第十三話 陽気で愉快で厄介な子
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。謎の女、黒崎真理紗と行動を共にしている者の存在を知った依乃里はその内の一人、上部芽里音について調べる。そして依乃里が戦えない中、奮闘する戦士達の元に上部芽里音が現れ、グレイスロードという戦士へとその姿を変えるのだった。
グレイスロードはブラクスとマリスの前でエレガントイーグルとワルツを踊る。その優雅なダンスにベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストの三人は見惚れてしまう。
「うわぁ……。」
「綺麗……。」
「真理紗さんに劣らない社交ダンスの腕前ですね……。」
しかしブラクスはそのダンスに苛立っていた。
「ふん、ダンスはもう飽き飽きしてんだよ!」
「ならこの世界から立ち退いて下さいます?」
苛立つブラクスにグレイスロードはそう言って挑発する。そしてエレガントイーグルと踊る優雅なワルツと共にブラクスを攻撃する。
「くっっ……、こいつもブラックチャームと同じか。」
「そう言って頂けると嬉しいですわ。それではマリス達を始末させて頂きます。」
ブラクスはグレイスロードの強さにブラックチャームに通じるものがあると感じる。そしてグレイスロードは二体のマリスに照準を合わせて踊り出す。
「ダンス・ド・セレナーデ。」
グレイスロードがそう言うと背後に無数の氷の花が咲く。それらはやがて鋭い矢と化し、二体のマリスを串刺しにする。串刺しにされた二体のマリスは消滅してしまう。
「ちっ、ここは一旦退くか。」
ブラクスは舌打ちの後、人間界を去ってしまうのだった。それを見送ったグレイスロードは、芽里音の姿に戻る。
「ふう、初陣にしては上出来でしたわね。」
芽里音はそう言うとエレガントイーグルを元の小さな鷲に戻し、その場から去ろうとする。
「あ、あの!」
「何ですの?」
そんな芽里音をベリースパークラーが引き留める。そしてベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストはそれぞれ元の蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花の姿に戻る。
「芽里音さんですよね?家の方が心配されてました、帰ってあげて下さい。」
雨幸は芽里音に、家に帰るよう促す。しかし芽里音は聞く耳を持たない様子で背中を向ける。
「そんな事のために、真理紗の意思に背くことなど出来ませんわ。」
「どういうこと、ですか……?」
雨幸は芽里音の言葉に目を丸くする。それは桐菜と風布花も同じだった。
「私は私の意思で真理紗の元におりますの。真理紗が戻らないと仰るのであれば、私も同じように行動するのは当然のことではなくて?」
そう言い放つ芽里音の目はどこか冷たかった。雨幸、桐菜、風布花の三人は少し背筋が凍えるような感覚を覚える。
「ちょっと、家族が心配しているのにそんな態度はないでしょ!執事の人だってすっごく悲しそうな顔をしていたんだから!」
「そう、だから?」
「だからって……。」
桐菜は少し声を荒らげながら芽里音に言い聞かせる。しかし芽里音には何も響いている様子がなかった。
「真理紗が仰っていましたわ、桜間依乃里とは共に戦えないと。それはあなた方も同じことですわね。わかり合える気が全くしませんわ。」
芽里音はそう言って、どこかへ去ってしまう。
「それこっちの台詞じゃん……。」
「「ですね……。」」
桐菜は芽里音の言葉をそのまま返したくなっていた。それには雨幸と風布花も同意する。そして芽里音を見送った三人も解散するのだった。
芽里音はとある綺麗な洋館へと赴き、その中に入る。そこには黒崎真理紗の姿があった。
「只今戻りましたわ、真理紗。」
「お帰りなさい、芽里音。」
芽里音と真理紗は笑顔で言葉を交わす。
「それで、どうだったかしら?ダークサイレンスとの戦いは。」
「ええ、我ながら上出来でしたわ。これも真理紗が私を戦士へと導いてくれたおかげですわ。」
「そう、良かったわ。」
真理紗は芽里音の初陣の成果を尋ね、芽里音は嬉しそうに報告する。真理紗の安心した様子を見た芽里音は嬉しくなって真理紗の前に跪く。
