第十四話 すれ違う思い
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。謎の女、黒崎真理紗と行動を共にしている者の一人、祭田美李宇が遂に姿を現す。一方その頃、ダークサイレンスの幹部は自身らの出生を調べようと図書館に出向く。そこで偶然四年前の戦士である桃井剣二、浦賀輝弓、金山依斧と出会い、ダークストーリーズについて聞く。そんな中、美李宇が現れフェスティブレイドへとその姿を変えるのだった。
「ふふーん、えいっ。」
フェスティブレイドは余裕気な笑みを浮かべながら剣を召喚する。そして剣を持ったままチアフルゴリラとサルサを踊る。
「よっと!」
フェスティブレイドは華麗なサルサと共にブラクス、クリーク、スノアの三人を斬りつける。
「何っ⁉」
「まさか……⁉」
「痛〜い!」
ブラクスらはフェスティブレイドの踊りながら斬りつける剣裁きに驚いてしまう。
「さてと、お次はゴリちゃんの強さを見て貰おうか。」
フェスティブレイドはそう言うとチアフルゴリラの手を離す。するとチアフルゴリラはフェスティブレイドの元を離れ、一人でブラクスらに立ち向かう。チアフルゴリラの腕力はとても強く、ブラクスら三人を翻弄する。
「何だよこいつのパワー!」
「こんなにパワフルなモンスターもいるとは……!」
「もう帰りた〜い!」
ブラクスらはチアフルゴリラの猛攻に手も足も出なかった。そこにベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストの三人が駆けつける。
「見て下さい、あの戦士……!」
「あれって、祭田美李宇?」
ベリースパークラーはフェスティブレイドの姿を見て、それが美李宇であると推測する。そしてレッドライテストは倒れ込む剣二、輝弓、依斧を見つける。
「剣二さん!輝弓さん!依斧さん!」
「うぅ……、風布花……。」
レッドライテストは慌てて剣二達三人を運ぶ。そしてベリースパークラーはクリークを、チェリーエッジはスノアを攻撃する。
「「はぁぁ!」」
二人はそれぞれ剣と鉄扇を振り下ろすが、クリークとスノアは簡単に受け止めてしまう。
「今はあなた達の相手をしている暇など無いのです!」
「邪魔だからどいてよ!」
クリークとスノアはそう言ってベリースパークラーとチェリーエッジの二人を軽く振り払ってしまう。
「全く、これだから私に任せればいいものを。」
フェスティブレイドはベリースパークラーとチェリーエッジに呆れながら言うと剣を持って構えながらチアフルゴリラの手を握り、攻撃の態勢に入る。
「スラッシュ・デ・フェスティバル!」
そしてそう叫ぶとチアフルゴリラと共にサルサを踊り、ブラクスら三人を瞬時に斬りつける。そしてブラクスらは怯んでしまい、街からは騒音が消える。
「ちっ、また厄介な戦士が現れやがったな。」
「ええ、そのようですね。」
「ここはもう帰ろうよ~。」
三人はそう言い残し、人間界を去ろうとする。しかし、剣二が三人を引き留める。
「待てブラクス!」
「あ?」
ブラクスら三人は不機嫌そうに立ち止まり、剣二達を睨む。
「お前ら、あの戦士に始末させるためにわざと俺達を連れ出しやがったな?」
「違う!」
ブラクスは剣二達がフェスティブレイドを戦わせるためにブラクスらを連れ出したと思い込んでいた。剣二が誤解を解こうとするが、ブラクスは聞く耳を持たない。
「どこが違うと言うのですか!あのフェスティブレイドという戦士が現れたタイミング、間違いなく僕達を潰そうとしていました。」
「誤解だよ。俺達はあいつと手を組んじゃいない。」
クリークも騙されたと思い込んでいたのはブラクスと同じだった。輝弓も説得を試みるが、またも通じない。
「別にもうどうだって良いよ。早く帰ろう。」
スノアもすっかり疲れてしまい、三人は人間界を去ってしまうのだった。
「何、今の?」
ブラクスら三人と剣二達三人のやり取りを見ていたフェスティブレイドは呆然とした目で見て、祭田美李宇の姿に戻る。そして美李宇はチアフルゴリラを元の小さなゴリラの姿に戻す。
「祭田美李宇……!」
美李宇の冷たい視線を感じた依斧は怒りを感じて美李宇に詰め寄る。
