第83話 『疑問』
特務隊が動いていた頃、屋敷に保護されたキラ達は思い思いに過ごしていた。
ディックはより腕を上げるため、王族派騎士のシエルと一緒に訓練を行うが……。
クラウス率いる特務隊の到着より、時は数日遡る。
ようやく王族派と合流を果たしたキラは、来たるべき王都攻略戦に向けて心身を休めていた。
最重要人物ということで厳重に警備された客室にほぼ軟禁に近い状態で、仲間とも直接顔を合わせられない日が続く。
常に護衛の兵士と侍女が居るので身の回りのことで不自由はないが、同時に行動の自由は失われた。
息が詰まりそうだが、従者としてルークがついていてくれるおかげで幾分か楽だった。
「ねえ、ルーク」
昼食を終えた後、キラは何気なく食器を下げに来た彼に話しかける。
「何でしょう」
「……あの時、また自分を犠牲にしようとしたでしょ」
ガストンの罠にはまった時のことを彼女は言っていた。
文字通り八方塞がりの状況で、ルークは活路を開くために自爆しようとしていた。
「すみません。私は……」
ルークは申し訳無さそうに頭を下げるが、キラはそれを手で制して顔を近づける。
「分かってる、私のためってことぐらい」
真っ直ぐに見つめられ、彼はばつが悪くなり目をそらす。
「でも、これだけは覚えておいて欲しいの。私の一番の願いは、ルークに生きていてくれることだって」
その言葉を聞いて、ルークは横にそらしていた目線を正面に戻した。
自分が考えていたことと全く同じだったからだ。
(私も、キラさんに生きていて欲しい一心だった)
約束を破ることになったとしても、彼女だけでも生きて逃がせれば。当時はそれしか頭になかった。
「……あの時は本当に、他の手が思い浮かびませんでした」
迷っていたらキラも含めて全滅だった。
ギルバートが犠牲になったことで何とか生き延びることができたが、そのギルバートはもう居ない。
ルークにも次が無いことは分かっていた。
「私をかばって、ギルバートさんが犠牲になりました。どうすればよかったのか、私には……」
直後には追手から逃れることに必死で実感が湧かなかったが、落ち着いた今になって喪失感がジワジワとやって来る。
あまりに慌ただしく、別れを告げる暇すら無かった。
「私も悲しい……でも、感謝してる。私達が生きていられるのは、ギルバートさんのおかげだって」
あそこでギルバートが活路を開いてくれなければ、ルークだけでなく全員がやられていただろう。
(私よりも、これからの戦いでキラさんの役に立てるのはギルバートさんだった。私は判断を誤ったのではないか?)
ギルバートの死を悼むキラの姿を見ていると、そんな思考が頭に浮かぶ。
また自虐的な考えに陥る彼に対して、キラは少し表情を険しくする。
「ルーク、また自分のせいって考えてるでしょ?」
心でも読まれているのかとルークが口を開こうとするが、その前にキラが言った。
「顔に書いてあるよ」
自分でも気付かぬうちに、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
指摘されてルークはいつも通りのポーカーフェイスを取り繕う。
「その癖、ちょっとずつ直して行こうね。全部ルークのせいじゃないんだから」
「そうでしたね。悪い癖がまた出そうなところでした」
これからもキラと共に生きて行くために、自虐的な思考から自己犠牲に走ろうとする悪癖は捨てなければ。
反省したルークの様子を見て、キラも詰め寄る姿勢から引き下がった。
「ごめんね、私も強く言い過ぎちゃった。でも、約束だけは忘れないで」
うなずいて答えながら、ルークは元々の用事である食べ終えた食器を片付けにかかる。
黙々と従者としての仕事をこなしつつ、彼は考えていた。
(キラさんとの約束は果たしたい。だが、もし次に選択を迫られたなら、迷ってはいられない)
戦いが終わったわけではない。
