第四話 戦う理由
「魔物処理部隊は俺に続け」
周辺の魔物の処理を任された男がそういうと、50人近くの魔物処理部隊は続々と魔物へと走りだす。ピチャピチャと湿った大地を走る音が湿原全体に響き渡る。
「――どうやら始まったみたいだな。我々も行くぞ」
黒谷の合図に続き、うっすらと広がる靄をかき分け、魔物が向こうに気をとられているうちに幹部のいる中心部へと向かう。
中心部に着くと、話に聞いていた通り幹部は謎のドームで囲まれている。怪しげに光る紫色のドームは、湿原の雰囲気と相まって不気味さが際立っている。そして、ドーム中にはいかにも凶悪そうなミノタウロス。その手には強大な斧が握られている。
「あれが幹部……。そこらの魔物とはまるで格が違ぇ」
「でもなんか変じゃないか? あいつまったく動いてないぞ?」
ドームの外からでもはっきりと見えるミノタウロスの姿は、ピクリとも動かずその場でたたずんでいる。
幹部というから、てっきりこの辺り一帯を支配しているのかと思ったが、どうやら思い違いだったらしい。
「動いていないのも無理はない。そもそも我々がさせられていることは、魔王の暇つぶしなのだからな」
突然黒谷は語り始める。
「もともとこの世界は1つの大陸で、魔物は人間の住む世界に侵攻してくることはなかったのだという。しかし、突然魔王と名乗るものが現れてからこの世界はおかしくなった。魔物は突然暴れだし、この世界を次々と支配していったのだ。しかし、支配することに飽きた魔王は大陸を5つに分け、それぞれの大陸に強さの異なる魔物を放ったのだという。幹部にはその中で一番強い魔物が選ばれ、とある場所に配置された。そして倒されることで次の大陸への道が現れ、5体すべて倒すことで魔王への挑戦権を与えることにしたのだ。」
壮大すぎる話の内容に、春人は思わず首をひねる。真白の表情もパッとしないあたり、理解できていないのは春人だけではないようだ。アレンに関しては、頭の上にはてなマークが見えるほどだ。
「この話はこの世界で生活をしている翁に聞いた話だ。信じるかはそれぞれに任せる」
嘘にしては話の筋は通っているし、真実にしてもスケールが違いすぎて頭が混乱する一方だ。しかし、この状況で嘘をつく理由もないので、頭の片隅に置いておいてもいいような気もするが。
春人は自分の頬をパンっとたたいて、気持ちをリセットする。
「準備はいいか。行くぞ!」
皆頷くと、一斉にドームの中へと足を踏み入れる。
最後の一人が入り終えると、ドームが拡大していきフィールドが出現する。そして狙った獲物は逃がすまいと、先ほどでは通り抜けられたはずのドームが壁のように変化し、春人たちを閉じ込める。
「ウオォォォ!!!」
フィールドの展開に合わせてミノタウロスが動き出す。そして、手に持っていた巨大な斧を無遠慮に振り回し始める。
「うわっ! あっぶねえ! あんなの食らったらひとたまりもねーぞ。」
地面を殴る音と風を切る音の大きさが、一撃の強さを物語っている。
「ひるむな!前衛部隊を主軸に攻撃を重ねろ」
作戦通り春人たちはサポート部隊としてサポートに入る。
「敵は俺たちがなるべく引き付ける。その間に攻撃してくれ」
春人は真白たちとともに1度ミノタウロスの前へ出て、におい玉を投げつける。魔物によく効く強烈なにおいは、道具屋の店長の折り紙付きだ。
「ウオオォォォ!!!!」
におい玉に腹を立てたミノタウロスは、春人たちをターゲットに襲いかかる。
「どうやらうまくいったな。後はみんなに任せて逃げ続けるだけだな」
スピード自体はあまりないようで、斧にさえ気をつければ十分逃げられる速度だ。といいつつもこれが死亡フラグにならないように、足元にも注意を払う春人。
「今だ!畳み掛けろ!」
前衛部隊がここぞとばかりに一斉に攻撃を放つ。
「グアアァ!!」
強烈な攻撃が見事に決まり、ミノタウロスはその場で膝をついて悶える。
「なんだ。思ったよりもあっさりだったな」
一人の男がそう言い放った瞬間、ミノタウロスは立ち上がり、鼻息を荒俺に続け」