「これからも、真理紗について行きますわ。誰に何を言われようとも。」
芽里音はそう言って真理紗の手の甲にキスをする。そんな二人の前にまたもう一人、ショートカットの女性が現れる。
「お熱いねぇ~二人共。」
「あら、茶化さないでもらえますかしら?」
その女性は真理紗と芽里音を茶化す。
「あなたもそろそろ動き出す時よ。まずはここに行って店長さんにご挨拶なさい。」
「オッケー真理紗、行って来るね。」
真理紗は女性にとある住所が書かれた紙切れを渡すのだった。
一方、ダークサイレンスではブラクスが苛立ちながら帰って来た。
「お帰りなさい、ブラクス。」
「……ったく、冗談じゃねぇぞ。また新しい戦士だ。しかもまたモンスター付きの奴だ。」
ブラクスを出迎えるクリークに、ブラクスはグレイスロードが現れたことを伝える。
「なるほど、となるとブラックチャームの仲間ということですかね。いずれにしろ僕達の脅威が増えたことに変わりはありません。」
「ああ、一体戦士は何人いるんだ?」
ブラクスは次々に現れる戦士の多さに底知れなさを感じていた。そしてブラクスはもう一つ、気になることがあった。
「そう言えば浦賀輝弓とかいう人間から聞いたんだが、俺達の前にも似たような組織があったんだとよ。」
「僕達と同じような組織が?そんな馬鹿な。」
ブラクスは四年前の戦士である浦賀輝弓から聞いたことが気になっていた。これにはクリークも耳を疑う。
「なあ、俺達はいつ産まれたんだ?奴の言っていた前っていうのはいつの話なんだ?」
「さあ、僕達の出生のことなど考えたこともありません。僕達は音を嫌うダークサイレンス、それだけのことだと。」
ブラクスもクリークも自分達の出生のことを知らなかった。いつ、どのように誕生したのか全くわからなかった。
「確かにな、俺達はただ人間の嫌う音の力を使って人間界から一切の音を消す。それだけのことしか頭になかったな。」
ブラクスもクリークの言葉で今まで自分達の存在について深く考えたことがなかったことを感じる。すると今まで横でいびきを掻きながら寝ていたスノアが突然起きだし話す。
「ていうかさ、人間界から音が消えたら僕達って喋れるの?」
「はぁ?そのくらいなんとかなるだろ。」
スノアが気になっていたのは音を消し去った後のことだった。音を消したら自分達すらも言葉を交わすことができないという懸念があった。
「ブラクス、もしかしたら僕達は生まれ持った目的だけで生きているだけかも知れません。ここは一つ、僕達で色々と調べてみませんか?」
「調べるだと?まあやってみるか。」
「たまには人間界に遊びに行かないとね~。」
クリークは自分達の出生について人間界に調べに行くことを提案する。それにブラクスとスノアも同意し、三人で人間界に赴くのだった。
「そっか、やっぱり上部芽里音も指輪の戦士だったんだ。」
「はい、アクアマリンとサファイアの指輪をしていました。」
その夜、依乃里の家に雨幸と桐菜が訪れていた。雨幸と桐菜の二人は芽里音がグレイスロードとなって戦ったことを話す。
「それで、芽里音も帰らないって?」
「そうなんだよ、何か家族を大切に思ってないような言い草だった。」
「そっか……。」
依乃里は芽里音が真理紗と同じく家に帰ろうとしないのが悲しかった。しかし芽里音が家に帰ろうとしない動機は真理紗と少し違う気がした。
「真理紗はさ、ダークサイレンスを倒すまで家族にも社交ダンス教室の人にも会わないっていう信念みたいなのがあった。でも芽里音はそれと違う感じだよね……。」
「確かにそうですね。芽里音さんはあくまで真理紗さんの意向に沿っているといった感じでした。」
「何となく主体性が無いっていうかさ、ずっと真理紗について行っているって感じかな?」
雨幸と桐菜も芽里音が真理紗について行っているようだと察していた。そして依乃里はふとあることが気になる。
「そう言えば先代のサファイアの戦士は輝弓さんだけど、アクアマリンの戦士って会ったことあったっけ?」
「いえ、先代のアクアマリンの戦士の方は詳しく知りません。」
「そう言えばどんな人なの~ふぅちゃん、あらいない。」
依乃里は四年前のアクアマリンの戦士に未だ会ったことがないことが気になっていた。雨幸と桐菜も会ったことがないため気になってしまう。そして唯一知っている風布花も偶然この時はいなかったため、知ることが出来なかった。