むしろこれからが、王国を取り戻す戦いの本番だ。
キラの命と自分の命、どちらか片方を選ばなければならない状況が来ることも、ルークは覚悟していた。
一方、キラと引き離された仲間達はと言うと、それなりに屋敷での生活を満喫していた。
特にディックとレアは何もしていなくとも毎日三度の飯が出るというそれだけで、天国にいるような気分だった。
「ま、まだ……あと一口……!」
今日もレアは胃袋が満杯になるまで料理を詰め込み、それでも欲を張る。
これ以上無理に飲み込めば逆に吐いてしまうということで、エドガーが止めに入った。
「もう十分だろう。晩飯が入らなくなるぞ」
「だ、だって、まだ飯の残りが……」
レアは料理があればあるだけ食べる習慣がついていた。
目の前に食べ物を残したまま、スプーンを置くなどありえないのだ。
「じゃあ私が食べる」
そう言って、既に三人前は平らげたであろうメイが残りのチキンスープを飲み干す。
自分の腹に収められなかったのが心残りだが、残飯が無くなったことでレアは納得した。
しかし小柄で痩せていた身体の腹だけが出っ張る程に食べたせいで、彼女は身動きが取れなくなり、近くのソファーでそのまま横になる。
「なあチビ助、食った後寝ると牛になるって言うんだぜ」
満腹になって食べ終えたディックが、彼女をそう茶化す。
かつての和気藹々とした様子を取り戻した仲間を眺めて、ソフィアはひとつため息をこぼした。
一応は落ち着いたものの、もう以前と同じにはならない。
ギルバートはもうここにはおらず、待っていても帰って来ないのだ。
「……戦いが終わったら、ギルバートの葬儀を行わないといけないわね」
彼女のつぶやきに、行儀よく食べ終えたヤンもうなずく。
「そうですね。本当に、バタバタしてしまっていたので……」
ガストンの部隊から逃れ、その後は銀狐に接触してそのままこの屋敷へ。
死んだ仲間の葬式を出している余裕も無かった。
「お墓、作らないとね」
メイの言葉に、エドガーも続く。
「巻き込んでしまったエリック達や、自業自得だがリカルド達の墓もいるな」
彼は元々、リカルド率いる傭兵チームの一人で、生き残りだ。
リカルドの企みで一行は凶悪なギャングと事を構える羽目になり、その中でエリックとエレンの二人の若者が命を落とした。
これはエリック達を旅に誘ったソフィアにとっても、苦い記憶だった。
旅に出ることを思い留まらせていれば、二人は今でもファゴットの街で平和に暮らせていたかも知れない。
「お、俺も、世話になったしな……」
傭兵チームのもう一人の生存者、カルロもエドガーに同意する。
お尋ね者である彼は、雑用係としてリカルド達に保護されていたのだった。
「爺さん、天国でどうしてっかな」
どこか寂しそうに、ディックは言った。
中途半端な技量を危うんだギルバートから、色々と指導を受けていたのが彼だ。
「こんなことになるんなら、ちゃんと真面目に修行しとくんだった」
熱心に教えるギルバートに対し、ディックは不真面目で不勉強だった。
旅先で出会った傭兵ジョットの助言で心構えに変化が訪れたものの、その直後に師は亡くなった。
「悔やんだところで無駄だ。死んだ奴は二度と帰って来ない」
傭兵として、何度も仲間の死を見てきたエドガーはそう釘を刺す。
「…………」
一人、会話に入らないのがユーリだった。
彼も傭兵として仲間に先立たれており、仲間の死に無頓着なようでいてそうでもなかった。
仕事が終わればパーティを離れるつもりの彼だが、契約中はこれ以上の犠牲が出ないよう全力を尽くすつもりでいた。
「今は、先のことを考えよう」
メイの言う通り、まだ戦いは終わりではない。
これから王都カヴェナンターで、大臣の軍と対決しなければならない。
「この先の戦いで、誰が犠牲になるか分からないわ。そうならないよう、準備は念入りにね」
そう言うソフィアも、屋敷に着いてから旅の中で傷んできた杖の手入れを行っていた。
