第87話 『カヴェナンター奪還戦』
奪われた国を取り返すため、キラは仲間と共に王都へ攻撃を仕掛ける。
対する大臣もまた、懐刀のガストンを総大将に防衛隊を配備するのだった。
Pixivの方に戦場概略図を投稿してあります。
途中で部隊の動きが分からなくなったらそちらをどうぞ。
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王族派の軍勢が迫る中、ガストンは出撃可能な部隊に総動員をかけていた。
使えるのは大臣の私兵と、臨時で雇った傭兵達のみ。
その他の正規軍は、正当な王家が戻って来たと知れば寝返る恐れがあった。
今ひとつやる気の無い傭兵隊の尻を叩いて配置を指示し、何とか一息ついたガストン。
これから自分も本陣に合流しようと城内を進んでいると、彼を呼び止める人物があった。
「ボウマン、この騒ぎは何事だ?」
振り向くと、歩いてきたのはガストンよりも上等な甲冑を身に着けた、屈強な男だった。
この男こそが今の代の王国大将軍、マクシミリアン・テリフォードである。
ガストンより少し年上で、厳つくも品のある顔立ちは、大将軍と言われて納得の姿だった。
「これは、テリフォード将軍」
会釈しつつ、ガストンは厄介な相手に見つかったと内心で舌打ちする。
「大したことではありません。賊軍が王都に接近中とのことで、守りを堅めているのです」
「ふむ。それならば、他の騎士団にも声がかかるはずではないか?」
マクシミリアンの言葉ももっともで、ガストンも苦しい言い訳であることは承知の上だ。
「正規軍の手を煩わせるまでもない規模です。我々、バルバリーゴ派の兵のみで対処できましょう」
これも矛盾だらけだった。
本当に大したことのない賊ならば、傭兵隊も含めた私兵を全て動員するのはやり過ぎである。
そこまでせねばならない驚異であれば、マクシミリアン達正規軍に助力を求めないのはおかしい。
当然、この程度で言い包められる大将軍ではない。
「……ボウマン、何を隠している?」
「隠すなどと、滅相もない!」
訝しむマクシミリアンが半ば尋問のように詰め寄ったその時、背後からガストンに声がかかった。
「ボウマン団長! 作戦指揮で至急指示を頂きたいのですが」
私兵軍団の隊長の一人だ。
これ幸いと、ガストンは話をはぐらかして逃げ出した。
「部下が呼んでおりますので、これで」
しばし、マクシミリアンは疑いの眼差しで彼の背中を睨んでいたが、やがてゆっくりと歩き去る。
邪魔者が居なくなったことを横目で確認し、ガストンは大きなため息をついた。
「ふぅー……。今に見ておれよ、次の大将軍は私なのだからな」
大臣が王となり、完全に国を掌握すれば大将軍の任命も思うがままだ。
その暁には大臣の守護騎士であるガストンが地位を約束されている。
「団長、指示を頂きたいのは本当でして……。今回の配置、これでよろしいのですか?」
そう尋ねる隊長は、純白の見事な甲冑を着込んでいた。
彼の名はレナード・スキナー。その鎧から『白騎士』の異名を持つ、指折りの剣士である。
腕利きだが歳はまだ若く、ガストンの後輩に当たる。
「やむを得んだろう。王女を正規軍と接触させたくない」
レナードが心配していたのは、私兵部隊が王都周辺を囲うように広く薄く展開していたためだ。
だがガストンの考えでは、王族派はどこから攻めて来るか分からない以上、まず全方位を防御しつつ様子を見るしかない。
王都カヴェナンターは堅牢な城壁に守られており、本来は門を集中的に守れば良かった。
城壁も有効活用できるのだが、その水際作戦では正規軍とキラの接触を許してしまう恐れがある。
結果、王都からある程度距離を取って、平地で迎え撃つ布陣をするしかなかった。
「しかし、兵が分散し過ぎています。これでは突破されますよ!」
兵法の基本は兵力の集中。レナードの指摘はその基礎に忠実に倣ってのものだ。
全体を守れば部隊が薄くなり、かと言って一方向に集中配置すれば迂回された時に敵の侵入を許してしまう。
「そのために騎兵を展開しているのだ。奴らがどの方角から来るか分かれば、そこへ戦力を集中させる」
機動力に優れた騎馬隊は、こういう時も便利だった。
王族派の拠点である屋敷は王都の北西側、その方角に主力と本陣を共に布陣する。
他は騎兵を中心に編成して配置し、王族派の軍を確認した時点で呼び戻す作戦だ。
もし側面へ回り込まれた場合は、伝令で知らせてその方角へ兵を集める。
「スキナー、我々も現場へ出るぞ。時間がない」
「はっ」
レナードはまだ腑に落ちないながらも、自分が主力のうちに入って北西に配置されていることである程度納得した。
彼もまた、この戦に勝てば昇進を約束されている騎士の一人だ。