「貴様、何故ダークサイレンスが騒音を出さない内に戦おうとした⁉」
「だって相手は悪の組織、ダークサイレンスだよ。戦わずして何だって言うの。それとも何、敵と仲良くしようとしてた訳?」
依斧の怒りをものともせず、美李宇はクールに答える。そして美李宇はその場にいた全員に背を向ける。
「真理紗が言ってた、ダークサイレンスは倒さなくちゃいけない悪だって。四年前の戦士がどんな戦いをしてたのか知らないけど、邪魔をするなら容赦はしないから。」
美李宇はそう言い残し、チアフルゴリラと共にその場を後にするのだった。戦士の姿から元に戻った蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花の三人は剣二達を見つめる。
「剣二さん、輝弓さん、依斧さん。何かあったんですか?」
風布花が心配して話しかけるが、三人は何事もなかったように振る舞う。
「何も無いよ風布花ちゃん。心配することないって。」
輝弓は軽い調子で風布花にそう言うが、風布花は輝弓が無理をして話していることが容易に感じられた。
「そういうことだ、じゃあそろそろ行くぞ。」
そして剣二がそう言って輝弓と依斧を連れ、その場を去ろうとするが風布花が引き留める。
「彼らも迷っているんじゃないですか⁉」
「風布花ちゃん?」
「ふぅちゃん?」
突然の風布花の言葉に雨幸も桐菜もその意味がわからず困惑する。しかし剣二、輝弓、依斧の三人にはその言葉が胸に突き刺さるようだった。
「……奴らダークサイレンスは自分達の出生を調べていた。奴らも自分達がどういう存在なのかわからずにいたんだ。」
「ダークサイレンスが?」
「嘘でしょ?」
剣二はブラクスらが自分達の出生について気になっていたことを明かす。その事実に雨幸と桐菜は驚いてしまうが、風布花だけは察しがついていた。
「やっぱり彼らも知らなかったんですね。自分達がどんな存在なのか、何故悪の目的を持っているのか。」
「ちょっとふぅちゃん。」
「どういうことですか?」
風布花は嘗て戦ったダークストーリーズのことを思い出しながら話す。しかしダークストーリーズと対面したことのない雨幸と桐菜は未だよく理解していなかった。
「ダークストーリーズにもいたんです。組織の目的に疑問を持っていたり、よくわかっていなかった幹部が。そして彼らも自分達がどんな存在なのかわからず、ただ組織の目的の趣くままに人間界を侵攻していたんです。」
「そんなことが……。」
「なるほどね。」
風布花はダークストーリーズのことを話す。ダークストーリーズにも悪一辺倒の幹部ばかりではなかったことを雨幸と桐菜は知る。
「ああ、だがいずれ倒さなければならない相手だ。それをわかっていたはずなんだがな……。」
剣二はそう言って背中を向ける。その背中には少し寂しさが感じられた。
「行くぞ輝弓、依斧。」
「あいよ。」
「はい。」
そして剣二、輝弓、依斧の三人はその場を去るのだった。
一方その頃、依乃里は社交ダンス教室でパソドブレのレッスンを受けていた。依乃里は仕事が休みの日は勿論、仕事が早く終わる日も休むことなく社交ダンス教室に通い詰めていた。
「桜間さん、頑張ってますね。その成果もあってかなり上達してますよ。」
「はい、ありがとうございます。」
社交ダンス教室の講師は依乃里の上達ぶりに感心していた。しかしその講師の女性は、少し不安なことがあるかのように表情を暗くしてしまう。
「……これも真理紗のためなんですか?」
「え?……まあ、はい。」
講師の女性は依乃里がパソドブレに真剣に取り組むのは真理紗のためだと感じていた。そしてそれは依乃里にとっても強ち間違った話ではなかった。
「まあ真理紗さんに会わないことはないんですけど、やりたいことをやり遂げるまでは家にもこの教室にも戻らないって言ってて……。」
「そうですか……、まあ真理紗らしい話ではあるんですけどね。」
依乃里は真理紗がダークサイレンスを倒すまで戻らないと言っていたことを少しお茶を濁しながら話す。そして依乃里は女性にあるお願いをする。
「あの、今夜ここで自主練習させて貰えませんか?」
「自主練ですか?」
