80 ザ・スレイング・オブ・殿付⑩
シーズン1最終局面 戦いの終わりと蠢く者たち
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独君拘置所にある「第三十四面会室」の室内、神駄とノリコは特殊強化ガラス越しに辛斗と向き合っていた。辛斗は金具で幾重にも拘束された状態で苦しそうにこちらを見つめていた。
「どういう心境だ? 時間まで指定して、お前から面会を求めてくるとはな」
神駄は相手の目を睨みつけながら問いかけた。
『僕の情報に信憑性を持たせようと思ってね』
辛斗の言葉に神駄はノリコと顔を見合わせた。辛斗に対して、拘置所の職員を買収して、オープンキャンパスによる圧力を匂わせるような演出をしていた、それが功を奏したようだ。
「何を教えてくれるんですか?」
『フシモリ埼玉工場が今日、オープンキャンパスの手によって襲撃されます、もうされてる頃かもしれない』
「何だと?」
『フシモリはあなたたちにとっても良くない存在なんじゃないですか? 僕の事をもっと丁重に扱ってもらう為の手土産ですよ』
「貴様!」
神駄はガラス板を叩き、辛斗を睨みつける。隣でノリコが携帯端末を取り出し、電話をかけた。
「室長、辛斗がフシモリの埼玉工場をオープンキャンパスが襲撃すると言ってます。至急、注意と確認を!」
ノリコが通話している間、神駄は辛斗に向けて、どのように襲撃が行われるのか詳細を聞き出そうとするも、彼は不敵な笑みを浮かべて沈黙を貫いた。
「えっ!? わかりました。はい……はい、そうですか……はい」
ノリコが通話を終えて、青い顔で振り向いた。
「どうしたんだ?」
「……室長が埼玉県警に確認したら、フシモリ埼玉工場の敷地が襲撃されて爆発があったみたい。多数の死傷者が出て、近隣の住民も被害を受けてるって」
『どうです? 僕の言う通りでしょ』
「ふざけるな! 関係ない人々まで……貴様が早く話していれば救えたかもしれないんだぞ! やはり、貴様はクズだ!」
神駄はショルダーホルスターからCPブラスターを引き抜いた。
「今度こそ本当に撃ち殺してやる」
「神駄くん!」
『良いんですか? 僕を殺したら、もっと大きな被害が出ますよ!』
「何だと!?」神駄は銃を構えたままで止まった。辛斗が引き攣ったままの顔を無理に笑顔に変えると、自信ありげに見つめてきた。
『オープンキャンパスはもっととんでもない事をしようとしています。僕ならそれを今度は余裕を持って教えることができる』
神駄は銃床を強化ガラスに打ちつけて、舌打ちをした。ノリコが隣から諭すように神駄の腕に触れると銃を下ろさせた。
『それで良いんです、知りたいでしょう? 僕は最近加入したけど能力について評価してくれてね、彼らから詳しく教えてもらったんだよ』
「奴らは何をしようとしてるんだ?」
神駄は怒りを押し殺しながら尋ねた。
『それは……』
辛斗が口を開いたその時、突如として高音が響き、細い光が彼の脇腹を貫通、口から血が溢れて吐き出した。
『ぐえっ!?』辛斗が苦悶の声を上げた。神駄は立ち上がり、強化ガラスに詰め寄ると左横の壁に穴があり、煙を上げているのが見える。
「聞こえますか? 面会室が何者かに攻撃を受けてます」
隣では咄嗟にノリコが壁の電話を使い職員に連絡をとっている。
『た……助け』辛斗が言い終わる前に再び、高音と共に壁から無数の細い光が照射されて彼の身体を次々と貫き、身体に無数の穴が穿たれていく。神駄は為す術もなくそれを見つめることしかできなかった。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
辛斗は拘束具により、超人としての力を抑え込まれており、防御ができず無防備に攻撃を受けるしかなかった。
『けへぇ』細い一筋の光が辛斗の頭を貫通すると彼は奇妙な声を上げ、目を見開いたまま固まった。
「クソが! 川相、ここを頼んだぞ!」
神駄は銃を握り直すとすぐさま面会室を出た。
