表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルカリム  作者: Pixy
第四章 亡き王国の為のパヴァーヌ編
70/94

第70話 『シルバーフォックス 前編』

何とか追手から逃れたキラ達。

だが休憩のために身を寄せた民家で、キラが王女だと知られてしまう。

ルークはやむを得ず村人を口封じしようとするが……。

 キラ達はボロボロになりながら、卑劣な罠から逃げ切った。

 だがまだ安心はできない。

 王女の首を狙う大臣の騎士ガストンは、キラの後の執拗に追いかけてくるはずだ。

 ガストンに捕まる前に、国境の近いアルバトロスへ逃れる必要がある。

 始まりの地へと戻る道中にある町で、キラ達は民家に立ち寄りつかの間の休息を得た。

 しかしフードで顔を隠していたキラが王女であると、家主の婦人に見破られてしまう。

 ガストンの部隊が追いかけてくる中、正体を知られてしまうのは致命的。

 世話になった身だが、ルークは家主夫婦を始末するしかないかと思索を巡らせていた。

「お、おいおい、適当なことを言うんじゃないよ。王女様だって?」

 妻の言葉に驚いた家主は、まじまじとキラの顔を見つめる。

「間違いないわ! 何年か前、王都のパレードでお顔を見たことあるもの!」

「あ、あの……」

 二人のやり取りを見ながら、キラは夫婦にどう説明したものか迷って言い淀んでいた。

 ルーク達の緊張と殺気は彼女も感じており、仲間が荒事に及ぶ前に穏便に済ませたいと思っていた。

「さすがに他人の空似だろう。王家は賊に襲われて皆死んでしまったと言うし、本物の王女様がこんなところに訪ねてくるわけが……」

 キラは小声でルークに『少し待って』と伝え、静かにフードを外す。

「……確かに、私はキラ・サン・ロイースです。私の話を、少しだけ聞いては頂けませんか?」

 これには半信半疑だった家主も、言葉を失った。

 隠れるように身を縮めていた彼女の雰囲気が変わったことに圧倒されたのか、夫婦は黙ってうなずく。

 その間にキラは、手短に大臣のクーデターで国を奪われたこと、今は国を取り返すために動いていることを説明した。

「ああ、よかった! あなた様が生きておられて……」

 事情を知った婦人は、涙を流しながら言葉を続ける。

「あれから、王国は荒れる一方です。王女様、どうか王国民をお救いください」

 この夫婦もまた、ジョルジオの圧政に苦しめられていた。

 町からは戦争のために若者が徴兵されて働き手が減り、その一方で税は重くなり生活は困窮していく。

 この反応から、キラは二人が敵ではないと確信した。

「安心してください。隣国のカイザー将軍とは顔見知りです。彼の協力を得て、必ず王国を取り戻します」

 彼女の言葉に婦人は喜んだが、家主は疑問符を浮かべる。

「そ、それはつまり、その……戦争が起こるということでは?」

 その反応を見たエドガーは、キラに耳打ちした。

「ここは国境近くの町だ。真っ先に戦場になる」

「あっ……!」

 家主が何を恐れているのか気付いたキラは、申し訳無さそうに頭を下げる。

「すみません、お二人の事情をよく知らずに……」

「いえいえ、そんな!」

 恐縮しながらも婦人は、追加の水と食事を勧めた。

「あなた、残りの料理も全部持ってきて! 王女様のおもてなしにはとても足りないわ!」

 まだ納得できていない様子で皿を持ってくる家主に、ルークはそっと話しかける。

「彼女は今、大臣の兵に追われています。我々がここを訪れたことは内密に」

「あ、ああ、もちろんだとも」

 そのやり取りの間にも、出された料理にがっつく空腹のレア。