周辺の魔物の処理を任された男がそういうと、50人近くの魔物処理部隊は続々と魔物へと走りだす。ピチャピチャと湿った大地を走る音が湿原全体に響き渡る。
「――どうやら始まったみたいだな。我々も行くぞ」
黒谷の合図に続き、うっすらと広がる靄をかき分け、魔物が向こうに気をとられているうちに幹部のいる中心部へと向かう。
中心部に着くと、話に聞いていた通り幹部は謎のドームで囲まれている。怪しげに光る紫色のドームは、湿原の雰囲気と相まって不気味さが際立っている。そして、ドーム中にはいかにも凶悪そうなミノタウロス。その手には強大な斧が握られている。
「あれが幹部……。そこらの魔物とはまるで格が違ぇ」
「でもなんか変じゃないか? あいつまったく動いてないぞ?」
ドームの外からでもはっきりと見えるミノタウロスの姿は、ピクリとも動かずその場でたたずんでいる。
幹部というから、てっきりこの辺り一帯を支配しているのかと思ったが、どうやら思い違いだったらしい。
「動いていないのも無理はない。そもそも我々がさせられていることは、魔王の暇つぶしなのだからな」
突然黒谷は語り始める。
「もともとこの世界は1つの大陸で、魔物は人間の住む世界に侵攻してくることはなかったのだという。しかし、突然魔王と名乗るものが現れてからこの世界はおかしくなった。魔物は突然暴れだし、この世界を次々と支配していったのだ。しかし、支配することに飽きた魔王は大陸を5つに分け、それぞれの大陸に強さの異なる魔物を放ったのだという。幹部にはその中で一番強い魔物が選ばれ、とある場所に配置された。そして倒されることで次の大陸への道が現れ、5体すべて倒すことで魔王への挑戦権を与えることにしたのだ。」
壮大すぎる話の内容に、春人は思わず首をひねる。真白の表情もパッとしないあたり、理解できていないのは春人だけではないようだ。アレンに関しては、頭の上にはてなマークが見えるほどだ。
「この話はこの世界で生活をしている翁に聞いた話だ。信じるかはそれぞれに任せる」
嘘にしては話の筋は通っているし、真実にしてもスケールが違いすぎて頭が混乱する一方だ。しかし、この状況で嘘をつく理由もないので、頭の片隅に置いておいてもいいような気もするが。
春人は自分の頬をパンっとたたいて、気持ちをリセットする。
「準備はいいか。行くぞ!」
皆頷くと、一斉にドームの中へと足を踏み入れる。
最後の一人が入り終えると、ドームが拡大していきフィールドが出現する。そして狙った獲物は逃がすまいと、先ほどでは通り抜けられたはずのドームが壁のように変化し、春人たちを閉じ込める。
「ウオォォォ!!!」
フィールドの展開に合わせてミノタウロスが動き出す。そして、手に持っていた巨大な斧を無遠慮に振り回し始める。
「うわっ! あっぶねえ! あんなの食らったらひとたまりもねーぞ。」
地面を殴る音と風を切る音の大きさが、一撃の強さを物語っている。
「ひるむな!前衛部隊を主軸に攻撃を重ねろ」
作戦通り春人たちはサポート部隊としてサポートに入る。
「敵は俺たちがなるべく引き付ける。その間に攻撃してくれ」
春人は真白たちとともに1度ミノタウロスの前へ出て、におい玉を投げつける。魔物によく効く強烈なにおいは、道具屋の店長の折り紙付きだ。
「ウオオォォォ!!!!」
におい玉に腹を立てたミノタウロスは、春人たちをターゲットに襲いかかる。
「どうやらうまくいったな。後はみんなに任せて逃げ続けるだけだな」
スピード自体はあまりないようで、斧にさえ気をつければ十分逃げられる速度だ。といいつつもこれが死亡フラグにならないように、足元にも注意を払う春人。
「今だ!畳み掛けろ!」
前衛部隊がここぞとばかりに一斉に攻撃を放つ。
「グアアァ!!」
強烈な攻撃が見事に決まり、ミノタウロスはその場で膝をついて悶える。
「なんだ。思ったよりもあっさりだったな」
一人の男がそう言い放った瞬間、ミノタウロスは立ち上がる。目を真っ赤に光らせ、鼻息を荒げ興奮するその異様な姿はまさしくバケモノだ。
――危ない!
