第十話 タンゴの女、再来
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。依乃里は仲間になった蓮葉雨幸、新原桐菜の他に嘗て戦士として戦っていた赤園風布花と出会う。戦いに時間を割いているため学校の友人と喧嘩してしまう桐菜だったが、嘗てのガーネットの戦士である三浦竹月と共にパフェを作ったことで無事に仲直りするのだった。
ある街外れにあるお洒落なカフェ。そこに嘗てアメジストの戦士として戦っていた鈴木林檎が店長として働いていた。
「ちょっと、注文いいかしら?」
「あ、はい。」
林檎はある客の声を聞き、そこへ向かう。すると林檎はその客の顔を見て驚いてしまう。
「それではこのアッメ~リカ~ンをお願いするわ。」
「あ……、あなた……。」
客は何事もないかのようにコーヒーを注文する。しかし林檎は絶句したままだった。林檎はその客に見覚えがあった。その客こそ今まで依乃里らが探していた黒崎真理紗だったのだ。
「あら、お客様の前で目を丸くするなんて失礼な店員ね。店長をお願いするわ。」
「わ、私が店長です。」
真理紗は目を丸くする林檎にそう言って煽る。そして林檎は真剣な目を浮かべて真理紗に話しかける。
「ここに来たってことは、私のことを知っているんだよね?」
「ええ、勿論よ。このお洒落なカフェの店長さんで四年前のアメジストの戦士ポイズノーム、鈴木林檎。」
真理紗は林檎の問いにそう答える。真理紗は林檎が四年前の戦士であることを知っていたようだった。
「桜間依乃里に再び会う前に、先代のアメジストの戦士に挨拶をしなくてはと思ってね。」
「依乃里ちゃんに会う?」
真理紗が林檎の元を訪れたのは、依乃里に会うことを決めていたからだった。そして林檎はあることを決める。
「この後、時間取れる?カフェの中じゃあまり話せそうにないから二人だけでゆっくり話がしたい。」
「そう、あなたも私に興味があるのね。」
林檎は真理紗とゆっくり話すことを決める。真理紗もそれに同意し、林檎はカフェを出る準備をする。
「ねぇ、午後からお店を任せていい?」
「いいですけど、何かあったんですか店長?」
「ま、まあね。」
林檎は店を店員に任せ、カフェを出るのだった。
林檎は店を早引きし、真理紗を連れてとある人気のない広場へと赴いていた。
「さて、知っていることを全て話してもらうよ。」
「言っておくけど、もう戦士ではないあなたに教えることなんて何もないわ。」
林檎は真理紗に全てを尋ねようとするが、真理紗は何も答えようとしない。
「鈴木林檎、あなたはもう戦士としての資格を失っている。今更何を話したって無駄よ。」
「これは私の問題じゃない。依乃里ちゃん達がこれから戦うのに必要なことなの。」
「今の戦士に必要なことなら私が直接伝えるわ。だからあなたに用はないの。」
林檎が真理紗に知っていることを聞き出そうとするが、真理紗は林檎を過去の戦士だとして何も話そうとしない。
「悪いけど、あなたの行動は正直信用出来ない。もしかしたら依乃里ちゃん達にも教えず終いになるかも知れない。だから力尽くで行かせてもらうよ。」
林檎は真理紗が今まで行方をくらましていたことで真理紗を疑っていた。そして林檎は真理紗に殴り掛かろうとする。
「この野蛮さは甚だ上品さに欠けるわね。こんなのに手を出したら私の手が汚れるわ。」
真理紗は殴り掛かる林檎を華麗に避けながらそう言うと指をパチンと鳴らす。すると小さな黒い体色のピューマが林檎に襲い掛かる。
「ガー!」
「嘘、小さなピューマ?」
「この子は只のピューマじゃないわ。指輪の力で産まれたモンスターのようなものね。」
林檎を翻弄するピューマを真理紗はモンスターだと話す。そして真理紗が左の手の平を上に開くとピューマはそこに乗る。
「中々可愛いでしょ?でもこの子はそれだけじゃない。」
真理紗はそう言うと右手を林檎に見せつける。その中指にはシトリンの指輪が嵌められていた。
「シトリンの指輪⁉アメジストだけじゃなかったの?」
「別に珍しいことじゃないはずよ。驚くのはここから。」
