33 私を助けてくれるのは
「光図だとこの先ですけど……」
輝石を持つ者の位置を指し示す光図。
光図での魔力反応を頼りに、ユイカたちを探すため、オレとエメラルドはトルトナム湖を南下していった。
だが、オレたちを待ち受けていたのは断崖絶壁。
南下するには大きく迂回するほかなさそうだ。
「王宮の作戦会議室だと地図と光図を併用するんですけどね……」
「地図高いからな」
「ええ」
初心者冒険者のオレの稼ぎではとても地図など買えない。
王様からの褒美の金は、新道場の建築で既に使ってしまったしな。
「……面倒だが、回り道するほかないな。
空なんて飛べないし」
「はい」
遠くで爆発音が聞こえた。
「あれは……先生、あそこです!」
エメラルドが示す方向を見ると、人影が3つ。
遠くから顔の判別がつかなくても、弟子の構えを見れば誰だかわかる。
「ユイカたちだ。
たとえ、遠くだとしても愛弟子の構えを見れば誰だかわかるぞ」
「ええ、ユイカの剣にもキレが増してますね。
【見の型】からの【槍破】、【初太刀】への構えの移行も見事なものです……あ」
エメラルドと顔を見合わせた。
「モンスターに襲われてる! 急ぐぞ、エメラルド」
「はい!」
★☆
――数時間前。
「ジゼル先生、やっぱり今日の演習やめた方がいいよ」
大型の馬車に揺られ、ウルザ魔法学園の私たちのクラスはトルトナム湖に向かっていた。
馬車の先頭にいるジゼル先生に私は後ろから話しかけた。
「ユイカちゃん、どうして?」
ジゼル先生は振り返りもせず、金色の髪をかき上げながら私に質問した。
金色のショートカットで碧色の眼を持つ美人のジゼル先生は、魔法学園の生徒にも人気のある先生だ。
……でもジゼル先生のこと、少し私は苦手なんだ。
「さっきも冒険者ギルドの人が言ってたでしょ?
もうすぐ街道が封鎖されるって……」
ジゼル先生はため息をついた。
「だから、急いでるでしょ?
さっと演習終わらせて帰るから、この話はおしまい。
そもそも街道封鎖だって大げさなのよ……大して魔力のない冒険者たちが騒いでるだけでしょ?」
私は魔法学園にも、冒険者ギルドにも籍を置いてるからわかる。
……エリートの魔法学園の人たちは、冒険者ギルドを随分下に見てる。
だから、冒険者が苦戦するモンスターが出たところで、魔法学園の生徒や先生だったら大丈夫、そう思ってるんだろう。
私とカンナは顔を見合わせた。
「ジゼル先生。
火炎鬼に襲われたとき、アスラン先生が来てくれないと私たちは本当に危ないところだったんだ」
「はいはい、ユイカちゃん。
あなたの冒険譚何度も聞いたわ、あなたの憧れのアスラン先生がかっこよかった話よね」
クラスメイトがどっと笑った。
「……そんなんじゃない」
アスラン先生とは長い付き合いなんだ。
憧れてるのは本当だけど、私のアスラン先生への気持ちをそんなに雑にからかわないで。
隣に座ったカンナは私の気持ちを察してくれたのか、私の手をぎゅっと握ってくれた。
――突然、馬車に衝撃が走り、急停止した。
鬼が街道に大岩を投げ、それが馬車にぶつかったんだ。
鬼やオークの襲撃を受けた私たちは、大混乱の中、なんとか魔法で撃退したんだけど……
「はあ……はあ……あれ? カンナ?」
ジゼル先生と、副担任のシモン先生は生徒を集合させ、辺りを見て回った。
……やっぱりカンナはいなかった。
私はジゼル先生が広げた光図を見ていた。
「ここが私たちね。
とすると……かなりの速度で東へ離れていく青い光……おそらくこの青い光がカンナでしょうね、モンスターにさらわれたのかもしれないわね。
シモン先生、この子たちを頼みます!」
「え?」
ジゼル先生は返事も聞かずに光図をつかみ、青い光が向かう方向へ飛び出していった。
私はその行く手を阻むように手を広げた。
「ダメ、ジゼル先生。
魔法使いは一人で動いちゃダメだよ!
