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シカゴ・スピリット  作者: 目頭
シーズン1
6/8

ラプチャー

 ダークトーンのスーツを着用した、円筒印章を持つ何者かの部屋で、ソーティースが死から目覚めた。ソーティースは謎の人物に声をかけた。

「貴方は…。」

 謎の人物の部屋はまたもや煙幕に包まれた。煙幕の色はカラフルではなく、一般的な煙色だった。煙幕が消え去る頃には、謎の人物は姿を消していた。ソーティースはまず、自分が裸であることに気がついた。彼は煙幕の一酸化炭素を吸い込んだ際の咳を済まし、行動を起こすために急いで立ち上がった。彼は部屋のハンガーから自分のサイズに合う服を盗み、着用した。彼は重要なことに気づいていなかった。彼は今になって、自分が蘇ったことを感知したのだ。彼は自分の腕や足を眺めた。彼は驚きのあまり、床にひっくり返った。

 

 1929年1月14日。 

 俺とルークと共に道を歩いていた。道はいつもと違い、マフィアの噂で溢れかえっていた。しかし、俺たちが市民に直視されることはなかった。俺は、アル・スワードとシドの墓に参り、彼らに感謝の意を示すことで、彼らのわだかまりを解消できると考えたのだ。午前の冷たい空気が肌を包み込む。俺は言った。

「こんな大事な時に、何故カスパーがいない?」

 ルークは言った。

「家が遠いため、別のルートで墓へ向かうらしい。3人の到着時間はほぼ同じになるだろう。」

「了解した。」

 俺とルークは道を外れた。この暗い路地の突き当たりに位置するのが墓場だ。近頃、この路地で犯罪が増加している。この路地で犯罪が起きても何の問題もないのが、墓荒らしは絶対に起きてはいけない。


 その時だった。ルークがいきなり倒れた。俺はすぐさまルークがいた方向に目を向けた。ルークがいた方向には、既視感のある男性がナイフとボロボロの布で作ったマスクを持ち歩いていた。俺は言った。

「まさか、こいつを殺すつもりか?」

 既視感のある男性は俺を睨み、俺にナイフを向けた。俺は彼を侮っていた。が、彼は素早い動きで俺の肌手前にナイフを突きつけた。俺はそのナイフを力尽くで奪い取り、彼の顎に突き刺した。彼は胸を手で抑えて倒れた。彼は、俺に攻撃を加えられたにも関わらず、意識を保っていた。その頃、ルークは起き上がった。俺は言った。

「何故胸部を隠している?俺がそんなに怖いか?」

 既視感のある男性は胸部を押さえていた手を広げた。男の服は胸部が破れていた。男の胸部には、銃弾の跡のようなものがあった。その時、俺の記憶上に散りばめられた点と点が繋がり線になった。俺は咄嗟に口を開いた。

「ジョン・デリンジャーか?」

 ジョン・デリンジャーらしき者はにやけた。

「マフィアに偽装した警察か?」

「俺の名前はドミニック・リッツォ。シカゴでその名前を知らない奴はいない筈だ。まあ、顔はあまり知られていないか。」

「やはりお前か。後ろの金髪は誰だ?」

「あいつはルークだ。俺の部下だ。」

「男とは思えない顔だ。」

「ローランド・マックデルを殺しておいてその態度か?」

「殺してはないだろ。」

「社会的に殺したという意味合いだ。屁理屈を叩くな。」

 