二人は城を出ると、自分の軍馬に乗って運命の戦場へと向かう。
一方、王都付近まで進軍した王族派と特務隊の合同軍は西側の林を盾にするように本陣を構える。
敵軍を誘い込む場所でもある林は、彼らの姿を隠す上でもうってつけだ。
ここでキラはエドワードやライオネルと別れることになる。
「気をつけるんだぞ、キラ」
本陣に残るエドワードは彼女の身を案じた。
それにキラはうなずいて答える。
「叔父様もご無事で。行ってきます」
彼女の護衛として騎士団を指揮するアルバートもまた、父ライオネルとは別行動となる。
「アルバート、頼んだぞ」
「はっ。必ずや、姫様を議会へ送り届けます」
手短に別れを済ませ、各々は自分の軍馬に跨って配置につく。
エドワード、ライオネル、マチルダ、スコット、ジェームズは数百名の私兵と共に本陣で待機。
キラはアルバート率いる鉄騎隊、そしてギャレス率いるクルセイダーを連れて王城を目指す。
特務隊は一部の兵を本陣へ回し、残りは林の中で伏兵として待つ。
キラを見送った後、本陣のライオネルはスコットとジェームズに話を切り出した。
「ドーセットシャー卿、サウサンプトン卿、万が一の時はエドワード様を連れて西へ逃れろ」
彼はこの作戦が失敗した時のことを考えていた。
最悪の場合でも、エドワードが生きていれば完全に敗北したわけではない。
「し、しかしクロムウェル卿は……?」
スコットは思わずそう尋ねるが、それを遮るようにジェームズが答える。
「分かりました。もしもの時はそのように」
それを聞き、ライオネルは満足そうにうなずいた。
「王家の血を絶やしてはならん。頼んだぞ」
有無を言わさぬ迫力にそれ以上言えなかった二人だが、しばらくして顔を見合わせる。
「クロムウェル卿は来ないのだろうか?」
「恐らく、エドワード様を逃すための盾になるつもりだ」
敗走するにしろ、殿が敵を食い止めなければ追いつかれてしまう。
ライオネルはその指揮を他人に任せず、自分自身で責任を取る気なのだ。
「そ、そんな……! クロムウェル卿を失えば、我々にとって大きな損失だ。何かできることは無いのか……?!」
前線から引き離された本陣に固まっているのは、戦場に出ても足手まといにしかならないからだ。
スコットもそのことは重々承知している。
だからこそ、自分には何もできないのかと歯痒さを感じていた。
「……祈るしかあるまい。我々にできるのは、それだけだ」
ジェームズもそれは同じ。今は神に縋る他無い。
二人はマチルダと作戦を話し合うライオネルの背中を、そして出陣した騎士団へと視線を向ける。
その鉄騎隊の側では、キラが自身の影武者となる女兵士と馬上で言葉を交わしていた。
合戦前に話しておきたいと、キラが望んだものだ。
影武者は体格の近い女兵士が抜擢され、鎧の上から偽の王家の外套を羽織り、特殊なメイクで顔を似せていた。
間近で見ると二人が別人であると分かるが、遠目からでは区別がつかない。
「危ない役目を任せてしまって、すみません。それに髪まで……」
旅の中で少し伸びたものの、キラは短く切ったショートボブ。
彼女に似た栗色の髪の影武者は、それに合わせて髪をばっさりと切ったのだ。
「お気になさらないでください。私は光栄に思っています」
この時代『髪は女の命』とも言われ、当人にとっては軍旗を焼くのと同じくらいの重い意味を持っていたはずだ。
「ご家族は、居たりするんですか?」
「はい。南方の田舎に両親と妹がおります」
女兵士は出稼ぎのため、軍に志願したと言う。
だが王族派に加わったことで仕送りが送れず、実家のためにもこの戦いに賭けているのだった。
「ご家族のためにも、無茶はせずに生きてください」
もうキラの肉親はエドワードだけとなってしまった。
家族を失うこの苦しみを、これ以上人々に味わわせてはならない。そう強く感じる。
「殿下の演説、私も聞いておりました。死ぬ気はありません」
影武者のその言葉と力強い眼差しに、キラも少し安堵感を覚えてうなずく。
短い会話を切り上げると、女兵士は先行する騎士団へと合流し、やがて見えなくなる。
キラに見送られながら、アルバート率いる鉄騎隊が最初の行動を起こした。
影武者を守りながら、林の側面を通って大臣派の部隊へ正面突破をかける。
この姿を大臣側もいち早く察知した。
迎撃の構えを取る防衛隊に対し、アルバートは長弓による先制攻撃を仕掛ける。
鉄騎隊は弓騎兵で固められた騎士団であり、機動力と射程で群を抜いている。
防衛隊もそのことは承知していて、大盾で降り注ぐ矢を凌いだ。
ここまではガストンも予想していたが、彼は違和感を覚えていた。
(攻めてきたのは鉄騎隊だけか……。クルセイダーはどこだ?)
