第二話 出会い
春人がこの世界に飛ばされてから1週間が経過した。ようやくこの世界にも慣れてきたようで、レベルの低い魔物なら簡単に倒すことができるようになった。
この一週間で分かったことといえば、この世界は5つの大陸に分かれていて、それぞれの大陸を幹部が治めているということである。そいつらを倒さない限り魔王に会うことはできないらしい。
春人の周りではすでにほとんどの人がパーティーを組み、来る戦いに備えている。それに比べて、いまだに一人で戦っている春人の心中は、察するにたやすい。
「はぁ……。みんなどうやって仲間になってんだろ。俺にも教えてくれないかな……」
そんなことを願う春人であったが、そもそも元の世界でも17年生きて友達が一人しかいない彼にとって、仲間を作ることはたいそう至難の業であろう。今日も一人寂しく帰路につく春人であった。
「武器の素材も集まったし、そろそろ変えようかな。――鍛冶屋にでも寄っていくか」
重たい足取りで鍛冶屋へと向かうと、ボロボロなマントを羽織った一人の少女が鍛冶屋から出ていくのが見えた。暗くてはっきりとは見えなかったが、端正な顔立ちをしており、暗がりでもはっきりとわかるぱっちりとした瞳は、どこか近寄りがたい雰囲気を放っていた。
「きれいな人だったな……」
長い間この鍛冶屋に通い詰めている――といっても1瞬間ではあるが――春人にとっても、初めて見る顔だった。とてもきれいな顔立ちなだけに、どうしてあんなボロボロなマントを羽織っていたのだろう。少なくともおしゃれではないことは、ファッションに疎い春人にもわかっているようだった。
戦闘の後で疲労した体では考えても答えは出ないと気付いた春人は、そのまま鍛冶屋に入る。
「いらっしゃい」
こいつは鍛冶屋の大城アラン。大柄でかなりいかつい見た目をしているが、これでも23歳というから驚きだ。30歳といわれても信じてしまいそうではあるが、肌や髪の感じから23歳というのは本当なのだろう。
「――ってなんだお前さんか。今日も一人で来たのか。仲間はいないのか?」
悪気もなく発せられたその一言に春人は胸を痛める。普段なら気にすることのない一言も、この世界では重みが違う。
「それができないから苦労してるんだよ……」
「あっはっは! すまんすまん。じゃあさっきの子とかどうだ? きれいだったろ? あの子も一人みたいだったぜ。今ならまだそんなに遠くには言ってないと思うし、声をかけてきたらどうだ?」
「……一応頑張ってみるよ。無理だとは思うけど……」
話しかけることはできるかもしれないが、問題なのはきっかけだ。話しかけたとしても会話が続かないのであれば頑張り損だ。相手が男性ならばあわよくばゲームやスポーツの話題で盛り上がるかもしれないが、相手は女性だ。もちろん春人に女性と会話した経験は家族以外にはほとんどない。
「そんなことよりこれで新しい武器作ってくれよ」
「おお! こりゃまたずいぶんと狩ってきたみたいだな。お前は確か……剣だったよな。よし、任せろ。最高の作ってやるよ。三日後にまた来てくれ」
◇◆◇◆◇◆
「あれ? あれ? なんで……? これどうやって装備するのよ。うぅ」
鍛冶屋を後にした春人は、さっそく先ほどのボロボロマントの少女と出会う。見た感じどうやら、先ほどアレンに作ってもらったと思われる防具のつけ方がわからないようだ。
ここで一つの考えが春人の頭をよぎる。
――もしかして彼女がボロボロのマントを羽織っているのは、装備の仕方がわからなくて仕方ないから羽織っているだけなのでは?