 ルークはジョン・デリンジャーと握手を交わした。その後、彼から物を触るような音が聞こえた。

「この音を発しているのはお前か?俺を殺そうとしたって自分の命が無くなるだけだ。」

 ジョン・デリンジャーは辺りを見回してから言った。

「俺じゃないが、音を鳴らした者の正体は察しがつく。」

「誰だ?」

 狭い家屋の間から茂みを掻き分ける音が更に増した。すると、家屋の間からローレンス・アンソニー・アマトが現れた。彼は俺を見て言った。

「ドミニックじゃないか。とっくに殺されていると思った。」

 俺は言った。

「今からこの無礼な存在を始末する。お前も協力しないか?」

「ジョンは俺の仲間だ。」

「理解に苦しむ。ジョン・デリンジャーはシカゴ・スピリットの構成員ではないぞ。」

「先月、俺はシカゴ・スピリットからは脱退した。ジョンとのタッグは最高だ。」

 俺とローレンス・アンソニー・アマトが会話を交わしていると、通りの奥から男性が現れた。俺はすぐさま銃を構えた。ローレンス・アンソニー・アマトは言った。

「ドミニックの腕前は衰えていないようだ。」

「当たり前だ。馬鹿野郎。」

 通りの奥から現れた男性の顔は影で隠れていた。しかし、彼が進むにつれてその顔は段々と明らかになっていった。男は言った。

「いつまで迷子になってる。弱そうな犯罪者と戦闘を繰り広げていたのか知らないが、墓参りの方が優先順位が高い。」

 男はカスパー・メッツィンガーであった。俺とルークはジョン・デリンジャーの頭を思う存分蹴り飛ばしてから、カスパーの元へと向かった。

 ジョン・デリンジャーは言った。

「俺はあいつと絡める気がしない。」

 ローレンス・アンソニー・アマトは言った。

「同感だ。」


 一同は墓場の目の前に着いた。墓場が醸し出す死者のオーラといった独特の雰囲気が俺たちを包み込んだ。ルークは少しの笑みを浮かべた。

「どうか、お前らだけは、シドやアルのように世を去らないでくれ。」

 俺は言った。

「お前もだ。ルーク。」

 カスパーは言った。

「だが、死ねばシドとアルに再会することができる。とはいえ、俺は絶対に死なない。」

 俺は勇気を出して墓地に足を踏み込んだ。墓地の砂が俺の革靴を包み込んだ。アル・スワードが俺を屈強な体で包み込んだように。俺は眼球の筋肉を駆使し、墓場を満遍なく観察した。俺はシドと刻まれている石碑を見つけた。俺はシドの墓に向かった。ルークとカスパーも俺と同行した。カスパーはシドの石碑を眺めた。

「11月2日の万霊節に墓に来られず申し訳ない。シド。俺とシドが出会ったきっかけを思い出すと、マフィアとして活動した日全てが懐かしく思えてくる。確か、バーでルークとシドの間で喧嘩が勃発していたため、俺が仲介に入ったんだ。」

 ルークは力尽くでシドの石碑の周りに生えている草木をもぎ取った。その後、ルークは布を懐から取り出し、それを使用して石碑を掃除した。カスパーは白百合の花束をシドの石碑の近辺に置いた。一同は胸の前で両手を合わせてから跪き、神に祈りを捧げた。最後に、一同は立ち上がり、シドに対して十字架を切った。


 カスパーは暗い表情をしたまま、シドの墓から離れた。シドは革靴で土を踏みながら、アル・スワードの墓へ向かった。ルークは、カスパーの動きに気がつき、アル・スワードの墓へ向かった。俺もルークと同行した。カスパーは美しいカーネーションをアル・スワードの石碑の近辺に置いた。ルークはシドの石碑を掃除した物と同じ布を使って、石碑を拭いた。一同はシドの石碑で跪いたように、胸の前で両手を合わせ、神に祈りだけでなく感謝の気持ちを捧げた。その後、一同は立ち上がり、アル・スワードに対して十字架を切った。俺は言った。

「アルには感謝すべきことが多くある。声があまり馴染めなかったが、アル、お前は最高のボディーガードだった。」


 俺たちが異変に気づいたのは、俺がアル・スワードに感謝の気持ちを言い放ってから少し経った時だ。左で不敵な笑みを浮かべる犯罪者のローレンス・デヴォルが他人の墓を荒らしていた。俺はポケットから音を立てずにナイフを取り出した。カスパーは俺の手を抑えた。

「墓で物騒なことをするな。」

 俺は言い返した。

「墓荒らしだぞ?このまま放置しておいて良いのか?」

 ルークはローレンス・デヴォルの首を絞めて彼を持ち上げた。カスパーは「物騒だ!」と連呼し注意喚起をしたが、ルークはその警告を聞かずに、彼を道路へ放り投げた。


 その様子を見ていた1人の眼鏡をかけた白髪の高齢者男性は言った。

「墓を荒らすな。」

 ルークは高齢者男性を睨みつけ、言い返した。

「墓荒らしはローレンス・デヴォルだ。名高い犯罪者だ。誰でも知っている筈の犯罪者を何故容認する?」

「犯罪者を痛い目に合わせれば、自分が犯罪者になってしまう。」

「墓荒らしを放置してどうする?」

「自分の過ちに気付き後悔するか、警察に取り押さえられ後悔するか、どちらかの道を辿るだろう。だから、犯罪を起こす前に、自分の行おうとしていることが周囲にどのような影響を与えるのかを考えるべきなのだ。」