本陣から前線を睨むガストンに、伝令兵は指示を求める。
周囲に展開した騎兵隊を呼び戻し、正面に集中させるかどうかを聞いているのだ。
「いや、各隊はそのまま警戒を続けろ。クルセイダーがどこかで様子をうかがっている」
ガストンは、鉄騎隊を囮にしてクルセイダーが手薄になった側面を狙うと読んだ。
鉄騎隊だけならば今の戦力でも十分対応可能な数だ。
合戦の火蓋が切られたことは、本陣近くのレナードも知っていた。
今は持ち場を動くなという指示があったため、彼も一歩引いた位置で前線を見守るしかない。
レナードは勝ちが分かっている戦だからと、戦場に女を4人も連れてきていた。
人目を憚ることなく女を侍らせ、彼はいい気になっていた。
「フッ……俺の剣さばきを披露したいのは山々だが、まあ、待機命令なら仕方ないな」
レナードは女遊びが派手な男で、武名の他に常に女を侍らせていることでも有名だった。
顔立ちは悪くなく、身だしなみにも気を使い、かつ異名を持つ程の実力者とあって女性からの人気も高かった。
「残念~。レナード様の技、見たかったなぁ~」
「そうだろう、そうだろう。だが、相手があの”臆病者”のアルバートじゃあな。俺の剣技も出番が無さそうだぜ」
レナードはアルバートと歳も近く、かつては士官学校の同期だった。
その同期達の間で有名だったのが、『アルバートは騎士らしくない臆病者』という噂である。
そもそもロイース王国の騎士は伝統を重んじ、正々堂々と正面から突撃する戦法を好む。先人がずっとそうしてきたからだ。
だがそれは同時に、部下に犠牲を強いる戦い方でもあった。
アルバートは合理主義者で、兵にいたずらな犠牲を出す戦法を好まなかった。
そこで彼が編み出した結論が、弓騎兵による下がり撃ちである。
弓矢で相手の射程外から攻撃しつつ、接近されそうになったら軍馬の機動力で逃げ回り、そしてまた撃つ。
既存の突撃戦法にとって相性は最悪で、レナード含め演習で煮え湯を飲まされた騎士は大勢居る。
そこからアルバートは異端視され、『臆病者』というレッテルを貼られるに至る。
鉄騎隊が正面突破を挑んだと聞いたレナードは最初耳を疑ったが、兵力差を前に窮したのだろうと高を括っていた。
彼の予想が当たったか、防衛隊と衝突してすぐに鉄騎隊は撤退を始める。
「な、俺の言った通りだろ? 奴は意気地なしなのさ」
突破を諦め背を向けた鉄騎隊を、レナードと取り巻きの女達が笑う。
そう侮っていたのは前線の隊長も同じで、彼はすぐに追撃を命じる。
「よし、ここで叩いて王女の首を取る! 奴らを逃がすな!」
勝利を確信して突出する中央の部隊。
だが下がり撃ちを得意としてきた鉄騎隊の逃げ足は速く、半ば引きずられるようにして部隊は林の中へと突入していく。
その動きを、ガストンは冷静に見ていた。
(引き際が良すぎる……。連中にとって後が無い戦いのはずだ)
前線を俯瞰する彼は、はっとして部下に指示を出す。
「おい、中央ががら空きだ! 両翼の部隊で埋めさせろ!」
「はっ! 中央部隊を呼び戻しますか?」
そう聞かれ、ガストンは調子に乗って突出した部隊に目をやる。
「いや、今から伝令を行かせても間に合わん。捨て置け!」
伝令兵はすぐに、両翼へ指示を伝えに早馬で駆けて行った。
(手柄に目が眩みおって……。これは防衛戦だぞ)
まだクルセイダーの動きが見えていない。
十中八九、鉄騎隊は中央を釣るための餌だとガストンは考えていた。
一方、鉄騎隊を追って林に分け入った中央部隊は、伏兵の奇襲を受けていた。
「伏兵だと?! クルセイダーか?!」
