第71話 『シルバーフォックス 後編』
藁にもすがる思いで銀狐と呼ばれる義賊に接触したキラ達。
だが王政にいい感情を抱いていなかった銀狐は、彼女の懇願を跳ね除ける。
交渉の行方は……?
王国を掌握する大臣の手から逃れ隣国へ渡るべく、『銀狐』と呼ばれる義賊に接触を試みたキラ達。
銀狐は会ってくれたものの、キラの要求に対する答えは拒否だった。
「お断りだね。戦争の手引きをする理由なんざ、あたしらには無いよ」
「ま、待ってください!」
ひざまずいても土下座してもいいが、話を切り上げられることだけはキラにとって避けなければならなかった。
ここで銀狐の協力を得られなければ、今のパーティのみで軍隊から逃げ切らなければいけない。
「バルバリーゴは悪政を布き、国を荒らしていると聞きます! 大臣を倒すため、力を貸しては頂けませんか?!」
きびすを返そうとした銀狐に、キラが食い下がる。
銀狐は振り向くと、キラを睨みつけた。
「……あたしらはずっと、国境の人々を守ってきた。国の都合でコロコロ書き換えられる、この国境をだ」
そのまま距離を詰めると、冷ややかながらもその奥に怒りを宿した瞳で見下ろす。
長身の銀狐がやや小柄なキラに密着すると、自ずと見下ろす形となる。
キラが感じる威圧感は、計り知れないものだった。
「戦争で国境を荒らしてきたあんたら王族が、今度は戦争の手助けをあたしらに要求しようってのかい?」
銀狐は静かに怒っていた。
確かに今の政権は最悪のものだが、ならばロイース王家が統治していた頃の国が良かったかと言えばそうでもない。
王族はその時々の都合で隣国に戦争を仕掛け、その度に国境沿いの村々は戦火に焼かれ、荒らされた。
その度に銀狐達義賊は盗んだ富を傷ついた人々に分け与え、救済してきた。
国が見捨てた国民を、賊というレッテルを貼られながら支えてきたのだ。
「大臣の野郎をぶち殺したいのはあたしも同じさ。だが、あんたに協力するのはまかり通らん! 分かったら、帰りな」
今度こそ、銀狐は背を向けて歩きだす。
「そ、そんな……!」
ここまで来たのに交渉決裂となり絶望するキラと、何とかしてやりたいと考えを巡らせるルーク。
(やはり一筋縄では行かないか……! 何か、何か交渉に使えるカードは……)
しかしルーク自身、賊に助力を求めて交渉した経験など有りはしなかった。
それに裏社会でのルールなども、まだ若造の彼が知っているはずも無い。
戦争を起こすという方法で大臣を倒そうという方針に、賛同して貰えるだけの説得材料は手持ちに無かった。
今度はソフィアが、キラの後ろから銀狐を呼び止める。
「待ってちょうだい! 私はソフィア、リリェホルム家の娘よ。アルバトロスまで案内してくれたら報酬は出せるわ」
銀狐の反発は感情や面子から来るもの。
そう判断した彼女は、王道の手段として金銭での交渉を持ちかけた。
「報酬ねぇ。いくら出せるって言うんだい?」
背を向けたまま、銀狐は部下の盗賊からひとつの袋を受け取る。
そしてわざと背後のキラ達に見えるように、中身の金貨を数えだした。
「なっ……! いつの間に盗ったの?!」
今銀狐が手にしているのは、他でもないソフィアの財布だった。
盗賊がこっそりとすり盗り、ボスである銀狐に渡していたのだ。
「たったの金貨4枚か。貴族のご令嬢っていうわりには、えらく貧乏じゃないかねぇ?」
「今の手持ちが少ないだけよ。銀行で下ろせば10枚でも20枚でも払えるわ」
銀狐が投げて返した財布をキャッチしながら、ソフィアが言う。
「そんな額じゃ足りないね。50枚は持ってきな!」
この言葉に反応したのは、ディックだった。
「ごじゅうまい?! おいちょっと待てこのアマ、ボり過ぎだろ!」
喉から手が出る程に金が欲しい彼のこと、黙っていられるはずもない。
食ってかかろうとするディックだが、メイがそれを止めた。
「いくら貴族って言っても、払えないだろうねぇ。じゃ、話は終わりだ」
もはや手詰まり。
一行はただ、去っていく銀狐を呆然と見つめるしか無かった。
そんな時、ずっと黙っていたユーリが前に出る。
「シルビア、バラム平原での借りを返してくれ」
その一言で、立ち去ろうとしていた銀狐が足を止めた。