 確かに、彼は経験豊富なだけに、言っていることは筋が通っている。しかし、老人の発言を心を揺さぶられてマフィアから離脱する者は1人も損害しないだろう。俺がまさにそうだ。


 老人の目は一同の正体がマフィアであることを見抜いているかのような鋭い目線を放っていた。老人は、天然木から製造された杖を取り出した。ハンドル部分の金属は錆びていて、老人の経験を物語っていた。杖には象牙が装飾されていて美しい。老人はその杖を持って墓を歩いていった。俺は老人の杖に思い切り唾を吐いた。


 ルークは俺の唾がかかった杖を嘲笑った。カスパーは俺の行為に動じず、一足先に墓を出て行った。ルークと俺も、カスパーに続いて墓を後にした。カスパーは言った。

「あの老人は我々がマフィアであることに気がついている。すぐさま退散すべきだ。」

 ルークは言った。

「同感だ。」

「では、各自別のルートで自宅へ戻るとしよう。」

 俺はルークとカスパーに別れを告げ、道を真っ直ぐ歩いた。

 

 カスパーは突き当たりの角を右に曲がり、周囲に目を配りながら歩いていた。カスパーは周囲に不審な人物が存在していないか確認し、前に進んだ。しかし、不審な人物は建物の影に隠れながら、カスパーを付き纏っていた。カスパーはその存在に気がついていなかった。不審者はリボルバーをリロードし、ポケットに入れ込んだ。その時だった。かすぱは不審者の存在に気づいた。不審者は急いで近辺の建物の柱に隠れた。カスパーは柱を威嚇射撃し、不審者に少しずつ近づいていった。カスパーは柱に完全に近づいたが、不審者はそこにいなかった。不審者はいつの間にかカスパーの横に立っていた。カスパーは不審者に対抗しようと振り向いた。カスパーの抵抗も虚しく、彼は腹腔を弾丸で撃たれ、路上に倒れ込んだ。


 不審者は逮捕されることを回避するために現場からすぐ退散した。不審者は急いで走ったあまり、ポケットに入れていた円筒印章を路上に落としてしまった。カスパーは「ドミニック、ルーク」と呟き、気絶した。


 数時間後、カスパーの死亡現場に武装した警察と共にSCP財団機動部隊π-1(シティ・スリッカーズ)が現れた。機動部隊の指揮官はアサルトライフルを構え、周囲を見張るよう部隊に指示をした。警察は機動部隊の調査に先んじてカスパーの身体を調べ上げた。


 カスパーのカスパーの身体を調査した者は、指導巡査からキャプテンまで成り上がったガーフィールド・シュレイバーであった。ガーフィールド・シュレイバーはカスパーの身体をまじまじと眺めてから、銃弾で撃たれた跡を除いた。その後、彼は近辺に建っている建物のガラスを見て不敵な笑みを浮かべた。彼は早速、懐から黒いアルミニウム粉末が入った袋とブラシを取り出した。彼はブラシに、少量のアルミニウム粉末を付着させた。彼はブラシでガラスを撫でた。すると、指紋の汗や皮膚に粉末が吸着し、指紋の隆線が粉末で黒く浮かび上がった。彼は手袋を身につけた後、アメリカの3M社から、商品公開前に入手したスコッチテープで、浮かび上がった指紋をつけた。彼は部下に言った。

「このテープを厳重に保管しておいてくれ。」

 

 彼は部下に次の指示をした。

「この男の名前は?」

 部下は答えた。

「シカゴ・スピリットの構成員でありSCP財団情報提供者のカスパー・メッツィンガーです。」

「この男の親交関係は調査済みか?」

「ルーク・ハンズ、アル・スワード、シド・キャシディと同僚間…。」

 彼は部下の返事を遮り言った。

「質問の意味を理解しろ。男はドミニック・リッツォの関係者か?」

「はい。そうです。」

 彼はカスパーの死体をせせら笑い、呟いた。

「復讐の時間だ。自由を履き違えている彼に鉄槌を下す時が来たのだ。」


 SCP財団のエージェントであるティモシー・サリバンとジェイコブ・ワイスは、機動部隊と共に行動していた。サリバンエージェントは言った。

「彼を病院に搬送しようではないか。」

 ワイスエージェントは言った。

「同感だ。」

 機動部隊はカスパーの身体を持ち上げ、道路に停まっている社用車のトランクに彼の身体を置いた。エージェントと機動部隊の大半は社用車に乗った。一部の機動部隊は社用車の周囲を監視する役割を与えられた。彼らは社用車の速度に追いつきながら周囲を監視した。


