ジャスティスマン山の死闘!
「あーっ、もう駄目! なんでこんなかったるい事しなきゃならないのよ!」
「……え、えーっと、学校行事だからしょうがないだろ」
「……」
「……」
「あーっ、もう駄目! なんでこんなかったるい事しなきゃならないのよ!」
「学校行事だからしょうがないだろ」
「それは解っているんだけどさ、なんでこの歳にもなって山登りなんてしなきゃいけないの」
「俺達の通う学校のかなり近くにはこの近辺じゃ有名な霊験あらたかな山があって、心身を鍛えるためだとか、そういった理由で毎年恒例行事になっているじゃないか。なにを今更言い出すんだよ」
「カールがそんなに山登りが好きだなんて知らなかったわ」
「むかっ、そんなはずねーだろ。文句を言ったところで気分が悪くなるだけだからあえて言わないようにしているの。俺だって面倒くさいわこんなもん!」
「それならそう早く言えばいいのよ、いちいち……」
『はぁ、馬鹿らしい。この話はやめようか』
「……いやー、それにしても莉多や、昔はこんな雰囲気の場所ばかりだったと思うと恐ろしくなるな」
「そうね、木の根が地面から飛び出していて足を取られやすいし、道は凹凸が激しくて普通に歩いているだけでも疲れるわね」
「今日一日これだけで終わるんだからラッキーっちゃラッキーだよな」
「私は明日の筋肉痛が怖いわ」
「運動不足な莉多には辛いかもな」
「あんただっておんなじでしょ。カール!」
「うわっ、あぶねぇ! タオルを武器にするな、タオルを!」
「頂上まであと少し、頑張ろうか、莉多」
「ええ……」
「……頂ッ……上ぉ!」
見晴らしの良い高台に立って内から湧き出す衝動に身を任せ、拳を天に突き上げた。
目の前にはミニチュア模型サイズの小松市の街並みが広がっている。学校や学校帰りによく行くショッピングセンターの建物を見ては、案外距離が離れているものだと感心したりと、いつもなら気にも留めないような事を考えられた。
「え、ちょっと待って!?」
委員長がきょろきょろと辺りを見回す。辺りには山頂を伝える木の看板があるだけで、久喜や桜花の他に人影は無い。
「え、一体なんだこれ!?」
ぴったりと進まなくなった球を見て久喜は首をかしげる。
「いやいや、おかしいでしょこの流れ!」
「ちょっとストップストップ!」
久喜は忘れていた。桜花は高校に進学するにあたって東小松市に引っ越した来たのだ。時折珍しそうに辺りを見回していた意味を今になってようやく久喜は知った。久喜にとっては何度目かになる小松山登りでも、桜花にとっては初めての小松山の登山となるのだ。
「私達の戸惑いをスルーして進めないで!」
桜花ははそう言って笑うと、ツインテールの髪を揺らし木の看板の前へと移動した。
「違う、作品違うわ!」
桜花が手招きをする。何事かと久喜も桜花の下へと足早に向かった。
「これはジャスティスマン 正義の味方であって、東小松市一の○○○! 2 ではないわ!」
「しかも微妙に一人称を三人称に変えてるな」
カールと莉多は今登ってきた道とは逆方向に進んだ。生い茂った木々を掻き分けるようにして道を進んでいると、急に目の前が開けた。
カールや莉多のおぼろげな記憶の中にあった広場と一致する光景が目に飛び込んでくる。
広場の端には錆びた看板。食後によじ登って遊んだ木なんかもまだ残っている。数年前に来た場所にもかかわらず、その時の事をよく覚えているものだ。そうカールは感心した。
「混ぜない、混ぜない!」
莉多と桜花が広場の一点を指差す。
土を踏みしめる音と現代日本には不釣合いな剣と剣を交える光景がそこでは繰り広げられていた。
片方は小柄な少女。一つに纏めた髪をなびかせながら剣を振るう。もう片方はフード型のマントを身にまとっており表情が伺えず、どういった人物なのかは解らない。解るといえば少女よりも背が大きいことか。そしてその二人を見守るように特撮番組のヒーローのような姿をした人物が一人。
「共演!? ついには共演しちゃったわ!」
見渡す限りこの場に居るのは激しく切り結ぶ二人とそれを見守る特撮ヒーロー一人だ……
『いい加減にしろッ!』
「なに、なんなの今回は! 地の文不在で何故か物語りはスタート、地の文がやってきたと思えば他作品の内容を語りだすなんておかしいでしょ!」
申し訳ない、本当に申し訳ない。そうカールは呟いた。
「申し訳ないじゃないわよ! 普通に入ってきてくれればまだフォローできたけど、あれじゃどうやってもフォロー不可能よ!」
いや、君なら出来る! ジャスティスマンは大きく頷き、莉多の肩を叩いた。
「って、まずいわよ、これだけでもういつもの内容の三分の一を消費しそうになっているわ、早いところやることやらないと!」
承知!