隊長は慌てて敵を確認するが、軍旗は黒く塗りつぶされており、所属はどこの者とも分からない。
「退け、退けー! これは罠だ!」
「隊長、後ろは敵で塞がれています!」
兵の言う通り、謎の敵は退路を塞ぎつつ包囲し、茂みの中から中央部隊目掛けて次々と矢を放つ。
「まさか、傭兵隊か? 馬鹿な、こんな数を王族派が揃えられるわけが……!」
完全に油断していた部隊は予想外の攻撃に混乱し、反撃もままならない。
敵の術中にはまったと気付いた時には、身動きが取れなくなっていた。
対する特務隊の武将の一人ジョンは、茂みに隠れながら攻撃指示を下す。
「効いてるな。よし、もう一発かましてやれ!」
「へい、お頭ぁ!」
彼らは300人程度の工兵で、中央部隊を包囲できるような数は無い。
だが誘い込む場所があらかじめ分かっていたため、見通しの悪い林の中で罠を張っていたのだ。
茂みの中にはワイヤーを引くと一斉に矢を放つ、クロスボウの罠が仕掛けられていた。
この一斉射により、敵は茂みに大勢の弓兵が潜んでいると勘違いしたのだ。
敵が多い上にどこに来るか計算されていたため、無人の罠による雑な狙いでも効果は十分。
ジョン達義賊団は、この手法を使って何度も帝国軍を退かせてきた。
そして敵の背後に立ち塞がるのは、守りの固いクラウス率いる黒鉄騎士団。
「奴らをここから出してはならん! ナーシャよ、行けるな?」
「はい、主様」
何とか体勢を整え、反撃に出ようとする中央部隊に対し、ナスターシャが巨大な指向性防壁の術を展開する。
相手側からの攻撃は弾くが、味方側からの攻撃は通すという、敵にとって厄介な魔力の盾だ。
指向性防壁を張られては、中央部隊も突破しようがない。
「ふむ、足止めもいいが、このまま押し切ってしまってもよかろう。トマスよ、進撃だ!」
「はっ!」
一方的に前進する黒鉄騎士団が前線を押し広げ、それに合わせてナスターシャが操る魔力のシールドが敵に迫る。
黒鉄騎士団を避けようにも、三方向からは矢が降り注ぐ。
「は、はめられた……!」
中央部隊の隊長はどっちへ退いていいか分からなくなり、頭を抱えた。
特務隊が敵を足止めしているその間に、戻って来た鉄騎隊はクルセイダーと合流。
今度こそ、本物のキラを連れて再出撃となる。
「姫様、ご安心を。我々で必ず守り抜きます」
軍馬に跨ったアルバートが、そう声をかける。
キラも同じく騎乗しており、出撃を待っていた。
彼女には最も上等な軍馬が与えられ、キラだけでなく馬も鎧を着込んでいる。
「行きましょう、キラさん。決着をつけるんです」
隣には、やはり馬に乗ったルークがついていた。
彼は乗馬の心得があるため、鉄騎隊から馬を借りていたのだ。
すぐ後ろにはカルロが手綱を握る馬車。前線に出る仲間達はここに乗っている。
後方支援担当のヤンと、食べ過ぎで腹を壊したレアとはここで一旦お別れとなる。
キラがうなずくのを合図に、鉄騎隊とクルセイダーは一斉に林の影から飛び出した。
鉄騎隊を庇うようにクルセイダーは前に出て、突破の先鋒を担う。
陣頭で指揮を執っているギャレスは、防衛隊が穴を塞ぐべく移動していることを確認した。
(ガストンはこちらの意図に気付いたようだな。だが、まだ勝機はある)
指揮官はともかく、両翼の部隊はこちらを舐め切っており、まだ動きに危機感が感じられない。
『臆病者』と噂の流れるアルバートが、陽動に動いたことが効いている様子だ。
ギャレスはこの噂を知った上で、彼に囮を任せた。
アルバートも汚名を気にしないタイプで適任だと快諾し、この作戦は成立した。