 俺はシカゴの郊外のベンチに座り、タバコを吸っていた。暴力的な現場から離れ、タバコを吸って日々の鬱憤を晴らすのもマフィアのに日常だ。しかし、俺は人を殴らなければ精神が保てない病的なマフィアだ。そのため、俺はタバコをアスファルトの地面に叩き落とし、近くの中年男性や老人男性を手当たり次第殴った。中年男性や老人男性は俺に抵抗せず次々と倒れていった。俺は最後に眼鏡をかけたスーツ姿の男性に拳を向けた。その時だった。俺の体から力が抜けていき、視界が暗くなった。俺は意識が朦朧としていて、何が起こっているのか分からなかった。


 俺が目覚めた場所は病院だった。この病院はシカゴの中でも規模の大きな病院であり、シカゴの大体の病人がここに通院している。俺は周りの様子を鑑みずに立ち上がった。俺は院内を歩いていた患者と強くぶつかってしまった。患者は言った。

「痛ってぇな。こちとら肩甲骨を骨折してるんだぞ?当たりどころが悪かったら、痛いじゃ済まされない事態になっていたかもしれない。」

 俺は日々のストレスをここで発散した。

「シカゴ市民なら、マフィアに喧嘩を売ったらどのような目に遭うか重々承知している筈だ。消え失せろ!」

 俺の暴言に周囲が凍り付いた。俺は多くの患者や医者から軽蔑の目線で見られた。数秒後、患者や医師は俺から目を離した。しかし、俺をまじまじと見ている患者が1人存在した。彼はカスパー・メッツィンガーだった。俺はカスパーの元に駆けつけた。俺は言った。

「酷い様だ。一体、何が起きた?」

 カスパーは俺の腕を掴み、呟いた。

「不審な男に…、弾丸で胸…、を撃たれ、た。」

 その時、カスパーの腕から生気が失われ、俺を掴んだ腕が俺の肌を滑り落ちた。カスパーは俺の目を見つめながら死去した。俺は悲しみの余り言葉を失った。


 俺が途方に暮れていると、後ろから革靴と床が衝突する音が院内に響き渡った。音の持ち主らは俺の目の前に現れた。彼らはカスパーを見つめ不適な笑みを浮かべた。俺は今頃、彼らを力尽くで殴っている筈だが、俺は動けなかった。エージェント・サリバン、エージェント・ワイスと名乗る男らは資料を片手に語り出した。

「彼はシカゴの路上で不審者に射撃された。彼はそこで気絶し、それを我々財団が発見した。エージェント・ワイスは彼の腹腔に異物が混入していることに気づいた。病院の医師や我々エージェントは彼の治療は不可能だと判断した。彼に打っていた点滴は見せかけだ。そもそも、彼は病院に搬送された瞬間から意識が朦朧としていた。君に事情が説明できたのは、記憶が一時的に回復したからだろう。」

 俺は言った。

「やはり政府の連中には碌な奴がいない。」

 俺はカスパーの点滴装置を激しく叩き、病棟を後にした。2人のエージェントは微かに微笑んだ。俺は料金を払うことなく病院を出た。


 病院を出た際に広がったていたのは殺風景なシカゴだった。シカゴの暗い空気が俺の気持ちを暗転させた。俺はルークとカスパー共に誓いを結び、死者の墓に参ったばかりなのにも関わらず、仲間が死去してしまったことにトラウマを覚えた。俺は殺人を犯すことができないという感覚に取り憑かれた。それは倫理でも理性でもなく、最も生理的かつ逃げようのない精神的な苦痛だった。その不能さが、まるで欠落のように胸の奥に居座り、俺の思考を静かに締めつけていた。