「……そいつを言われちまうと、弱いね」
ため息をつきながら、銀狐は一行の前まで戻ってくる。
あまりに短く、本人達にしか分からないやり取りに、キラもルークもただ見守る他無い。
「ユーリ、あんたの仕事を手伝うだけだ。王女サマに加担するわけじゃない。それだけははっきりさせといておくれ」
「構わない」
途中難航したにも関わらず、驚く程あっさりと銀狐との交渉は纏まった。
(あれだけ頑なだった先方が、貸し借りひとつで答えを変えた? どんな経緯があったのかしら……)
裏社会流の会話がよく飲み込めず、ソフィアも困惑していた。
同じく事情はよく分からないが、雰囲気で何となく危機的状況から脱したと感じたレアは、その場にへたり込む。
「はぁー、寿命縮むわこんなの……」
「結局何だったんだ? 何とか平原ってどこだよ?」
押さえられているディックは不服そうだった。
「暴れないでね」
メイはそう言うと、もういいだろうと彼を離してやった。
今ここで空気を読まずに武器を抜けば、周りを取り囲む盗賊が一斉に襲いかかってくるだろう。
そんな仲間達を、銀狐は更に部屋の奥へと案内する。
「こっちだ、来な」
そこは義賊の頭目である銀狐のために用意された空間で、簡単だが執務机が置かれていた。
個室などは無く、大部屋の一角をパーテーションで仕切ってそのまま使っている。
机を挟んで銀狐と向かい合うように、キラ達は集まった。
「さて、と……。あんたらをアルバトロスへ逃がすだけなら、そう苦労はしない」
言いながら、銀狐は机に地図を広げる。
「いけ好かないガストンの野郎も、まだこの辺りまでは捜索を伸ばしてきてない。今のうちなら穏便に逃げ切れるだろうさ」
机に両手をついて地図を覗き込む彼女だが、いたずらっぽい笑みを浮かべて顔を上げ、キラに目をやった。
「だが、実はもっといい”お宝情報”があるんだよ」
「聞かせてください」
素直なキラの反応に気を良くしたのか、銀狐は勿体振らずに話し始めた。
「何も貴族全員が大臣に従ったわけじゃない。バルバリーゴの奴に対抗する連中――『王族派』って呼ばれてるね――が、この近くに集まってる」
彼女が指差すのは、今居る街からしばらく南下した国境沿いの領地だった。
貴族は王から領地を貰うことで、その土地の支配権を得る。
その代わりに、自分の領地の維持や防衛を担うというのが役割だ。
貴族の中における力の上下は、持っている領地の面積や経済力で決まる。
銀狐が示した場所は国境近くの危険地帯であり、昔から戦火に巻き込まれて経済も乏しい。
言うには、反大臣の姿勢を崩さなかったためにかつての領地を取り上げられ、今の場所に押し込められたらしい。
「王族派の総兵力は5000弱。これでも削られたが、十分な戦力だとは思わないかい?」
「『王族派』……一体、誰が?」
知っている家かも、とキラが尋ねる。
「中心となってるのはクロムウェル家さ。他にもバレンタイン家やローラン家も居るらしいが……まぁ、数合わせ程度のもんだろう」
クロムウェル家はキラもよく知っていた。
王家に最も近しいと呼ばれた大貴族であり、幼かったキラもかつてクロムウェル一族に世話になったことがある。
「クロムウェル……ライオネル公爵ですか?」
「その通り。頑として大臣に反発しててね、不評を買ったが、あの大臣でも公爵は国から追い出せなかったらしい」
『公爵』と言えば、五つある爵位の第一位。
王に次ぐ地位に居るともされる公爵家を、正式に王位を継いでいない大臣がそうそう追放することはできなかった。
僻地に左遷するのが精一杯だったが、それでも十分な越権行為だ。
クロムウェル家と言えば代々王国の忠臣として仕えており、歴代の王からも信頼が厚い一族。
特に今の当主ライオネルは、義を重んじる人物として知られていた。
「王族派の連中が、王女サマが生きてると知ったらさぞかし喜ぶだろうねぇ。報酬なんて出さなくても、何だってしてくれるだろうさ」
ようは、キラを彼ら『王族派』に引き合わせようと言うのだ。
アルバトロスへ逃げ込むにしても、亡命政権の中核を担う貴族は必要になる。
大貴族から失墜したクロムウェル家に助力を頼めれば、強力な味方となるだろう。
(5000の味方……これを、上手く使えれば……!)