もちろん仮説にすぎないが、この世界では一応初期装備は始めから着ているし、武器は装備しなくても購入すればそのまま使用できる。
「あのー、それメニュー画面を開いて左上にある『装備』から装備できると思うよ」
「……誰?」
少女は春人のことをジーっと見つめる。いきなり話しかけられて怪しんでいるようだ。
「別に怪しいものじゃないよ。俺は黒野春人。宿屋に向かう途中だったんだけど、困っているみたいだったから。迷惑だったらごめん」
「そうなの……、ごめんなさい。私は花澤真白です。助けてくれてありがとう」
ひとまず怪しい奴ではないということがわかってもらえて、春人はホッと息をつく。こんな序盤から不審者判定されてはたまってもんではない。
「それでは私はここで……」
装備をし終えた真白は、ベンチから立ち上がって足早に帰ろうとする。別に嫌われたわけではないだろうが、少し冷たい態度に春人は悲しい気持ちになる。
それでもせっかく掴んだきっかけをそうやすやすと手放すまいと、春人は勇気を振り絞って一歩を踏み出す。
「あの、もしよかったら俺とパーティーを組まないかな? 実は俺ずっと一人で……。一緒に戦ってくれる人がいてくれたらいいなって思ってたんだけど……」
「ごめんなさい。今はその……パーティーとかは考えていないんです」
やや食い気味に答えて、真白は帰っていった。
◇◆◇◆◇◆
翌朝も一人でレベル上げをするため草原へと向かうと、なぜかいつもより多くの人がいた。そこら中に人がいるため、ここにはすでに春人がレベル上げのできる場所は見当たらない。
春人は仕方なく普段はあまり行かない、西にある湖のほうでレベル上げをすることにした。
「なんで今日に限ってあんなに人がいたんだ?」
特殊な魔物でも出現したのだろうか。なんにせよあれほど人がいては、一人で戦う春人にとってむなしくなる場所でしかない。
湖に到着すると、早速魔物に遭遇する。
「ガルルゥ…」
牙をむき出しにして春人を威嚇するこの魔物の名はウルウルフ。草原地帯ではめったに見かけることはない魔物だ。
「ウルウルフか。厄介だな…」
狼系の魔物は、足が速く倒しにくい。経験値は他の魔物よりも少し高めだが、一匹倒すのに時間がかかるため、レベル上げには向かない。
「面倒くさいな。ここはスキルで倒すか」
スキルとは、魔物を倒すのに有効な特殊能力のことだ。
この世界にMPという概念はないが、その代わりに強力な技ほど体力を耗する。そのため使用のし過ぎには注意しなければならない。
中には特定の条件下でしか使えないスキルもあるらしい。
「スキル発動――『ブレイブソード』」
春人は右手に力を籠め、火をまとった斬撃をウルウルフめがけて放つ。
「グルァァァ!!」
「よし、何とか勝てたな」
安堵したのも束の間、先ほどの鳴き声につられ次々とウルウルフが現れる。
「くっ……! この量はいくら何でも一人じゃ厳しいな」
気が付けば春人の周りは完全に囲まれており、逃げようにも逃げられそうにない。
「こうなったら……。スキル発動――『バーストストライク』」
次々と迫りくる敵に対し、春人は必死に抵抗を続け、剣を振り続ける。
「――リーダー。あれを見て。彼、一人であの量のウルウルフを相手してるみたいだけど、どうする?」
「ふむ。みんなで助けてやろう。」
圧倒的な数の不利のなか戦う春人の目の前に突如6人組のパーティーが現れる。
「この敵俺らにも分けてもらうよ。」
そういうと助っ人に現れた6人は、大量のウルウルフを相手に戦い始めた。剣2、槍1、斧2、槌1とバランスの取れた武器構成に一人一人が強さを兼ね備えた6人組は、お互い背中を預け合いながら次々とウルウルフを倒していく。
そして最後の一体を倒し、なんとか全員無事に戦い終えることができた。
「ありがとうございます。皆さんが来てなかったら危なかった」
実際春人一人ではまず間違いなくやられていただろう。
「構わないさ。俺たちの力でよければいつても貸すさ」
「ああ。それにしても君、たいした強さだな。名は何という」
「えっと、黒野春人っていいます。」
「春人君か。私は黒谷正義だ。このパーティーのリーダーをやっている。ところで春人君、君は幹部と戦う気はあるかい?」
「え、幹部ですか……?」
幹部というと、この大陸を治めている魔物のボスである。しかし、まだ春人の耳には『幹部が見つかった』という情報は入っていないだけあって、その存在は不確かなままである。
戸惑う春人を見て、まるで心の中を読んだかのように黒谷は話を続ける。
「今朝、私たちは草原の北東のほうで幹部を見つけたのだ。しかし、予想以上に強そうでね。ちょうど人手を集めていたんだ。君のように実力のあるものがいてくれると、こちらとしても助かるのだが、どうだろう?」
その話を聞いて春人は納得の表情を浮かべる。今朝草原にたくさん人がいたのはそういうことだったのかと合点がいった春人は、少し考え込む。
――あの人数がいてまだ人手が欲しいということは、それほど幹部は強そうだったってことだよな。複数のパーティーで構成された中に、一人の俺が入っても大丈夫だろうか。
そんなことを頭を抱えて悩む。それに加えて、命の保障もない。そう簡単に『はい』とは決められそうにない。
「強制はしないさ。命がかかっているからね。それでも、もし君が参加してくれるというなら明日の午後3時に始まりの広場に来てくれ。そこで作戦を伝える。」
「……分かりました。考えておきます。」
そう答えると、黒谷と名乗る男は何か意味深な笑みを浮かべ去っていった。その笑みをみて、背筋に冷たいものが走っていく感覚を覚える春人であった。




