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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part2
78/78

78 ザ・スレイング・オブ・殿付⑧

シーズン1最終局面 狂師VSエイトプリンス攻士・殿付。そして……



◆



 高取は高速で展開される後藤と殿付の戦いを目で追っていた。後藤の度重なる振動波攻撃により殿付は土の防壁を破壊されて肉体に直接ダメージを受けていた。しかし、後藤も巨体を活かした打撃と石礫の攻撃を受けて特殊スーツがボロボロになっていた。後藤の肉体にもダメージが相当に蓄積しているように見える。


「高取、コールマン……後藤さんの攻撃で殿付は装甲を破壊され肉体にダメージを受けている。俺たちの攻撃も後藤さんが装甲を破壊した瞬間なら届く、それに……見ろよ、殿付の装甲を復元するスピードが落ちている。こいつはチャンスだ」


 米山が喘ぎながら言うと両手の関節を鳴らして手を光らせた。コールマンも米山に合わせるように腰に挿していたボールペンを引き抜いて光の刀身を現出、両手で光るペンを構えた。


 高取は身体の奥底から気を湧き出すように念じて集中させた。身体へのダメージと疲労により消耗してたがそれでも身体中から気を集中させることで刃が光に覆われた。


「やりましょう」高取はそう言うと後藤と殿付の戦いに目を向けた。


「コウアギュラ」後藤が叫ぶや高取は戦場に向けて疾走した。同時にコールマン、米山も疾走する。


 後藤の振動波を握り締めた拳が殿付の右腹部を捉えて装甲が破壊された。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなんだぁー」


 装甲が破壊されたことで殿付のシャツが破れ、腹斜筋が露出した。


「今だ」米山が言うと光る両手を大きく開くと指を曲げ、殿付に向けて飛び掛かった。


「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 米山は後藤の脇を通り過ぎ、殿付に達すると修復しようとする装甲を左手で抑えながら、腹斜筋を右手で掴んだ。


「悶絶!」


 米山が光り輝く右手で腹斜筋を抉るように握り潰した。


「ぐぉ!?」殿付が押し殺した悲鳴を漏らした時には脇を通り抜けて、米山は抉りとった殿付の肉片を持ちながら地面を転がった。


「コウアギュラ」


 後藤はその隙を見逃さずに振動波を握り締めた拳を殿付の左肩に放った。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなんだぁー」


 殿付の左肩の装甲が破壊され、左肩と二の腕が露出した。そこに跳躍したコールマンが光るペンを右腕を上段、左腕を下段に構えて迫った。


 コールマンは殿付の二の腕に上段に構えた光るペンを振り下ろし、同時に下段に構えた光るペンを掬い上げた。二本の光るペンが殿付の腕に上下から食い込んだ。


「ハァァァァァァァァァァァァァ」


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなんだぁー」


 バチュン、音を立てて殿付の二の腕から先が切断された。殿付の腕が宙を舞った。土の装甲が剥がれていき、地面に落ちる頃には素の腕に戻っていた。腕の切断面は焼き切れたように黒く焦げている。コールマンは地面に着地すると荒い息を整えた。


「コウアギュラ」


 後藤は苦悶する殿付に対して一歩踏み込むと振動波を握った拳を殿付の腹に叩き込んだ。


「ぐっうなんだぁー」


 殿付の腹部装甲の左側が砕け散った。高取は殿付に向けて疾走すると、剥き出しの左脇腹に狙いを定めて刃を構えた。


「しっぺぇぇぇー」


 高取は叫ぶと同時に刃を殿付の左脇腹に向けて斬りつけた。刃から放たれた光の斬撃が脇腹を抉り、さらに刃が肉に食い込んだ。


「ハァァァァァァァァァァァァァ」


 高取は腹の底から叫びを上げて力を込めると殿付の脇腹を斬り裂いた。噴き出した血が高取の右半身を瞬く間に赤に染め上げた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなんだぁー」


