32 火の支援術(イリヤ視点)
「さて、そろそろ騎士団の指揮をしようかな」
ボクはライルのそばを離れて伸びをした。
誰かを叱るって疲れるよね。
「もったいないお言葉……ですが、そのお言葉に甘えさせていただきます。
イリヤ姫。
指揮をお願いできるでしょうか。
このアトキンス、ジルコム様の代わりは到底務まらぬ浅学非才の身でございます」
アトキンスは頭を下げた。
「じゃあさ、光図見せてくれる?
状況を把握したいから」
「はっ!」
アトキンスは騎士団本部に置いてあった光図まで案内してくれた。
「後さ、前線で戦ってる兵以外、全員この本陣に呼べる?」
「わかりました!」
――しばらくして、アトキンスが呼んだ兵士が、本陣に集まった。
「よく来てくれたね」
「「ははー、もったいないお言葉!」」
集まった騎士たちは平伏した。
「ボクはガーファで騎士団長をしてた。
だけど、ボクができることなんて多くない。
ボクができることなんて、この杖を地面に突くくらいのことだ」
ボクは握った杖を思いっきり地面に突き刺した。
すると、本陣全体を包み込む大きな魔法陣が光り出した。
「「何だこれは!」」
騎士たちは驚いている。
さっき、アトキンスが騎士たちを呼んでくる間にささっと描いた魔法陣だ。
「ねえ、みんなどんなモンスターがいた?」
ボクの問いかけに騎士たちはゴブリンだ、オークだ、鬼だ、炎のイヌだと、思い思いのモンスターの名を口にした。
「うんうん。
それぞれ強いモンスターだけど、キミたちが敵わないとはボクは思わない」
「「……はい」」
騎士たちの瞳に闘志が宿っていく。
「トルトナム湖に巣くったモンスターを放っておくと、王都に被害が出る。
だから、みんな戦いに来たんだよね?」
騎士たちは、はっとした表情をした。
だれしも大切な人が王都に住んでいる。
負けるわけには行かないんだ。
「「負けてたまるか! うおおおおおお!」」
「ふふ、騎士団のみんな、魂のこもった叫びだったよ。
お礼に、ボクがみんなに魔法をかけてあげる」
【火の攻手、天手力】
騎士たちの腕が赤く光り出した。
「「これは……」」
「ボクの支援術だよ。
勇気をもって攻撃するキミたちに、人智を超えた腕力を与える」
紅く光る腕に勇気づけられ、騎士たちの眼が輝きだした。
まあ、初級の支援術なんだけど。
……こう言うのは思い込みすら力に変わるからね。
「行ける、行けるぞ」
「王都を守るんだ!」
「「おー!」」
雄たけびをあげた騎士たちの眼つきが闘志に満ちた。
「じゃあ、行こうか。
誰かを守るために戦うキミたちが負けるわけがないんだ。
……もし、それでも勇気が出ない人がいるなら、ボクが先頭に立つ」
ボクは双剣を天に掲げる。
交差する両腕が、煌々と光る紅に染まった。
「ユトケティアの戦士たちよ、ボクに続け!」
ボクはありったけの力で叫び、近づいて来たオークを駆け抜けざまに双剣で十字に斬った。
肉塊はドサリと地に落ち、空には歓声が響き渡った。
「なあ、キミたちと一緒にボクは戦うぞ!
キミたちの力こぶは飾りか?
ユトケティアの英雄たちよ、王都に住まう大事な人のため、天にその武勇を示せ。
行くぞおおお!
トルトナム湖のモンスターたちを、ブレンダン火山へ押し返せ!」
「「おおおおおお!」」
――騎士たちは眼の色を変えて突撃し、トルトナム湖のモンスターを壊滅させていった。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっと話の区切りの関係で短い話になりました。
次回はアスラン先生達の話に戻ります。