杖と魔導書は魔力をコントロールするための生命線、戦いの最中に壊れては困る。
メイとソフィアに仲間がうなずいて連帯感を再確認する中、一人寝転がっていたレアは死ぬ危険に怯えていた。
(あー、ボクも死ぬかもって思うとお腹痛くなってきた。嫌だな……ホント嫌だな……)
実際はただの食べ過ぎである。
そんな彼女を尻目に、ディックは席を立つ。
「よし、俺は腹ごなしといくぜ」
「訓練?」
メイの問いにうなずくディック。
彼は屋敷に着いて一息ついた後、毎日欠かさず訓練場に通っていた。
「お、俺も馬の世話をしてくるよ……」
ディックの後に続くように、カルロも背を丸めて食堂を後にする。
途中の廊下で二人は別れ、ディックは訓練場へ、カルロは馬屋へ向かった。
馬小屋ではキラ達を乗せてきた二頭の馬車馬が休憩しており、馬の面倒を見るのがカルロの日課だった。
「お前達も嫌だよなぁ、こんな戦いに巻き込まれて……」
背の低いカルロは踏み台に登りながら、馬にブラシをかけてやる。
そのついでに人間の仲間には中々言えない愚痴をこぼすが、馬は内容を理解しているのか時々相槌のように鼻を鳴らし、傾聴した。
「あんた、いい馬を持っとるね」
「ひゅいっ?!」
突然背後から声をかけられたカルロは、飛び上がりそうな程驚く。
振り返ってみると、馬小屋の管理人だった。
「すまんすまん、脅かすつもりはなかったんだ」
謝りながら、管理人はカルロの横に来て馬を眺める。
「私は長年軍馬の世話をしてきた。あんたの馬も立派なもんだよ。どこで買ったんだい?」
「え、えっと……」
元々、この馬は商人の馬車を引いていた。
北国のドラグマ帝国へ向かうということで、雪道にも耐えられる馬車馬を探し、ソフィアの財力で半ば強引に買い取ったのだ。
馬車はガストン隊から逃れる際にオシャカにしてしまったが、馬の方はまだ健在である。
カルロからその話を聞いた管理人は目を丸くする。
「ただの馬車馬?! こんなにたくましいのにか……」
それを聞いて、どこか自慢気に馬が鼻を鳴らした。
管理人は馬と一緒にカルロの目利きも褒めていたのだが、カルロの側は縮こまるばかりで誇る素振りは無い。
「この名馬、大事にしなされ。馬は裏切らん。人間と違ってな」
そう言って管理人はその場を離れて行った。
「……名馬かぁ。そう呼ばれるより、行商の馬車引いて平和に過ごしてた方がよかったよな?」
ため息をつきながらそう話しかけるカルロ。
二頭の馬はそれぞれ、肯定も否定もしないのだった。
カルロが馬に話しかけている頃、ディックはと言うと訓練場にやって来ていた。
かつては怠け者で鍛錬を嫌がっていた彼だが、これまで武術の基礎を教えてくれていたギルバートの死により、怠けてもいられなくなった。
(爺さんは死んじまった……。俺がその穴を塞がなきゃなんねぇんだ。爺さんの弟子の、俺が)
すると訓練場には、王族派の騎士の一人であるシエルが待っていた。
「よっす、ディックー。何暗い顔してんの、悩み事?」
気付かないうちに深刻な表情を浮かべていたようだ。
「いや、そういうんじゃねぇんだ。始めようぜ」
ここ数日、彼女はディックの訓練に付き合ってくれていた。
最初は訓練場を借りて彼が一人で修行の続きをしていたのだが、たまたま時間のかち合ったシエルと一緒に訓練をするようになったのが始まりだ。
それぞれ訓練用の槍、そして剣と盾のセットを持ち、対峙する。
「おりゃあっ!」
穂先を丸めた槍でディックが突撃するが、シエルの側には木製の盾がある。
「ちょいさー!」
一直線の突進は盾で軽く受け流され、勢い余ったディックに向けて刃の無い木剣が振り下ろされる。
彼も負けじと槍の柄で斬撃を受け止める。
実戦ではやってはならないが、剣と槍での鍔迫り合いに突入した。
「粘るじゃーん。んふふ……」
シエルは余裕の顔で、ジワジワと剣を押し込む両腕に力を込めていく。