依乃里は自主練習を申し出る。依乃里の突然の言葉に女性は戸惑う。
「えっと、もうかなり通い詰められているのに自主練習をするんですか?」
「はい、少し私のパートナーと練習する時間が欲しくて。」
「パートナーがいらっしゃるんですか?」
女性は依乃里に社交ダンスのパートナーがいることに驚くが、それ以上に疑問に思うことがあった。
「パートナーの方がいらっしゃるならご一緒にレッスンを受けて頂ければ。」
「いえ、そういう訳にも行かないというか……。」
女性は依乃里のパートナーにも一緒にレッスンを受けるよう勧めるが、依乃里は誤魔化しながら断る。
「まあ、それならここを閉める時間に来て下さい。自主練習なら全然問題無いので。」
「はい、ありがとうございます。」
女性は依乃里の自主練習を許可し、依乃里は意気込んだのだった。
家に帰った依乃里は、鞄の中から自身のパートナーであるパッショネイトレオンを出す。
「レオン、大人しくしててありがとうね。」
「ガー!」
パッショネイトレオンは鞄から出るなり依乃里の胸に飛びつく。
「だから胸はダメだって!」
パッショネイトレオンは依乃里が社交ダンス教室に行っている間、ずっと鞄の中に入っていた。窮屈な思いをしていた反動もあってか、パッショネイトレオンはいつも以上に興奮していた。
「まあしょうがないか、ずっと窮屈だったもんね。ごめんねレオン。」
「グゥ……。」
依乃里はそう言ってパッショネイトレオンの頭を撫でる。そして依乃里はパッショネイトレオンに自主練習の話をする。
「ねぇレオン、今夜社交ダンス教室のスタジオを借りられたから一緒に練習しよ?」
「ガー!」
依乃里はパッショネイトレオンに社交ダンスの練習をしようと話す。依乃里は今まで社交ダンスの練習自体はしていたものの、肝心のパッショネイトレオンとの練習は出来ていなかった。その理由で講師の女性に見られないように夜の時間帯を利用してパッショネイトレオンとの練習をしようと考えていた。しかしパッショネイトレオンはあまり気が乗らないようで、拒否するかのように依乃里の胸の服に噛みつく。そして依乃里の服のボタンを噛み千切る。
「ちょっとレオン!気乗りしないのはいいけど服を噛み千切らないの!」
依乃里は慌ててレオンを引き離そうとする。
「全く、前よりドスケベ感が出てるなぁ……。」
依乃里はパッショネイトレオンに呆れてしまう。そして依乃里がパッショネイトレオンを引き離そうと奮闘していると、インターホンが鳴り響く。
「ああ、はいはい。」
依乃里はパッショネイトレオンが胸の服に噛みついたままドアを開ける。そしてドアを開けた先には雨幸、桐菜、風布花の三人がいた。
「いのりっち、相変わらずレオンに振り回されてるねぇ。」
「あはは、お見苦しいところを見せてごめんね。」
「いえ、お気になさらないで下さい。」
「まあ、私達じゃなかったら大変ですけどね。」
四人は少し笑みを浮かべながら会話を交わすと、部屋に上がりテーブルを囲む。そして雨幸、桐菜、風布花の三人はダークサイレンスが自身らの出生について調べていたことと祭田美李宇が邪魔をしたこと、依乃里は今夜パッショネイトレオンと共に社交ダンスの自主練習をすることを話す。
「そっか、ダークサイレンスは自分達がどんな存在なのかわからないんだ。」
「そうなんです。私達も結局、前のダークストーリーズのことをよくわからずにいましたし。」
風布花は四年前に戦ったダークストーリーズの存在もよくわからずにいたことを明かす。
「悪いことを考えている連中なんだし、てっきり宇宙人とか異世界人とかだと思っていたんだけど、違うのかな?」
「わかりません。ダークストーリーズにもダークサイレンスにも自分達の世界があって、そこからこの人間界へ侵攻していることはわかっているんですけど……。」
風布花は今までの悪の組織が拠点としている世界があることを話すが、それが今までの悪の組織がどんな存在なのかを示すまでの情報にはならなかった。
「この世界を自分達の描くシナリオ通りに動かそうとしたダークストーリーズ、そして音を嫌いこの世界から音を消そうとするダークサイレンス。どちらもそれぞれの目的を持って人間界の侵攻をしているのは明らかです。しかしその目的を持つ理由は、彼ら自身もわかっていないようです。」