 駆け抜けた高取は殿付の叫びを背後に聞きながら残心をとった。背後に目線をやると殿付がよろめきながら装甲を再生していた。


「お……お前たち……許さないんだー」


「それはこちらの台詞だ!」


 後藤が振動波を握った拳を再び殿付に振り上げた。


「がはぁ!? こんな……時に」


 後藤は拳を振り下ろすことなく、身体を震わせて固まった。ここにきて後藤の身体が限界を迎えたのだろう、その場で片膝を着いた。


「どうしたんだぁー」


 殿付の巨大な脚による無慈悲な蹴りが後藤の頭と胸部に炸裂。後藤は弧を描くように空中を舞った。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「後藤さん!?」


 後藤は頭から地面に落ちると動かなくなった。殿付が振り返りながら高取、米山、コールマンに視線を向けた。


「ハァ、ハァ、ハァ、お前たち……私にここまで傷を負わせて……ただで済むと……思うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 殿付が空に向かって咆哮すると殿付を覆う土の装甲にヒビが入った。衝撃音と共に装甲が砕け散り、土の破片が上空に舞い上がった。さらに殿付が立つ周囲の地面が抉れて土や石が空中に浮かび上がっていく。


 米山とコールマンは巻き込まれないように殿付から距離を取った。高取も後ろへとさがりながら、力を振り絞ってなんとか刃を構えた。


「あれは!?」


 高取は視線を上に向けると殿付の頭上に二つの巨大な土と石の塊が構築されていた。抉れた地面の土と石を吸収してどんどん大きさを増している。


 殿付はズタズタに切り裂かれたシャツを着て、両脇腹を血で濡らし、左腕がないという満身創痍であったが、その顔は凄惨な笑みを浮かべていた。


「皆殺しにしてやるんだー! Xイコール六〇〇、Yイコール三〇〇」


 土と石を吸収していた塊が静止した。塊の一つは直径十メートル程あり、もう一つはその半分程であった。


 殿付が二つの塊に向けて右手を伸ばした。その瞬間、二つの塊が光に覆われて周囲の森を明るく照らした。塊の向きが動き、大きな塊が高取、コールマン、米山に向けられ、小さな塊は後藤に向けられた。


「解!」


 殿付が叫び、右手を振り下ろした。まず、小さな光の塊が後藤に向けて高速で衝突し、爆発が起こった。少し遅れて大きな光の塊が高取、コールマン、米山を目指して迫った。


 満身創痍の高取は為す術もなく、眼前に迫る光の塊を見つめるだけであった。光の塊は高取の全身を押し潰すように激突すると爆発した。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 衝撃で吹き飛ばされた全身がバラバラになるような痛みが襲いかかった。



◆



 殿付ブシユは霞んだ目で爆炎に包まれた周囲を見渡すと地面に倒れた。左腕を失い、腹を抉られ、全身が傷だらけで意識をいつ失ってもおかしくない状態であった。


「愚かものどもめー」


 視野の狭い目の前の超人たちへの憎悪が爆発した。殿付は超人に覚醒し、フシモリにその才能を見出されて以来、超人を取り巻く環境がいかに危ういかを実感した。それを知らず、小さな犠牲だけを見て邪魔を続ける者たちにフシモリは負ける訳にはいかない。殿付は血が上った頭を静めながら、目を瞑り体力の回復に努めた。


「むー!?」


 暫くすると殿付の耳に微かに小石が落ちる音が聞こえた。あの攻撃に耐えてまだ生きているのか? 殿付は驚きとともにこの力をフシモリの為に使ってくれればと落胆する気持ちが沸き上がったが決着を着けるべく、目を開くと身体をゆっくりと起こして立ち上がった。体力はまだ回復しておらずふらつきながらも音がした方に顔を向けた。土や石が積み上がった小山が微かに震えている。次の瞬間、小山が弾け飛び、黒い影が飛び出した。