「まあ、いつか会えるでしょ。」
「そうですね。」
桐菜と雨幸はアクアマリンの戦士について楽観的に考える。しかし依乃里は段々とどこか落ち着かない様子になっていた。
「ん?どうしたいのりっち。」
「どこか痒いですか?」
「いや、違うの。」
桐菜と雨幸は依乃里の様子が気になるが、依乃里のムズムズした様子は次第に大きくなっていく。そして依乃里の胸元からパッショネイトレオンが現れる。
「レオン⁉」
「ずっといたんですか⁉」
「ま、まあね。」
桐菜と雨幸はパッショネイトレオンがずっと依乃里の胸元にいたことに驚く。
「真理紗からさ、レオンはペットじゃなくてパートナーだって言われたから思い切ってケージから出してずっと一緒にいようとしたんだけどこれが中々難しくて。」
「もしかして、会社に行く時も胸に入れていたんですか?」
「うわリスキー、いや最早デンジャラス、それも超えてアドベンチャーだよ。」
依乃里は真理紗から言われたことが気になりパッショネイトレオンと四六時中行動を共にしていた。しかしパッショネイトレオンが落ち着いてくれるはずもなく、依乃里は受難な時間が続いていた。
「大変ですね、依乃里さん。」
「本当、私達にもモンスターがいたら全員大変だったよね。」
雨幸と桐菜は依乃里の心情を察し労う。そしてこの日は解散するのだった。
翌日、真理紗から紙切れを渡されたショートカットの女性はとあるカフェを訪れる。そのカフェは四年前にラピスラズリの指輪の戦士として戦っていた実・ファンタジアが店長として働いている店だった。
「いらっしゃいませ、一名様ですか?」
「うん。」
女性は店員に案内されるまま席に着く。そしてコーヒーを注文する。
「じゃあアッメ~リカ~ンをお願い。」
「はい、お持ち致します。」
そして女性はしばらく運ばれたコーヒーを飲んだ後、店員を呼び出す。
「はい、いかがなさいました?」
「ちょっと店長呼んで来て。」
「あ、何かございました?」
「いいから。」
その女性は店員に店長を呼ぶよう言う。店員は何かクレームかと思い戸惑いながらも店長である実を呼ぶ。
「はいは~い、店長で~す。」
そして実が女性の元に行くと、女性は左手を見せる。その中指にはラピスラズリの指輪が嵌められていた。
「これ、私のラピスラズリの指輪!」
「じゃ~ん、似合う?」
女性は実にフランクに話しかけるが、実はラピスラズリの指輪でその女性が何者なのか察する。
「もしかして、例の失踪した社交ダンサー?」
「ピンポーン、正解だよ。私の名前は祭田美李宇、宜しくね。」
その女性は祭田美李宇と名乗る。美李宇は二年前に失踪したとされる社交ダンサーだった。
「真理紗からこのカフェの店長さんに挨拶して来な~って言われてさ、まあ前のラピスラズリの戦士だとは思っていたよ。」
「なるほどね、ところであんたも社交ダンサーならモンスターの指輪もあるよね?」
「あるよ、ほら。」
美李宇は実に真理紗から挨拶をするよう言われてきた旨を明かす。納得した実は美李宇にもう一つの指輪を尋ねる。真理紗も芽里音も、モンスターを獣人の姿にするための指輪を持っていた。そしてそれは美李宇も同じだった。美李宇は頷いて右手の中指に嵌められた指輪を見せる。するとそれはエメラルドの指輪だった。
「エメラルドの指輪じゃん!ちょっと返してよ!」
「返したって無駄じゃん。どうせ前のエメラルドの戦士なんてもういないんでしょ?」
「それは……。」
実は美李宇がエメラルドの指輪を持っていることに怒りを感じ返すよう促すが、美李宇は四年前のエメラルドの戦士であるエメラルディアが既に故人であることを理由に言い返してしまう。これには実も何も答えられなかった。
「じゃあね、私はこれにて失礼しちゃうよ。」
美李宇はそう言って会計を済ませ、カフェを出る。実には少しむずがゆい気持ちが残ってしまった。
「はぁ、そんな……。」
実は溜め息を吐きながら美李宇を見送るのだった。
「「「祭田美李宇?」」」
「ええ、そのようですよ。」
数日後、依乃里、雨幸、桐菜、風布花の四人は実の働くカフェを訪れていた。そして四年前のペリドットの戦士、リーナ・ジーニアスから祭田美李宇のことを伝えられた。
「全く、ラピスラズリだけならともかくエメラルドの指輪も持ってるなんて許せないよ。」