「つまり、ダークサイレンスは産まれてからずっと何故か音が嫌いってこと?」
「ええ、恐らく。」
風布花は悪の組織が皆、自分達の目的を持っていながらその理由をわからずにいることを話す。そして依乃里は以前聞いたことのある真理紗が四年前のアメジストの戦士である鈴木林檎に放っていたという言葉を思い出す。
「そう言えば真理紗が林檎さんに言っていたって言葉を覚えてる?」
「えっと、確か『人間は悪意で出来ている』だっけ?」
「はい、あと『だからこそ悪の組織が産まれ、人間自身を脅かす』だったはずです。」
桐菜と雨幸も依乃里に言われ、真理紗の言葉を思い出す。
「もしその言葉が一種の比喩とかじゃないとすると、人間の悪意って……。」
「人間の悪意が、彼らを産み出したということですか?」
「うん。いずれにしろ、多分真理紗が全てを知っているはず。」
依乃里も悪の組織が人間の悪意から産まれた存在であるという推測に辿り着く。しかし確証を得るには至らず、真理紗から全てを聞くことに委ねるしかなかった。
「でもまあ、もしかしたら平和的解決が出来るかも知れないって時に祭田美李宇に邪魔された訳だからねぇ。」
「ああ、それね。」
桐菜はダークサイレンスがどんな存在なのか、それがわかれば平和に解決出来るかも知れない時に祭田美李宇に邪魔をされたことを悔やんでいた。
「剣二さん達はダークサイレンスの幹部と話し合おうとしていたんです。そんなタイミングだったみたいなので……。」
「あの祭田美李宇って人、陽気な雰囲気を装ってはいますが判断はかなり非情な人みたいな感じで、やはり真理紗さんや芽里音さんと同じくすぐにわかり合える人ではないようです。」
「う~ん、祭田美李宇もか……。」
風布花は剣二達の無念を話し、雨幸は美李宇に会った時の印象を話す。依乃里は美李宇もわかり合えそうにないことを知ると、先行きが思いやられていた。そして四人は、依乃里の自主練習の話に話題を変える。
「そう言えばいのりっち、今晩レオンと練習するんだっけ?」
「うん、一晩スタジオを貸してもらえることになったからね。」
「今、レオンとはどんな感じなんですか?」
「まだ振り回されっぱなし。胸以外には全然懐かないし。」
「大変ですね……。」
依乃里はパッショネイトレオンとの近況を明かす。依乃里は社交ダンスの練習を重ねているものの、パッショネイトレオンとの距離は未だ縮まらずにいた。
「これで今夜の練習上手く行くかなぁ……?」
「でも、レオンと踊らなければいけないですからね……。」
依乃里はパッショネイトレオンとの練習に不安を感じる。そんな中、風布花はふとあることが気になる。
「ところで今日は日中社交ダンス教室に行かれていたんですよね?レオンはどうされていたんですか?」
「うん、今日は鞄の中にずっと入ってもらった。」
「うわ、暴れたりしなかったの?」
「大丈夫、鞄の中にこれを入れていたから。」
風布花は近頃パッショネイトレオンと行動を共にしている依乃里が社交ダンス教室に行っている間どうしていたのか気になっていた。依乃里は鞄の中に入れていたことを明かすが、桐菜はその間のパッショネイトレオンが気になってしまう。すると依乃里は鞄の中を雨幸と桐菜に見せる。
「え⁉」
「うわ、マジ⁉」
雨幸と桐菜は鞄の中に入っていたものを見て驚いてしまう。その中に入っていたのは水着のアイドルが表紙に映る雑誌だった。
「これのお陰でレオンは大人しくしてくれたよ。」
「これで落ち着いたんですね……。」
「もうレオン思春期じゃん……。」
雨幸と桐菜はある意味で扱いやすいパッショネイトレオンに呆れてしまう。そして風布花は何が入っているのか興味津々に見ようとする。
「あの、一体何を入れていたんですか?」
「ふぅちゃんダメ!」
「見てはいけません!」
しかし桐菜と雨幸は風布花を抑えて目を塞ぐ。そして桐菜は慌てて話を反らす。
「いのりっち、今晩レオンを獣人にして二人きりなんて不安じゃない?獣人になったらいのりっちより大きいんだからさ。」
「まあね……。」