キラの頭の中では、もうひとつの案が浮かんでいた。
数は少ないが、大貴族が有する部隊だ。戦力として期待できる。
隣で見守るルークも、キラの考えは何となく察していた。
銀狐もこれを期待して情報を渡しており、上手く誘導できて満足そうだ。
「待て。俺達は隣国に亡命するためにここへ来たはずだ」
話がまとまりそうなところで、エドガーが待ったをかける。
彼の言葉に、何となく話の先が読めていたソフィアも口を揃えた。
「そうよ。前に相談して決めたわよね? 次に危なくなったら亡命するって」
ソフィアの言う通り、既に隠密行動で王都を奪還する案は破綻している。
謎の魔術師の襲撃を受けた時点で諦めるべきだったが、キラの強い要望とオーウェンの誘導で流されてしまった。
オーウェンが裏切り、ギルバートが死亡し後が無くなった今、手段を選んではいられない。
「俺も賛成だ。5000の兵力じゃ話にならない」
慎重派のユーリも二人に加勢する。
「あたしが返す借りは一回分だ。道案内か亡命、どっちにするかよーく話し合いな」
火種を放り込んだ銀狐本人は、面白がるようにそう言ってテーブルから離れる。
希望が見えたかと思ったキラだったが、味方にこう強く言われては悩んでしまった。
(何かキラが可哀想に見えてきたけど、ボクも亡命に一票かなぁ。いい加減危険地帯から抜けたい……)
そう思いつつ、思うだけで口には出さないレア。
一方、彼我戦力比も考えず突っ込むことが能のディックは、慎重論に真っ向から反対した。
「ここまで来て何ビビってんだよ?! 味方が居るんだろ?!」
「そ、そうですよ! 有力貴族が集まってるなら、何とかなるんじゃないでしょうか?」
兵法に疎いヤンもまた、感情論でキラに味方する。
盗賊のアジトの片隅で口論になりそうな中、立ち位置を決めかねている者も居た。
(5000って微妙な数字だなぁ……。勝てるかどうか分の悪い賭けになりそうだけど)
メイは黙して考え込んでいた。
大規模な戦争を起こしたくないというキラの考えも理解できるが、その理想を押し通せるか今となっては怪しい。
キラの考えを尊重したいのは山々だが、かと言って無理な玉砕を認めるわけにもいかない。
(か、帰りてぇ……!)
同じく沈黙しているカルロは、そればかり考えていた。
そこで口を挟んだのがルークだった。
「王国軍を有する大臣の戦力は巨大に見えますが、実際に動かせる私兵はそこまで多くないはずです」
彼はこちら側にキラと聖剣が揃っていることを改めて確認する。
本物の王女が国を取り返しに来たと分かれば、彼女に味方する王国軍も出てくるだろう。
裏切りを恐れた大臣は、自分に忠誠を誓った一握りの私兵しか差し向けられないはずだ。
「こう考えれば、5000の兵力も不足とは断言できません」
彼は全く勝ち目が無いわけではない、とキラに助け船を出した。
これには慎重派の面々も顔を見合わせる。
「……私は、王族派を信じようと思います」
ためらっていたキラは顔を上げ、答えを出した。
「それに、亡命するにしても味方は必要です。まずライオネル公爵と会って話さないと」
彼女を見て慎重派だったソフィアも折れた。
「分かったわ。けれど、亡命する道は忘れないでいて」
レアとカルロは頭を抱え、ユーリとエドガーは深いため息をつく。
「キラの選択なら、私は賭けるよ」
立場を決めかねていたメイも、静かにうなずいて同意した。
「決まったかい?」
そのやり取りを少し距離を置いて傍観していた銀狐は、話の続きを切り出す。
キラはうなずいて答えた。
「問題は道中だ。王族派の周囲はずっと大臣の兵隊共が監視してやがる」
追放できずに僻地に追いやったものの、それだけでは大臣は安心できなかった。
更に王女であるキラの生存を確認してからは、より王族派への警戒を強めていると言う。
あちらもよく分かっているのだ。
王家の生き残りと王族派を接触させては、自分達の権力基盤が揺らぎかねないと。
「さて、そこの賢者サマ。銀行から下ろせば金貨数十枚なんてすぐ払えるって言ったね?」
「ええ」
ソフィアはうなずき、続きを促す。
「金貨30枚出しな。王族派の屋敷まで、安全に連れて行ってやるよ」
「さんじゅぅ?!」
思わず叫んだディックに続き、レアも声を上げる。
「道案内でそれって高すぎない?!」
