出自についてだった。しかし謎の声はそれに答えることもなく一蹴する。
「無駄な疑問だな。俺達は人間の悪意を力の源とする存在、ただそれだけで良い。」
「はい……。」
謎の声に言われるがままクリークは釈然としない気持ちを胸にしまい込んでいた。そして謎の声はあるものが気になり始める。
「ところで、お前達の後ろにいるのは何だ?」
「と、おっしゃいますと?」
ブラクスとクリークは謎の声の言葉に首を傾げながら後ろを振り向く。するとそこにいたのは大きないびきをかきながら寝るスノアの姿があった。
「あんな怠け者の幹部など覚えが無いが?」
「いや、こいつはその……。」
ブラクスは少し怒り気味に話す謎の声にたじろぎながら話すが、言葉を詰まらせてしまう。
「まあいい、こいつを人間界に行かせろ。」
「スノアを行かせるのですか?」
「ああ、それじゃあな。」
謎の声は怠けているスノアを人間界に行かせるように言う。クリークは少し驚くが、スノアを行かせることにする。
「スノア、あのお方が君に人間界への侵攻を命じましたよ。」
「本当に〜?めんどくさい。」
「つべこべ言うんじゃねぇよ!いいからさっさと行け!」
「は〜い。」
スノアは相変わらず侵攻を面倒に感じるが、ブラクスの一喝で渋々行くことにするのだった。
桐菜が依乃里からパッショネイトレオンを預かった後、雨幸は桐菜から連絡をもらう。
「もしもし、桐菜ちゃん?」
「ゆっきー!ちょっと来て!」
「どうしたんですか?」
雨幸は慌てた口調で話す桐菜に驚くが、取り敢えず桐菜の家に急ぐ。
「こんにちは、桐菜ちゃんいますか?」
「ああ、あなたですか。もう一人お友達もいらしていますよ。」
「あの、何かありました?」
雨幸がインターホンを押すと、桐菜の母親が出迎える。雨幸は桐菜の母親のくたびれた様子を見て更に嫌な予感を抱く。そして雨幸が桐菜の部屋を訪れると、桐菜は慌てるように大きな声で叫ぶ。
「ゆっきー!そこ開けて入って来て!」
「え?あ、はい!」
雨幸は桐菜の鬼気迫る声に驚きながらも急いで障子を開ける。するとそこには壁や畳など、至る所が裂かれた桐菜の和室の姿があった。
「雨幸さん、来てくれましたか。」
「風布花ちゃんも来ていたんですね。これは一体……?」
桐菜の部屋には風布花も訪れていた。桐菜と風布花はくたびれた様子でカタカタ動くハムスター用のケージを押さえ込んでいた。
「ゆっきー、レオンが暴れちゃって。」
「レオンがですか?」
桐菜はケージを押さえながら話す。確かにケージには血気盛んな目つきをしたパッショネイトレオンがいた。
「桐菜さん、縄が見つかりましたよ。」
「サンキュー、ママ。ゆっきーに渡して。」
桐菜の母親はロープを持って現れ、桐菜の指示で雨幸に渡す。
「それでは桐菜さん、そのライオンをどうにかしなさい。こんなの家では飼えませんからね。」
「わかったよ、何とかするからママ。」
桐菜の母親は厳しめな口調でそう言い残し、桐菜の部屋を出る。
「ゆっきー、そのロープであそこの柱とケージを括り付けて!」
「あ、はい!」
雨幸は桐菜に言われるがまま部屋の柱とケージを括り付け、桐菜と風布花は漸く楽な姿勢を取るのだった。
「それにしても、何でレオンがこんなに暴れ回ったのでしょう?さっきはあんなに元気が無かったというのに。」
「うん、部屋に入れた途端暴れ出しちゃって。」
桐菜はパッショネイトレオンを部屋に入れた途端に暴れ出したことを明かす。しかし依乃里の家では元気の無かったパッショネイトレオンが暴れ出した理由はわからなかった。
「もしかして、依乃里さんと離れて寂しくなったとかですか?」
「レオンが?うっそ〜。」