真理紗がシトリンの指輪を嵌めていることに驚く林檎だったが、真理紗は微笑みながらシトリンの指輪が嵌められた右手をピューマに翳す。するとピューマは黄色い光に包まれ、成人男性ほどの体格になる。そして燕尾服を身に纏い、左手の中指には真理紗が嵌めていたシトリンの指輪が嵌められていた。その姿は正に獣人と言えるものだった。
「ガルルルル……!」
「人型になった……。確かにモンスターかも……。」
獣人と化したピューマは唸りを挙げながら林檎を睨みつけていた。
「改めて紹介するわ。この子の名前はジェントルピューマ、私が戦士となるのに大切なパートナーよ。そしてその強さは四年前の戦士を遥かに凌駕する。」
真理紗は獣人と化したピューマの名をジェントルピューマだと明かす。ジェントルピューマはどうやら真理紗が戦うためのパートナーのようだ。ジェントルピューマは野性的な動きで林檎に飛び掛かる。
「くっっ……!」
避け切れず攻撃をまともに受けようとする林檎。しかし寸前のところで屈強な男性が林檎を守るようにジェントルピューマの攻撃を受け止める。
「間に合ったか。まさかこんな事態になっていたとはな。」
「ナイス依斧……。」
屈強な男性は重厚な声で話す。そして林檎は男性を依斧と言う。
「あなたは金山依斧、先代のシトリンの戦士ね。なるほど、彼を呼んでいたのね鈴木林檎。」
「そう、あなたと対立するのは読めていたからね。」
男性の名は金山依斧。四年前にシトリンの指輪の戦士として戦っていた男だった。林檎は予め依斧に連絡を取って呼んでいたのだ。
「俺も今の戦いについては気になっていたからな。丁度良い、俺にも君の知っていることを話して貰おうか。」
依斧は真理紗に向かって情報を聞き出そうとする。しかし真理紗は少し呆れた様子だった。
「全く、誰も彼も随分と知りたがりね。その醜い欲望、私の嫌いな人間の本質よ。」
「どういうこと?」
真理紗は情報を求める林檎と依斧を醜い欲望と揶揄する。林檎と依斧にはそれがどういうことなのかわからなかった。
「人間は悪意で出来ている。だからこそ悪の組織が産まれ、人間自身を脅かす。私はその汚れた悪意に触れるのが一番嫌いなの。」
「何だと⁉」
真理紗は人間が悪意で出来ていると言い、真理紗はそれを忌み嫌っているようだった。しかしそんな真理紗の言葉に依斧は怒りを覚える。
「人間が悪意で出来ている訳がないだろう。人間の体の大半は水分で出来ているんだ!」
「依斧、そこ真面目に答えるところじゃないから。」
依斧は真理紗の言葉に意義を唱える。しかしそれは悪意を否定することではなく、人間の体の構造を真面目に答えるものだった。林檎は思わず依斧に突っ込んでしまう。
「まあ、あなた方には人間の悪意の何たるかを知る必要はないわ。これで話は終わりよ。」
真理紗はそう言って林檎と依斧に背を向け、去ろうとする。
「待って真理紗!」
「待つんだ!」
林檎と依斧は慌てて真理紗を追いかけようとする。しかし突然真理紗が黒いオーラを放ち、二人の視界を覆う。
「うっ……!」
「目が……!」
二人が一瞬目を瞑ってしまった瞬間、そこに真理紗の姿はなかった。
「はぁ……、何となくわかってたけどここまで話が通じないとはね。」
「ああ。だがあの力、かなりの手練れだな。」
林檎と依斧は真理紗と話すことを取り敢えず諦める。しかし真理紗の強さに底知れないものを感じるのだった。
一方その頃、ダークサイレンスではブラクスが未だ人間界の侵攻が進まない事態に腹を立てていた。
「……ったく、いつになったら人間界を侵攻できるんだよ!戦士は増えて行くばかりじゃないか。」
「確かにそうですね。今のところはローズレーザー、ベリースパークラー、チェリーエッジ、レッドライテストの四人だけですがこれからまた戦士が増えることも十分に考えられます。」
「その前にあいつらを潰しておかねぇと、そろそろ本格的にヤバいぞ。」
ブラクス、そしてクリークの二人は本格的に人間界侵攻への焦りを感じていた。
「んがぁ~。」
「……ったく、スノアの奴はこの間久々に人間界に行ったかと思えば呑気に寝ていやがって。」
ブラクスは焦りを感じている中でも呑気にいびきを掻いて寝ているスノアにも腹を立てる。しかしスノアは突然起き出し、ブラクスとクリークに話し掛ける。
「ねぇ、今の戦士達のことばっかり考えているけど他に戦士がいることを忘れてるんじゃない?」
「あぁ⁉……確かにそうだな。」