「あ、実さん。」
実はコーヒーを運びながら美李宇への怒りをぶつける。雨幸も実の様子にその怒りを察していた。
「エメラルドの指輪と言えば、確かエメラルディアさんの指輪でしたよね?」
「そうです。エメラルディア様は最終決戦を前にして命を落とし、エメラルドの指輪はラピスラズリの指輪と共に最終決戦で砕かれました。指輪は砕かれても復活するとはいえ、向こうにあるのは少し抵抗がありますね。」
リーナはエメラルドの指輪がエメラルディアという戦士の物であったことを改めて話し、リーナと実はエメラルディアに育てられたことから美李宇が持っていることにいい気分がしなかった。
「でもこれで真理紗と一緒にいる最後の一人のことがわかって、指輪の在り処も全てわかったということですよね?」
「ええ、そうですね、」
依乃里は祭田美李宇のことがわかったことで、全ての指輪の在り処がわかったと安心する。そしてそれにはリーナも同意していた。そしてリーナは美李宇について語り出す。
「祭田美李宇なる人物については浦賀輝弓から詳しく聞いております。彼女も黒崎真理紗、上部芽里音と同じく競技ダンスにおいてかなり優秀な方だったそうです。彼女は陽気な性格で、社交ダンスに関してもラテン系のダンスに真価を発揮していたようです。」
「美李宇って人も、社交ダンサー……。」
「しかし四年前に黒崎真理紗、三年前に上部芽里音が失踪したことによって彼女も少し元気を失っていたようです。そして二年前、また同じく彼女も失踪を遂げたと……。」
「つまり、美李宇も真理紗に同調して姿を眩ましたってことでしょ~。本当信じられない。」
桐菜は美李宇も芽里音と同じく真理紗の考えに同調して失踪したと知り、その考えに納得出来ない様子だった。そして風布花はある疑問を投げかける。
「ところで、何故真理紗さん達は今まで私達の前に現れなかったのでしょうか?芽里音さんに至っては先日の戦いが初陣と仰っていましたし、今まで戦っていなかったと考えられます。」
「確かに、失踪していた期間にしては妙ですよね……。」
風布花が気になっていたのは真理紗達が失踪してから依乃里らの前に現れるまでの期間の長さだった。芽里音は三年も失踪していたにも関わらずつい先日初陣を飾ったので余計に謎が深まるばかりであった。
「その点に関しては引き続きこちらで調べさせて頂きます。ですが私と実は四年前の戦いにおいて、エメラルディア様の命により全ての指輪の戦士が覚醒するまで前線に立つことを控えていました。恐らく黒崎真理紗にも相応の考えがあるのでしょう。」
リーナは嘗て自身と実が暫く前線に立たなかったことを明かし、真理紗にも何らかの考えがあることを推測していた。
「まあ、時が来れば全員で来るでしょ。」
「そうだといいんですけど……。」
実はまだ少し怒りの感情を露わにしつつ真理紗らがいずれ全員で戦いに来ると楽観的なことを言っていた。そして依乃里、雨幸、桐菜、風布花の四人はカフェを後にするのだった。人を見送った後、実はリーナにあることを尋ねる。
「リーナ、指輪って全部揃ったんだっけ?」
「ええ、そのはずですけど……。」
実は全ての指輪の在り処がわかったということが引っ掛かっていた。これに関してはリーナも何となくしかわからなかった。
一方その頃、ブラクス、クリーク、スノアの三人は人間界に降り立ち、とある大きな図書館の前に来ていた。
「うわぁ……、大きな建物だなぁ……。」
「ここはこの人間界でわからないことがある時に訪れる場所と聞いています。」
「なるほど、ここなら俺達のことも全部わかるということか。」
クリークは何かを調べるなら図書館と相場が決まっていることを心得ていた。ブラクスも図書館に行けば自分達の出生のことも全てわかると感じる。しかしクリークは少し首を傾げる。
「それはどうでしょう。僕達のことはこの世界であまり知られていないようですし、直接調べることができるでしょうか?ここは一つ、生命の出生について調べてみる必要がありますね。」
クリークはダークサイレンスが人間界に知られていないことを察していたため、図書館で調べてもあまり望む結果にはならないと感じていた。そこでクリークはまず生命の出生について調べることを提案する。そして三人は図書館へと入るのだった。