助けを待とう?」
「……ごめんなさい、ユイカちゃん。
私の判断ミス。
あなたが正しかったわ」
ジゼル先生は私の肩に手を置いた。
「だからこそ、カンナちゃんは絶対に助けて見せる」
ジゼル先生は走り出した。
「待って!」
私の手を振り払い、ジゼル先生はカンナを追って行ってしまった。
アスラン先生は言ってた。
魔法使いは偵察などの単独行動をしてはいけないと。
カンナを追っていったジゼル先生の行動はきっと、間違っている。
そして、ジゼル先生を追って走り出した私の行動もきっと間違っているんだろうな。
――ジゼル先生は時々光図を見ながら、青い光を追いかけ続けた。
やがて、カンナを担いだオークを見つけたジゼル先生は、オークがカンナを下ろして木陰で休んでるときに近づいて、炎魔術をぶつけた。
【炎爆破】
辺りに爆音が響き渡り、オークの身体は吹き飛んだ。
「カンナ、大丈夫?」
私はカンナに近づいて体をゆすった。
「う……ううん、あれ?
ユイカちゃん……オークがいっぱいいるよ?」
眼をこすっているカンナはどうやらまだ寝ぼけているようだ。
「大丈夫、ほらジゼル先生がオークなんか倒しちゃった……」
振り返った私も、カンナと同じように眼をこすった。
オークが増えてる? ジゼル先生の近くに2体いるんだけど……
「ジゼル先生、後ろ!」
「わかってる、オークね。
下がってて!」
【炎爆破】
2体のオークはあっという間に吹き飛んだ。
爆発音が響き渡った後、あたりは静まり返ったけど、すぐに地鳴りのような足音が、静寂をかき消した。
……あ、ダメだ。
アスラン先生が魔法使いは偵察とかの単独行動をしてはならないって言ってたのはこのことだったのか。
様々な武器を構えたオークが爆発音を聞きつけたのか、ぞろぞろと集結してきた。
「しつこいな、また私が吹き飛ばしてあげる」
「ジゼル先生、ダメだよ。
魔法使ったら、モンスターが集まってくるよ……」
「「グギャギャギャ!」」
私たちは辺りを見回した。
いつの間にか、ゴブリンやリザ―ドマンの集団が私たちを取り囲んでいた。
「ユイカちゃんの言うこともわかるけど……既に集まってる場合は仕方ないじゃない」
ジゼル先生はぼそっと呟いた。
「……確かに。
カンナも行ける?」
「はい、大丈夫です」
私が中央で的になり、ジゼル先生とユイカに攻撃してもらうしかないね。
「ユイカちゃん、防御と避けることだけ考えて」
「うん、ジゼル先生、カンナ。
攻撃は任せたからね。
行くよ!」
と言いつつ、近づいて来たオークに飛び掛かり上段から斬り下ろした。
「はああっ!」
やった! 一撃でいけた。
オークが二つに割れ地面を揺らした。
「やるじゃない、ユイカちゃん。
でも防御を考えてって言ったでしょ?」
「モンスターの集団と戦うときは、急いで一体倒せって。
そうすれば、自分が強いことが伝わる。
それで戦いが終わることもあるって、アスラン先生が言ってた」
「「グギャアアア!」」
「ねえ、ユイカちゃん。
モンスターまだ戦う気まんまんみたいだけど……」
「終わらないことももちろんあるって、アスラン先生言ってた」
――乱戦が始まった。
矢が飛び交う中、それを避けながら魔法使い二人に近づくモンスターを斬り払ってゆく。
あ……やっぱり、この戦法だと私の消耗がとんでもないな。
数匹倒したところで、足がもつれ、態勢を崩して膝をついた。
「ユイカちゃん!」
カンナが悲鳴を上げた。
倒れた私に棍棒を持ったオークが近づいて来たから。
「グウウン!」
オークの棍棒を防ごうと剣を構えたけど、真正面からの筋力勝負では分が悪かったみたい。
膝をつき、剣を飛ばされた私にできることはジリジリと後ろに後退することだけ。
カンナもジゼル先生も魔法を詠唱しているけど、魔法が命中する前にオークの棍棒が私を押しつぶしてしまいそうだ。
「アスラン先生、私頑張ったよ」
私が覚悟を決めたその瞬間、棍棒を振り上げたオークの心臓からナイフが飛び出した。
オークは握った棍棒を落とし、口から血を流して私に倒れ込んできた。
不意に大きな手が私を抱え上げ、倒れるオークから身を守ってくれた。
「頑張りすぎだぞ、ユイカ」
私はその声をもちろん、知っている。
ナイフが飛んで来た時から、わかってたんだ。
「アスラン先生!」
抱え上げてくれたアスラン先生にぎゅっと抱き着いた。