「あの戦士と入れ替わりにローズレーザーらが現れたようなものですからね、暫く姿を見ていません。」
スノアはとある戦士のことを思い出していた。ブラクスとクリークもその戦士を暫く見ていないことが気になる。
「ブラクス、あの戦士がローズレーザーらと共に僕達を迎え撃つようなことがあればかなりの脅威となります。どうしますか?」
「そうだな、取り敢えずダークサイレンスが全滅しないように食い繋ぐしかねぇだろ。こっちだってまだ本当の力を出し切っていないんだからよ。」
クリークは戦士が集合した時のことを想定して不安に感じる。しかしブラクスはダークサイレンスの戦力もまだ控えているものがあるとしてその間全滅されないようにすることを提案していた。
「兎に角今大事なのはより強いマリスを産み出すことだ。今度は俺が行く。マリスを産み出す人間の悪意をしっかり見定めてやる。」
ブラクスはそう言って人間界へと赴く。ブラクスはより強い悪意が必要だと考えていた。
数日後、林檎は依乃里、雨幸、桐菜、風布花をカフェに呼び出し真理紗と会ったことを話していた。
「「「黒崎真理紗に会った⁉」」」
「う……、うん……。」
依乃里、雨幸、桐菜は驚いて林檎に詰め寄ってしまう。林檎はその圧に少し押されてしまう。
「私に会いに来たみたいなんだけど、大事なことは依乃里ちゃん達に直接話すって言って結局何も教えてくれなかった。」
「やっぱり真理紗は私に会った時と同じように、不思議な人ですね……。」
依乃里は林檎から真理紗が何も伝えなかったことを聞くと以前に会った時のことを思い出す。依乃里が最初に真理紗に会った時も重要なことを何も伝えず、戦士になることも全て依乃里が自力で辿り着いたことだった。そして風布花はあることが気になっていた。
「ところで、今日は依斧さんも一緒なんですね。」
「ああ、久し振りだな風布花ちゃん。」
風布花は珍しく依斧が同席していたことを意外に感じていた。そして風布花は依乃里ら三人に依斧を紹介する。
「皆さん、この方は四年前のシトリンの戦士だった金山依斧さんです。」
「君達のことは風布花ちゃんから聞いている。情報も無い中でよく戦って来たな。」
「あ……、ありがとうございます。」
依斧は依乃里らの今までの戦いに感心する。依乃里は少し戸惑いながらも依斧に感謝する。そして林檎は依斧を呼んだ理由を話す。
「実は依斧を呼んだのには理由があるんだ。真理紗はアメジストだけじゃなくてシトリンの指輪もしていた。そしてパートナーとして獣人になるピューマのようなモンスターもいた。」
「ピューマ?」
「獣人?」
「パートナー?」
「モンスターとか本当にいるんですか?」
林檎は真理紗がパートナーとしていたジェントルピューマのことを話す。依乃里ら四人はその話をにわかには信じられなかった。
「あ、でも真理紗が一人で戦っているイメージはなかったかも。」
「どういうこと?桐菜ちゃん。」
しかし、桐菜は真理紗にパートナーがいることに妙に納得していた。
「ほら、真理紗って社交ダンスの人じゃん?いのりっちが初めて会った時もタンゴを踊ったって言うし。だからもし真理紗の戦士としてのダンスがそっち系ならパートナーが必要かな〜と……。」
「「「「「あ〜〜〜……。」」」」」
桐菜は真理紗が社交ダンサーであるため、パートナーがいると考えていた。そしてそれには皆も納得する。
「確かに、あのピューマの獣人は燕尾服を着ていた。如何にも社交ダンスを踊るようだったな。」
依斧もジェントルピューマが燕尾服を着ていたことから、真理紗の社交ダンスのパートナーであると紐付ける。
「それで林檎さん、真理紗に会ったのが数日前の話なんですよね?」
「うん、そうだね。」
依乃里はふと改めて林檎が真理紗に会ったのが数日前だという事実を確認する。
「依乃里さん、それから真理紗さんにお会いしました?」
「いや、全く。」
「だよね~……。」
真理紗は確かに、大事なことを依乃里らに直接話すと言っていたが全くその気配がなかった。
「まあわかっていたことだけどね。」
「そっか……。」
依乃里は真理紗が未だ自身の前に現れていないことに少し諦め気味だった。そんな依乃里を見て林檎は気の毒に感じていた。
「はぁ……、依乃里ちゃん達も当時の私達と同じ位の情報のなさだね。」