本日、正佳と莉多は学校の恒例行事となっている登山に参加していた。登山といっても山の標高は低く、どちらかというと登山というよりもハイキングといった方がいいかもしれない。
しかし、日常的に運動をしていない正佳と莉多にとっては富士山に登っているようなものだ。くじけそうになる心を二人励ましあい、なんとか頂上へとたどり着いた。
頂上では下山に向け体力の回復を図るため、昼食をとる事になっていた。
疲労困憊の二人だが、悪の手はこの瞬間を待っていたのだ。もう一歩も動けないと横になる正佳と莉多に三度怪人達が襲い掛かってきたのだ。
絶体絶命、そんな時、二人が信じる正義の使者が姿を現した!
怪人達の攻撃は間一髪のところで正義の使者、ジャスティスマンに阻まれた。
「ちょ、展開速い!」
『なっ、くッ! 待てッ! 私のおにぎり梅おにぎり! 正義の使者ジャスティスマン参上! 大丈夫だったか、正佳君、莉多君! 私が居る限り、この二人には指一本触れさせん!』
【えっ、えっ!? 油断したなジャスティハート! 今日こそそのジャスティハートをいただく! 行け、コマンドペンギン!】
《承知! なっ、貴殿はジャスティスマンか! 二度ならず三度までも!》
「無茶振り過ぎるわよ! ジャスティスマンの名乗りなんてあわてすぎて食べてるおにぎりの紹介じゃない!」
こうして三度、正義と悪との戦いが幕を開けたのだった。
「かなり良いペースまで巻いたけど、原因を作ったのはあなたよ! ドヤ顔しない!」
『ペンギンコマンド君、君との戦い方は前の戦いで既に学んだ! 君では私には勝てない!』
《しょ、笑止!》
ジャスティスマンの挑発に乗り、コマンドペンギンが駆け出す。二人は頂上広場の中央でがっしりと手を組み合った。
『グッ……この力、まだ全力を隠していたとでも言うのか!』
「学んでいない、何も学んでいないわ!」
ペンギンコマンドの隠された力にジャスティスマンは押されはじめる。一歩、また一歩と広場脇の大木へと押されていく。
『このままではまずい、何か手を打たなければ……はッ!?』
押されていたジャスティスマンにある考えがよぎる。
【そのまま一気に倒せ、コマンドペンギン!】
《承知!》
「危ない、ジャスティスマン!」
正佳の声にジャスティスマンは大きく頷く。
『大丈夫だ正佳君! 行くぞ、ジャスティスエアーキックを食らえ!』
ジャスティスマンは持てる力をすべて出し切り、コマンドペンギンを投げ飛ばす。
《油断ッ!》
『行くぞ!』
ジャスティスマンは光の速さで走りぬけ、広場横の高台に立った。
『ジャスティスエアーキィィィィック!』
「ちょっと、それワイヤーを滑車つきのタイヤで高い位置から低い位置に滑っていく遊具じゃない!」
風を切る音と共にジャスティスマンが投げ飛ばされて倒れているコマンドペンギンへと迫る。
『でやああああッ!』
《なっ、なにぃぃぃ!》
「事故よ、それただの事故! その遊具で遊ぶときは進行方向上に人が居ないことを確認して遊ぶべきだわ!」
『まだ立ち上がるというのか、ならばもう一度!』
「やめなさい! それ以上やるとその遊具が使用禁止になるかも知れないわ!」
なにか罠があると制止する莉多の声はジャスティスマンには届かない。
『うおおおっ、ジャスティスエアーキィィィィック!』
【かかったな、行け、ウォールコマンド!】
莉多の悪い予感は当たった。ヘルレディがその名前を呼ぶと、ジャスティスエアーキックの進行方向上にがっしりとした肉体を持つ怪人が立ちふさがった。
《ワイのウォールガードは鉄壁の盾や!》
ウォールコマンドの腕には左右に初心者マークを縦に割ったような形の大きな盾がついており、腕を身体の前で閉じればその名の通り、大きな壁へと変化する。
《ウォールガーード!》
『なっ、なに!』
ジャスティスマンの一撃はウォールコマンドのウォールガードの前になすすべもない。
『まっ、まだだぁ!』
一撃を受け止められたジャスティスマンだったが、その瞳に宿る闘志の炎は絶えない。
《無駄やッ! ワイのウォールガードの前にはどんな攻撃も通用しまへん!》
勢いのなくなったジャスティスマンの足をウォールコマンドが掴み、その体躯差を利用しジャスティスマンを宙吊りにする。