風布花はふとパッショネイトレオンが依乃里と離れたことの寂しさで暴れたと推測するが、桐菜は共感できなかった。
「だってこいついのりっちに全然懐いていなかったんだよ。さっきだっていのりっちに対して余所余所しかったんだし。いのりっちと離れて寂しいとかあるかなぁ?」
「確かに、依乃里さんが恋しいなら依乃里さんと一緒にいる時は元気であるはずですしね……。」
桐菜はパッショネイトレオンが依乃里に対して余所余所しい態度を取っていたことから、パッショネイトレオンが暴れた理由が依乃里と離れたことではないと感じていた。そしてそれには雨幸も共感する。しかし風布花には未だ腑に落ちない点があった。
「気持ちの問題はともかくとして、先程は頬を赤らめて熱がある様子でしたのにそれも治っているのは何故でしょうか?」
「風布花ちゃんの言う通りですね。目も虚ろな様子でしたし……。」
「それな~。」
風布花が気になっていたのは、パッショネイトレオンが依乃里に対しての具合の悪さだった。依乃里といる時のパッショネイトレオンは頬を赤らめ、目が虚ろな様子だった。雨幸と桐菜も、それには未だ首を傾げていた。
「頬を赤くして、目が虚ろ……、ん?」
桐菜は依乃里といる時のパッショネイトレオンの様子を考え続けると、ある答えに辿り着く。
「もしかして、本当にいのりっちと離れたからかも。」
「え?」
「どういうことですか桐菜さん?」
桐菜は自身が先程否定した依乃里と離れたという理由を考えていた。
「桐菜ちゃん、さっきは違うって言ってましたよね?依乃里さんが恋しいなら依乃里さんと一緒の時は元気のはずだって考えは私も思いましたし……。」
「はい、レオンは依乃里さんに全然懐いていないと仰っていましたし……。」
雨幸と風布花は、桐菜が突然考えを変えたことが疑問だった。しかし桐菜はもう一つ、ある考えがあった。
「恋しいんじゃなくて、恋しちゃったんだよ。いのりっちに。」
「「え⁉」」
桐菜の言葉に、雨幸と桐菜は驚いてしまう。桐菜はパッショネイトレオンが依乃里に恋をしたと考えていた。
「そそそそんな、レオンが依乃里さんのことを好きになったということですか?」
「だってそうじゃないと説明がつかないじゃん。頬を赤くして目が虚ろって、熱がある以外だと恋愛的なアレでしょ。多分、いのりっちがレオンを庇った時に気持ちが揺らいだんだよ。」
風布花は動揺してしまい頬を赤らめてしまう。桐菜はパッショネイトレオンが依乃里に恋をしたとすれば、今までの様子にも全て説明がつくと考えていた。そして雨幸は桐菜の言葉が本当だとすると希望を感じていた。
「じゃあ、依乃里さんはまた戦士になれるんじゃないですか?真理紗さんから言われたのはレオンと愛を育むということですよね?」
「そうだ、いのりっちリーチじゃん。」
「はい、既にレオンとの社交ダンスも申し分ないレベルだと伺いましたし。」
雨幸、桐菜、風布花の三人は依乃里が再び戦士になることに希望を見出していた。そんな時、何かが倒れる音が響く。
「うっ……!」
「何?ママ!」
桐菜は母親の苦しむ声を聞いて、慌てて障子を開ける。すると耳を塞いで倒れ込む桐菜の母親の姿があった。
「ママ!」
「桐菜さん、また例の騒音が……。今度はいびきのような……。」
「いびき、スノアが暴れているようですね。」
「行きましょう!」
三人はダークサイレンスの一人、スノアがマリスを産み出して暴れていると感じる。そして三人はすぐさまスノアの元に急ごうとする。
「桐菜ちゃん、レオンはどうしますか?」
「連れて行こう。いのりっちに会えない寂しさは、ダークサイレンスにぶつけてもらわないと。」