「林檎さん達の時も情報がなかったんですか?」
「うん、一応組織として動いてはいたんだけどとにかく情報が少な過ぎてわからないまま戦っていたっていう感じかな?」
林檎は自身が戦っていた当時の情報のなさを思い出す。それには依斧と風布花も共感していた。
「確かに、私達が戦士になった時も全然情報はありませんでしたね……。」
「俺も戦士になったのはかなり早い方だったからな。何をどうすればいいのか全然わからなかった。」
「そうだったんですか……。」
依乃里は四年前の戦士も何もわからず戦っていたということに心情を察する。
「でも、依乃里ちゃんは真理紗に一回会って指輪と花を渡されただけなんでしょ?それからダークサイレンスに遭遇して戦士になってか……、風布花ちゃんが見つけてくれなきゃ本当に何も何もわからなかったんだよね。」
林檎は依乃里が真理紗に会ったきりで成り行きで戦士になったことにその状況の過酷さを感じていた。そしてその場は少し重い雰囲気に包まれていた。
「と、とにかく!真理紗が見つかったっていうだけでも大きな進歩じゃんいのりっち。」
「そうですよ依乃里さん。それに真理紗さんはまた依乃里さんに会うって言ってたんですし、また新しい情報が手に入るかも知れませんよ。」
「うん、ありがとう……。」
そんな重い雰囲気を払おうと桐菜と雨幸は依乃里を励ます。依乃里は二人に励まされ少し元気を取り戻していた。
「じゃあみんな、今日はこの辺で。また何かあったら連絡するね。」
「わざわざ時間を割いてくれてありがとうございます林檎さん。依斧さんも。」
「ああ、俺も出来ることがあるなら力になる。」
こうして一同は別れを告げ、解散するのだった。
「漸く真理紗に会えるのか……。」
「長かったですね、依乃里さん。」
「本当、こんなに戦ってるのにいのりっちに一回会っただけって酷いよね。」
「真理紗さんに会ったら、知っていることを全て聞き出さなければいけませんね。」
帰り際、依乃里ら四人は遂に真理紗に会うことに気持ちが高まっていた。そして依乃里はふと依斧について風布花に尋ねる。
「そう言えば依斧さん、四年前の戦士って男の人もいたんだね。」
「はい。私達の仲間には依斧さんの他にあと三人、男性の方がいます。その内の一人は組織のトップだった方なんですけど……。」
依乃里は四年前の戦士に男性がいたということを意外に感じていた。風布花は依乃里に当時の組織に男性がいたことを明かすが、その途中で言葉を詰まらせる。
「そのトップの人はどうしたの?」
「最終決戦の前に亡くなっちゃって……。」
「「「え⁉」」」
依乃里、雨幸、桐菜の三人は四年前の戦いで死者が出ていたことに驚く。
「四年前のダークストーリーズとの戦いって、終わったのが四年前っていうだけで戦い自体は七十年以上も続いていたみたいなんです。私達の時に戦死者はその方だけで済んだんですけどその前には随分と戦死者を出していたみたいで……。」
「マジ⁉そんな続いてんの?」
「もしかして私達もダークサイレンスとの戦いはかなり厳しいことになるんじゃ……。」
依乃里ら三人はこれからのダークサイレンスとの戦いに一抹の不安を覚えていた。そして雨幸は更に戦死者について尋ねる。
「風布花ちゃん、もしかしてその亡くなられた方ってエメラルディアっていうエメラルドの戦士ですか?」
「あ、そうです。でもその話ってしてませんでしたよね?」
「以前リーナさんと実さんから伺っていたんです。お二人を育てた方だと。」
「ああ、なるほど。」
雨幸はリーナと実から聞いていたエメラルディアが戦死者だと考えていた。風布花はエメラルディアが戦死者だと明かす。
「とにかく、これから先の戦いはみんな命に気を付けて頑張ろう。」
「はい。」
「うん。」
「そうですね。」
依乃里は皆にそう言い、一同は解散するのだった。
翌日、ブラクスはより強いマリスを産み出そうと強い悪意を持っていそうな人間を探していた。
「さ~てと、そんじょそこらの悪意じゃ絶対に奴には勝てないからな。どこかにとんでもない悪意を持っている奴はいるかなぁ……。」
ブラクスは強い悪意を剥き出しにしている人間を探す。しかしそんなところに依斧が通りかかる。
「貴様、ダークサイレンスの幹部だな。」