一方のディックは押され気味だった。
「ぬおお……! な、何つー馬鹿力……!」
騎士というだけあって、シエルの筋力は並の男を凌駕していた。
今は木剣だが、これが重い鉄の剣になれば更に鍔迫り合いの力は増すだろう。
ディックもギルバートに鍛えられて筋力を底上げされているはずだが、本職の騎士にはまだまだ及ばない。
「ディック必死すぎ。ウケるー」
「まだまだぁ!」
ディックは槍を傾けてシエルの剣を受け流し、そのまま柄で側面に打撃を入れようと試みる。
しかしシエルは左手に持つ盾で、槍の柄を受け止めたのだった。
そして盾の後ろから伸びるように、木剣による突きがディックの喉元目掛けて繰り出される。
シエルは寸止めにしたが、これが真剣なら既に彼は死んでいた。
「ぐっさー! 致命の一撃入りまーす」
今回も敗因となったのは、盾。
シエルとの模擬戦で盾が驚異となることを知ったディックは、王都奪還戦の前に克服したいと考えていた。
思うばかりで名案は浮かばず、シエルとの模擬戦はほとんど負けている。
「ふぅ……。まだまだなんだな、俺」
互いに構えを解き、一度休憩に入る。
「そんなしょげるなし。何百回かやってたらさ、何か思い付くっしょ」
数日一緒に訓練してきて分かったことだが、シエルは騎士とは思えない程いい加減かつ能天気な女だった。
「何百回って、お前……」
「いやー、私はパパに教わって百回は剣振り回したけどね」
シエルは汗に濡れた青いショートヘアをかきあげ、顔を手で扇ぐ。
もうじき冬が来る季節だが、やはり運動の後は汗が吹き出す。
「お、おう……」
普段女らしさを感じない彼女の色気を含んだ仕草に、ディックは思わず視線が釘付けになる。
女好きが玉に瑕とされる彼だが、シエルに対しては不思議と異性としての興味関心があまり湧かなかった。
だが時々意識せずにはいられない時があり、これにはディックも困った。
(女の子と訓練って嬉しいんだけどなぁ……。気が散るから困るぜ)
以前の彼なら途中で鍛錬を放り出し、相手を口説いていただろう。
少なくとも男と組むよりずっといいと考えていたはずだ。
いざ真面目に訓練に取り組みたい今、ディックは自分の性が煩わしくなった。
一方シエルの側も視線には気付いており、休憩中であれば悪戯心を起こして彼をからかう時がある。
「おっ、ひょっとして私の健康美に見とれてたな? やらしー」
「ち、ちげーし」
途切れた集中を持ち直そうと、顔をそらして乱れた呼吸を整えるディック。
シエルはそんな彼の眼前にわざと移動して視界に割り込んだ。
「もっと見てもい・い・の・よ。うふーんあはーん」
ニヤニヤと笑いながらシエルはボディラインを強調するようなポーズを取るも、甲冑のせいでほとんど分からない。
「そういうあからさまなのはちょっと」
だが却って邪心が覚め、落ち着きが戻ってきた。
(訓練相手が男だったら気兼ねないんだけどな……)
鍛錬に付き合ってくれるのは非常にありがたい反面、これが悩みの種だった。
対するシエルはそんな彼の心中を知ってか知らずか、牛乳を器からラッパ飲みしながらマイペースにくつろいでいた。
「ぷはーっ! 生き返るわぁー」
場末の酒場の酔っ払いのような台詞を吐きつつ、休憩中手持ち無沙汰なので木剣を弄んで暇つぶしをする彼女。
遊ぶ木剣の数を二本、三本を増やし、シエルが言う。
「見てみー、ジャグリング!」
「ぶふっ」
ディックは思わず吹き出した。
彼女は力が強いだけでなく、結構器用でもあるようだ。
一通り遊んだ木剣を一度脇に置き、彼女は不意に真顔になってたずねる。
「ディックさ、疑問に思ったことない? 何で私ら戦争してんのかって」
「疑問って……考えたこともねぇや」
ディックにとって、戦いはひとつの憧れだった。
「悪い奴をぶちのめして、それで飯食って、カッコイイーってチヤホヤされて、そんなもんだろ?」
彼の認識はそんな程度である。