「ボクのだ! ボクの飯だ!」

「もう、レアちゃん? 行儀が悪いから、ゆっくりね?」

 苦笑しながらも、気が落ち着いてキラも食が進むようになった。

 見守る婦人もまた、レアは王女の連れだろうと判断して何も言わなかった。

 追加の料理には手を付けず、ソフィアは家主にこの町の場所を尋ねる。

 彼女は聞いた町の名前と、手持ちの地図とを照らし合わせた。

「……ありがとう、現在位置が把握できたわ。西の国境まで、後3~4日といったところかしら」

 ソフィアと共に、エドガーも広げた地図を覗き込む。

「平地が続くのはありがたいが、あの馬車で本当に持つのか?」

 ガストンの騎馬隊を振り切る際、馬車馬にも車体にもかなりの無茶をさせてしまった。

 馬は疲れ切って外で休んでおり、馬車の方は今にも分解しそうなくらいガタが来ている。

 そこにルークが加わった。

「明日、買い出しと同時に修理も行いましょう。アルバトロスまで持って貰わないと困ります」

 すると、三人の話を聞きつけた婦人が口を開く。

「大臣に追われているんですって? 大きな声じゃ言えないけど、『銀狐』に道案内を頼めば……」

「銀狐?」

 聞き慣れない言葉に、ルーク達は首をかしげる。

 婦人の口ぶりからして、動物の狐のことを言っているわけではないようだ。

「シーッ! 声が大きいわ」

 釘を差した婦人は、小声で続ける。

「『銀狐』は、私達市民に味方してくれる義賊なのよ。事情を話せば、きっと力になってくれるわ」

 ここに来て、思わぬ協力者の候補が話題に上がった。

 義賊とは盗賊の一種ではあるが、彼らは貧しい市民からは盗まず、金持ちから金品を奪っては民衆に分け与える。

 国としては賊に違いないが、民からすれば心強い味方だった。

「なるほど、義賊ですか。情報をありがとうございます」

 ルーク達が声を潜めつつ頭を下げると、婦人は微笑みながらキラの下へ追加の食事を運んでいく。

「さて、問題はその義賊とどう渡りをつけるか、だが」

 エドガーがひとつため息をつく。

 ルークもソフィアも、義賊との接触方法など知る由もない。

 情報をくれた婦人とて、具体的にどう『銀狐』とやらに会えばいいかは知らないだろう。

 そんな時、窓際でじっと外を眺めていたユーリが、音もなく話に加わってきた。

「……銀狐か。拠点なら知ってる」

「本当に?」

 聞き返すソフィア。

「ここから北に半日くらいの街にアジトがあるはずだ。昔のままならな」

 ルークが地図を改めて見ると、ここからそう遠くない場所に確かに街があった。

「明日にでも向かいましょう」

 この距離ならば、くたびれた馬と分解寸前の馬車でも何とか移動できそうだ。

(だが、うまく銀狐に会えたとして、王族であるキラさんの亡命に力を貸してくれるだろうか?)

 ルークの懸念はそこだった。

 民衆の味方だからこそ、大義名分を掲げて戦争のきっかけを作ることになる、この逃走劇に助力するとは思い難い。

 かと言って、強行軍で国境を目指してガストンの部隊から逃げ切れる保証も無かった。

(知り合いらしいユーリさんがうまく交渉してくれるといいが……)

 いざアジトに行ってみないことには分からない。

 ルークは考え事をいったんやめ、仮眠で休憩を取ることにした。

 他の仲間も警戒しつつ交代で休んだが、唯一レアだけはたらふく食べた後に爆睡した。


 翌朝早く、宿を貸してくれた家主に礼を言ってキラ達は出発準備に取り掛かる。

 ルークやソフィアは何度も、このことを口外しないよう夫婦に釘を差した。

(どれだけ言ったところで、大臣の部下が押しかけてきたら無駄だろうがな)