「それなら私がついて行きましょうか?」
桐菜は依乃里とパッショネイトレオンが二人きりになることが不安だった。雨幸が同行することを提案するが、桐菜はそれに反対する。
「ダメだよゆっきー、ゆっきーはいのりっちより胸が大きいんだからレオンに飛びつかれちゃう。」
「そ、そうですね……。」
「それに私とふぅちゃんは夜通し付き合うことなんてできないしね。私に関しては夜もお稽古があるし。」
「大変ですね、桐菜さん……。」
桐菜は雨幸もパッショネイトレオンに飛びつかれることを危惧していた。そして桐菜と風布花も未成年であるため依乃里に同行が出来なかった。
「じゃあどうしよう……?」
依乃里は誰も自主練習に付き合えないことに焦りを感じる。しかし桐菜は何としても依乃里を無事に練習させたい責任を感じていた。
「よし、こうなったら先代のコネを使おう!」
「そうですね、事情を知っている方はあと先代の方々しかいませんし。」
「都合のつく方に連絡しましょう。」
「ありがとう、みんな……。」
桐菜は四年前の戦士に連絡をすることを決める。それには雨幸と風布花も同意し、こうして依乃里は心置きなく自主練習に専念するための準備を整えるのだった。
そして夜、依乃里は社交ダンス教室の講師の女性から鍵を預かる。
「それでは桜間さん、明日の朝に返して下さいね。」
「はい、無理を言って教室をお借りしてすみません。」
依乃里は改めて自主練習をさせてもらうことを有り難く感じていた。そして講師の女性はふと依乃里の後ろにいる者が気になる。
「ところで、その方達は?」
「あ〜えっと、友人です。」
依乃里は慌てて友人だと紹介する。依乃里の後ろにいたのは四年前のペリドットの戦士、リーナ・ジーニアスとラピスラズリの戦士、実・ファンタジアとガーネットの戦士、三浦竹月の三人だった。
「私達はいつも依乃里さんと親しくしております。本日は依乃里さんの自主練習にお付き合いする予定ですのでご安心下さい。」
「そうですか……、まあ桜間さんのご友人ならば良いのですけれど……。」
講師の女性は竹月の言葉に少し戸惑いながらも納得するが、もう一つ気になることがあった。
「あの、例のパートナーの方は?」
「あ、その、え〜とですね、彼はちょっとシャイなので後から来ます。」
「シャイなんですか?まあ、後から合流するなら全然いいんですけど……。」
女性は依乃里の言葉に、流石に半信半疑になってしまうが取り敢えず教室を依乃里に任せて帰るのだった。
「ふぅ……。すみません皆さん、お忙しいのに付き合ってもらっちゃって。」
「いえ、今の戦士のバックアップならば断る理由もありません。」
「そうだよ、ここは助け合いでしょ。遠くのなんちゃらよりなんちゃらかんちゃらって言うじゃん。」
「実、それを言うなら遠くの親戚より近くの他人です。しかしまあ、私も同じ意見です。ここは思う存分練習をなさって下さい。」
女性が帰った後、依乃里は改めて練習に付き合ってくれる竹月、実、リーナに感謝する。しかし三人は依乃里が新たな力を引き出すための一環ということで特に不満を言う様子はなかった。しかしリーナは一つだけ引っ掛かることがあった。
「しかし話の流れからして私達に声が掛かった理由はその……、胸があまり大きくないからということでしょうか?」
「いえ!先代の皆さんの力が必要だったからです!」
リーナは雨幸が同行できない理由を聞いて自分達が選ばれた理由が胸の大きさにあるのではないかと感じていた。しかし依乃里は頑として否定する。
「いいじゃんリーナ、別に女の魅力は胸だけじゃないんだし。それにリーナは私より大きいじゃん。」
実はリーナを励ますようにそう言ってリーナの胸を軽く触る。
「私の方が大きいと言っても桜間依乃里や蓮葉雨幸と比べれば団栗の背比べです。」
「まあまあリーナさん、ここは素直に頼られたと思いましょう。」
竹月もリーナを宥めるようにそう言い、リーナはなんとか納得する。
「それでは桜間依乃里、例のパートナーの方を。」
「あ、はい。」
リーナは依乃里にパッショネイトレオンを出すように言い、依乃里は鞄からパッショネイトレオンを出す。
「ガー!」
「ちょっと、こらレオン!」