「かっこ外し! 分配法則!」


 瞬時に目の前の地面が抉れて、土と石が殿付の右腕を覆い、歪な剣が形成された。黒い影、黒仮面の女が光るペンを振り下ろした。


「ハァァァァァァァァァァァァ」


 ガギィ、殿付は形成したての剣で光るペンを受け止めた。黒仮面に嵌め込まれたハート型のシールドに殿付の疲れた顔が映し出されている。


「まだ、生きてたかー! ハァ、ハァ、しつこい女だー!」


「ハァ、ハァ、ハァ、黙れぇぇぇぇぇぇ!」


 黒仮面の女も満身創痍であるのは明らかで荒い呼吸で光るペンを振り回しているがその力は弱い。しかし、殿付も体力は回復しておらず、剣で受けるだけで精一杯であった。


 ガキィン、ガキィン、ガキィン、斬りつけてくる光るペンを殿付は剣で受けながら冷静に状況を分析する、このまま斬り合いが続けばまだ余力のある自らに分があると確信した。


「お前たちの力は素直に認めよー、ハァ、ハァ、今からでも遅くないー、どうだー? フシモリに来ないかー」


「ハァ、ハァ、ハァ、愚問ね! お前たちには決して屈しない! 弱い者を平気で踏みつけるお前たちにはぁ!」


 黒仮面の女は光るペンで何度も斬りつけるが、殿付は剣で正確に弾き返していた。殿付の挑発に黒仮面の女は攻撃は加速したが一撃、一撃の力はじょじょに弱まっている。


「わからない奴だー!」


 殿付は踏み込んで剣に勢いを乗せて、光るペンを押し返した。黒仮面の女がバランスを崩して後方によろける。いける、殿付は隙だらけの胸に狙いを定めると腕を引き、剣に力を込めた。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなんだー」


 殿付は女の胸に向けて剣を突き刺すべく、引いた腕を弓の様に放とうとした。その瞬間、左足に激痛が走った。


「がぁっ!?」


 左足の甲に銀色の鋭い刃が二対突き刺さっていた。刃の根本には黒いアームカバー。黒仮面の男が地べたを這って、刃で殿付の足を貫いたのだ。



◆



 高取は残り少ない力を振り絞り、右腕を構えると殿付の足に向けて勢いよく刃を振り下ろした。刃が足の甲の肉を断ち、骨を貫き、地面に貫通する感触が伝わった。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、死に……な」


「ぐぁぁぁ」


 殿付の苦痛に満ちた声が聞こえる。


 高取は殿付の放った光の塊に押しつぶされ、さらに爆発により土と石でできた土砂の山の下で息も絶え絶えになり、意識も途切れかけてた。


 しかし、微かに響く音が意識を繋ぎ止めた。どうやらまだ、コールマンか米山が生きて戦おうとしている。そう思うことで高取は気力を振り絞り、動くことができたが土砂を押しのける力はなかった。


 それでもなんとか土砂の中を這い進んでいる時、大きな音とともにコールマンが土砂から飛び出し、殿付に挑みかかった。そのおかげで高取の周囲にあった土砂の山も崩れ、動きやすくなる。高取は地面を腹ばいになりながら、殿付にじりじりと近づいていた。


 殿付はコールマンとの戦いに夢中で高取に気づいておらず、攻撃の隙を図っていた。


「コールマン……今です!」


 高取が振り絞るように叫んだ。声に反応して後ろによろめいていたコールマンがなんとか体勢を立て直し、光るペンを両手でしっかりと握りしめた。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァァァァァァァァァァァァ!」


 コールマンは雄たけびを上げながら、光るペンの切先をまっすぐ殿付に向けて突進した。コールマンの光るペンが殿付の胸に吸い込まれるように突き刺さり、胸を貫いた。しばし、コールマンと殿付が抱き合うような体勢となり静止した。高取の刃が足の甲を貫き、コールマンが光るペンで殿付の胸を貫くまでその間、数秒のことであった。


「がはぁっ」


「終わりよ……殿付」


 殿付の口から激しい血が吐き出される。コールマンは光るペンをさらに捩じりながら差し込む。殿付は剣を振り回すも密着したコールマンにあたることはなく、空を切った。


「こ……のわ、私が、やられる……だとー」


 殿付の右腕から剣状に変形していた土や石がボロボロと崩れ去り、地面に落ちた。それを見届けると高取は右腕に力を込めて殿付の足の甲から刃を引き抜いた。


「ハァァ!」


 コールマンも渾身の力で光るペンを引いた。コールマンは反動で後方へふらつきながらよろよろと倒れた。その瞬間、殿付の胸から血が勢い良く噴き出した。


「まだ、なんだー、ハァ、ハァ、私はまだ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 殿付は血が噴き出た胸を右手で必死に抑えながら膝をついた。