 仲間を横目で見つつ、エドガーはカルロと共に馬車の応急修理を済ませる。

「こ、これで大丈夫だ。多分……」

 継ぎ接ぎまみれの、酷く不格好な有様の馬車だった。

 こんな形でも、銀狐の拠点がある街まで走れればいい。

 自分で修理しておきながら、カルロはどうも不安そうだった。

「なぁ、本当に盗賊なんかに会いに行くのか?」

 怯えた様子でカルロはエドガーを見上げる。

「他にアテが無いからな。怖いのか?」

「そ、そりゃ、まぁ……。だって、賊だぞ?」

 そう言ってうつむくカルロは、今ひとつ乗り気でない様子だった。

「なら昨夜の段階で反対すればよかったろう。今更言っても無駄だ」

 悩む猶予も無いまま、方針は決まってしまった。

 どの道カルロ一人が反対意見を出しても、通るとはエドガーには思えなかった。

「よぉ、馬車の修理は済んだのかよ?」

 そんな時、戻ってきたのは買い出しに出ていたディックとメイの二人。

 余裕を見て2日分の水や食糧を買ってきたが、それ以上は銀狐との交渉次第とパーティで判断された。

「一応な。すぐに出るぞ」

 エドガーはそう答えると、荷物の積み込みを手伝う。

 普通の馬車なら半日程度の距離だが、このオンボロ馬車ではもっと時間がかかるだろう。

 追手もどの程度まで迫ってきているか分からない中、早く移動するのは賢明だった。

「キラさん、他の住民の目につかないうちに、早く」

 ルークに言われ、来た時と同じくフードで顔を隠して馬車に乗り込むキラ。

 仲間も乗り込み、馬車は町を発つ。

 メンバーは一人欠けたまま、追悼する余裕すら無く。

 馬車に揺られるキラは、遠ざかる町をいつまでも見つめていた。

(戦争が起こったら、ここも滅茶苦茶にされてしまう……。でも、誰かがバルバリーゴの暴政を止めないと)

 もしかしたら自分はその役割ではないのかも知れない、と思いつつキラは口をつぐむ。

 今口を開いたら、弱音がそのまま出てしまいそうだった。

(私は、どうすれば……?)

 罠にはまるまで、戦争を回避した一心で王都を目指してきた。

 だがオーウェンはそんな彼女の優しさにつけ込み、ギルバートの命を奪った。

 追い込まれたキラ達に残された道は、アルバトロスへ亡命して戦争で国を奪い返すことだけだ。

 自分の思う”最善”を目指してきたつもりが、気付けば”最悪”のシナリオへ足を突っ込む。

 王族という立場が、彼女に望まぬ争いを強いようとしていた。


 ボロボロの馬車で一行はひた走り、どうにか目的の街へとたどり着いた。

 半日という距離だが、壊れかけの馬車では結局丸一日かかってしまった。

 空が夕焼けに染まる中、キラ達は外に馬車を停めて街に降り立つ。

「盗賊ギルドがあるとすれば、裏通りだ」

 馬車をカルロとエドガーに任せ、ユーリの案内で一行は進む。

 ルークは兵隊を警戒したが、まだガストンの手は及んでいない様子だった。

 裏通りに入ると、表の大通りとは全く違う街の顔が見えてくる。

 まだ夕日は照っているはずなのに薄暗く、まばらな通行人はお世辞にもいい人相とは言えなかった。

 汚れた建物には怪しげな店もあり、カタギが来るべき場所でないことが否が応にも分かる。

「いかにも、ザ・盗賊って景色だな」

 キラの護衛としてついてきたディックも、表情を強張らせた。

 同じく周囲を警戒しながら、ルークは先頭を進むユーリに尋ねる。

「銀狐はこの先ですか?」

「恐らくな」

 ユーリも何年も前の記憶をたどっているため、まだここに銀狐の一味が潜んでいるとは断言できなかった。

 キラやソフィアなどは、あまりの空気の悪さに早くここから立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。

 それはレアも同じで、馬車の番よりはマシだろうと思ってついてきたものの、早速後悔していた。

(明らかにここヤバいとこじゃん……。冒険者でもこんな治安の悪そうなとこ来ないわよ)

 そんな時、一行の目の前を小さな黒い塊が横切る。

「ぴゅいっ?!」

 レアは飛び上がって尻餅をついたが、それはネズミだった。

「お、おお、脅かすなし!」

「……静かにしろ」

 ユーリが低い声でキラ達を制止する。

「居ましたか?」

 ルークの問いに、ユーリが黙ってうなずいた。

 彼の視線の先に居るのは、路地の一角にたむろしている怪しい数人の男達だった。

(今更彼を疑うわけではないが、オーウェンさんの一件もある)