幼い頃から喧嘩が取り柄で、偉大な戦士になることを夢見て独学で槍の扱いを身に着けた。
そこに何の疑問も抱いたことは無い。
だが、問いかけたシエルは違った。
「私も前はそんな風に思ってたんだけどさ、今戦ってる相手って私と一緒のロイース人なんよね」
彼女が戦っている相手は、かつて味方だった王国軍。
クーデターを起こした大臣を倒すためとは言え、つい去年まで仲間だった同国人を相手にすることになる。
「何かさ、私も思うところあるわけよ。”倒すべきワルモノ”って何だろーって」
これにはディックも答えを持たず、黙ってしまった。
彼にとってロイース人は別に思い入れも何もない相手で、倒さなければいけないことになってもためらいは無い。
だがシエルにとってはかつての仲間であり、同じ民族だ。
ディックも仲間を持った今、彼女の事情をある程度察する程度には知恵がついていた。
「確かにな。大臣は悪者だろうけど、下っ端の兵隊って皆悪いわけじゃないかもな」
それでもいざ事を構える時、戦わなければならない。倒さなければならない。
特に理由も無く、彼は自分を正義の側だと信じてきた。
悪人をやっつける側の人間で、今の戦争も善と悪の戦いだからこそ身を投じるのは当然だと。
「私らってさ、何やってんのかな」
既にシエルは同国人同士での争いに虚無感を感じていた。
そんな彼女の言葉に触発されるように、ディックも生まれて初めて戦うことに疑問を持ち始めたのだった。
「あー! やめだやめ! 俺はベストを尽くすって兄貴に教わったんだ、その通りにする!」
下手の考え休むに似たり、座学が極端に苦手な彼がいくら考えたところで答えなど出ない。
ディックは立ち上がり、脇に置いていた槍を構えて素振りを始める。
がむしゃらに槍を振り回す彼の我流武術をしばし眺めていたシエルだが、ぼんやりした表情で不意に言った。
「ねぇ知ってる? 素振りって空振りの練習らしいよ」
「マジかよ」
対戦相手を脳内にイメージして槍を振ってきたが、そう聞くとこの訓練が正しいのか不安になってくる。
「ちゅーことで、強くて可愛くてセクシーなこのシエルちゃんが仮想敵してあげっから、死なないよう腕上げとこ?」
彼女もおもちゃにしていた木剣を握り直し、休憩を終えてディックの正面に立った。
「まあ、何つーの? 死んじゃったら考えたり悩んだりもできないじゃん。とりま、死なないように気をつけるのがベストじゃない」
「それもそうだよな」
ディックも気を持ち直し、シエルとの模擬戦を再開する。
盾という苦手分野を克服し、待ち受ける戦いで死なないために。
戦いの意味、正義、そんなものは生き残ってから考えればいいと割り切った。
そんな二人を、訓練場の隅から見つめる人影があった。
たまたま様子を見に来た、シエルの同僚のアルバートである。
(ロイース人同士の争いの意味か……)
悪政を布く大臣から王国を取り戻す、それが王族派の大義だった。
だが血を流すのは同じ地で育った同国人。
それに対してアルバートなりの答えは出ていた。
(ここで我々が手を汚さねば、より大勢のロイース人……民が犠牲になる。それだけは避けなければならん)
そう結論づけながらも、彼はこの戦いが多くのものを奪うと確信していた。
戦争に勝利して王家を復興させたとて、国に少なからず傷は残る。
(致命傷にならぬうちに病巣は取り除く、我々の今成すべきことはそれだけだ)
訓練に集中する二人に水は差さず、アルバートは訓練場を去った。
To be continued
登場人物紹介
・シエル
脳筋ディックより筋力と知能で上回るギャル騎士。
内戦に疑問を覚えるくらいには教養ある。貴族の跡取りだし多少はね?
なお色気はほとんど無い模様。
・馬
ただの行商の馬車馬だったのが、ソフィアに買われたせいで地獄送りにされた。
カネの力で最前線に放り込むとかちょっとやめないか。
ウマ娘化したら幸薄そう。