そう思ったのも束の間、春人が言葉を口にするよりも早くミノタウロスは、その巨大な斧を先ほどとは比べ物にならない速度で振り下ろす。
「ぎゃああああ!!!!」
「うわあああ!!!!」
容赦のない猛攻に、人はただ恐怖し、逃げ惑うことしかできない。
気が付けば、わずか数分の間に前衛部隊の半分近くが壊滅させられた。レベルの高いもので構成されていた部隊がこの様だ。
そのあまりの強さに皆ただ唖然とするしかなかった。
――1人の男を除いては。
◇◆◇◆◇◆
ふと、春人は昔のことを思い出す。
俺は父と母と妹の4人家族で、割と仲が良かったと思う。俺がまだ小学生のころ、1度だけ妹と喧嘩して泣かせてしまったことがあった。それはもう我が家の中では大事件で、母親にはこっぴどく叱られた。
でも、その日の夜に父親からこんな言葉をもらった。
「春人、男っていうのはな、女の子を傷つけるようなことはしてはいけないんだ。たとえどんな理不尽であっても、受け入れ、時には立ち向かわなければならないんだ。いつだって男がしてやるのは守ってあげることなんだよ」
当時の俺には正直何言っているのかあまりわかっていなかった。でも、今ならわかる。
あの時と状況はまったく違うけれど、やるべきことは一つ。最後まで諦めない。
「はあああっ!!!」
春人は必死に敵の攻撃をかわしながら、スキルを打ち続ける。一人ではかなわないとわかっていながら、それでもなお剣を振るのは、みんなを守るためだ。
血を吐きながらも戦い続ける春人を見た真白の足は、すでにミノタウロスへと走り出していた。
「……私も戦う!やあああっ!!!」
真白が春人の動きに合わせて、後ろからスキルを繰り出す。
「……あいつらにだけ戦うわけにはいかせねえ」
「俺も行く!」
諦めていたはずのみんなが次々と立ち上がり、再び士気が高まっていく。しかし、敵も一筋縄ではいかない。巨大な斧を全力で振り回し、春人たちを殺そうとしてくる。
スキルの連発のし過ぎで体力を消耗している春人は、ミノタウロスの攻撃の衝撃に耐えきれず、倒れそうになる。そのスキをミノタウロスは見逃してはくれなかった。ここぞとばかりに春人に向かって斧を振り降ろす。
――やばい、かわせない。
そんな時だった。
「ガキーン!」
金属と金属がぶつかり合う轟音があたり一面に鳴り響く。
「……なんて重い一撃だ。だが、活路は開いた。行け!」
黒谷がミノタウロスの全力の一撃をはじき返す。
「今だ、行くぞ!」
『バーストストライクッ!』
『エアブレード』
春人と真白の同時に放つ渾身の一撃が、ミノタウロスの腹をバツ印型に切り裂いた。
「グアアァァァァァァァ!!!!!!」
ミノタウロスは血を吐きながら、倒れこむ。
「はぁはぁ、やった……のか」
収まらない心臓のドキドキ。かつてないほどのアドレナリンがあふれ出ているこの体も限界が近い。
――頼むから終わってくれ。
ただひたすらに祈る春人。しばらくしてフィールドが崩れていき、次の大陸へと続く道が現れる。
「うおおおお!!!!やったーー!!!」
勝負に勝てた喜びと生き残れた安堵から、疲れがどっと出て、その場で地面に横たわる。
しかし、結果だけを見るなら勝利ではあるが、死者の数も少なくなく、重傷者も出た。
現実は甘くない。わかってはいるけれど、春人は心から喜ぶことができなかった。
「無事我々の勝利に終わった。犠牲は出てしまったが、仕方のないことだ。彼らは我々が生き残るために必要な犠牲だったのだ」
「は……、なんだよそれ。そんな言い方じゃ死んでいった奴があまりにも報われない」
「しかし事実だ。君も知っているだろう。この世界は強いやつしか生き残れない。弱い奴は死ぬしかないのだよ」
「だからって、必死に戦ってた奴が必要な犠牲だなんて俺は思わない!」
目の前でたくさんの人が殺されていく光景を目の当たりにして、春人は黒谷の言葉に対し激高する。
「君がどう思おうが関係ないが、そんな考え方をしているといつか足元をすくわれるぞ」
――ふざけんな。どうしてそんなことが言えるんだよ。
「我々はもう行かせてもらう。君も早く立ち直ったほうが賢明だぞ。では、また会おう」
――俺があの時もっと早くミノタウロスの異変に気が付いていれば、もっと死者は減ったかもしれないのに。
――俺がもっと強ければだれも死なせずに済んだかもしれないのに。
「……くそっ!」
その場でうつむく春人に、真白がそっと後ろから優しく声をかける。
「ねえ、少し私に付き合ってくれない?」
「ごめん。今はそんな気分じゃ……」
「いいからいいから」
そういうと真白は多少強引に春人を連れ出す。
草原地帯まで戻ってきた春人たちは、近くにあった岩に腰を下ろす。
「もうすっかり夜だね。とても星がきれい。元の世界にいた時は空を見る余裕がなかったから、なんか複雑だなー」
「そうだな。でもどうして俺をこんなところへ?」
「君がつらそうな顔をしていたから。私たちは君が諦めなかったから、今もこうして生きていられるんだよ」
「……でも、救えなかった人もたくさんいた」
「君が一人で抱え込むことなんてないんだよ。私も一緒に背負うから」
そういうと真白は立ち上がり、マントをとる。すると、今まで隠れていて見えなかった、長く伸びる赤みがかった黒色のつややかな髪が、夜風に揺らされ美しくなびく。
「――私と一緒に戦ってくれませんか?春人君。」
真白はまっすぐに春人の目を見つめる。星に照らされ輝く瞳に、春人は思わず吸い込まれそうになる。
「でもどうして……?」
春人は以前真白を仲間に誘うも、1度断られている。
「私ね、本当はうれしかったんだ。君に声をかけってもらったことが。こんな世界にいきなり飛
ばされてずっと1人だったから……。だからいきなりパーティーを組んでなんて言われて、どう答えていいかわからなかったの……。ごめんね」
――そうだったのか。
真白もまた、この世界で苦しむ者の一人。嫌われてわけではないとわかった以上、答えは一つに決まっている。
「ありがとう。慰めてくれて。俺からもよろしく頼むよ」
こうして春人に初めての仲間ができたのであった。