「はい、いらっしゃいませ……。」
図書館の受付の女性はブラクス達三人を出迎えるなりその姿を見て驚いてしまう。そんな女性に詰め寄るように三人は歩み寄り、声を掛ける。
「なあ、生命の出生って奴について知りたいんだがどこでそれがわかる?」
「そ、それでしたらあちらに……。」
「承知致しました。丁寧なご対応感謝します。」
ブラクスは少し脅迫染みた様子で女性に尋ねる。女性は怯えながら本のある場所を教える。クリークは丁寧な態度で感謝する。
「ねぇ君、僕達ダークサイレンスのこと知ってる?」
「い、いえ、存じ上げません……。」
スノアは軽い口調で女性にダークサイレンスのことを尋ねるが、女性はまたも言葉を詰まらせながら知らないと答える。
「ダメですよスノア、無闇に僕達のことを聞いては。」
クリークはスノアを軽く諫め、三人は本のある場所に移動するのだった。
「ん~?」
「文字ばっかりでつまらな~い。」
三人は黙々と本を眺め調べていたが、ブラクスとスノアは本を読むことに慣れていなかったため途中で飽きてしまう。そして三人の怪物の姿は周りの目を引いていた。
「ブラクス、スノア、もう少し静かにして下さい。ただでさえ僕達は周りの目を引いてしまう怪物の姿をしているのですから。」
クリークは声を出すブラクスとスノアを諫める。
「全く、音が嫌いな怪物がうるさくするなど本末転倒ですよ。」
クリークはそう言いながらブラクスとスノアに呆れていた。
「それで、お前は何かわかったのかよ。」
「はい、どうやら多くの生命は繁殖という行為によって産み出されるようです。そしてそれが自然に行われるためには『親』に当たる生命の存在があるようです。」
「なるほど、つまり俺達にもその『親』っていう存在がいるのかよ?」
クリークは生命が繁殖によって産まれることを知り、ブラクスも自分達に「親」という存在がいることを推測していた。
「さあどうでしょう?僕達は普通の生命とは違います。もしかしたら僕達を産み出したのが生命ではない可能性もあります。」
しかしクリークは自分達が怪物であることからただの生命ではないと感じていた。そしてスノアはマリスのことを思い出す。
「ねぇクリーク、マリスは人間の悪意を使って産み出すじゃん?僕達も力の源は人間の悪意なんだし人間の悪意から産み出されたんじゃない?」
「なるほど、その線もありますね。」
「けどよぉ、そんなことって有り得るのかよ?」
「人間界の常識では有り得ません。しかし僕達は常識から逸脱した存在、可能性としては十分に有り得ます。」
スノアはマリスを産み出す時のことから自分達も人間の悪意から産まれた存在なのではないかと考える。そんな話をしている三人を、偶然図書館にいた桃井剣二、浦賀輝弓、金山依斧が見つける。
「おい剣二、あいつら。」
「あれはダークサイレンスの幹部。」
「図書館はあまり音が出ないはずなのに何故こんなところにいるんだ?」
剣二ら三人はブラクス達が図書館にいることに疑問を抱いていた。そして輝弓はブラクスら三人に話しかける。
「何やってんのブラクス?」
「お前は浦賀輝弓!」
「この人間が浦賀輝弓ですか?」
ブラクスは声を掛けてきた輝弓に驚いてしまう。そして初めて輝弓に会ったクリークも驚く。
「俺とは初めてだったな。俺は四年前のルビーの戦士、桃井剣二だ。」
「俺も自己紹介がまだだった。俺は四年前のシトリンの戦士、金山依斧。」
「そして俺が四年前のサファイアの戦士、浦賀輝弓だよ。」
「……俺はダークサイレンスの幹部ブラクスだ。」
「僕は同じく幹部のクリーク。」
「同じくスノアだよ~。」
六人は互いに自己紹介をする。
「それにしても、あなた方が四年前の戦士ですか。実は僕達の出生について何かないかと調べていたところなんです。」
「自分達の出生がわからないのか?」
クリークは自分達の出生について調べていることを明かす。その言葉に依斧は驚くが、剣二はブラクスらにある提案をする。
「お前ら、何もしないなら少し外に出ないか?話したいことがある。」
「そうだな、お前らに聞きたいことがある。」
剣二はブラクスらを外に連れ出そうとする。ブラクスは剣二達ならば自分達の出生について詳しいことを知っていると感じ、剣二の話に乗る。そして六人は図書館を出るのだった。
「さて、お前達が知っていることを話してもらおうか。」