細い光が照射された場所に向けて廊下を走る。突き当たりを曲がり、さらに短い廊下を曲がると窓に面した廊下が現れた。
ここが面会室の裏側になる為、神駄は走るペースを上げ、銃を構えながら近づくと壁に無数の穴が空いているのが見えた。壁の反対側に目を向けるとガラス窓が割れて、破片が床に散らばっている。あの細い光は室内ではなく、外から放たれたようだ。周囲から職員たちの慌ただしい声が聞こえてきた。
神駄は歩みを止め、視線を窓ガラスの外に向けると面会室のある中央塔と繋がる舎房の屋上に人影が見えた。神駄のいる中央塔から見下ろす形で舎房の屋上まで十数メートルの距離があり、夕闇に包まれているものの目を凝らすと黒いローブを着ていることがわかる。顔はフードに隠れて見えない。神駄は割れた窓ガラス越しに黒衣の影に向けて銃を構えた。
「そこまでだ! 動くと撃つ! 何者だ!」
神駄は大声で叫んだ。黒衣の影は小首をかしげて、口を手に当てて忍び笑いをしているようだ。
「なめやがって! くたばれ!」
神駄は即座にCPブラスターの引き金を引いた。ガォン、ガォン、ガォン、三発の弾丸が轟音を響かせて人影に撃ち込まれていく、影は弾道を読んでいるのか全ての弾を踊るように右へ左へと避けた。
黒衣の影は神駄に手を振ると海側に向けて一気に駆け出した。神駄は再び銃を撃つが影は背後に目があるかのように銃撃を避けながら駆けていき、遂には屋上の端から跳躍して視界から消えた。
「神駄君、大丈夫!?」
振り向くとノリコと職員たちが不安そうに立っていた。
「辛斗を殺した奴を逃がした。奴は黒いローブのような服を着ている、恐らく超人だ。奴は第三舎房の下に下り立った。施設内に至急手配をかけるんだ!」
職員が頷いて、無線で手配をするや神駄は黒衣の影を探す為に駆けだした。
「神駄くん! ちょっと」
背後からノリコの焦ったような声が聞こえるが気にせずに走り続ける。警報が鳴り響き、職員が慌ただしく動き出した。突き当たりにあるエレベーターのボタンを押すが下層階から遅々として動き出さず、神駄は横にある階段を駆け下りた。エントランスホールまで来ると職員が右往左往している、その中を掻き分けて外に出ると舎房の裏側に向けて走った。
当然そこには誰もおらず、周囲を見渡すも高い壁しか見えない。それでも、神駄は銃を構えながら隅々まで見回していく。暫くすると背後から、大勢の足音が近づいてきた。神駄は駆けつけた職員たちに首を振る。
「駄目だ、遅かった。だが、奴はこの塀を乗り越えて逃げたか、この施設内のどこかにいるはずだ。監視カメラの映像をチェックして、奴を逃がすな!」
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喫煙室で神駄は椅子に座り、イライラとしながら煙草を吸っていた。神駄の隣からノリコがPCのキーボードを叩く音が響いている。神駄はノリコと共に黒衣の影の捜索を指示していた。
神駄が大きく煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿に強く押し付けた時、職員の一人が焦ったように近づいてきた。
「神駄さん、どうやら犯人は塀を乗り越えて逃げたようです。そこからは周辺の監視カメラが破壊されていて何ともわかりませんでした。港に不審な船がないかどうか見てもらってますが、今の所は何もありません」
「奴は間違いなく、俺たちが来る事と辛斗の会話を聞いていた。それに監視カメラが破壊されている……施設の内部やセキュリティに詳しい奴かもしれないな」
ノリコも頷いた。
「もし、そうなら港にもステルス艇で侵入と脱出をしている可能性もある。やっぱり、オープンキャンパスが辛斗の口封じをしたのかな」
「かもしれないが、なぜ俺たちが来るこのタイミングで……」
「もう一度、周辺と残ったカメラの映像を確認してみます」職員は頭を下げて、喫煙室を後にした。
神駄は煙草を口に咥えて、ライターで火を着けた。細い糸のような煙が天井へと登っていく、煙の苦みを肺に落とし込み、気を落ち着かせた。