雨幸は桐菜に、パッショネイトレオンをどうするか尋ねる。桐菜は未だ暴れるパッショネイトレオンをダークサイレンスにぶつけるため、連れて行くことを決める。
「それでは行きましょう。」
そして雨幸、桐菜、風布花の三人はスノアの元に急ぐのだった。
「やれやれ、人間界の侵攻というのも楽じゃないな。」
スノアは気怠そうにそう言いながらマリスを三体程産み出して暴れさせていた。
「ぶっちゃけ音のない世界よりもずっと寝ていられる世界の方がいいんだけど。」
スノアがそんなことを呟いていると雨幸、桐菜、風布花の三人が駆けつける。
「これ以上好きにはさせません!」
「あんた達の野望なんて、私達が何度でも砕いてあげるんだから!」
「そしてこの世界に何度でも平穏を齎します!」
三人はスノアにそう言うと、それぞれフラヴァイスを持って構える。
「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」
「サクラ!ガーネット!日本舞踊!」
「カーネーション!パール!チャールストン!」
三人はそれぞれフラヴァイスにそう叫ぶと、フラヴァイスから声が響く。
「Let's Dance!」
「踊ります!」
「踊っちゃうよ!」
「踊ってみせます!」
三人はフラヴァイスから流れる音楽に乗せてダンスを踊り、戦士へとその姿を変える。
「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」
「美麗の舞姫、チェリーエッジ!」
「軽快な舞姫、レッドライテスト!軽快なステップに、ついて来られますか?」
戦士の姿となったベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストの三人はそれぞれ名乗る。
「「行きます!」」
そしてベリースパークラーとレッドライテストは暴れ回るマリスに立ち向かう。
「レオン、いのりっちのことが好きなら戦って。」
チェリーエッジはそう言ってパッショネイトレオンをケージから出してルビーの指輪を翳す。そしてパッショネイトレオンは獣人の姿になり、マリスに立ち向かう。パッショネイトレオンの暴れぶりはマリスに引けを取らず、マリスを次々に翻弄して行く。
「レオン……。」
「こうして見ると、かなり依乃里さんへの思いが溜まっているように見えますね。」
ベリースパークラーとレッドライテストはパッショネイトレオンの暴れぶりにある意味で感心していた。
「うわぁ、あのモンスター強いなぁ……。」
スノアもパッショネイトレオンの強さに感心しながら眺めていた。
「あんたの相手は私だよ、余所見すんな!」
そんなスノアに、チェリーエッジが立ち向かう。チェリーエッジは麗しの日本舞踊の動きで鉄扇をスノアに叩き付ける。
「うっ、痛~い!」
「こっちだっていつまでも負けっぱなしじゃいられないからね。」
「ふ~ん、今日は 一段とやる気みたいだね。それならこっちも。」
スノアはチェリーエッジがいつにもまして本気で戦っていることを悟る。そしてスノアも本気を出してチェリーエッジと戦う。
「んが~~!」
「うっっ……、やば……!」
スノアは大きないびきをチェリーエッジに浴びせる。そのスノアの攻撃にチェリーエッジは思わず耳を塞いでしまう。
「負けるか!」
しかしチェリーエッジは気合でスノアのいびき攻撃に立ち向かい、麗しくも素早く日本舞踊を舞いスノアを鉄扇で攻め立てる。
「何⁉こいつ、前より強くなっている。」
「いのりっちがまた戦えるようになるまで、負ける訳には行かないんだ!」
チェリーエッジは本気が伺えるような声でそう言うと、鉄扇を持って構える。
「鋭刃の舞!」
「くっっ……!」