《ウォールスゥイングッ!》
『グハァッ!』
地面に叩きつけられたジャスティスマンは身動きが出来なくなる。
【コマンドペンギンは下がれッ! ここはウォールコマンドに任せるのだ!】
《しょ、承知!》
ヘルレディーの指示により、戦いで傷ついたコマンドペンギンは身体をよろめかせながら戦いの場から離れた。
『なんという防御力だ……私の攻撃が通用しないなんて……』
《ジャスティスマンはん、あんたはよーやった。でも、ワイの方が一枚上手やったっちゅうことやねん。負け犬は負け犬らしく、そこで眺めときや!》
ウォールコマンドの魔の手が正佳と莉多に迫る。ジャスティスマンは地面に横たわり、自分の無力さを痛感した。
『私はなんて無力なんだ……こうしてジャスティハートが奪われようとしているのに何も出来ないなんて……』
ジャスティスマンが諦めかけたそのとき、ジャスティスマンの脳裏に正佳や莉多との思い出が走馬灯のように流れる。
一緒に焼き鳥を焼いたこと、プールで遊んだこと、そして今日一緒に昼食を食べたこと。
「いや、色々と思い出を捏造していない、それ!? 私の記憶にそんな思い出一つもないんだけど!?」
『正佳君、莉多君ッ! う、うおおおッ! 私はここで倒れるわけにはいかないんだァァァッ!』
《なんや、この力!? まさかこんな力がまだ残っていたなんて!》
『たとえこの身朽ち果てようと、絶対に私は負けるわけにはいかないんだ!』
残された力を振り絞り、ジャスティスマンは飛ぶ。
『ジャスティス……』
ジャスティスマンは最後の一撃を放つ為、力を貯めている。
「ちょっと、それ動物の形をしたスプリングがついていて、前後に揺れて遊ぶ遊具よね? 明らかに搭乗者の体重が重すぎて前後に揺れるはずの遊具が後ろに倒れたまま動かない状態よね!?」
『スカイ……キィィィィック!!』
「危ない、その状態で勢いつけて飛ぶのはマジで危ないわよ!」
《無駄や! ワイのウォールガードの前にはその程度の攻撃なんか効きまへん!》
天高く飛び上がったジャスティスマンは防御の構えを取るウォールコマンドを見て笑った。
『確かに! この一撃ではその鉄壁の防御は崩せないかも知れない! だが、この一撃に更なる力が加われば、それも可能となる!』
《なんやて!?》
『ただのジャスティススカイキックの威力が100とするなら、空高く飛ぶことでその威力を200へと変える! そして!』
ジャスティスマンは高く飛び上がった状態で独楽のようにクルクルと回転し始める。
『ドリルのように回転をすることでその威力はさらに上がり、威力は400へと変わる! そして最後に!』
『正義の心が加われば、その威力は数字で表す事は出来ないッ!』
「じゃあなんで理屈のわからない計算で数字を出したのよ!! 明らかに計算式おかしいじゃないの!」
ジャスティスマンの正義の心が加わった一撃がウォールコマンドに迫る。ウォールコマンドはその一撃を受け止めようと盾を構える。
二つの力がぶつかった時、辺りを閃光が包み込んだ。
「い、一体どうなったんだ?」
正佳が目を開けたとき、ぐらりと一つの影が揺らめいた。
《ナイガッツや……ジャスティスマンはん……》
《ウォールコマンドッ!》
ゆっくりと倒れるウォールコマンドをコマンドペンギンが支える。
【……み、見事だジャスティスマン! だが、次はこうはいかんぞ!】
形勢不利であることを悟ったヘルレディーはすばやく身を翻し、コマンドペンギン、ウォールコマンドと共に闇に消えた。
『お、恐ろしい敵だった……このままの私では奴らに対抗できなくなるかもしれない』
なんとか勝つには勝ったジャスティスマンだったが、彼の心に不安という大きな暗雲が立ち込めつつあった。
莉「ダウトぉッ!」
正「いきなりどうしたんだよ」
莉「サブタイトルがもうね……」
正「あー、それもそうだな。それよりも今回はひどすぎる」
莉「ええ、いくら何でもありっていってもあれはひどい」
正「最近の暴走しすぎじゃね、これ」
莉「そうね。しかも今回このネタやるためにとある作品の完結を延ばしに延ばしまくってるからね」
ジ「おっと、もう時間だ! 次もまた会おう!」
正直やりすぎました。