 その時、雨が散々に振り注ぐシカゴの路上で、唐突に通り魔が現れた。街灯の下、刃物が鈍く光り、次の瞬間にはナイフが俺に向けられていた。いつもなら、反射的に通り魔を反撃していた筈だった。理屈ではなく、身体が先に動く。俺は、そのような場面を何度も想定してきた。だが、今の俺は違った。足がすくみ、手に力が入らなくなってしまったのだ。俺の頭の中で、何かが決定的に断ち切られた。俺はただ立ち尽くしていた。やがて俺は通り魔荷背を向け、一目散に逃げ出した。雨が容赦なく降り注ぐシカゴの街を、無様に、必死に走った。本来子供が遊びで踏むような水溜りを踏み、息を切らし、背後の気配から目を背けるようにして逃げ続けた。追われている恐怖以上に、自分自身から逃げている感覚があった。俺は走りながら、臆病な自分がどうしようもなく恥ずかしく思えた。俺が生き延びたという事実よりも、反撃できなかったという現実が重くのしかかってくるのだ。逃げた判断が正しかったのかどうか、そんなことはどうでもよかった。ただ、自分が何者であるのかを、その瞬間に突きつけられた気がしてならなかった。今、胸に残っているこの感情。虚しさと自己嫌悪が入り混じった重たい感覚こそが、俺が抱えてきた苦痛を、そのまま形にしたものなのだ。


 俺はこのまま野垂れ死ぬのだろうか。明日生存する確率や数秒後も生きている確率も保証されないこの世界で。マフィアは自由だが危険性が伴う。元々、人類は自由かつ危険性伴う生活をしていた。類人猿がまさにそうだ。しかし、俺は残酷なマフィアの世界を生き抜く力を失ってしまった。何とは言わない。俺はただ単に、力が欲しい。とはいえ、一度引き受けた仕事はやり遂げねばならない。


 ニューヨークだ。シカゴという犯罪都市でしか生きてこなかった俺が遂にニューヨークに辿り着いた。母のような社畜になっていればこの景色はどれだけ歳を取っても見られなかっただろう。何より、自由の象徴である自由の女神が聳え立っている。女神は自由の心理を理解しているに違いない。俺は呟いた。

「世界を照らす自由、か。」


 俺はニューヨークの街中に配置されているベンチに腰をかけていた。その時、ルークとダルトン、密造酒業者のアンソニー・ドーフマンが俺の目の前に現れた。アンソニー・ドーフマンはダルトンと肩を組んで酒を飲んでいた。アンソニーは汚い涎を垂らした。

「公衆の面前で酒を飲むほど興奮する行為はない。この酒も十分美味いが、シークレット・スピリットの酒は極上に美味いだろうな。」

「俺はシークレット・スピリットの酒は飲んだことがない。どんな味が拝見しなければならない。」

 ダルトンはそう言うとシークレット・スピリットに向けて歩き出した。アンソニーは酒を飲み終え、地面に瓶を投げ捨てた。アンソニーは指紋を特定されないよう、手袋を着用していた。やはり、彼はマフィアの素質を有している。


 一同は、ニューヨーク市民に正体が見破られているが、堂々と道を進んでいた。シークレット・スピリットの近辺を歩いている頃には、芳醇なワインの匂いが俺の鼻を包み込んだ。そして、一同はシークレット・スピリットに辿り着いた。一同は怪しげな雰囲気を醸し出しているシークレット・スピリットの扉を勢い良く開いた。


 バーには、バーのオーナーと見られるアルバート・ジョーンズが厨房に訪れていた。アルバート・ジョーンズは泥酔しているが臆病な顔を隠し切れていない。俺は言った。

「ブランデーを一杯、モスコミュールを一杯、同志のためにウォッカを三杯。」

 ルークやダルトン、アンソニーは俺に感謝を表明した。数分後、俺の目の前にはブランデーと芳醇なモスコミュールが置かれた。ルークは久しぶりのウォッカに興奮していた。俺は早速、ブランデーを半分飲み干した。アルバートは言った。