「ああ、俺達の知っていることを全て話そう。」
ブラクスら三人、そして剣二ら三人は向かい合って立っていた。そして剣二はゆっくりと語り出す。
「まず俺達は四年前、ダークストーリーズという組織と戦っていた。奴らもマリスを産み出し、人間の悪意を力の源としている組織だった。奴らもお前らと同じこの世界とは違う世界から来ていた。」
「なるほど、恐らく僕達と同じ世界に住んでいたと考えられますね。」
「ああ。奴らの目的はこの世界を自分達のシナリオ通りに動かすことだった。そして、奴らも自分達の出生をよく知らなかった。」
「「はぁ⁉」」
剣二はダークストーリーズについて語るが、結局ダークストーリーズの出生について知らないことに少し怒りを覚える。
「何だよ、そのダークストーリーズとやらのことについて知っているんじゃねぇのかよ。」
「てっきりその組織の幹部から出生について聞いているものだと……!」
「まあまあ、まだ聞けって。」
怒りを露わにしながら話すブラクスとクリークを宥めながら、輝弓は話を続ける。
「ダークストーリーズのトップ、ママーハハって奴と俺達の仲間が戦っている時、幹部の一人であるパンドラスって奴が言っていたんだ。ダークストーリーズの幹部はママーハハから産まれたかもってな。そして奴はママーハハを倒すと同時に消滅して行った。」
「つまり、僕達が産まれた時もその母体が存在していたと……?」
「ああ、お前らにもトップに当たる奴はいないのか?」
「それは……。」
輝弓はダークストーリーズの幹部がママーハハというトップに当たる怪物から産まれたという仮説から、ダークサイレンスの幹部も母体となる怪物から産まれたと推測する。剣二はブラクスらにトップの存在を尋ねるが、ブラクスは少し言葉を詰まらせた様子だった。そしてそんな時、六人の間を小さなゴリラが割って入る。
「何だ?このゴリラ。」
「これは、ブラックチャームのモンスターと通じるものを感じます。」
「じゃあ、また新しい戦士?」
ブラクス、クリーク、スノアの三人はそのゴリラに戸惑う。そして新たな戦士の出現を察する。
「ピンポーン、よくわかったね。」
ブラクスらを煽るような声が響き、ゴリラはその声の元に行く。そこにいたのは祭田美李宇だった。
「あいつ……!」
「ああ、俺が調べていた祭田美李宇だ。」
「まさかこんな時に現れるとは……。」
剣二、輝弓、依斧はその女性が美李宇だと知っていた。しかし美李宇は構わず話し続ける。
「まさか私のデビュー戦に幹部が総出撃とは驚いたよ。かなり恐れられているようだね。」
美李宇はそう言って左手に乗せたゴリラにエメラルドの指輪を中指に嵌めた右手を翳す。するとゴリラは燕尾服を着た獣人の姿になる。
「この子はチアフルゴリラ、私のパートナだよ。」
美李宇はそのゴリラをチアフルゴリラと言う。そして美李宇はフラヴァイスを取り出す。
「待て、こいつらはまだ騒音を出していない。ここで無駄な戦闘はするな。」
「指図しないでもらえる?騒音を出していない内に潰しておかなきゃ。」
剣二は美李宇に戦いを止めようとするが、美李宇は聞く耳を持たずにフラヴァイスを開く。
「ダリア!ラピスラズリ!サルサ!」
美李宇はフラヴァイスにそう叫ぶ。そしてフラヴァイスから音声が響く。
「Let's Dance!」
「踊っちゃおう!」
美李宇はそう言ってチアフルゴリラの手を取り、陽気にサルサを踊る。やがて美李宇の体は戦士へとその姿を変える。
その戦士は煌びやかな瑠璃色のドレスを身に纏い、ダリアの花が添えられていた。
「陽気な舞姫、フェスティブレイド!」
その戦士はフェスティブレイドと名乗る。
「しょうがねぇ、喧嘩を吹っ掛けられたらやるしかねぇか。」
「ええ、そのようですね。」
「よーし、やっちゃうぞ~。」
「待て、お前達まで戦う義理はない!」
ブラクスら三人も本気になり、剣二の抑止も虚しく騒音を出してしまう。
「うぅ……!」
「しまった……!」
「ここでか……!」
剣二、輝弓、依斧の三人は耳を塞いで倒れこんでしまう。
「何だ、やっぱ本気じゃん。」
「ああ、お前のお陰でな。」
「僕達を相手にすること、後悔させてやりますよ。」
「君なんか一捻りだからね。」
騒音が響き渡る中、フェスティブレイドとブラクスら三人は向かい合って佇んでいた。




