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9発目 凛堂の家に行こう! 前編

「凛堂ん()に行こうぜ!」


 始まりは岸那の何気無い一言だった。この言葉を聞いた時、私は頬張っていたパンを吹き出してしまった。


「そういえば凛堂の家に行ったこと無いな」


 松谷が同意する。オイオイ、ちょっと待てよ。


「確かにな。『アンタッチャブル凛堂』の部屋がどんな風か、興味あるな」


 入間、お前もか。だから話す時に、わざとらしくメガネ上げるの止めろって。私のプライベートにもアンタッチャブルでお願いしたい。


「じゃあ、今度の土曜にしようぜ!」


 おーい!私に聞かないの?私の家に行きたいんだよね?じゃあ、まず私に聞くのが筋ってものじゃないの?それとも男子のノリってこういうものなのか?


「なっ!いいだろ?」


 岸那は来る気満々だ。だから、顔が近いって!


「し、しかしなあ……」

「大丈夫だって。多少汚れていようがエロ本が散らばっていようが気にしないって!男子高校生の部屋なんて、どこも同じだから!」


 お前は薫ちゃんが居るんだから少しは気にしろ!ダメだと言いたかったが結局押しきられてしまった。期日は今週の土曜日。後二日しかない。その日学校から帰った私は改めて自分の部屋を確認した。キレイなキッチン、これは良い。私は料理が得意だが片付けはもっと得意だ。部屋も片付いている。だが……


「さすがにこれは不味いよな……」


 棚の上などに所狭しと可愛いぬいぐるみが並んでいる。枕やシーツ、布団に至るまで全てピンクで統一されているし、本棚にはベタな少女漫画が整然と収まっている。おまけに部屋の隅には『葵ちゃん専用』と書かれているボックスがあり大量のお菓子がしまわれている。どこからどう見ても健全な女の子の部屋だ。だが、どこからどう見ても不健全な不良男子高校生の部屋には見えない。なんだよ、不健全な不良って……。頭痛が痛い、みたいになっているぞ。


「うーん、仕方がないか」


 私は部屋の改造に取りかかることにした。とりあえず棚の上のぬいぐるみはクローゼットの中に押し込む。ピンクのカバーやシーツは外しておこう。漫画は……しまう場所が無い。何とか……押しきろう。そういう男だっているはずだ。お菓子箱は表面だけ変えておくか。中身は皆で食べればいいだろ。


「部屋の中はこんなもんだろ。問題は……」


 私は家を出ると本屋に向かった。例の本やらを揃えるためだ。アダルトコーナーに向かう。何で私がこんな事しなきゃならないんだ……。どうか知っている人に会いませんように!


「あっ!凛堂さん、こんにちは」


 背中から声をかけられて私はビクッとしてしまった。手に持っていたエロ本を反射的に隠す。恐る恐る振り向くと木間の弟くん、優くんが立っていた。桜国の制服ではない。通っている中学校の制服だろう。こうして見ると不思議なもので男の子にしか見えない。


「や、やあ、優くん。元気かい?」

「はい!お陰さまで。その節は兄共々お世話になりました。」


 深々とお辞儀をする優くん。本当によくできた弟だな~。もう少し話をしていたいが手に持っているものを何とかしなくては……。


「いやあ~、ゴメンね。今急いでるもので……」

「あっ、はい!すみません、お時間を取らせてしまって」

「いや、いいんだ。うん。お兄さんに宜しくね!」


 私は足早にレジへ向かい会計を済ませた。一応、バイク雑誌とかと一緒に買った。こうするものだ、という話を漫画か何かで見た……と思う。男がエロ本を買う時に後ろめたい気分になるのも分かる気がした。ちなみにレジ打ちは大学生くらいの女の人で、軽く睨まれた気がする。もう二度と御免だ、こんなこと……。


 帰宅した私は、せっかくだから買ってきた本を見ることにした。こういう時はもったいない精神が働く。不思議だ。エロ本はグラビアアイドルが出ているようなものだが正直何が良いのかさっぱりだった。男は巨乳が好きなのか?重いだけだろ……こんなの。次にバイク雑誌を見た。うーん、私運動神経は自信あるんだけどメカ系が苦手なんだよなあ……。薫ちゃんを助けに行く時に松谷のバイクに乗ったけど、風を体で感じられて気持ちよかったな……。もっとも、男と初めて乗ったバイクが松谷と、というのがマイナスポイントだが……。お金を貯めて免許でも取ってみようかな?

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