「活路は我々で切り開く! 鉄騎隊は援護を!」
ギャレスの指示を受けた部下は、すぐにそれを後ろのアルバート達に伝えに行く。
それと同時に、彼のすぐ隣で馬を走らせていたシエルは目を輝かせた。
「おっ、今日は突撃してもいいの?」
「構わん。敵に目に物見せてやれ」
ギャレスの娘にして、団長補佐のシエルは一にも二にも突撃が大好きな性格だった。
良くも悪くもロイース騎士らしく、アルバートとは正反対の思考をしている。
時に作戦を無視して突貫したがるので、参謀のウィルヘルムによく咎められていた。
今日は解禁ということで、彼女は絶好調だ。
「やったー! 行ってくるね、パパ!」
「こら! 戦場では団長と呼びなさい!」
ギャレスの注意も聞かず、シエルは兵を率いて防衛隊へと突っ込んでいく。
馬上槍で敵の前線を切り崩し、その後は剣を抜いての騎馬戦となる。
「ひゃー! 突撃バンザーイ!」
同国人同士で殺し合うことに疑念を抱いていたシエルだが、戦場で迷っていては死ぬと教わっている。
今はただ、戦いの高揚感に身を委ねて剣を振るうのみ。
躊躇いを脇に置いた彼女は、鬼神の如き活躍を見せる。
作戦の意図を理解させるのは難しいが、いざ前線に出して暴れさせれば並の兵士百人に匹敵するとも言われる武勇であった。
「よし、敵は混乱している。我々も続くぞ!」
「はっ」
ギャレスもただ娘に突撃させるだけでなく、自らもクルセイダー本隊を率いて防衛隊へ攻撃を仕掛ける。
クルセイダーの参謀であるウィルヘルムもギャレスの隣に付き従った。
そして中央の穴を埋めようとする両翼の敵に対しては、後方から鉄騎隊が矢を浴びせて牽制した。
肉薄する王族派部隊に、本陣のガストンも冷や汗をかく。
功を焦った部下により防衛線に穴が空き、それを狙っていたギャレスは弱点を突いてきている。
(チッ、初手はまんまとしてやられたが……このまま通させはせんぞ!)
温存されていたクルセイダーの姿を確認できたため、広域に展開している騎兵隊をこの場に集中させる目処もついた。
「しかし、中央部隊が戻ってくるのが遅い。何に手こずっている?」
王族派の総数はこれでほぼ全てのはず。
この短時間で中央部隊が全滅したとも考え難く、林で何が起こっているのかとガストンは訝しむ。
「いや、それよりも……。中央は誰が残っている?」
「スキナー隊が先頭で持ちこたえています!」
最初、アルバートを『臆病者』と侮っていたレナードだったが、ガストンの指示とクルセイダーが動き出したことで、中央の穴へいち早く駆けつけたのだった。
それを聞いて、ガストンは少しだけ安堵する。
「スキナーの奴、こういう時は動きが早いな」
だからこそ、ガストンも彼を信頼していた。
そのレナードは前線で、シエルとぶつかっているところだった。
「ローランの一人娘か! 降伏すれば命だけは助けてやるぞ?」
彼女の突進を止められるとすれば、レナードだけ。
自信過剰ながらそれを自覚していた彼は、自らシエルの前に立ちはだかる。
連れてきた女達は後方で待たせており、いい格好を見せたいという思いもあった。
内心では、シエルも自分のハーレムに加えたいと考えながら。
「あーあー聞こえなーい! シエル・ローラン、取り敢えず突っ込みまーす!」
対するシエルは何も考えず、目の前の障害を叩き潰すべく騎馬を走らせる。
「来るなら来い! 『白騎士』レナード・スキナー、推して参る!」
両軍の最前線で、両雄が衝突する。
カヴェナンター奪還戦は、まだ始まったばかりである。
To be continued