「はぁ、お前も戦士か?」
ブラクスは依斧を見て戦士かと感じる。しかしブラクスは男性の戦士を見たことがなかった。
「お前男か。男の戦士は見たことがねぇ、なら新顔か?」
「悪いが俺が戦士だったのは四年前の話だ。」
依斧は自身が四年前の戦士だと話す。そして依斧はブラクスに尋ねる。
「ダークサイレンスは人間界に侵攻すると騒音を出すが、お前は出さないのか?」
「はぁ?俺達が騒音を出すのはマリスを産み出して本格的に侵攻を始める時だ。今はマリスを産み出そうとしている時なんだよ。」
「なるほど、つまり今ならお前を叩けるというわけだな。」
依斧はブラクスから騒音を出す時があることを知る。すると依斧は自身でも戦うことが出来るチャンスがあるとわかりブラクスに飛び掛かる。
「うぉ⁉」
「悪いがお前の企みはここで潰させてもらう。これ以上人々が苦しむ騒音を出す訳には行かない。」
「戦士でもねぇ奴が、生意気言ってんじゃねぇ!」
依斧はブラクスを倒そうと躍起になっていた。ブラクスは強いマリスを産み出そうとしている時に襲い掛かる依斧を邪魔に感じていた。そして依斧は戦いながらブラクスに尋ねる。
「お前、マリスを産み出すことが出来るのか。つまりダークサイレンスはダークストーリーズと同じ出自だということだな?」
「ダークストーリーズ?何だそれ?」
「知らないのか?」
依斧はダークサイレンスがダークストーリーズと同じくマリスを産み出せることから出自を共にしていると確信していた。しかしブラクスはダークストーリーズのことを知らなかった。そのことに驚く依斧。
「俺がいつどこで生まれたのかなんてどうでもいいな。大事なのはこの人間界を耳障りな音のない世界に変える、それだけだ。」
「なるほど、やはり話すだけ無駄のようだな。」
依斧はブラクスと話し合いで何かわかるようなことがないと感じると本気で立ち向かう。
「何⁉」
「俺は戦士になる前から腕っぷしには自信があるんだ。そしてそれは戦士ではなくなった今でも変わらない。」
ブラクスは依斧の普通の人間とは思えない腕力に少し翻弄されてしまう。しかし二人が交戦している時、刃物を振り回しながらふらふらと歩く男性が現れる。
「もう終わりだ、こんな世界なくなってしまえばいいんだー!」
「あれ、中々いい悪意じゃねぇか。」
「何⁉まずい!」
刃物を振り回す男性は何か絶望している様子だった。ブラクスはそんな悪意剥き出しの様子に喜ぶ。
「お前、怪物から逃げろ!」
「俺に指図するんじゃねぇ!」
依斧は男性にブラクスから逃げるよう言うが、男性は言うことを聞こうとしない。そしてブラクスは男性の頭に手を翳す。
「出でよマリス!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「しまった!」
依斧の呼びかけも虚しく、ブラクスは男性からマリスを産み出してしまう。そしてマリスから歯ぎしりのような騒音が発せられてしまう。
「うっ……!」
依斧や周囲の人々は騒音に苦しんで倒れこんでしまう。
少し離れた所で、マリスの騒音を受けて倒れこむ人々を真理紗は見ていた。
「この状況、ダークサイレンスが近いわね。」
真理紗はブラクスとマリスがいる方向へと向かうのだった。
マリスを連れて街に繰り出すブラクス。そこに依乃里、雨幸、桐菜、風布花の四人が駆けつける。
「ブラクス!」
「これ以上は好きにさせません!」
「さっさとお縄を頂戴されな!」
「私達がいる限り無駄な抵抗です!」
四人はブラクスにそう叫ぶとフラヴァイスを持って構える。そして勢いよくフラヴァイスを振り下ろして開き、口の前に持って行く。
「バラ!ダイヤモンド!フラメンコ!」
「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」
「サクラ!ガーネット!日本舞踊!」
「カーネーション!パール!チャールストン!」
四人がそれぞれ叫ぶと、フラヴァイスから音声が響く。
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
「踊ります!」
「踊っちゃうよ!」
「踊ってみせます!」
そして四人はそれぞれダンスを踊り、戦士へとその姿を変える。