 また罠に誘導されないよう、ルークは細心の注意を払う。

「ここに居てください」

 一度キラを仲間に任せ、ユーリと二人で盗賊と見られる集団に近付くルーク。

 相手側もすぐに気配を察したか、おしゃべりをやめて振り向いた。

「銀狐という方に会いたいのですが」

「知らねぇな」

 そう答えて肩をすくめる男達。

 このままでははぐらかされると思ったキラは、メイの隣から飛び出してルークの側へ駆け寄った。

「私からも、お願いします! 銀狐さんに相談したいことがあります」

 キラの必死の訴えを、せせら笑う盗賊。

「『一匹狼ローン・ウルフ』が来たと伝えろ」

 その言葉を聞き、笑っていた相手は途端に顔を見合わせる。

 すぐに男達は小声で話し合い、一人が早足で暗い路地の奥へと消えていった。

 ユーリの一言で話が通ったのか、否か。

 固唾を呑んでキラは盗賊の様子を見守る。

 双方とも無言で警戒し合い、永遠にも感じる時間が流れた。

 実際にはすぐのことで、夕日が沈んでしまわないうちに駆けていった男は帰ってきた。

「……ついてこい。おかしな真似はするなよ?」

 そう言って、盗賊はキラ達を先導する。

 半信半疑のまま、一行は前後を盗賊に挟まれて路地の奥深くへと分け入った。

(まずは運を掴めた。後は交渉次第か……)

 義賊と言っても盗賊に変わりはない。

 非合法な活動を行うアウトローの集団が、事情を聞いてどう出てくるかはルークにも読めなかった。

 民衆の味方ではあれど、王女に味方してくれる保証は無い。

 その拠点で気を抜けるはずもなく、ルークは全方位に神経を尖らせながら進んでいた。

 やがてキラ達は、ロウソクの明かりだけが頼りの地下道へと案内される。

 いくつもドアをくぐり、曲がりくねった通路を抜けた先には、盗賊達が集まる大部屋があった。

 それまで他愛ない談笑をしていた彼らだが、キラ達が入ってくるのを見ると途端に静かになった。

 皆鋭い目付きで、キラのことを見つめている。

 そんな盗賊達をかき分けるように、長身の女が姿を現す。

「久しぶりって言うべきかねぇ、『一匹狼』?」

 地味な茶色の外套を羽織っているが、後ろで結わえた銀色の長い髪が目を引く。

 髪以上に目立つのが、この辺りでは珍しい褐色の肌だった。

 外套の下は男装にほぼ近い服装で、ズボンがすらりと長い脚線を際立たせる。

「あなたが、『銀狐』……?」

 ほぼ確信を得ながら、キラはその女に問いかけた。

「そう言うあんたは、逃亡中のお姫様か」

「えっ?」

 素っ頓狂な声をあげるキラを、『銀狐』は鼻で笑う。

 荒くれ者揃いの盗賊を束ねているだけあり、気が強く隙の無さそうな人物だった。

「フン、知らずに通したとでも思うのかい? 今やそこら中があんたの話題でもちきりだよ」

 思えば当然のこと、相手は情報収集に長けた盗賊であり、その親分がただの一般人にわざわざ会ってくれるはずもない。

 ルークは瞬時に周囲を見渡すが、どっちを向いても盗賊だらけだった。

 もし銀狐が敵意を示した場合、この中から脱出することは不可能。

 今、キラ達の首は銀狐の判断ひとつに委ねられている。

「大体察しはつくけどねぇ、一応聞いとこうか。あたしに用件って何だい?」

 銀狐の鋭い目がキラを捉える。

「わ、私は……王国を取り返すため、一度アルバトロスへ向かうつもりです」

「それで?」

 既に知っていると言わんばかりの様子で、彼女は続きを促した。

「アルバトロスで亡命政権を擁立して貰い、大臣を倒します。どうか、お力添え願えませんか?」

 キラはフードを外し、深々と頭を下げる。

 本来であれば下賎の、それも賊に対して王族が頭を垂れるなどありえない話だった。

 そんなキラの姿を見て、盗賊達は嘲笑する。

「見ろよ、王女サマがうちの頭にお辞儀してらぁ」

「落ちたもんだなぁ、王族も」

「もう支配力なんて残ってねぇもんな」

 しかしキラは、激高することはなかった。

 不要なプライドはとうに捨ててきたつもりだ。

 何なら銀狐が要求するなら、この場でひざまずいても、土下座してもいいと考えていた。

 そんな彼女を、銀狐は笑いもせずじっと見つめている。

「……お断りだね」

 返ってきた答えは、非情な一言だった。


To be continued

登場人物紹介


・銀狐

火狐じゃない方。

盗賊のお頭ってだけあって滅茶苦茶強そう。

(大きな声で)名前を言ってはいけないあの人。


・ユーリ

アングラな奴同士盗賊にも顔が利く。

いや、確かに便利なんだけどこんな反社を王女の側に置いといて大丈夫か?


・レア

ネズミにビビる女。

かじるしペストを媒介するし多少はね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