そんな二人を手で制すると、ソフィアはその条件を飲み込んだ。
「分かったわ。すぐに銀行から下ろしてくる。安全に案内してくれるなら、ね……」
迫力不足を自覚しながらも、銀狐の目を睨むソフィア。
銀狐は面白そうに、真っ直ぐ見つめ返した。
「交渉成立。こっちもプロだ、仕事はきっちりやるよ」
こうして、何とか義賊との話は纏まった。
大金を支払うことにディックとレアは反発したが、大臣の兵が徘徊する危険地帯の中を案内してくれると言うなら安いとソフィアは考えていた。
「すみません、ソフィさん。こんなにお金を使わせてしまって」
身分は王女でも、今はほとんど現金を持たないただの旅人。
キラは申し訳無さそうに、ソフィアに謝った。
「構わないわ。経費は後で王国につけておくから」
金貨30枚ともなるとそろそろ貴族の財布にも打撃が来るのだが、彼女はこれも先行投資と捉えた。
兎にも角にも、まずは金貨を銀行から下ろして来ないと始まらない。
一度キラ達はアジトから立ち去ろうとするが、最後尾を歩くユーリに銀狐は声をかける。
「『狼』、あんたもまた、ロクでもない仕事を請けたもんだね」
「いつものことだ。また来る」
そう言い残し、一行は地下道を後にする。
地下から戻ったキラ達はすぐさま銀行へと駆け込み、ソフィアの預金を下ろす。
銀狐への報酬である金貨30枚と、移動中の諸経費となる銀貨も共有の財布に加えておく。
現金を引き出した一行は再び盗賊の案内で銀狐に会いに行き、その場で金貨を先払いしてようやく協力を取り付けた。
「馬車はこっちで用意する。あんたらのは分解寸前だろう?」
銀狐はカルロの馬車がボロボロであることも把握していた。
どの道、もはや修理でどうにかなるレベルではなかったので、乗り換える予定ではあった。
「あの、待ってください」
キラも乗り換えに異存は無かったが、ひとつ意見を出す。
「馬は変えないで、今の二頭を引き継いで貰えませんか?」
「思い入れでもあんのかい? どっちも白馬じゃないが」
茶化すように肩をすくめる銀狐。
そんな彼女に、キラはあくまで真面目に心中を説明する。
「ガストンに追われた時、あの馬は必死に走って私達を救ってくれました。これからも力になってくれるはずです」
単純にキラは自分達を助けてくれた馬への情だったが、銀狐は違う解釈をした。
「ほーん、意外と名馬ってことか……。いいさ、新しい馬車を引かせようじゃないか」
「ありがとうございます」
頭を下げるキラの後ろで、カルロもひっそりと安心していた。
彼もまた今の馬車馬に愛着を持っており、仮にここで馬ごと乗り換えたら、その後で二頭がどうなるのかを案じていた。
銀狐の指示によりすぐに丈夫な馬車が用意され、キラの要望通り前の馬車馬がそれを引くことになる。
盗賊の仕事は速やかで、その日のうちに荷物と人間を荷台に積み込んでセッティングが完了し、南へと出発した。
「カボチャの馬車じゃなくてすまないねぇ。今はどこも不景気なのさ」
旅の仲間に混じり、ちゃっかりと揺れる馬車の中でくつろぐ銀狐。
「あなたまで来るとは意外でした」
まだ義賊を信用していいかどうか分からず、ルークは怪訝そうにそう言う。
「あたしが直々にでなきゃ、兵隊共の目をかい潜るなんてできやしないよ」
「銀狐さんが来てくれて、心強いです」
キラの方はある程度警戒はしているが、既に銀狐のことを信用する気になったようだ。
その日の夕暮れ、周囲の安全を確認してから野営となり、ユーリはいつものように巡回に向かう。
彼が居なくなったタイミングを見計らい、ソフィアは焚き火に当たりつつ干し肉をかじる銀狐に話しかけた。
「……ひとつ聞いておきたいのだけれど。バラム平原で、何があったの?」
バラム平原とは、進行方向とは逆に北側にある国境の地名。
そこでかつて何かがあり、銀狐はユーリに借りを作ってしまった。
「あーん?」
最初面倒臭そうに振り向いた銀狐だったが、ソフィアの拗ねたような表情を見て取り、態度を変えた。
(へぇ……『狼』の奴も隅に置けないじゃないか)
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、彼女は事情を話し始める。
「いや何、別に色気のある話じゃない。あれは4年くらい前だったかねぇ……」