チェリーエッジの攻撃にスノアは立つのがやっとだった。
「ガー!」
「ベリースラッシャー!」
一方、スノアが産み出したマリスの方もパッショネイトレオンとベリースパークラーの同時攻撃で消滅する。
「全く、これだから人間界の侵攻は面倒なんだよ。」
スノアはそう言い残し、人間界を去る。
「ふぅ……、疲れちゃった。」
「桐菜ちゃん、お疲れ様です。」
戦いを終えた三人は膝をついてしまう。ベリースパークラーはチェリーエッジを労う。しかしレッドライテストはやり残しているものを感じる。
「いえ皆さん、まだ何かあるような気が……。」
レッドライテストの言葉と共に三人は獣人の姿になったパッショネイトレオンの姿に目を配る。
「ガルルルル……!」
「しまったー!」
「急いでレオンを押さえ込まないと!」
「三人で協力しましょう!」
三人は獣人の姿にしたパッショネイトレオンを押さえ込むことを忘れていた。三人は獣人の姿で暴れるパッショネイトレオンを必死に押さえ込もうとするのだった。
その夜、依乃里は一人でとあるバーを訪れていた。依乃里は普段、あまりお酒を嗜むことなどしないがこの日は戦いのことやパッショネイトレオンのことを忘れて飲み明かしていた。
「はぁ……、ちょっと解放感あるかも。」
依乃里は一人で飲むことで肩の力が一気に抜けていくのを感じていた。そんな時、バーのマスターが依乃里にカクテルを差し出す。
「あれ?あの……、頼んでませんけど……。」
「あちらのお客様からです。」
依乃里は頼んだ覚えのないカクテルに戸惑うが、バーのマスターは依乃里が座っているカウンターの少し遠いところに座っている女性を指す。
「ハロー、今空いてる?」
「あ、はい……。」
女性は少し軽い口調で依乃里に話しかけ、依乃里の隣に座る。
「ちょっとタイプだったから話しかけちゃった。」
「え、タ……、タイプ?」
依乃里は女性の言葉に戸惑う。依乃里は同性から恋愛的な目を向けられることなどなかったからだ。
「あの、失礼ですけどもしかして女性の方がって感じですか?」
「そう。四年前だったかな?男よりも女の方がいいなって思うようになってね。おかげでもう30歳なのに結婚もしないでふらふらしちゃってるんだけど。」
「へ、へぇ~。」
依乃里はその女性の言葉を新鮮に感じる。そして二人は他愛のない会話を交わす。
「そうそう、名前は?私はヨシミって言うんだけど。」
「あ、桜間依乃里って言います。」
「依乃里ちゃんね。今って好きな人っているの?」
「えっと、好きな人ですか……?」
女性はヨシミと名乗る。ヨシミは依乃里に好きな人を尋ねるが、依乃里はその瞬間パッショネイトレオンの姿が目に浮かぶ。
「あの、好きな人っていうか仲良くなりたいけどなれない人がいるというか……。」
「ふぅん、もしかしてそれでお悩み中?」
「はい、彼と中々距離を縮められなくて。」
「そっか……。」
依乃里は言葉を濁しながらパッショネイトレオンのことをヨシミに相談する。するとヨシミは突然依乃里の肩を抱く。
「依乃里ちゃん、少しその彼を忘れてみた方がいいんじゃない?そうしたらまた新鮮な気持ちで彼を見られるかも。」
「そうですか、でもどうやって……?」
ヨシミは依乃里にパッショネイトレオンのことを忘れることを提案する。しかしその方法が依乃里にはわからなかった。それを尋ねて依乃里はヨシミの方を向くが、その瞬間ヨシミは依乃里にキスをする。
「ん⁉」
ヨシミは依乃里にキスをしながらお酒を流し込む。すると依乃里は段々と目を回してしまう。
「これは……?」
「ごめん、ちょっとお酒が強すぎたかも。」
ヨシミは微笑みながら依乃里に答える。そして依乃里は意識を失って行くのだった。