 高取はまだ息のある殿付を見上げた。


「ミスター殿付、あなたは、ハァ、ハァ、ここで終わりです。最期に答えなさい、リトルグレイは何者です?」


「リトルグレイ? 仲間の情報を言うバカがいるかー、ハァ、ハァ、ハァ」


 殿付が憎々しげに高取を見下ろすが、急に眼が虚ろになった。


「がっ、がっ、こんな奴らに邪魔されるわけには、ハァ、ハァ、ハァ、いかないんだー、わ、た、し、は」


 殿付は突っ伏すようにして頭を垂れると一切の動きを停止した。その瞬間、今まで感じていた気の力は一切途絶え、殿付の死を感覚として実感した。


「高取、ハァ、ハァ、ハァ、大丈夫?」


「ええ、何とか」


 高取は地面に突っ伏していた頭を上げてコールマンの方に視線を向けた。倒れていたコールマンがゆっくりと起き上がるのが見える。


「ハァ、ハァ、殿付の携帯端末を手に入れてくる……上着の中にあるのを見たわ」


「わかりました、ハァ、ハァ、ハァ、私は後藤さんと米山の様子を見ます」


「任せるわ……」


 コールマンが足を引きずりながら、ゆっくりと進んでいく。高取は片肘をつき、何とか身体を起こす、全身が軋み、痛みが駆け巡るも歯を食いしばり、膝を曲げて立ち上がった。ふらつく身体で周りを見渡すと倒れた木、抉れた地面、土砂の山が見えて戦いの激しさを実感した。


「後藤さん……米山さん……」


「高取……か……」


 背後から後藤の声が微かに聞こえ、振り向くと土砂の山が振動して、手が突き出た。高取は一歩一歩と重い足取りで土砂の山に向かうと後藤の手を握り、渾身の力で引いた。後藤が泥だらけになりながらも高取に手を引かれて立ち上がった。


「ハァ、ハァ、ハァ、殿付をやったようだな」後藤が高取の背後で突っ伏している殿付を見て呟いた。


「ええ、ハァ、ハァ、今、コールマンさんが殿付の携帯端末を取りに行っているところです」


「うむ……米山は」


「まだ、後ろの土砂の中です」


 後藤は高取から手を放すと震えながら片手を土砂に向けた。


「ハァァ!」後藤が気を入れて叫ぶと片手から振動波が発生し、背後の土砂に直撃、土と石を押しのけた。土砂の中から米山の上半身が露出。腹が上下しており、呼吸はできているようだ。


「米山さん!」


「……が……が……生きている……よ」


「殿付をハァ、ハァ、ハァ、やりました」


「そうか」と呟いて米山は右手を上げて親指を立てた。高取が頷くと奥からコールマンが殿付の上着を持ってこちらに歩いてきた。


 コールマンは上着のポケットから殿付の携帯端末を抜き出すと自らの腰ベルトにつけられたポーチからコードの付いた黒い長方形の装置を取り出し、コードを殿付の携帯端末に接続した。


「ハァ、ハァ、ハァ、お願い……」


 コールマンが呟くように言い、携帯端末を凝視した。


「どうです?」コールマンは高取の問いかけにも答えずじっと携帯端末に集中している。暫くするとコールマンは携帯端末からコードを外して、再び上着のポケットに戻すとそのまま地面に落とした。


「とりあえず抜けるデータはハァ、ハァ、ハァ、手に入れた」


「そうか、良くやった……応援がくる、撤退するぞ」


 後藤が全員を見渡して言うと森の奥へと向かった。重い足を引きずりながら高取は後藤の後に続いて歩みを進めた。


 死の寸前まで追い詰められた戦いによる疲労で思考が途絶えながらも、フシモリに一矢を報いることができた満足感があった。



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