第五十四話:採掘
「アル、此方へ来てごらん」
ダークエルフの魔法剣士でリーダーのトーマスに、低音のハスキーボイスで呼ばれた。
「はい」
彼の妹であるサブリナとのトレーニングが、丁度一区切りついた処だ。
「クリスタル・スライムだぞ」
ドワーフ娘のタミー嬢が採掘を始めてから、まだ三十分も経っていない。
「発光していますね」
暗い晶洞の通路に、ボンヤリと光る魔物を見たアルの第一印象だ。
「マジックランタンの反射だけでは無く、中心部のコアから光が洩れています」
直径五十センチ、高さ三十センチの歪な球体である。スライムらしく不定形の軟体だった。
「コアを破壊すれば活動を停止し、その死骸はルミナスライムよりも貴重な資源となる」
積極的に捕獲が推奨されているが、如何せんその絶対数は少ない。
「分かっているな、アル。ヤリ過ぎるなよ」
トーマスは恐い顔で言った。
「心得ています」
真面目な表情のアルが答える。
(慎重に、注意して、確実に倒そう)
討伐を任されたアルはミスリルの剣に魔法を纏わせ、初めて見るクリスタル・スライムを注意深く観察した。半透明の塊は、コアの位置が分かり易い。
(斬れるかな?)
静かに近寄り、魔力剣を伸ばす。
スパッ、と簡単に斬れた。
「綺麗な色ですね」
真っ二つになったコアを手に取り、アルは皆を振り返る。周囲にはキラキラとした水溜りがあった。コアを破壊され塊を保てなくなった、クリスタル・スライムが崩れたのだ。
「うむ、手加減もできたな」
トーマスが頷く。
「しかし、こんなにも短時間でスライムが現れるなんて、タイミングが悪かったのかしら?」
サブリナは油断無く周囲を見渡しながら呟いた。
「もしかすると、アルの魔力に惹かれているのかも知れないな」
難しい顔でトーマスが応える。
「では、クリスタル・ゴーレムも期待できるな。楽しみだぞ!」
笑顔で喜ぶ彼女は、光るスライムが好きなようだ。
◇◇◇
「強い魔力の反応があります」
不意に顔を上げたアルは呟く。
「やはり、来たか」
アルが振り向いた先を見てトーマスは言った。
「大きいですね」
冷静に話すアルは、静かに剣と楯を構える。
二人の視線の先には、蛍光を発する塊があった。
直径五十センチ、長さ一メートル程の水晶柱が、五本組み合わされている。二本は上を向いており、下を向いた残りの三本を足の様に動かしていた。辿々しい動きに見えて意外と速い。
採掘作業中のタミー嬢からは、かなり離れているので安心だ。
「上向きの一本に有ります」
コアの位置を確認したアルは、振り返ってトーマスを見た。無言で頷いたのを承認と理解して、静かに魔物へと向かう。
十メートル手前で剣を構え、滑らかに魔力剣を発動した。
(光と違って屈折しないんだな)
水晶柱に突き刺さった魔力剣の先端は、元の角度を維持したまま侵入する。最短距離でコアを狙った。
クリスタル・ゴーレムのコアとなる魔石へ、アルが伸ばした魔力剣が突き刺さる。それを通して魔力を注ぎ込んだ。
ビシッ。と音がすると、核である魔石が膨張した。核を包む水晶に内側からヒビが走る。
「止めろ!」
トーマスが叫んだが、時既に遅し。美しい水晶柱に多数の亀裂が走り、その内部でコアが破裂した。
「ああ、勿体無い……」
キラキラと輝く破片を見下ろして、サブリナは残念そうに声を落とす。
「こんなにもアッサリと倒してしまうなんて、普通では考えられないぞ」
珍しくトトが洩らした。
「効果的なのは確かだが、もう少し何とかならないモノか……」
トーマスは呆れている。
「でも、魔力はふんだんに込められているわね」
メリーアンが苦しいフォローを試みるも、何故か虚しくなるだけだった。
割れた水晶柱はどう加工しても使い途が思い付けず、更には粉々に砕けてしまったコアは、掬い上げた指の間からサラサラと零れるだけだ。
「水晶柱を繋いでいたのは、クリスタル・スライムだったのか」
床に膝を着いて観察していたアルは、純粋な好奇心で発見を喜んでいる。
「……ならば、幾つか倒し方が考えられるな」
独りで呑気な言葉を呟いた。
「割れずに残った四本は、このまま持ち帰ろう」
トーマスがポーターの二人を呼んで、水晶柱の回収を頼んだ。水牛獣人の夫婦は、静かに淡々と荷造りを済ます。
「この水晶柱は、アルタイル君が採掘した事になるのか?」
サブリナの問いに、応える者は居ない。
(案外エルフ魔女のエマには、喜ばれるかも知れない)
トーマスが心の中だけで呟いた。
◇◇◇
「次は安全な方法を取ります」
約一時間後に現れた二匹目のクリスタル・ゴーレムへ向かうアルは、メリーアンから借りたお鍋の蓋を持っている。
今度の個体は四本足で、上は一つの大きな塊だ。少し歪な形状であり、二つ並んだ突起の隙間からコアが覗いていた。
(繋ぎ目はクリスタル・スライムだな)
楯の代わりにお鍋の蓋を構え、慎重な足取りでアルは進む。
(裏側の窪みの辺りが良さそうだぞ)
グルリと周囲を一回りして、魔物の体格を確認する。
(即決だ)
暗い晶洞を僅かな明かりの元に疾走したアルが、滑らかな動きでお鍋の蓋を突き出した。繋ぎ目のクリスタル・スライムへ叩き付けると、瞬時に大量の魔力を込める。
ピシッ!
甲高く鋭い音が響いた。
五本の水晶柱を連結していた粘液が一瞬に凍り付き、そのぎこちない動きを止める。僅かに罅が入っていたのか、コアを有する水晶柱の中にも白い筋が走った。
アルは更に魔力を注ぎ、コアを包んで凍結させる。液体は凍ると体積を増すので、コアを中心として推奨柱の内部へ罅が広がった。
アルがコンと突くだけで、脆くも崩れ去る。
「足の四本は無傷で残ったよ」
ドヤ顔で振り向くアルを、皆が呆れた顔で迎えた。
(やはり、記憶喪失が影響しているのだろうか?)
トーマスはアルの背中を見詰めて思う。
(素晴らしい技能を持ちながら精神修行の経験が抜け落ち、好奇心を抑えきれないで本能の赴くままに行動している)
そんな思いに気付かぬアルは、笑顔で荷造りするポーターを眺めていた。無駄が無く手際の良い作業に感心しているらしい。
◇◇◇
「本当に貰っても構いませんか?」
アルがトーマスに尋ねる。
「ああ、構わない。それはアルの得物だ」
休憩スペースに設けられたキャンプで、皆が揃って夕食を摂った。その席でトーマスはアルタイルへ、彼が割った水晶柱の破片と砕けたコアを持ち帰る様に伝えたのだ。
「その代わり、自分で運べよ」
ポーターが大きな革袋三つに纏めてくれている。
「ありがとうございます!」
アルは素直に喜んだ。
(レイラへの良いお土産になった)
独りでニヤニヤしながら革袋を受け取る。
(水晶とコアが混じっているが、簡単に分離抽出できるぞ)
アルの魔力を通したコアは磁性体となるので、磁石を使って簡単に取り出せるのだ。
(エマに頼んで何か作って貰おうか)
水晶玉の魔力が使える様に成れば、レイラ自身でも加工できるかも知れない。
勝手に夢が広がるアルタイル少年であった。
続く
チャーリーへ