「シークレット・スピリットの酒は格別か?当店はライリー・オキャラハンのバーよりずっと好評だ。」

 俺は酔った勢いで言った。

「ライリーの酒が極上だとすれば、アルバートの酒はこの上なく素晴らしい最高の逸品だ。」

 アルバートは嬉しげな表情で俺を見つめた。


 その時、会計士のジャック・スピルトンがアルバートに声をかけた。

「昨年の収支報告に語弊がありました。」

 アルバートの表情は冷酷なものとなった。アルバートはジャックを見つめた。

「何故お前はバーに勤めているというのに、事務的な話しかできない?」

「会計士はそんな者だ。」

「解雇するぞ?」

「酔い醒めてから出直してこい。アルバート。」

「何だその口の聞き方は。」

 ジャックは資料を半分に畳み、上の階へ上がった。ジャックが階段を上がる音がバーに響き渡った。


 俺の推測に過ぎないが、アルバートの酔いは早々に醒めない。少なくとも今日まで彼は泥酔したままだろう。俺は酒に強いことで名を馳せているが、ルークやダルトンは意外にも酒に弱い。彼らが酒に弱い所為で、ニューヨークでの任務は中止になりそうだ。バーは陽気な雰囲気が立ち込んでいた。しかし、その雰囲気を、謎の刺客が一気に凍らせた。


 シークレット・スピリットに現れた刺客は、SCP財団の追手だった。先頭の機動部隊は一同に銃の標準を合わせていた。その奥には、不適な笑みを浮かべるエージェント2人と機動部隊の指揮官、既視感のある博士が直立していた。上の階にいたジャックは上から周囲を観察していた。アルバートは即座に手を挙げた。ルークとダルトンの酔いは一気に醒めた。

「手を挙げろと指示をしていないのにも関わらず手を真っ先に挙げるとは、優秀だな。アルバート・ジョーンズ。」

 冷酷な声はバーに響き渡った。アンソニーは思わず声を上げた。

「な、何者だ?」

 奥から謎の人物が姿を現した。

「シカゴ市オーバーン・グレシャム地区警察署キャプテンに配属されたガーフィールド・シュレイバーだ。」

 俺はガーフィールド・シュレイバーと目を合わせてしまった。ガーフィールド・シュレイバーは不適な笑みを浮かべ、「手を挙げろ!」と口走った。俺とルーク、ダルトンは手を挙げなかったが、アンソニーは彼に怯えて手を挙げてしまった。彼は「臆病者め。」と呟き、アンソニーを拳銃で射殺した。アンソニーは椅子から転げ落ちた。

「上の階の臆病者も姿を現せ。」

 彼はジャックの存在に気づいていた。ジャックは手を挙げながら恐る恐る階段を下った。その後、彼は部下や機動部隊員と確認を始めた。一同はその隙にシークレット・スピリットの奥に隠れ、出口から逃げ出した。


 ガーフィールド・シュレイバーは溜め息を吐き、ジャックを射殺した。アルバートは自分も射殺されるのではないかと怯えながらただ立ち尽くしていた。しかし、ガーフィールド・シュレイバーは彼を攻撃せず、銃をしまった。

「シカゴ・スピリットの情報を出来る限り教えろ。さもなくば射殺する。」

 アルバートは震えながら言った。

「あんたらが探してるプラスキ・クルーはこの近辺のバラックで逃亡生活を送っている。後、」

「その情報で十分だ。」

 ガーフィールド・シュレイバーは部下の巡査と共にシークレット・スピリットを後にした。

「俺も同行させてくれ。」

 そう言った者はデフォー博士だった。

「よろしい。機動部隊員の誰かに装備を借りろ。」

 デフォー博士は機動部隊員から装備を譲り受け、着用した。デフォー博士は慣れない手つきでアサルトライフルをリロードした。


 一同はプラスキ・クルーの隠れ家に向かっていた。プラスキ・クルーとは、シカゴで暗躍していた現実改変能力や奇跡術を持つシカゴ・スピリットの部隊だ。ルークは奥のバラックを指差した。

「あのバラック群にプラスキ・クルーが潜んでいる。」

 一同は駆け足でバラックに向かった。一同がバラックに近づくごとに、腐敗臭が匂うようになってくる。

 一同は腐敗臭に苛まれながらも、何とかバラック群に辿り着いた。

「このバラック群の中から彼らを見つけた出すのが1番の試練だ。」

 数分後、俺はとあるイタリア系アメリカ人男性とぶつかった。イタリア系アメリカ人男性は舌うちをした後、俺に殴りかかった。だが、男は拳を下に向けた。

「シカゴ・スピリットの構成員か。よくぞ来てくれた。」


 イタリア系アメリカ人の声にルークとダルトンも反応した。すると、汚物の匂いが漂う複数のバラックから、双子と見られる中年の中国人女性と筋肉質のアメリカ人、丸眼鏡をかけたユダヤ系アメリカ人が現れた。中国人女性の双子の内の1人が口を開いた。