盗んだ金品を民衆に分け与える義賊は、一言で言えば貧乏所帯である。
一味を食わせていくためにも先立つ物は必要であり、時に傭兵じみた仕事を請け負うこともあった。
その時はバラム平原に拠点を置く他の盗賊団の討伐依頼であり、貧民からも容赦なく奪う相手は銀狐にとっても敵だった。
この討伐隊の中に、既に『一匹狼』として名が売れていたユーリも加わっていた。
最初は数で優勢な討伐隊が押していたのだが、部隊の中から裏切り者が出たことで戦局は一転する。
特に工兵として敵陣深く潜り込んでいた銀狐達は、絶体絶命のピンチに見舞われた。
必死で戦場から脱しようとするものの、勢いを失った友軍は次々と敗走。
残りの味方も銀狐達を見捨てて撤退を始めた。
(ここまで、なのか……? こんな、つまらねぇところで……)
盗賊を率いる銀狐は、一度死を覚悟した。
だが部隊に迫る敵を、どこかから飛んできた矢が襲う。
誰が放ったものか、などと考えている余裕は無い。
銀狐はその隙に部隊を引き上げさせ、辛うじて脱出に成功する。
そこへ合流したのが、別方面で遊撃手を担っていたユーリだった。
友軍が次々と逃げ出す中、彼一人だけは義賊達を見捨てずに援護を行ったのだ。
『あんたがまさか、そこまで義理堅いとは思わなかったよ』
『迷惑だったか?』
ユーリの言葉に、銀狐は首を横に振る。
『まさか。あたしだけじゃなく、可愛い部下の命まで救って貰った。感謝してもし切れない』
彼女にとって、部下の盗賊は自分の命よりも大事なものだった。
『ただ、裏切りが許せないだけだ。貸しはいずれ返してくれ』
そう言い残すと、ユーリは銀狐の前から立ち去った。
異名の通り仲間は居ないようで、独りで亡霊のように姿を消す。
彼が本当にこの世に実在していたのか怪しい程だったが、銀狐達がまだ生きていることが何よりの証拠だった。
「……とまあ、命の借りは金貨より重いってことさ」
過去を懐かしむように、銀狐は語りを終えた。
「そんなことがあったんですね」
途中で焚き火を囲みに来たキラも、彼女の話を聞いていた。
時を同じく銀狐の話を聞いたルークは、以前耳にしたユーリの噂との相違点が気になり質問する。
「ユーリさんには、『味方を見殺しにした』という噂があったはずですが」
対する銀狐は、それを鼻で笑った。
「はん! 人の噂なんざ適当なもんさ。あたしは自分の目で見たものを信じるね」
彼女にとっては、裏切りを嫌い、死んでもおかしくない状況下で援護を続けた『狼』の姿こそが真実。
良くない噂が流れようが、銀狐は信用していなかった。
「それだけなんで、賢者サマが心配するような艶っぽいことは何一つ無かったってことさね。納得したかい?」
「別に心配しているわけじゃ……。まあ、疑問は解けたわ」
銀狐の言い方に釈然としないものを感じながらも、二人の過去の貸し借りについては理解できたのでソフィアは良しとした。
しばらくして当の本人であるユーリが見回りから帰って来たが、ソフィアと銀狐の間には微妙な空気が流れている。
「何か異常があったか?」
様子がおかしいと尋ねる彼に、ルークが答えた。
「いえ、異常と呼べる程のものは」
銀狐の話は隠し立てするような内容でもないはずだが、今は言わない方がいいとルークは判断した。
その間にも銀狐はソフィアをからかい、その度にソフィアはむくれて不機嫌になっていく。
「あたしより付き合い長いんじゃないか。しかも最初の客だって? 運命感じちゃうねぇ」
「だから、そういう関係じゃないと言っているでしょう?!」
首を傾げながらも、巻き込まれたくないとその場を離れるユーリ。
その様子をキラは面白そうに眺めていた。
(ソフィさんには悪いけど、これ見てるの凄く楽しい……!)
To be continued
登場人物紹介
・銀狐
フフフ…FOX…! FOX…! みんなFOXし続けろ…!
一度味方についたら割とノリノリな姐さん。
銀狐はね、シルビアっていうんだホントはね。
でもおっかないからみんな銀狐って呼ぶんだ、おかしいね。
・馬車馬
とんだ争いに巻き込まれた昔のウマ娘(擬人化ナシ)
パワーとスタミナに振ってあるので人間をすし詰めにした馬車でもグイグイ引ける。
キラに愛着を持たれたせいで、地獄の果てまでお供する羽目になった。
不運だと思って諦めな……(プレデター並感)