「情熱の舞姫、ローズレーザー!」
「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」
「美麗の舞姫、チェリーエッジ!」
「軽快な舞姫、レッドライテスト!」
「情熱のメロディー、響かせてあげる!」
「軽快なステップに、ついて来られますか?」
四人は名乗り、ブラクスとマリスに立ち向かう。
「ふん、今回ばかりはお前らも手こずるマリスだ。覚悟しな!」
ブラクスも今回のマリスに自信があるようで、ロースレーザーらを挑発する。そしてブラクスの言う通り、マリスはとてつもない力を見せつける。
「このマリス、強いです!」
「マジヤバな強さじゃん!」
ベリースパークラーとチェリーエッジはマリスを挟み込んで攻め立てるがマリスには通じない。そしてマリスは二人の首を掴む。
「嘘⁉」
「首が……!」
そしてマリスはそのまま二人を投げ飛ばしてしまう。
「雨幸ちゃん!桐菜ちゃん!」
「余所見してる暇なんかねぇぞ!」
ベリースパークラーとチェリーエッジを気に掛けるローズレーザーだったが、ブラクスはそんな暇を与えず攻撃する。
「依乃里さん、ここは一気に決めた方が!」
「わかった!」
レッドライテストの助言でローズレーザーは一気に攻撃の態勢に入り、銃口をマリスに向ける。
「レーザーストライク!」
そしてマリスに向けてレーザー光線を放つが、マリスは手の平で受け止めてしまい平然と立っていた。
「そんな、必殺技が効かないなんて……!」
ローズレーザーは必殺のレーザー光線が効かないマリスに絶望を感じてしまう。しかしベリースパークラーとチェリーエッジの二人が立て続けに攻撃を仕掛ける。
「ベリースラッシャー!」
「鋭刃の舞!」
マリスの視界の外から不意を突いて攻撃する二人。しかしマリスはその攻撃を読んでいたかの如く両手で受け止めてしまう。
「そんな……!」
「マジで隙がないじゃん……!」
そしてマリスは飛び上がって両足で二人を蹴り飛ばす。そしてローズレーザーら四人は窮地に陥っていた。
「ははは!かなりいいマリスに仕上がったな!これであいつが現れても安心だな!」
「あいつ……?」
ブラクスはローズレーザーらを翻弄するマリスの強さを見て高らかに笑う。そんなブラクスの言葉にあるあいつという存在をレッドライテストは気に掛けていた。
「あいつというのは、私のことかしら?」
「は?」
そんな時、一同の前に黒いドレスのスカートを靡かせながら歩く真理紗の姿があった。
「あの人は……!」
「黒崎……、真理紗……!」
一同は真理紗の姿に驚く。
「久しぶりねブラクス、悪いけど桜間依乃里の命を奪わせる訳には行かないの。このマリスは私が始末させてもらうわ。」
真理紗はブラクスにそう言うと指をパチンと鳴らす。するとジェントルピューマがブラクスとマリスを攻撃しながら現れる。そして真理紗はシトリンの指輪を嵌めた右手をジェントルピューマに翳す。ジェントルピューマは林檎と依斧の前に現れた時と同じように燕尾服を身に纏った獣人の姿になる。
「ちっ、またあの忌々しい獣人も一緒か。」
ブラクスは獣人と化したジェントルピューマの姿を見て舌打ちをする。そしてジェントルピューマが真理紗の元に立つと、真理紗は懐から黒いフラヴァイスを取り出す。それにはパンジーの花のような造形が施されていた。
「行くわよピューマ。」
真理紗はそう言うとフラヴァイスをゆっくりと開き、口の前に持つ。
「パンジー!アメジスト!タンゴ!」
真理紗はフラヴァイスにそう叫ぶ。するとフラヴァイスから音声が鳴り響く。
「Let's Dance!」
「踊るわよ!」
真理紗はそう言うとジェントルピューマの手を握る。そして真理紗とジェントルピューマの二人はフラヴァイスから流れる音楽に合わせてタンゴを踊り始める。そして真理紗は戦士へとその姿を変える。
その戦士は黒く煌びやかでありながら闘志を見せつけるようなドレスを身に纏っていた。
「魅惑の舞姫、ブラックチャーム!」
「くそっ、現れやがったか。」
その戦士はブラックチャームと名乗る。ブラクスはその姿に嫌な様子だった。
「魅惑のムーヴに、酔いしれなさい。」
そしてブラックチャームはブラクスを挑発するようにそう言うのだった。