「我是阿南。站在旁边的是我的妹妹阿汤。」

 ルークは首を傾げた。

「彼女は何と言っている?」

 ユダヤ系アメリカ人は自慢げな表情で眼鏡を触り、言った。

「彼女は、私はアー・ナム。隣に立ち尽くしている妹がアー・トム。と説明している。私はルイ・ベーグル・バーンスタインだ。パイロマンサーとして知られている。」

 アメリカ人男性は髪に絡まっているバラック特有の汚物を床に落とし、口を開いた。

「俺はマッド・ムーディだ。異常な膂力を有する。」

 最後にイタリア系アメリカ人男性は汚れたネクタイを整え、名前を口にした。

「私の名はジュゼッペ・ペルモント・フィオーリだ。心を操る能力を有している。」

 

 その時だった。アサルトライフルを構えた音がバラックに鳴り響いた。一同は怯えて腰を抜かした。しかし、ルイ・ベーグル・バーンスタインだけは機動部隊から隠れずに堂々とバラックを歩き始めた。デフォー博士は呟いた。

「SCP-638-A。」

 ルイ・ベーグル・バーンスタインは掌から少量の炎を生成し、手に力を入れて炎を増幅させた。彼は片手からも炎を生成した。そして、彼は手を前に向け、敵に向かって大量の炎を浴びせた。炎が疾風の如く放出される音がバラックに鳴り響いた。ガーフィールド・シュレイバーは眉を顰め、バラックから離れようと足を動かした。しかし、彼の炎にガーフィールド・シュレイバーは抵抗することができず、燃え尽きた。デフォー博士は彼の能力を把握していたため、ガーフィールド・シュレイバーより一足先にバラックを離れていた。


 数分後、SCP財団による騒動は治ったと思われていた。しかし、デフォー博士がSCP財団機動部隊π-1(シティ・スリッカーズ)を率いて現れ、バラックを包囲した。ジュゼッペ・ペルモント・フィオーリは言った。

「今すぐバラックから逃げ出せ。」

 俺は言った。

「逃げ道は?」

「右の部屋に便所があるだろ。便所の穴を潜れば、ニューヨークのどこかしらには辿り着く。」

「服が汚れる。」

「既にスーツが汚れているじゃないか。」

 俺は便所の穴を通るという穢らわしい行為を恐れ、躊躇していた。

「早く行け!バラックはこのプラスキ・クルーが守り抜く。能力を有していないマフィアは射殺されるだけだ!」

 俺は覚悟を決めて便所の穴を潜った。ルークも俺に同行した。

 ジュゼッペ・ペルモント・フィオーリは最後に呟いた。

「彼らの心を操り、トイレの穴を潜らせるべきだった。しかし、もう手遅れだ。抵抗のしようがない。」

 ジュゼッペ・ペルモント・フィオーリは機動部隊員に拘束された。


 一方、パイロマンサーのルイ・ベーグル・バーンスタインは引き続き炎を駆使して機動部隊員と応戦していた。彼は手を繋げ合わせてから手との距離を少しずつ離し、炎を生み出した。彼はその炎で数々の機動部隊員を焼き付けた。彼の炎がバラックを火に包み込んだ。しかし、彼は背後から現れた機動部隊員に気付いていなかった。彼は麻酔銃で撃たれた。


 中国人の双子は背中を合わせて機動部隊員と応戦していた。アー・ナムは黒紫色のオーラに包まれた。彼女はそのオーラを駆使して機動部隊員に呪い殺した。アー・トムは獣のオーラを纏い四神獣を出現させ、機動部隊員を神獣に食らわせた。麻酔銃だけでは中国人の双子を収容できないと判断したデフォー博士はアサルトライフルで双子に生存が可能な程度の傷を与え、気絶させた。


 神獣に破壊され、炎に包まれたバラックで、アメリカ人のマッド・ムーディは直立していた。機動部隊員は彼を包囲した。彼は異常な膂力で機動部隊員たちを殴った。彼はバラックから逃亡しようと逃げ出したが、デフォーポストドクターの合図により駆けつけた機動部隊員に取り押さえられてしまった。


 俺の未来は…。

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