文化祭準備期間 三日目 後編
商店街のとある一角。
あかねに引っ張られるように連れてこられたのは、商店街に店を構えるケーキ屋だった。
このケーキ屋にはちょっとした逸話があるくらいの古い店、そしておいしい店なのだ。
「なんでケーキ屋?」
「倉田さんに頼まれちゃって。いいから入るよ」
俺はあかねに手を引かれて店内に入った。
「いらっしゃいませ」
レジに立つ女性店員に挨拶される。
「あら、あかねちゃん。どうしたんだい。まだ学校だろ?」
「おばさん、久しぶり」
ケーキの詰め替えをしていた、俺たちの親くらいの年齢に見える女性が話しかけてきた。
「知り合い?」
「ここの店主だよ!」
「そうなんだ」
そう俺に告げて、あかねは店主のおばさんに向き直り、
「おばさん、ちょっとお願いがあってきたんだけど」
「??」
おばさんは話を聞こうじゃないかとばかりに、作業を中断してこちらに向き直った。
「えっと、学校の文化祭の出し物で、ここのケーキを使わせてもらえないかな?」
なるほど。出し物のために来たのか・・・・・・いやいや、気が付いていたよ。
あかねは俺の手を握りながら、おばさんの目を見て話している。
「許可とかは大丈夫なのかい?」
「うん、それは大丈夫」
あかねの少し汗ばんだ手を握り返してあげる。今の俺はその役目しかないから。
「で、どのくらい必要なんだい」
「やってくれるの?」
「こっちも仕事だからね。無理なら断わらせてもらうけど、話くらいは聞くものだ」
あかねはポケットからメモを取り出して、
「えっと、土日でショート三ホールずつ、チョコ三ホールずつ・・・・・・なんだけど」
「それは普通の大きさかい?」
あかねは頷く。
「んっと、お金はこのくらいかかっちゃうけど大丈夫かい?」
おばさんは電卓の文字盤を見せてくる。
そこには一万二千円と表記されていた。一ホール二千円の計算だった。
「大丈夫」
「わかった。作っておくよ。その日の朝渡せばいいんだろ?」
「ありがとう、おばさん。うんそれで、お願い」
あかねは笑顔でお辞儀していた。
「で、そっちの娘は何しに来たんだい」
「えっと・・・」
いきなり振られて俺は言葉に詰まってしまった。間違っても付き添いでなんて言えない。
「この娘は私のお守りです」
おばさんはあかねの返答に驚いて、それでもあかねの表情を見て一言。
「そうかい」
といった。
俺たちは店を後にし、教室に戻ってきていた。
あかねは倉田さんに報告に行き、俺は教室の状況を見ていた。
まず、看板が出来上がっていた。まだペンキが渇いていないみたいだけど。
宣伝用の看板プレート、そして店先に出す立てかけ看板も出来上がっていた。これも同じくペンキが渇いていないようだけど。
黒板の装飾もいい感じになんかはっちゃけていた。
「あ、瑞樹さん、帰ってきていたんですね」
「円?」
話しかけられて振り返ると、そこには円がいた。
「あの、調整終わったので着てみてもらえますか?」
「もう終わったの!? すごい早いんだね」
俺は素直に感心し、誉めて、そう言うことにあまり慣れていないのか、円はすごく恥ずかしそうに、
「試着お願い・・・」
赤面して、声が小さくて最後の方はかすれてしまっていた。
この状態で話し出すのもかわいそうなので、俺は、
「わかった」
と言い、場所を移すことにした。
更衣室。
俺はメイド服を試着している。
うん。着やすくなった!
率直にそう思った。
「どうですか」
「違和感なくなったよ」
「では、大丈夫そうですね」
なんていうか、腰回りがきゅって締まっていて、胸周りもきつくないけど支えがちゃんとある感じにしっかりしたっていうか。
うまく言えないけど、私のための服って感じ。
「ありがとう」
「いえ、ちゃんとできてよかったです」
この腕前なら、相当努力したんだろうな・・・・・・
特技があるって良いなって少し憧れてしまった。
「では、私次の人のもあるので」
「あ、うん。が・・・ありがとう」
俺は頑張ってねって言いそうになって辞めた。
頑張っている人にはたぶん感謝の言葉の方が似合うだろうと思って。
文化祭実行委員 倉田。
彼女は悩んでいた。
「まずいわ」
「何がまずいんですか?」
紀國が聞き返す。
「内装費用五千円。ケーキなどの当日費用二万円。このままだとお金が足りない・・・」
「確かに、必要メモをみると苦しいですね」
紀國は覗き込むようにメモを見た。
まだ食器類がまったくない状態だった。
「どうにかしないと・・・・・・」
文化祭準備期間 三日目 終了。