パッショネイトレオンは鞄から出るなり依乃里の胸に飛びついて押し倒してしまう。それを見たリーナは思わず両手で顔を覆い、指の隙間から見る。
「まあ、何と破廉恥な……。」
「なるほど、これは小さい方が安全だわ。」
実はパッショネイトレオンの胸に飛びつく本能的な行動に、胸が小さい者が呼ばれた理由を察する。
「ここは納得している場合ではありません!早く依乃里さんからレオンさんを引き離さないと!」
「あ、ごめん!」
竹月は納得する実と恥ずかしげに傍観するリーナを急かし、三人で依乃里からパッショネイトレオンを引き離す。そしてなんとか引き離し、パッショネイトレオンを押さえつけるのだった。
「ふぅ……、やばいねこいつ。」
「すみません、そのまま押さえつけていてもらえますか?」
実はパッショネイトレオンの暴れ具合に驚きながらリーナ、竹月と共に押さえつける。依乃里は三人にそのまま押さえつけるようお願いすると、音楽プレーヤーを準備する。
「よし、これで……。」
そして依乃里は音楽プレーヤーからパソドブレの音楽を流す。それを聞いたパッショネイトレオンは押さえつける三人を跳ね除け依乃里の元へ向かう。
「ガー!」
「じゃあレオン、踊るよ。」
依乃里はそう言ってルビーの指輪が嵌められた右手をパッショネイトレオンに翳す。するとパッショネイトレオンは獣人の姿になる。
「これが風布花ちゃんの言っていた獣人形態ですか。」
「何で人型になったら燕尾服着る訳?」
「今更指摘するところではないでしょう。」
竹月、実、リーナの三人はパッショネイトレオンの獣人の姿に驚く。そして依乃里は音楽プレーヤーから流れるパソドブレの音楽と共にパッショネイトレオンとパソドブレを踊る。
「レオン、やっぱり社交ダンスのパートナーとして産まれただけあって上手いね。」
依乃里は初めて踊るレオンのダンスの技術に感心する。しかし依乃里も今までの社交ダンス教室での練習の甲斐あってパッショネイトレオンにも見劣りしないものだった。
「依乃里さん、やはりお上手ですね……。」
「私達の時にダンスだったらやばかったんじゃない?」
「ええ、このレベルにまで達しないと敵と戦えないとなると厳しかったですね……。」
竹月は依乃里のダンスに感心し、実とリーナは自分達の戦う力がダンスだったらと考えていた。それほどまでに依乃里とパッショネイトレオンの踊るパソドブレは情熱的で可憐なものだった。
「ふぅ……、ちょっと休憩。」
一通りパッショネイトレオンとパソドブレを踊り終えた依乃里は疲れて座り込んでしまう。そしてパッショネイトレオンも疲れて元の小さいライオンの姿に戻ってしまう。
「桜間依乃里、お疲れ様です。」
「結構ハードな練習になると思ってスポドリも買ってあるよ~。」
「ゆっくり休んで再び練習に臨んで下さい。」
「ありがとうございます、皆さん。」
三人は依乃里を労う。依乃里は三人に感謝し、スポーツドリンクを飲みながら休んでいた。
「ふぅ……、まさかアラサーにもなってスポドリを飲むとは思わなかったな~。」
「それほどまでに戦いが厳しいということです。私達の時も厳しい戦いを強いられておりましたから。」
依乃里は久々に飲むスポーツドリンクを新鮮に感じる。そんな依乃里に竹月は自分達の時の戦いも厳しかったと明かす。
「ぐぅ……。」
パッショネイトレオンは依乃里にお腹が空いたというような素振りを見せる。
「ごめんレオン、レオンも疲れたよね。」
依乃里はそう言って鞄からビーフジャーキーを取り出す。
「はいレオン。」
「ガー!」
パッショネイトレオンは余程空腹だったのか、ビーフジャーキーをむしゃむしゃと食べていた。そして依乃里とパッショネイトレオンは休憩を終え、また踊る準備をする。
「よしレオン、また踊るよ。」
「ガー!」
そして依乃里は再びパッショネイトレオンを獣人の姿にし、音楽プレーヤーからパソドブレを流してパッショネイトレオンと踊り出す。
「やはり何度見ても圧巻のダンスですね……。」
「ええ、これでダークサイレンスと戦うと思うと心強いです。」
「だね~。」
竹月、リーナ、実の三人もまた感心しながら見守る。そして練習は早朝まで続くのだった。




